“塗(ぬ)” の例文
ペムペルがキャベジの太い根を截(き)ってそれをはたけにころがすと、ネリは両手でそれをもって水いろに塗(ぬ)られた一輪車に入れるのだ。
黄いろのトマト (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
天上の山が、下界同様、人出に埋まって、ここの深山も、世間と変わりない色に塗(ぬ)られたからである。牛若も、その中の一人だった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
塗(ぬ)りたての壁(かべ)は狹苦(せまくる)しい小屋(こや)の内側(うちがは)を濕(しめ)つぽく且(かつ)闇(くら)くした。壁(かべ)の土(つち)の段々(だん/\)に乾(かわ)くのが待遠(まちどほ)で卯平(うへい)は毎日(まいにち)床(ゆか)の上(うへ)の筵(むしろ)に坐(すわ)つて火(ひ)を焚(たい)た。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
これが又(また)大(だい)のおめかしと來(き)て、當世風(たうせいふう)の廂髮(ひさしがみ)、白粉(おしろい)をべた/\塗(ぬ)る。見(み)るもの、莫不辟易(へきえきせざるなし)。豈(あに)それ辟易(へきえき)せざらんと欲(ほつ)するも得(え)んや。
鑑定 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
材料は細い鋼鉄を使ってあるらしく、それがまっ黒に塗(ぬ)ってあるので、伸びたときには、よほどよく見ないとわからないほどです。
おれは二十面相だ (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その時彼女のうしろを塗(ぬ)り潰している濃い闇の中で、一陣の風が羽ばたきのようにすうッと空を切ったけはいがして、不意に彼女が
二人(ふたり)はあちらに見(み)える、白(しろ)く塗(ぬ)った三階建(がいだ)ての家屋(かおく)を見(み)ましたときに、それがなんであるかすらもよくわからなかったのでした。
幸福に暮らした二人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
舞台(ぶたい)はまだ昔のままになっていました。壁(かべ)を塗(ぬ)った側面と、背景に二つのアーチがあって、そこから以前の時代と同じ装飾(そうしょく)が見えました。
はまぐりは急いで水を出して、その黒い粉をこねて、おちちのようにどろどろにして、二人で大国主神のからだじゅうへ塗(ぬ)りつけました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
幸いにカンプラチンキを持って居りましたから自分でよく腰を揉(も)んでそれを塗(ぬ)ったり何かしたので、格別の事もなく治ってしまいました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ソレ御覧、色狂いして親の顔に泥(どろ)を塗(ぬ)ッても仕様がないところを、お勢さんが出来が宜いばっかりに叔母さんまで人に羨(うらや)まれる。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
血は塗(ぬ)った血、おろか千万なこのつくり十五郎は、まぎれもなく昼間森田座(こびきちょう)で見かけたあの黒鍬組の小侍のひとりなのです。
それは、森をうしろに、海を前にして建(た)てられていました。壁は赤く塗(ぬ)ってあり、屋根(やね)はキリのように、とがっていました。
橋本のいさちゃんが、浜田の婆(ばあ)さんに連れられ、高島田(たかしまだ)、紋付(もんつき)、真白に塗(ぬ)って、婚礼(こんれい)の挨拶(あいさつ)に来たそうだ。美(うつく)しゅうござんした、と婢(おんな)が云う。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
灰小屋の中で灰に塗(ぬ)れて「焼け焦げの乾鰮」のようになって、この哀れな叛逆者は、三日三晩叫び続けて死んでしまった。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
然(しか)し間(ま)もなくこの陰鬱(いんうつ)な往来(わうらい)は迂曲(うね)りながらに少(すこ)しく爪先上(つまさきあが)りになつて行(ゆ)くかと思ふと、片側(かたがは)に赤く塗(ぬ)つた妙見寺(めうけんじ)の塀(へい)と
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
安井(やすゐ)は黒(くろ)い髮(かみ)に油(あぶら)を塗(ぬ)つて、目立(めだ)つ程(ほど)奇麗(きれい)に頭(あたま)を分(わ)けてゐた。さうして今(いま)床屋(とこや)へ行(い)つて來(き)た所(ところ)だと言譯(いひわけ)らしい事(こと)を云(い)つた。
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
けれども今度はさっきのように、一町も二町も逃げ出しはしません。芝生(しばふ)のはずれには棕櫚(しゅろ)の木のかげに、クリイム色に塗(ぬ)った犬小屋があります。
白 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
