可愛かはい)” の例文
成金のお客は勿論、当の薄雲太夫にした所で、そんな事は夢にもないと思つてゐる。もつともさう思つたのも可愛かはいさうだが無理ぢやない。
南瓜 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
可愛かはいさうに景氣けいきのよいこゑ肺臟はいざうからこゑいたのは十ねんぶりのやうながして、自分じぶんおもはず立上たちあがつた。れば友人いうじんM君エムくんである。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
ことの起原おこりといふのは、醉漢ゑひどれでも、喧嘩けんくわでもない、意趣斬いしゆぎりでも、竊盜せつたうでも、掏賊すりでもない。むつツばかりの可愛かはいいのが迷兒まひごになつた。
迷子 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「たかが一本の竹といふが、わしには、竹もすずめねこも人の子も、みな同じやうに生命いのちのある、可愛かはいいものに思はれてのう。」
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
湾内の水は草色くさいろかもを敷き詰めた如く、大小幾百の船は玩具おもちやの様に可愛かはいい。概して鳥瞰的に見る都会や港湾は美でないが、此処ここのは反対に美しい。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
さうして私も雅さんと一処に肩身が狭くなりたいのですから。さうでなけりや、子供の内からあんなに可愛かはいがつて下すつた雅さんの尊母おつかさんに私は済まない。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
子鶉こうづらは急いで巣に帰つてみますと、案の定、母鶉は可愛かはいい自分の独り子の行衛ゆくゑが知れなくなつたので大変心配して、もう物もべられないで、ねてをりました。
孝行鶉の話 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
可愛かはいい子供に死なれでもしたら、自分は世の中に一人ぽつちになつてしまつて、何の楽しみもなくなるのです。で、夜も昼もつきつきりで子供の看病をしました。
シャボン玉 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
とそんな意味の事を酔つて高飛車に云ふのだ。それを張の副官のやうな男の面前でもやるのだから一寸乱暴ぢやないか。息子がよほど可愛かはいくて仕方がないのだらう。
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
だから可愛かはいいが、いけないことがあるとしかりもすれば勘當かんだうもする。ことによつたらころすかもれない。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
『本當に、なんて可愛かはいんでせう、どこつてかけた所のない、この肌の氣持のいゝこと。』
(旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
墓場の薔薇ばらの花、屍體したいから出た若いいのち、墓場の薔薇ばらの花、おまへはいかにも可愛かはいらしい、薄紅うすあかい、さうして美しい爛壞らんゑかをり神神かうがうしく、まるで生きてゐるやうだ、僞善ぎぜんの花よ、無言むごんの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
併し、慣れるにれて、こつみ込んで了ふと、すべてが御しやすくなつて来た。見物といふものも初めは恐かつたが今は可愛かはいくなつた。彼は彼等の心もちを自由に浮沈させる事が愉快になつて来た。
手品師 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
伯母をばさんは子供のころ自分をば非常に可愛かはいがつてれた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
紙の袋をかむつた林檎の姿もまた中々可愛かはいいものです。
果物の木の在所 (新字旧仮名) / 津村信夫(著)
私はあの方を可愛かはいく思つてをります。
とんぼ可愛かはい
雨情民謡百篇 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
しての肩縫かたぬひあげ可愛かはいらしき人品ひとがらなりおたかさま御覽ごらんなされ老人としよりなきいへらちのなさあにあにとてをとここと家内うちのことはとんと棄物すてもの私一人わたしひとりつもふもほんにほこりだらけで御座ございますとわらひていざな座蒲團ざぶとんうへおかまひあそばすなとしづごゑにおたかうやむやのむね關所せきしよたれに打明うちあけん相手あひてもなし朋友ともだちむつまじきもあれどそれは
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
のね、可愛かはいらしいのが、ときの、和蘭陀館オランダやかた貴公子きこうしですよ。御覽ごらん、——おちなさいよ。うしてならべたら、なんだか、ものりないから。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しばらく四人は、鹿の仔のまはりに立つてながめてゐた。栄蔵はそれが可愛かはいくてたまらなかつた。小さな鼻の先が、黒くぬれてゐるのも可愛かつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
上着うはぎ白天鵞絨しろびろうど、眼は柘榴石ざくろいし、それから手袋は桃色繻子じゆす。——お前たちは皆可愛かはいらしい、支那美人にそつくりだ。
動物園 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「あれ、可愛かはいい鳥が出て来てなくよ。あの鳥はお時計のどこにゐるの。」と、腕白な一郎がきゝました。
鳩の鳴く時計 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
私のやうなものでも可愛かはいいと思つて下さるなら、財産をのこして下さるかはりに私の意見を聴いて下さい。意見とは言ひません、私の願です。一生の願ですからどうぞ聴いて下さい
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それから感情がしづまると、「これも皆お前が可愛かはいいからだ」といふやうな愚痴を、わたしはしきりと説いた。酔醒ゑひざめの風が冷いやうに、娘の心の離反に対する不安がわたしには冷かつた。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
可愛かはいい一人娘を棄てるやうにして千代松に呉れたのである。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
木犀もくせい可愛かはい從姉妹いとこの匂、子供の戀、眞味を飾る微笑ほゝゑみ
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
可愛かはいの人よ
おさんだいしよさま (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
可愛かはいいこの一族いちぞくは、土手どてつゞくところ、二里にり三里さんりあしとともにさかえてよろこぶべきことを、ならず、やがて發見はつけんした。——房州ばうしうときである。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「や、たつぷん、ちやつぽん。」と松さんは、戯謔おどけて口真似した。そして「可愛かはいらしい音だなァ。」といつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
やいばに貫き、水におぼれ、貴様はこれで苦くはなかつたか。可愛かはいい奴め、思迫おもひつめたなあ!
