手間てま)” の例文
此方こちら焚火たきびどころでい。あせらしてすゝむのに、いや、土龍むぐろのやうだの、井戸掘ゐどほり手間てまだの、種々いろ/\批評ひひやうあたまからかぶせられる。
「そんなに手間てまをとっちゃいられないよ。おれは、石見守いわみのかみさまの駕籠がたつと、一しょに、甲府こうふ躑躅つつじさきへ帰らなけりゃならない」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「五円や?」春吉は驚いたように言って、「五円なら、山の草手間てま十日分でねえが? そんな高えもの、とっても我々にゃあ……」
駈落 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「お手間てまらせることじゃない。ちとおりいって、相談そうだんしたいわけもある。ついそこまで、ほんのしばらく、つきっておくれでないか」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
その父親ちちおやは、手間てまがとれても、子供こどもくままにまかせて、ぼんやりまって、それを見守みまもっていることもありました。
幾年もたった後 (新字新仮名) / 小川未明(著)
としかないためか、したまはらないので、抗辯かうべんのしやうが如何いかにも億劫おくくふ手間てまかつた。宗助そうすけ其所そことく面白おもしろおもつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
請負人うけおひにんは払ふべき手間てまを払ひ、胡魔化ごまかされる丈け胡魔化してカスリを取り、労働者は皆一度におのが村々へ帰ることになつた。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
本郷三丁目でとまると、下車する人々のために長い間手間てまどつた。私は人に押され押され、車掌台に立つて往来をながめてゐた。
イボタの虫 (新字旧仮名) / 中戸川吉二(著)
先刻さつきから、出入ではひりのおあき素振そぶりに、けた、爐邊ろべりものをして母親はゝおやが、戸外おもて手間てまれるのに、フト心着こゝろづいて
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それでもころまではさういふ仕事しごといくらもかつたので、賃錢ちんせん仕事しごとはじめるときらした唐鍬たうぐは刄先はさきたせる鍛冶かぢ手間てま
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
うまけるのに手間てまれるとかとりきんで、上句あげくには、いつだまれとか、れこれうな、とかと真赤まっかになってさわぎかえす。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
とみんなでけつけるうちに、あんまり手間てまがとれたので、なが庄助しょうすけさんは、とうとうみずおぼれてにました。
長い名 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
かつ、筆算は一人の手にかない、十露盤は二人を要す。算の遅速ちそくは同様なるも、一人の手間てまだけははぶくべし。
小学教育の事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
洋服の人は単に上衣うわぎを脱ぐだけでよろしいという事であって、僕たちの組の人は全部洋服だったので、身支度にも手間てまがかからず、すぐに体操が始まった。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それからは符牒ふちょうでしょう、何かたがいにいい合って、手間てまの取れることなどもありますが、まりが附いて皆がそこを離れるころには、また別の方で呼立てます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
かれここに八十神忿いかりて、大穴牟遲の神を殺さむとあひはかりて、伯伎ははきの國の手間てまの山本に至りて云はく
仏様だの、置き物だの、手間てまの掛かった、ひんの好い、本当の彫物ちょうこくをこしらえるんで、あんな、稲荷町の荒っぽいものとは訳が違うんだ。そりゃ上等のものなんだ。
今月ももう七日なぬかとすると、来月号の締切り日は——弔辞ちょうじなどを書いている場合ではない。昼夜兼行に勉強しても、元来仕事に手間てまのかかる彼には出来上るかどうか疑問である。
文章 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
これいかんとなれば縮を一たんになすまでに人のらうする事かぞへつくしがたし。なか/\手間てま賃銭ちんせんあて算量つもる事にはあらず、雪中に籠居こもりをる婦女等ふぢよらむなしくせざるのみの活業いとなみ也。
考へ又元の水口より立出何喰なにくはかほにて我が家をさして立歸りたり道庵だうあんは此日病家びやうかにて手間てま漸々やう/\亥刻よつどき近き頃歸り來りあかりともして四邊あたりを見るに座敷を取ちらしあれば不審ふしんに思ひ其へん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
下札さげふだいまあつらへにやつてある、まだ出来できんが蝋色ろいろにして金蒔絵きんまきゑ文字もじあらはし、裏表うらおもてともけられるやうな工合ぐあひに、少し気取きどつて注文をしたもんぢやから、手間てまが取れてまだ出来できぬが
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
何事なにごとおさまりのつき、今日けふ一人ひとりでおちようずにもかれるやうになりました、みぎ譯故わけゆゑ手間てまどり、昨日きのふうちまするときも、がわく/\して何事なにごとおもはれず、あとにておもへばしまりもけず
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
うっかりつまらぬこと申上もうしあげてお手間てまらせました。わたくしいそいで、あのとき神様かみさま幽界ゆうかい修行しゅぎょうこと、そのいてわたくしいきかせてくだされたおはなし要点ようてん申上もうしあげることにいたしましょう。
「ああそうですか。それは手間てまが省けていい。じゃあこの大使館の始末を借りるまでもなく、みずからが彼の寝室に忍びこみ、余自らの青竜刀せいりゅうとうを以て、余自らが彼の首をはねてしまいましょう」
みんなは、大国主神を、伯耆ほうきの国の手間てまの山という山の下へつれて行って
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
