わか)” の例文
高橋たかはしは、はや父親ちちおやわかれたけれど、母親ははおやがあるのでした。正吉しょうきちだけは、両親りょうしんがそろっていて、いちばん幸福こうふくうえであったのです。
世の中へ出る子供たち (新字新仮名) / 小川未明(著)
って、あたりを見𢌞みまわしたとき袖子そでこなにがなしにかなしいおもいにたれた。そのかなしみはおさなわかれをげてかなしみであった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
前者においては文学の領域は極めて単純で、ほとんど韻文に限られていたがその韻文がいかに細々しい形式にわかれていたことであろう。
『心理試験』を読む (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
老人ろうじんたちは、ごんごろがねわかれをしんでいた。「とうとう、ごんごろがねさまもってしまうだかや。」といっているじいさんもあった。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
いずれはもろともに、善逝スガタしめされた光の道をすすみ、かの無上菩提むじょうぼだいいたることでございます。それではおわかれいたします。さようなら。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
道満どうまん晴明せいめい右左みぎひだりわかれてせきにつきますと、やがて役人やくにんが四五にんかかって、おもそうに大きな長持ながもちかついでて、そこへすえました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
それは丁度ちょうどおさなときからわかわかれになっていたははが、不図ふとどこかでめぐりった場合ばあい似通にかよったところがあるかもれませぬ。
わたしたちはどんなにしてもわかれないと言いきっているのに、どうしてまだかれが悲しそうにしているのか、わたしはわからなかった。
あゝ、これ一生いつしやうわかれとなるかもわからぬ。櫻木大佐さくらぎたいさも、日出雄少年ひでをせうねんも、だまつて吾等われら兩人りやうにんかほながめ、ちからめて吾等われらにぎつた。
わかぎはに父は、舎費を三ヶ月分納めたので、先刻さつき渡した小遣銭こづかひせんを半分ほどこつちに寄越よこせ、宿屋の払ひが不足するからと言つた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
馬士まごもどるのか小荷駄こにだとほるか、今朝けさ一人ひとり百姓ひやくしやうわかれてからときつたはわづかぢやが、三ねんも五ねん同一おんなじものをいふ人間にんげんとはなかへだてた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
人間の行為と思考とがわかたれて活動するものなら、外部にいる他人からは、一人の人間の活動の本態は分り得るものではない。
純粋小説論 (新字新仮名) / 横光利一(著)
智深と九紋龍は、それから二日ほどの旅をともにし、やがて華州と開封路かいほうじの追分けにかかるや、再会をちぎって、たもとわかった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いっそのことわかれてしまえばかえって気は安いが、やはり男の子ふたりのかすがいが不本意ふほんいに夫婦をつないでおくのだろう。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
かくてたがひにいつっつのをりから、おひ/\多人數たにんず馳加はせくははり、左右さいふわかれてたゝかところへ、領主とのえさせられ、左右さうなく引別ひきわけ相成あひなりました。
かくわかちてわがことばを受けよ、さらばそは第一の父及びわれらの愛する者についての汝の信仰と並び立つべし 一〇九—一一一
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
本校は、決して、諸君が改進党に入ると自由党に入ると乃至ないし帝政党に入るとを問て、その親疎をわかたざるなり(大喝采)。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
いつの世においても、新たに起こった風習に対する反動派の批評は、大体において二種類にわかつことができるようである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「どうせよ一つにやれぬを、わかれたいとはおもへども……」と一どうみゝひゞいたときた/\」としづまつて群集ぐんしふなかからこゑはつせられた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
致して居しがまづ重疊ちようでふ左樣さやう御座らば立歸りよろこばせし上又あらためて出まする事に仕つれば何分なにぶん宜敷よろしくお頼申すとよろこびをのべわかれを告取散とりちらせし辨當など始末しまつ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
遠足がおわって、みんなとわかれて、ひとり家の方へ戻って来ると、ポケットのなかの鈴が急にはっきり聞えるのでした。
誕生日 (新字新仮名) / 原民喜(著)
其日そのひはそれでわかれ、其後そのごたがひさそつてつり出掛でかけたが、ボズさんのうちは一しかないふる茅屋わらや其處そこひとりでわびしげにんでたのである。
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
二五〇〇米以上十三座のうち、碓氷峠を境にして南北にわかちますと、北の方には浅間と奥白根、この二つしかありませぬ。
望岳都東京 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
此方こなた言葉ことばもなくそでとらへてせば、いきがはづむ、むねいたい、そんなにいそぐならば此方こちらぬ、おまへ一人ひとりでおいでおこられて、わかわかれの到着とうちやく
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
索引さくいんは五十おんわかちたり、読者どくしゃ便利べんり正式せいしき仮名かなによらず、オとヲ、イとヰ、のるいちかきものにれたり
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
といふのは、せう代に両しんわかれた一人つ子の青木さんは、わづかなその遺産ゐさんでどうにか修学しうがくだけはましたものの、全く無財産むざいさんの上だつた。
