白木しらき)” の例文
幕府では木租の中をいて、白木しらき六千を木曾の人民に与え、白木五千駄を山村氏に与え、別に山村氏には東美濃地方に領地をも与えて
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
程たたぬまにそこへ命じた白木しらきの板が運ばれたのを見すますと、たっぷり筆に墨を含ませて書きも書いたり、奔馬ほんばくうを行くがごとき達筆で
従兄の白木しらき位牌いはいの前には燈心とうしんが一本火を澄ましていた。そのまた位牌を据えた机の前には娘たちが二人夜着よぎをかぶっていた。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あけて内より白木しらきはこ黒塗くろぬりの箱とを取出し伊賀亮がまへへ差出す時に伊賀亮は天一坊に默禮もくれいうや/\しくくだんはこひもとき中より御墨附おんすみつきと御短刀たんたうとを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その晩、白布につつまれた白木しらきの小箱と、半兵衛の書簡とが、竹中家の一家臣にかかえられ早馬を以て、安土の佐久間信盛の許へさし送られた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて立ち上がって、一人一人に挨拶あいさつをするうちに、自分は控所にある洋卓テーブルやら、絨氈じゅうたんやら、白木しらき格天井ごうてんじょうやらを眺めた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かれはその蝋燭ろうそくを小さい白木しらきの箱に入れて、なにか呪文じゆもんのやうなことをとなへた上で、うや/\しく弥助にわたした。
白木しらきのものを別として塗は拭漆のもの多く稀には墨漆すみうるし朱漆しゅうるし。しばしば特殊な衣裳いしょうをこらしてある。透彫すかしぼり浮彫うきぼりや、また線彫せんぼりや、模様もまた多種である。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
藤村は訪ねて行った二人を、追々に閲歴のさびがついて島崎家の名物とまでなった、あの素朴な白木しらきの机のそばに引きつけておいて真面目な顔でいった。
……こゝの此の書棚の上には、花はちょうしてなかつた、——手附てつきの大形の花籠はなかごと並べて、白木しらききりの、軸ものの箱がツばかり。其の真中のふたの上に……
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
わたくしはうれしくもあれば、また意外いがいでもあり、わるるままにいそいで建物たてもの内部なかはいってますと、中央ちゅうおう正面しょうめん白木しらきつくえうえにははたして日頃ひごろ信仰しんこう目標まとである
先手の竜燈は久世山くぜやまの下にかゝつて居た。白木しらきづくりに鋲打びやううちの寝棺を十幾人の人夫がかついだ。萌黄もえぎに緑色の変袘かはりぶきかさねた白無垢しろむくを見せて、鋲がキラキラと揺れ動く。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
或は白木しらき指物細工さしものざいくうるしぬりてその品位を増す者あり、或は障子しょうじ等をつくって本職の大工だいく巧拙こうせつを争う者あり、しかのみならず、近年にいたりては手業てわざの外に商売を兼ね
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
すゝつた佛壇ぶつだん菜種油なたねあぶらあかりはとほくにからでもひかつてるやうにぽつちりとかすかにえた。おふくろのよりも白木しらきまゝのおしな位牌ゐはいこゝろからの線香せんかうけぶりなびいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
白木しらきの戒名よりも淋しい花ではありますが、貴女のお手に取られたら、白い花も紅に見えましょう。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして今日こんにちなほ大神宮だいじんぐうはなんべんてかへてもかたちだけはむかしのまゝに、屋根やね茅葺かやぶき、はしら掘立ほつたて、そして白木しらきのまゝで、たかくちぎとかつをぎが屋根やねうへについてゐて
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
肩に継布つぎぬのの当ったあわせ一枚に白木しらきの三じゃく、そろばんしぼりの紺手拭で頬かむりをして、大刀といっしょに両膝を抱き、何かを見物するように、ドッカリ腰を押しつけているのだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ただし日本では今一つ、同じ変化を助け促した瀬戸物せとものというものの力があった。白木しらきわんはひずみゆがみ、使い初めた日からもう汚れていて、水ですすぐのも気休めにすぎなかった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