理解わかつて戴けるやうな御返辭を申上げますのには私少し手間てまどりさうでございます。贈物にはいろんな意味があるのぢやあございませんかしら。ですからそれに就いて意見を云ふ前にみんなを
「昼のうちは間の山へかせぎに参りまして、家へ帰ってから、出直してお座敷のお客様へ出ますものでございますから、それで、そのあわいに、いくらか手間てまが取れるのでございますが、もう見えまする」
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
だって、あれだけの冒険をしてやっと這入はいったんだぜ、(盗人は三重のとびら手際てぎわよく明けて入りました)あれくらいの仕事じゃ(盗人は作りたての外套がいとうに帽子をとりました。)まだ手間てまに合うまいよ。
私はそのためそれを昇り切るのにかなり手間てまどつた
鳥料理:A Parody (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
グレ ところが、そのつまでが手間てまれうて。
さればといって——それにグズグズ手間てまどっているまに、呂宋兵衛るそんべえぞくてんおかから道をかえて、勝頼公かつよりこうをとおく護送ごそうしてしまったら
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おもいのほか、電髪パーマネント手間てまどられて、そとたときは、いつしか西にしほうそらが、わずかに淡紅色たんこうしょくをして、れていました。
だまされた娘とちょうの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
が、この電車でんしやが、あの……車庫しやこところで、一寸ちよつと手間てまれて、やがて發車はつしやしてもなく、はしへ、横搖よこゆれにんで進行中しんかうちう
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
土をならすだけならさほど手間てまるまいが、土の中には大きな石がある。土はたいらにしても石は平らにならぬ。石は切り砕いても、岩は始末がつかぬ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そしてやっとおもいきってがると、またなごりしそうにかえり、かえり、さんざん手間てまをとったあとで、ふいとどこかへ出ていってしまいました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
その日々々の手間てまを取って一家の生計くらしを立てて行くその仕事の余暇を見つけては、今申す通り実物を教師にして写生することを心掛けているのであるから、なかなか
勘次かんじ工事こうじがどんなことかもらなかつたが一にち手間てまが五十せん以上いじやうにもなるといふので、それがその季節きせつとしては法外はふぐわい値段ねだんなのにんでしまつたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
なしおぼえの一刀差込で三五郎諸共もろともに我が家を出けるが川崎手前にて日のくれるやうにはか道々みち/\たはぶごとなど言て手間てまどり名にしあふ鈴ヶ森に差掛りし頃はやゝいつゝぎにもなりければ重四郎は前後を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
手間てましさに見舞みまいにもかねえしみッたれ野郎やろうだ、とそれこそくちをそろえてわるくいわれるなァ、加賀様かがさまもんよりもよくわかってるぜ。——つまらねえ理屈りくつァいわねえで、はや羽織はおりせねえかい。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ステーシヨンまでの二百ヴエルスタのみちを二晝夜ちうやぎたが、其間そのあひだうま繼場々々つぎば/\で、ミハイル、アウエリヤヌヰチは、やれ、ちやこつぷあらひやうが奈何どうだとか、うまけるのに手間てまれるとかとりきんで
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
私はそのためそれを昇りきるのにかなり手間てまどった
鳥料理 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
おもかった、はは病気びょうきもおいおいにいいほうへとかいましたけれど、衰弱すいじゃくしきったものはもとのごとく元気げんきになるには、手間てまがとれたのであります。
新しい町 (新字新仮名) / 小川未明(著)
小六は御米の後姿うしろすがたの、羽織はおりが帯で高くなったあたりながめていた。何をさがすのだかなかなか手間てまが取れそうなので
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「夜明けまでに、手間てまいらずの法で殺してやる。うぬばかりでなく、この村へ隠密おんみつにはいる者はみんなこうだ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
保名やすなからだもとどおりになるにはなかなか手間てまがかかりました。むすめはそれでも、毎日まいにちちっともきずに、親身しんみ兄弟きょうだい世話せわをするように親切しんせつ世話せわをしました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
どこぢやねえや、らと一しよんのせえなんだんべが、別々べつ/\つちやつたな、つまんねえ、餘計よけいぜねなんぞつかつて、らだつてえけえこと手間てまつこんだな
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「もし、ちついそがないと、平常ふだんなら、なに大丈夫だいぢやうぶですが、吹降ふきぶりで、途中とちう手間てまれますから。」
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そこで、私の手間てまのことについて相談がありましたが、一日に一(今の二十五銭)、一月三十日の時は七円五十銭、三十一日の時は七円七十五銭の手間を師匠からもらうことになりました。
小六ころく御米およね後姿うしろすがたの、羽織はおりおびたかくなつたあたりながめてゐた。なにさがすのだか中々なか/\手間てまれさうなので
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
てきめてたというのに、よけいなことをする手間てまで、なぜはやてきふせ用意よういをしないのです。蔵人くらんどでもなんでもかまいません。わたしはあくまで鎮西八郎ちんぜいはちろうです。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)