何等なんら)” の例文
第二、上等士族を給人きゅうにんと称し、下等士族を徒士かちまたは小役人こやくにんといい、給人以上と徒士以下とは何等なんらの事情あるも縁組えんぐみしたることなし。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
しかも其れが、趣味とか流行とかの問題に関して、何等なんらの教養をも受けた筈のない、貧乏人の子供なのだから一層特筆すべきである。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
のつそり立ち上りざま「いづれ近日何等なんらかの沙汰をしようが、余りあてにしない方がよからう。」とていよく志望者を送り出してしまふ。
自分のためにあれほどの深傷ふかでを負わせられながら、しかも彼女自身何等なんらの償いを求めようとする気色けしきも無いような節子に対しては
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼が前の日「やっつけちまおう」と云った時は何等なんらの用意はなかった。然し最早、犯罪の種は彼の頭の中で芽を出しはじめたのであった。
夢の殺人 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
それから今一つは、その文化向上のプライドを何等なんらかの方法に依って標示したいという内的の刺激からこんな風に発達して来たものである。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しかるに何等なんら玉石を顧みることなく、霊媒の全部を精神異常者と見做みなして、懲罰を加えんとするに至りては、愚にあらずんば正に冒涜である。
全力をあげて職務に勉励し、何等なんらの根拠なきによく余の計画を看破し、保険会社をして四十五万フランの損害をふせぎ得たり。
もしも、私にこんなことがあったら、何等なんら悲劇のともなわない恋愛などと口にしていてもしんではひどいかしゃくを感じるのはあたりまえの事だ。
恋愛の微醺 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
すると戦争は戦争の為の戦争ではなくつて、他に何等なんらかの目的がなくてはならない、畢竟ひつきやうずるに一の手段に過ぎないといふ事に帰着してしまふ。
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
つまり六郎氏は結婚の当初から、何等なんらかの事情により、夫人の秘密を知悉ちしつしていたのです。そして、それを夫人には一言も云わなかったのです。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
すでに水も艸木くさきも、虫も土も空も太陽も、皆我々蛙の為にある。森羅万象しんらばんしやうことごとく我々の為にあると云ふ事実は、最早もはや何等なんらうたがひをもれる余地がない。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
自分の家が貧しい為、何等なんらの金銭上の補助を仰ぎ得ない譲吉に取っては、近藤夫人が何かにつけて唯一の頼りであった。
大島が出来る話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
しかすべてに共通けうつうした手法しゆはふ方針はうしんは、由來ゆらい化物ばけもの形態けいたいには何等なんら不自然ふしぜん箇所かしよがある。それを藝術げいじゆつちから自然しぜんくわさうとするのが大體だい/\方針はうしんらしい。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
彼が寂しさ苦しさのあまり、自分を救ふ何等なんらかの手段を、衆生済度しゅじょうさいど僧たる老師が持ち合せるであらうといふ一面功利的な思ひつきからでもあつた。
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
第七十六条 法律規則命令又ハ何等なんらノ名称ヲもちヰタルニかかわラスノ憲法ニ矛盾むじゅんセサル現行ノ法令ハすべ遵由じゅんゆうノ効力ヲゆう
大日本帝国憲法 (旧字旧仮名) / 日本国(著)
子供の服装は近頃ル・マタン紙の婦人欄の記者が批難した通り「何等なんららの熟慮を経ない、華美はでに過ぎた複雑な装飾」
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
白氏はくし晴天せいてんの雨の洒落しやれほどにはなくそろへども昨日さくじつ差上さしあそろ端書はがき十五まいもより風の枯木こぼくの吹けば飛びさうなるもののみ、何等なんら風情ふぜいをなすべくもそろはず
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
何はあれ、ここは屈竟くっきょうの隠れ家である。万一、𤢖が昔のままに棲んでいるならば、これに乞うて何等なんらかの食物を得て、一時の空腹をしのごうとも思った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その一つ一つに何等なんらかの意味を見出そうと努力するようになったのも、主としてこの言葉の影響えいきょうだったのである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
つまりそれはガリレイが何等なんらの私心もなく、ひたすらに真理のために尽した偉大な仕事のおかげによるのです。
ガリレオ・ガリレイ (新字新仮名) / 石原純(著)
この都会のよどんでカスばかり溜った小路をあるきながら、例によって何等なんらの感銘もなく、ただいたずらに歩行するだけの毎夜の疲労にとぼとぼ歩いていたとき
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
兩者りやうしやあひだには何等なんら性質せいしつ變化へんくわせしむべき作用さようおこるでもなく、れはみづあぶら疎外そぐわいするのか、あぶらみづ反撥はんぱつするのかつひ機會きくわいいのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
斗滿川とまむがはいへ半町餘はんちやうよところり。朝夕あさゆふ灌水くわんすゐおもむくに、如何いかなる嚴寒げんかん大雪おほゆきこういへども、浴衣ゆかたまとひ、草履ざうり穿うがつのみにて、何等なんら防寒具ばうかんぐもちゐず。
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
しかし猟師は僧の非難を聞いても何等なんら後悔憤怒の色を表わさなかった。それからはなはだ穏かに云った。——
常識 (新字新仮名) / 小泉八雲(著)
それをまた一面から云うと、甲の味いを感ずるのは何等なんらかの錯覚に基きやしないかと疑うことも出来る。
歌の潤い (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
こんな事をば、出入の按摩あんま久斎きゅうさいだの、魚屋さかなやきちだの、鳶の清五郎だのが、台所へ来てはかわがわる話をして行ったが、然し、私にはほとん何等なんらの感想をも与えない。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