長者の一行はようやく伊勢に着いて、外宮げぐう参詣さんけいしました。白木しらき宮柱みやはしら萱葺かやぶきの屋根をした素朴なやしろでありました。一の華表とりいくぐったところで、驕慢きょうまんな長者は大きな声をだしました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
もう一人人的資源をつくってこい……そういって一週間の休暇きゅうかを出す軍隊というところ。生まされる女も、子どもの将来が、たとえ白木しらき墓標ぼひょうにつづこうとも、あんじてはならないのだ。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
九尺四方白木しらきの道場の正面には、不動明王の御像を掛けさせ護摩壇ごまだんゑ、燈明とうみやう供物くもつを並べ、中程のところに東海坊、白衣に袈裟けさを掛け、散らし髮に兜巾ときんを戴き、揉みに揉んで祈るのです。
薩摩の蚊飛白がすり、紺献上の五分づまりの帯、透綾すきやの羽織、扇子と煙草入れを腰へ差し、白木しらきののめりの下駄を履き、白鞣しろなめしの鼻緒に、十三本柾が通っている。桐は越後ではなく会津でございます。
噺家の着物 (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
ちっとも恥かしいと思わなかったばかりでなく、もっともっと自分を恥かしめ、さいなみ苦しめてくれ……というように、白木しらきの位牌を二つながら抱き締めて、どんなにほおずりをして、接吻せっぷんしつつ
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
甥は手帛ハンケチのやうに真つ青な顔をして、短刀を白木しらきさやに納めた。猫の逃げ出したしたぱらでは、いつの間にか「武士道」と「孟子」とが帰つて来て、ひきがへるのやうに遠慮して、そつと溜息をついてゐた。
「はい。私どもの墓地は相当広大でございまして、先祖代々土葬どそうということにして居ります。で、あの間違えたご婦人の遺骸いがいも、白木しらきかんおさめまして、そのまま土葬してございますような次第しだいです」
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一、 秋風や白木しらきの弓につる張らん 去来
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
白木しらききりの机から、その上に掛けてある赤い毛氈もうせん、古いすずりまでが待っているような、その自分の居間の畳の上に、彼は長々と足腰を延ばした。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
倒れたのは、馬ばかりか、人ばかりか、二しゃくかく白木しらきの十まで、上からッ二つにさけ、余煙よえんのなかへゆら、——と横になりかかってきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おそしとまたれける頃は享保きやうほ十一丙午年ひのえうまどし四月十一日天一坊は供揃ともぞろひして御城代の屋敷やしきおもむく其行列そのぎやうれつには先に白木しらき長持ながもちさを萌黄純子もえぎどんす葵御紋付あふひごもんつき油箪ゆたん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
路端みちばたの人はそれを何か不可思議のものでもあるかのように目送もくそうした。松本は白張しらはり提灯ちょうちん白木しらき輿こしが嫌だと云って、宵子の棺を喪車に入れたのである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
……こゝの書棚しよだなうへには、はなちやうしてなかつた、——手附てつき大形おほがた花籠はなかごならべて、白木しらききりの、ぢくもののはこツばかり。眞中まんなかふたうへに……
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
戻り橋のほとりへ参りますと、もうその首を曝した前には、大勢おおぜい人がたかって居ります。罪状をしるした白木しらきふだ、首の番をする下役人したやくにん——それはいつもと変りません。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
じいさまはこころよわたくしねがいをれ、ちょっとあちらをいて黙祷もくとうされましたが、モーぎの瞬間しゅんかんには、白木しらき台座だいざいた、一たい御鏡みかがみがおじいさまのてのひらっていました。
日清にっしん 日露にちろ 日華にっか とじゅんをおって古びた石碑せきひにつづいて、新らしいのはほとんど白木しらきのままのちたり、たおれているのもあった。そのなかで仁太や竹一や正のはまだ新らしくならんでいた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