お前(まえ)さんが、どこまで出来(でき)たか見(み)たいという。その心持(こころもち)ァ、腹(はら)の底(そこ)から察(さっ)してるが、ならねえ、あっしゃァ、いま、人形(にんぎょう)を塗(ぬ)ってるんじゃァねえ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
いま申(まを)した古墳(こふん)は皆(みな)圓塚(まるづか)でありまして、その中(なか)に漆(うるし)で塗(ぬ)つた棺(かん)を埋(うづ)め、その上(うへ)を大(おほ)きな石塊(いしころ)で包(つゝ)んだものであります。これを積(つ)み石(いし)塚(づか)といひます。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
そして全体をさわれないくらい熱くしておいて封蝋(ふうろう)を塗(ぬ)り、その上をさらにすっぽり封蝋でつつんでしまうのである。
実験室の記憶 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
血潮は糊(のり)のやうに固まつて、不氣味さは一通りではありませんが、その血潮に塗(ぬ)れた、死骸の胸——乳のふくらみの美しさは、眼に沁みるやうです。
大路(おほぢ)の柳(あなぎ)月(つき)のかげに靡(なび)いて力(ちから)なささうの塗(ぬ)り下駄(げた)のおと、村田(むらた)の二階(かい)も原田(はらだ)の奧(おく)も憂(う)きはお互(たが)ひの世(よ)におもふ事(こと)多(おほ)し。
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
子爵といふ金箔を塗(ぬ)ツて社會に立たうと思はぬといふのを冒頭(のつけ)にして、彼の如き事情の下に生まれた子は、親の命令に服從する義務が無いと喝破(かつぱ)し
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
一時(じ)は天井(てんぜう)から骨(ほね)がぶら下(さが)つて居(ゐ)るの、セメントで内部(ないぶ)が塗(ぬ)つて有(あ)るのと、高等野次馬(かうとうやじうま)の騷(さは)ぎと云(い)つたら無(な)かつた。
英色に塗(ぬ)られるか、仏色を帯びるか、独色を呈(てい)するか、つまり将来の対トルコ関係がいま決定されるといっていい。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
私(わたくし)は三々五々(さん/\ごゞ)群(むれ)をなして、其處此處(そここゝ)に立(た)つて居(を)る、顏色(いろ)の際立(きはだ)つて白(しろ)い白耳義人(ベルギーじん)や、「コスメチツク」で鼻髯(ひげ)を劍(けん)のやうに塗(ぬ)り固(かた)めた佛蘭西(フランス)の若紳士(わかしんし)や
益々(ますます)雄弁(ゆうべん)に「ほんとに嫌(いや)らし。山田さんや高橋さんみたいに、仰山(ぎょうさん)、白粉(おしろい)や紅をべたべた塗(ぬ)るひといるからやわ」
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
うかれ女(め)のやうに化粧した薔薇(ばら)の花、遊女(あそびめ)の心を有(も)つた薔薇(ばら)の花、綺麗(きれい)に顏を塗(ぬ)つた薔薇(ばら)の花、情(なさけ)深さうな容子(ようす)をしておみせ、僞善(ぎぜん)の花よ、無言(むごん)の花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
鏡に映つた兒どもの、面(つら)には凄いほど眞白(まつしろ)に白粉(おしろひ)を塗(ぬ)つてあつた、睫(まつげ)のみ黒くパツチリと開(ひら)いた兩(ふたつ)の眼の底から恐怖(おそれ)に竦(すく)んだ瞳が生眞面目(きまじめ)に震慄(わなな)いてゐた。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
美しい塗(ぬ)り下駄(げた)、博多の帯、縮緬(ちりめん)の衣裳、綸子(りんず)の長襦袢、銀の平打ち、珊瑚(さんご)の前飾り、高価の品物が数々出る。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
四五 猿の経立(ふったち)はよく人に似て、女色を好み里の婦人を盗み去ること多し。松脂(まつやに)を毛に塗(ぬ)り砂をその上につけておる故、毛皮(けがわ)は鎧(よろい)のごとく鉄砲の弾(たま)も通(とお)らず。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
瑠璃子は、父にそう云われると、止(や)むなく自分の部屋に帰ったが、一人自分の部屋にいると、墨のような不安が、胸の中を一杯に塗(ぬ)り潰(つぶ)してしまうのだった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
坐礁(ざしょう)した大戦艦淡路が傾いており、そのまわりには大小いろいろな軍艦がぐるっととりまき、空には尻尾(しっぽ)を赤く塗(ぬ)った海軍の偵察機が舞い、それを背景にして
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そして劇薬から毒薬まで貯へられてある薬棚から、消毒薬と膏薬とを取りだして来て、塗(ぬ)つてくれた。軍隊でやりつけたので、繃帯捲きも手際なものであつた。
閾 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
