さつ)” の例文
こまかきあめははら/\とおとして草村くさむらがくれなくこほろぎのふしをもみださず、かぜひとしきりさつふりくるはにばかりかゝるかといたまし。
雨の夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
右手のひじを、顔と顔のあいだへあげたのは、いうまでもなく、居合の身がまえで、手練の一さつを見せようかという意思の表示である。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、息切いきぎれのするまぶたさつと、めたちからはひつて、鸚鵡あうむむねしたとおもふ、くちばしもがいてけて、カツキとんだ小指こゆび一節ひとふし
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
平次は頃合をはかつて足を止めると、たもとを探つて取出した得意の青錢、右手はさつと擧ります。朧をつて飛ぶ投げ錢、二枚、五枚、七枚。
と同時に、怎やら頭の中の熱が一時さつと引いた様で、急に気がスツキリとする。じつと目を据ゑて竹山を見た。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
便たよりに一筋道すぢみち權現堂ごんげんだうの村中へ來懸きかゝをりしもさつと吹來る川風に提灯ちやうちんきえて眞のやみとなりしかば平兵衞は南無さんあかりがきえては一あしも歩行れぬとてこしをさぐり用意の火打を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
其の夜丑三うしみつの頃に、道臣は京子の枕元で看病をしながら、ツイうと/\と居眠りをしてゐたが、蚊帳越しにさつと吹き込む夜露を含んだ冷たい風に顏を撫でられ、驚いて眼を覺ますと
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
生れて初めての強敵を刺止しとめし事とて、ほつと一息、長き溜息しつゝ、あたり見まはす折しもあれ最前の若衆、血飛沫ちしぶき乱れ流れたる明障子あかりしやうじさつと開きて走り寄り、わが腰衣こしごろもに縋り付きつゝ
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
上よりさつと落し來て、平野の空に鳥を逐ふ
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
立ち騒ぐ刹那か、さつ
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「敗軍の将となっては、もうよけいな口はききたくない。足下もいらざる質問をせず、その剣を抜いて一さつに僕の血けむりを見給え」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さくらうらを、ぱつとらして、薄明うすあかるくかゝるか、とおもへば、さつすみのやうにくもつて、つきおもてさへぎるやいなや、むら/\とみだれてはしる……
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
こまかき雨ははら/\と音して草村くさむらがくれなくこほろぎのふしをも乱さず、風ひとしきりさつふりくるは、あの葉にばかりかかるかといたまし。
あきあはせ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
無雜作に投り出して、切り立ての牘鼻褌ふんどしに、紺の香が匂ふ腹掛はらがけのまゝ、もう一度ドシヤ降の中へさつと飛出しました。
日射が上からちゞまつて、段々下に落ちて行く。さつと室の中が暗くなつたと思ふと、モウ私の窓から日が遁げて、向合つた今井病院の窓が、遽かにキラ/\とする。
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
磔刑柱はりつけばしらの上にて屹度きつとおもてもたげ、小さき唇をキリ/\と噛み、美しく血走りたるまなじりを輝やかしつゝ乱るゝ黒髪、さつと振り上げて左右を見まはすうち、魂切たまぎる如き声を立てゝ何やら叫びいだせば
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
さつ押開おしひら御免成ごめんなされと長兵衞の弟なる中仙道熊谷宿の寶珠花屋はうじゆはなや八五郎此所へ入來たり是は/\後藤先生新藤市之丞樣まことに久々の御目どほり先々御機嫌きげんよく恐悦きようえつに存じ奉つる道理だうりこそ先程さきほどより一ト間の内にて御はなしのこゑ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さつの剣光がサッと彼の影をかすめた。と見えたと思うとドブンととろの水面に飛沫しぶきが上がり、つづいてもう一人は彼の足蹴を食って
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くもくらからう……みづはものすごしろからう……そら所々ところ/″\さつ藥研やげんのやうなひゞがつて、あられなかから、銀河ぎんがたまくだくがごとほとばしる。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
日射ひざしが上からちぢまつて、段々下に落ちて行く。さつへやの中が暗くなつたと思ふと、モウ私の窓から日が遁げて、向合つた今井病院の窓が、にはかにキラ/\とする。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
虹のやうな啖呵たんかを、ポカンとして居る向うびたひに浴びせて、娘は路地の中へさつと消えて了ひました。
致しける其七日の滿まんずる日の暮方くれがた山の上よりしてさつ吹下ふきおろす風に飄然と眼の前に吹落ふきおとす一枚のふだあり手に取て見るに立春りつしゆん大吉だいきち護摩祈祷ごまきたう守護しゆご可睡齋かすゐさいと記したれば三五郎は心に思ふやう彼の可睡齋かすゐさいと云ば東照宮とうせうぐうより御由緒ゆゐしよある寺にして當國の諸侯しよこうも御歸依寺也因ては可睡齋へ參り委曲くはしき事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
武蔵は、三名のなかへ割って入ると、こうの者を、大刀で一さつの下に断ち伏せ、左側の男を、左手で抜いた脇差で、横にいだ。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜中頃よなかごろには武生たけふまちかさのやうに押被おつかぶせた、御嶽おんたけといふ一座いちざみねこそぎ一搖ひとゆれ、れたかとおも氣勢けはひがして、かぜさへさつつた。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