九尺四方白木しらきの道場の正面には、不動明王の御像を掛けさせ護摩壇ごまだんえ、灯明とうみょう供物くもつを並べ、中ほどのところに東海坊、白衣に袈裟けさを掛け、散らし髪に兜巾ときんを戴き、みに揉んで祈るのです。
土瓶どびんれたみづつて墓參はかまゐりにつて、それから膳椀ぜんわんみなかへして近所きんじよ人々ひと/″\かへつたのち勘次かんじ㷀然けいぜんとしてふるつくゑうへかれた白木しらき位牌ゐはいたいしてたまらなくさびしいあはれつぽい心持こゝろもちになつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
その夜の旅寝の夢の中に、彼は正式の装束しょうぞくを着けた正香が来て、手にする白木しらきしゃくで自分を打つと見て、涙をそそぎ、すすり泣いて目をさました。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
白木しらきの宮に禰宜ねぎの鳴らす柏手かしわでが、森閑しんかんと立つ杉のこずえに響いた時、見上げる空から、ぽつりと何やらひたいに落ちた。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一杯の日当ひあたりで、いきなり土の上へ白木しらき卓子テエブルを一脚えた、その上には大土瓶おおどびんが一個、茶呑茶碗ちゃのみぢゃわん七個ななつ八個やつ
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この店は卓も腰掛けも、ニスを塗らない白木しらきだった。おまけに店を囲う物は、江戸伝来の葭簀よしずだった。だから洋食は食っていても、ほとんど洋食屋とは思われなかった。
魚河岸 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そう見えたのもつかので、とつぜん、奉行小屋ぶぎょうごやはしらが、すさまじい音をして折れたかと思うと、か、にくか、白木しらき羽目板はめいたへまッなものが、牡丹ぼたんのように飛びちった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
最も理想的なのは白木しらきである。これは光線をすべて反射するからであろう。
勘次かんじはるあひだにおしなの四十九にちすごした。白木しらき位牌ゐはいこゝろばかりの手向たむけをしただけで一せんでもかれ冗費じようひおそれた。かれふたゝ利根川とねがは工事こうじつたときふゆやうや險惡けんあくそら彼等かれら頭上づじやうあらはした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
わたくし統一とういつ修行しゅぎょうつかれて、瀑壺たきつぼところてぼんやりみずながめてりますと、ここの竜神様りゅうじんさまが、またもやれい白衣姿びゃくいすがたで、白木しらきながつえをつきながら、ひょっくりわたくしそばへおあらわれになりました。
相屆あひとゞける頃は享保きやうほ十一午年九月廿日天一坊が京都出立の行列ぎやうれつ先供さきどもは例の如く赤川大膳と藤井左京の兩人りやうにん一日代りの積りにて其供方には徒士かち若黨わかたう四人づつ長棒ながぼう駕籠かご陸尺ろくしやく八人跡箱あとばこ二人やり長柄ながえ傘杖草履取兩掛合羽籠等なり其跡は天一坊の同勢にて眞先まつさきなる白木しらきの長持にはあふひ御紋ごもん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
一石栃いちこくとちにある白木しらきの番所から、上松あげまつの陣屋の辺へかけて、諸役人の目の光らない日は一日もないことを知っていた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
机は白木しらき三宝さんぼうを大きくしたくらいな単簡たんかんなもので、インキつぼと粗末な筆硯ひっけんのほかには何物をもせておらぬ。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一杯いつぱい日當ひあたりで、いきなりつちうへ白木しらき卓子テエブルを一きやくゑた、そのうへには大土瓶おほどびんが一茶呑茶碗ちやのみぢやわん七個なゝつ八個やつ
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ことに、先のものは白衣びゃくえなので、いっそう老人にははっきりと輪廓りんかくが見てとれた。その上、白い袖の端やすそに、点々と、血汐らしいものがにじんで見え、白木しらきの杖をつかんでいる。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
土蔵の奥には昔から、火伏ひぶせの稲荷いなりまつってあると云う、白木しらきの御宮がありました。
黒衣聖母 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)