だから、変化のないようで、やはりこの疲れた沙原にも変化を求めれば、何等なんらか求められるものだ。
日没の幻影 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それから三千ねんぜん往古わうこかんがへながら、しんくと、不平ふへい煩悶はんもん何等なんら小感情せうかんじやううかぶなく、われ太古たいこたみなるなからんやとうたがはれるほどに、やすらけきゆめるのである。
こしをだにくる所もなく、唯両脚を以てたいささへて蹲踞そんきよするのみ、躰上に毛氈もうせんと油紙とをかふれども何等なんらこうもなし、人夫にいたりては饅頭笠まんじうがさすでに初日の温泉塲をんせんばに於てやぶ
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
わしは一角という者は存じませぬ、知りもしない奴に仮令たとえどの様な慾があっても、頼まれて旦那様を殺させたろうという御疑念は何等なんらかどを取って左様なことを仰しゃる
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その二人が五日前の晩から行方不明になってしまい、捜査に努力した水陸両警察署も、何等なんら手掛てがかりを得る事も出来ず、事件はそのまま忘れられようとしていた時の事だけに
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
すなは隙見すきみしたる眼の無事なるを取柄にして、何等なんらの発見せし事なく、きびすを返して血天井を見る。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
もし此手段このしゆだん實行上じつこうじようともな犧牲ぎせいがあるならば、それを考慮こうりよすることも必要ひつようであるけれども、何等なんら犧牲ぎせいがないのみならず、火災防止かさいぼうしといふもつと有利ゆうり條件じようけんともなふのである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
米國經濟界べいこくけいざいかい全般ぜんぱんには何等なんら懸念けねんすべき状態じやうたいみとめざるも、人氣にんき中心ちうしんたる證劵市場しようけんしぢやう大變動だいへんどうきたしたことであるからいきほ生糸相場きいとさうばにも波及はきふして十ぐわつ初旬しよじゆんより低下ていか趨勢すうせいとなり
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
背負揚しよいあげのうちに、何等なんら秘密ひみつがあらうとはおもはぬ。が、もしつたら如何どうする?とさけんだのも、おそら猜疑心さいぎしんであらう。わたしはそれをかんずると同時どうじに、めう可厭いやした。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
同郷どうきやう』『同藩どうはん』といふことから何等なんら利益りえき保護ほごけなくなるとともに、日本國内にほんこくないけるわたしのコスモポリタニズムはいよ/\徹底てつていしてゐたが、世界列國せかいれつこくといふものにたいしては
なつはじめたびぼくなによりもこれすきで、今日こんにちまで數々しば/\この季節きせつ旅行りよかうした、しかしあゝ何等なんら幸福かうふくぞ、むねたのしい、れしい空想くうさういだきながら、今夜こんやむすめはれるとおもひながら
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
よし僕等の生涯しようがいは、勞働者と比較ひかくして何等なんら相違さうゐがないとしても、僕等はつねに勞働者的生涯からだつして、もう少し意味ある、もう少し價値あるライフにりたいと希望きぼうしてゐる。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
れはかれふるくから病院びやうゐんにゐるためか、まち子供等こどもらや、いぬかこまれてゐても、けつして何等なんらがいをもくはへぬとことまちひとられてゐるためか、かくかれまち名物男めいぶつをとことして
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
いかに多くの見棄てられた民藝品に、来るべき茶器がかくれているでしょう。私達は何等なんら躊躇ちゅうちょを感ずることなく、それ等のものの随所に、茶器の美を発見することができるわけです。
民芸とは何か (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
幾度いくたびと無くおそるべき危険の境を冒して、無産無官又無家むか何等なんらたのむべきをもたぬ孤独の身を振い、ついに天下を一統し、四海に君臨し、心を尽して世を治め、おもつくして民をすく
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
余は模糊もこたる功名の念と、検束に慣れたる勉強力とを持ちて、たちまちこの欧羅巴ヨオロツパの新大都の中央に立てり。何等なんらの光彩ぞ、我目を射むとするは。何等の色沢ぞ、我心を迷はさむとするは。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
にはかきびすかへして急げば、行路ゆくての雲間にふさがりて、咄々とつとつ何等なんらの物か、とまづおどろかさるる異形いぎよう屏風巌びようぶいは、地を抜く何百じよう見挙みあぐる絶頂には、はらはら松もあやふ立竦たちすくみ、幹竹割からたけわり割放さきはなしたる断面は
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
二十年の三助生活が彼をその様な変質者にしたのか、不能者に等しい無感覚に近づけたのかは不明であったが、彼が女体やその姿態から何等なんらの慾情もそそられなかった事実は動かせなかった。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
何等なんら論理的まちがいのないことなどが今更いまさらのように考えられるのである。
地図にない街 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
僕にいわせるなら、あのとき科学小説時代の約束が反古ほごになるべき何等なんら本質上の理由はなかったと思う。いやむしろ、本質的には、あのとき科学小説が一段と栄えてしかるべきであったと思う。
我々の方はすっかり覚悟は出来ているんだから、たとえ万一ここでばったりと大納言にぶつかったとしたって何等なんら狼狽ろうばいすることはない。堂々と計画通りに我々の初志を貫徹するまでの話だ。なあ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
うした場合ばあいにはかならず何等なんらかの方法ほうほう報知しらせがありますもので、それはぬるひと思念おもいつたわる場合ばあいもあれば、また神様かみさまからとくらせていただ場合ばあいもあります。そのほかにもまだいろいろありましょう。
昔の書物の『下学集』などに仮令「おうち」を樗としてあってもそれは誤も甚だしいもので、何等なんら信ずるに足らぬのである。また臭椿を「くそつばき」とはよくもマーよい加減な事を言ったものかな。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)