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
いづゆつくりみんなでつてめやう、都合つがふがよければ小六ころく列席れつせきするがからうといふのがわかれるとき言葉ことばであつた。二人ふたりになつたとき、御米およね宗助そうすけ
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
で、よく話合つてみると、狩野氏が訪ねて往つたのは、小西氏のすぐ隣のある銀行家の家だといふ事がわかつた。
“北田原町三丁目——明治五年、浅草田原町三丁目を分ち道より北を本町とし、北の字を加へ、以て田原町三丁目にわかつ。西辺に蛇骨じやこつ長屋と呼ぶ処あり。”
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
それで朝日あさひはびつくらしてひがしやまからましたので、お月様つきさまはなごりしいけれどそれきりよるわかれました。
船から卸して、そこの漁師の家で暫らく保養をさせておいて、ほかの連中は先を急ぐのですから、後日を約して、ここでひとまず袂をわかつことになりました。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「さうでございますね。私は寝ましたら何にもわかりませんのですから。——昨夜からでございますか?」
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
つまや子どもともわかれて、いままで持っていた猟場りょうばや、住居すまいや、かくから立ちのくように言われました。いよいよ、よその国で幸福こうふくをさがさなければなりません。
ある因縁いんねんがあつて、この世界せかいてゐるのですが、いまかへらねばならぬときになりました。この八月はちがつ十五夜じゆうごやむかへのひとたちがれば、おわかれしてわたし天上てんじようかへります。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
さうだ! わたし看護婦さんにリボンもらつたんだけれど おわかれの記念きねんにあげるものないわ
ともしびの明石あかし大門おほとらむわかれなむいへのあたりず 〔巻三・二五四〕 柿本人麿
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
下の件ハ長〻の御ものがたり申上候得バ、通常の手紙ニしてハ何分わかりがたく候間、不文ニハ一ツ書の方がよろしかるべしとて申上たれバ、元より不敬の義御見ゆるしたまえ。
東京の市中しちゅうへ使いにいって、あのものすごい雑沓ざっとうに出あうと、かれは自分をどうしていいかわからないのに、この親切なおやじさんとわかれるようになるのがいやだったのです。
清造と沼 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
あなたにおわかれしてからの電車でんしやなかで、私は今夜こんやはじめて乘越のりこしといふ失敗しつぱいをしました。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
「自己を超絶——ふん、自己を超絶したら、空だ、死だ! 大我だいが——馬鹿な、に大小をわかつのは既に考へ方が淺薄だ! 積極的——それも却つて消極的なのを知らないのだ!」
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
ここに於て、世界の最も優秀なる知識を表したところの種々の必要なる本を選択して、これを国民の多数にわかとうというのは、実に時勢に適切な文明的運動の一つであるのである。
吾人の文明運動 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
彼らの俳諧、即ち滑稽をわかてば大約たいやく三種となる。一は擬人法または譬喩を用うる者、一は言語上の遊戯に属する者、一は古事、古語、鄙諺ひげん等の応用または翻案をなす者、これなり。
古池の句の弁 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
格子こうしそとには公衆こうしゆう次第しだいむらがつてる。アンドレイ、エヒミチは、ミハイル、アウエリヤヌヰチの公務こうむ邪魔じやまるのをおそれて、はなし其丈それだけにして立上たちあがり、かれわかれて郵便局いうびんきよくた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
しからば松明たいまつはこゝにおかんとて、ともしたるまゝたなをつりとめてつなをくゝしたるのまたにさしはさみて、別の松明たいまつに火をうつして立かへりぬ。これぞ夫婦ふうふが一世のわかれなりける。
以上述べたところで秀郷蜈蚣退治の先駆たる加賀の海島で蜈蚣海を游いで大蛇と戦った譚も多少根拠あるものとわかり、また貝原氏が蜈蚣鯨大毒ある由記したのも全嘘まるうそでないと知れる
数言すげんきようきて、遠寺ゑんじかね一五六五更を告ぐる。夜すでけぬ。わかれを給ふべし。こよひの長談ながものがたりまことに君がねむりをさまたぐと、ちてゆくやうなりしが、かき消して見えずなりにけり。
絶え間なしに流れてゆく水の音に夜昼のわかちはないが、昼はやがて夜となった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
芳町よしちょう蔵前くらまえわかわかれにむようになったばかりに、いつかってかたもなく二ねんは三ねんねんは五ねんと、はやくも月日つきひながながれて、辻番付つじばんづけ組合くみあわせに、振袖姿ふりそですがた生々いきいきしさはるにしても
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
父上と手をわかちて用意の整えるある場所に至り、更に志士の出獄を祝すとか、志士の出獄を歓迎すとか、種々の文字を記せる紅白の大旗たいきに護られ、大阪市中を腕車わんしゃに乗りて引き廻されけるに
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
戀とは言はず、情とも謂はず、ふや柳因りういんわかるゝや絮果ぢよくわ、いづれ迷は同じ流轉るてん世事せじ、今は言ふべきことありとも覺えず。只〻此上は夜毎よごと松風まつかぜ御魂みたますまされて、未來みらい解脱げだつこそ肝要かんえうなれ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)