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
生際はえぎは白粉おしろいが薄くなつて、健康らしい皮膚が、黒く顔を出してゐるだけでも、こつちの方がはるかに頼もしい気がする。子供らしくつて可愛かはいかつたから、体操を知つてゐるかいといて見た。
京都日記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
寮長は顎髯あごひげを上に向け、南画のなかの人物のやうに背中を丸くして、一心に凝視みつめてゐた。強度の近眼でよく見ようとする努力のために、今年の芽を可愛かはいいてゐる花床を知らず/\踏んでゐた。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
可愛かはい帽子
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
眞白まつしろうでについて、綿わたがスーツとびると、可愛かはいてのひらでハツとげたやうに絲卷いとまきにする/\としろまつはる、娘心むすめごころえにしいろを、てふめたさう。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
はじめから、かたちひ、毛色けいろひ、あまつさそれが、井戸川ゐどがははし欄干らんかんで、顏洗かほあらひをつてねこ同一おなじことで、つゞいては、おはる可愛かはいがつたくろにもる。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
まあ那樣事そんなこといて、其時そのときふねなかで、ちつともさわがぬ、いやもとん平氣へいきひと二人ふたりあつた。うつくしいむすめ可愛かはいらしいをとこぢや。※弟きやうだいえてな、ました。
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あき納戸なんど姿すがたを、猛然まうぜん思出おもひだすと、矢張やつぱ鳴留なきやまぬねここゑが、かねての馴染なじみでよくつた。おあき撫擦なでさすつて、可愛かはいがつた、くろ、とねここゑ寸分すんぶんたがはぬ。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
可哀かはいさうな、どくらしい、あの、しをらしい、可愛かはいむしが、なんにもつたことではないんですけれど、でもわたしかねたゝきだとおもひますだけでも、こほりころして、一筋ひとすぢづゝ
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「それ/\、おかんむりとほり、くちばしまがつてました。をくる/\……でも、矢張やつぱ可愛かはいいねえ。」
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
楕圓形だゑんけいは、羽状複葉うじやうふくえふふのが眞蒼まつさをうへから可愛かはいはなをはら/\とつゝんで、さぎみどりなすみのかついで、たゝずみつゝ、さつひらいて、雙方さうはうからつばさかはした、比翼連理ひよくれんり風情ふぜいがある。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
晝間ひるまあのおはる納戸なんどいとつて姿すがた猛然まうぜん思出おもひだすと、矢張やつぱ啼留なきやまぬねここゑが、かねての馴染なじみでよくつた、おはる撫擦なでさすつて可愛かはいがつたくろねここゑ寸分すんぶんちがはぬ。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いゝえ、つゞれさせぢやありません。蟋蟀こほろぎは、わたしだいすきなんです。まあ、きますわね……可愛かはいい、やさしい、あはれなこゑを、だれが、貴方あなた殿方とのがただつて……お可厭いやではないでせう。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そのときは、その下蔭したかげ矢張やつぱりこんなにくらかつたが、蒼空あをぞらときも、とおもつて、根際ねぎはくろ半被はつぴた、可愛かはいかほの、ちひさなありのやうなものが、偉大ゐだいなる材木ざいもくあふいだとき
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
其夜そのよかり立去たちさらず、にかはれた飼鳥かひどりのやう、よくなつき、けて民子たみこしたつて、ぜんかたはらはねやすめるやうになると、はじめに生命いのちがけおそろしくおもひしだけ、可愛かはいさは一入ひとしほなり。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
可愛かはいさのあまその不注意ふちういなこのおやが、おそろしくかみさんのしやくにさはつたのだ。
迷子 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
またアノ可愛かはいいふりをして、うなづいて、そのまゝきやんで、ベソをいてる。
迷子 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
これ大弓場だいきうば爺樣ぢいさんなり。ひとへば顏相がんさうをくづし、一種いつしゆ特有とくいうこゑはつして、「えひゝゝ。」と愛想あいさうわらひをなす、其顏そのかほては泣出なきださぬ嬰兒こどもを——、「あいつあ不思議ふしぎだよ。」とお花主とくい可愛かはいがる。
神楽坂七不思議 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
……はゝぢやびとのをわざ穿いてたらしい、可愛かはい素足すあし三倍さんばいほどな、おほき塗下駄ぬりげたつけるやうに、トンと土間どまはひつてて、七輪しちりんよこつた、十一二だけれども、こゝのツぐらゐな、小造こづくりな
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ところが、わか御新造ごしんぞより、としとつた旦那だんな團右衞門だんゑもんはうが、いさゝ煩惱ぼんなうふくらゐ至極しごく猫好ねこずきで、ちつともかまはないで、おなじやうにくろよ、くろよ、と可愛かはいがるので何時いつともなしに飼猫かひねこ同樣どうやうつたとふ。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)