奴国(なこく)の宮からは、面部の玦形(けっけい)の刺青(ほりもの)を塗(ぬ)り潰(つぶ)された五人の使部(しぶ)が、偵察兵となって不弥(うみ)の国へ発せられた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
夕飯の前になると、わたしはまたポマードを塗(ぬ)りたくって、またもやフロックコートとネクタイを着けた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
なるほどなるほどと自分は感心して、小短冊(こたんじゃく)位の大きさにそれを断(き)って、そして有合せの味噌(みそ)をその杓子(しゃくし)の背で五厘(りん)か七厘ほど、一分(ぶ)とはならぬ厚さに均(なら)して塗(ぬ)りつけた。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
十兩(りやう)以上(いじやう)の盜賊(たうぞく)でなくても、首(くび)は繋(つな)がらなかつた。死刑(しけい)は連日(れんじつ)行(おこな)はれた。彼(か)れが月番(つきばん)の時(とき)は、江戸(えど)なら淺右衞門(あさゑもん)ともいふべき首斬(くびき)り役(やく)の刃(やいば)に、血(ち)を塗(ぬ)らぬ日(ひ)とてはなかつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
鰭(ひれ)は神女の裳(も)のように胴(どう)を包んでたゆたい、体色は塗(ぬ)り立てのような鮮(あざや)かな五彩(ごさい)を粧(よそお)い
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
薄板(うすいた)を組合(くみあは)せて名刺(し)形(かた)の暗箱(あんはこ)をこしらへる。内部(ぶ)を墨(すみ)で塗(ぬ)る。眼(め)鏡屋(や)から十五錢ばかりで然(しか)るべき焦點距離(せうてんきより)を持つ虫眼(め)鏡を買(か)つて來て竹筒(つゝ)にはめ込(こ)んだのを、一方の面(めん)にとりつける。
小に過(す)ぎて用を爲さざる物有り、赤色(あかいろ)の色料(しよくれう)を塗(ぬ)りて明かに裝飾(かざり)を加へし物有り。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
私は裏側へ廻(まわ)って、水色のペンキ塗(ぬ)りの歪んだ窓へよじ登って下を覗いてみた。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
行田の町の中ほどに西洋造(せいようづく)りのペンキ塗(ぬ)りのきわだって目につく家(うち)があった。陶器の標札には医学士原田龍太郎とあざやかに見えて、門にかけた原田医院という看板はもう古くなっていた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
近江屋「なに、それはもつと小さい丸いので、ぶら提灯(ぢやうちん)といふのだが、あれは神前(しんぜん)へ奉納(ほうなふ)するので、周囲(まはり)を朱(あか)で塗(ぬ)り潰(つぶ)して、中(なか)へ墨(くろ)で「魚(うを)がし」と書いてあるのだ、周囲(まはり)は真(ま)ツ赤(か)中(なか)は真(ま)ツ黒(くろ)。
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
堀の水は、松の影を宿して暗く静まり、塗(ぬ)りつぶしたような闇黒(やみ)のなかに、ほの白い石垣が亀甲(きっこう)につづいて大浪のごとく起伏する木立ちのむこうに、天守閣の屋根が夜空をついて望見される。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
薄野(すすきの)遊廓の一隅に来てしまったことを柿江は覚(さと)った。そこには一丈もありそうな棒矢来(ぼうやらい)の塀と、昔風に黒渋(くろしぶ)で塗(ぬ)られた火の見櫓(やぐら)があった。柿江はまた思わず自分の顔が火照(ほて)るのを痛々しく感じた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
... お孃(じやう)さん、私共(わたしども)は女王樣(ぢよわうさま)のお出(い)でになる以前(まへ)に、一生懸命(しやうけんめい)にそれを塗(ぬ)つて置(お)くんです、それ——』此時(このとき)恰(あだか)も花園(はなぞの)の向(むか)ふを氣遣(きづか)はしげに眺(なが)めて居(ゐ)た五點(フアイブ)が、『女王樣(ぢよわうさま)が!女王樣(ぢよわうさま)が!』と叫(さけ)んだので
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
年少組はバクスターを首領(しゅりょう)にして、ヴィクンヤなどを入れておく小舎(こや)を建てることにむちゅうになった、小舎はサクラ号から持ってきた板をもってつくり、屋根は松やにを塗(ぬ)った油布(あぶらぬの)をもっておおい
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
香(こり)塗(ぬ)れる塔になよりそ川隅(かわくま)の屎鮒(くそぶな)はめるいたき女奴(めやつこ) (巻十六)
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)