『マア!』と言つて、智恵子はやみながらさつと顔を染めた。今まで男に凝視みつめられてゐたと思つたので。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
長谷倉甚六郎の手にひらめく一刀、平次の肩先へ電光の如く浴びせるのを、引つ外して懷へ入つた右手、それがさつと擧がると、得意の投げ錢、七八枚の四文錢が、續けざまに飛んで
宿やどと、宿やどで、川底かはそこいはゑぐつたかたちで、緑青ろくしやうゆき覆輪ふくりんした急流きふりうは、さつ白雲はくうんそらいて、下屋げやづくりのひさしまれる。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さつごとに、その鋩子きっさきから虹のように血をき、血は脳漿のうみそき、指のかけらを飛ばし、なま大根のように人間の腕を草むらへほうり出した。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分は、人の眠を妨げぬやうに靜かに起きて、柱に懸けてあつた手拭を取つて、サテ音させぬ樣に障子を明けた。秋の朝風の冷たさが、さつと心地よく全身に沁み渡る。庭へ下りた。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
温泉いでゆは、やがて一浴いちよくした。純白じゆんぱくいしたゝんで、色紙形しきしがたおほきたゝへて、かすかに青味あをみびたのが、はひると、さつ吹溢ふきこぼれてたまらしていさぎよい。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「いや、その噂があったので、もしこれへ来たら。一さつのもとに、大矛の餌食えじきにしてやろうと、待ちかまえていたところだ」
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
出たかと見ると、其舌がザザーッといふ響きと共に崩れ出して、磯を目がけて凄まじく、白銀の齒車を捲いて押寄せる。警破すはやと思ふ束の間に、逃足立てる暇もなく、敵は見ン事さつ退く。
漂泊 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
ひら/\、と夕空ゆふぞらくもおよぐやうにやなぎから舞上まひあがつた、あゝ、それ五位鷺ごゐさぎです。中島なかじまうへ舞上まひあがつた、とるとけてさつおとした。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
……あれば、宋朝治下の塗炭とたんの民土に、一さつの清風と、一望の緑野りょくやてんじるものと、望みをかけ得られないこともないのだ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
出たかと見ると、其舌がザザーツといふ響きと共に崩れ出して、磯を目がけて凄まじく、白銀しろがねの歯車を捲いて押寄せる。警破すはやと思ふ束の間に、逃足立てる暇もなく、敵は見ン事さつ退く。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
峨峰がほう嶮山けんざんかこまれた大湖たいこだから、時々とき/″\さつきりおそふと、このんでるのが、方角はうがくまよふうちにはねよわつて、みづちることいてゐた。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あっといううちに長い右剣が唸ってきて、一さつのもとに、一個の人間を、びゅッと、血しおの花火にしてしまった。後に、ずっと後年にである。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と同時に、(老いたる尊とき導師はわななくダンテの手をひいて、更に他の修羅圈内に進んだのであらう。)新らしき一陣の殺氣さつおもてを打つて、別箇の光景をこの室内に描き出したのである。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
二間ふたま三間みま段々だん/\次第しだいおくふかると……燈火ともしびしろかげほのかにさして、まへへ、さつくれなゐすだれなびく、はなかすみ心地こゝち
麦搗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
とたんに、一さつの風が楊志のいるところをびゅっと通り抜けた。——もし寸前に身を跳び開いていなかったら、楊志の形はもうなかったにちがいない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と同時に、(老いたる尊とき導師はわななくダンテの手をひいて、更に他の修羅圏内に進んだのであらう。)新らしき一陣の殺気さつと面を打つて、別箇の光景をこの室内に描き出したのである。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
のきしたるは、時雨しぐれさつくらくかゝりしが、ころみぞれあられとこそなれ。つめたさこそ、東京とうきやうにてあたかもお葉洗はあらひころなり。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その時はもう、風か影か、空を一さつした大刀は、彼の腰間のさやに吸われているのだった。肉眼では、そのかんの剣のうごきは、見て取れないくらいはやかった。
剣の四君子:03 林崎甚助 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ときに、真先まつさきに、一朶いちださくら靉靆あいたいとして、かすみなか朦朧もうろうたるひかりはなつて、山懐やまふところなびくのが、翌方あけがた明星みやうじやうるやう、巌陰いはかげさつうつつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
出鼻に先頭の一人が、敵の大太刀の一さつに、無造作な死を目前に遂げたのを見ると、あと六名の者は、途端に脳中枢のうちゅうすうの正確を欠いて、行動の統一を全然うしなってしまった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひさしたゞよ羽目はめなびいて、さつみづつる、はゞ二間にけんばかりのむらさきを、高樓たかどのき、欄干らんかんにしぶきをたせてつたもえる、ふぢはななるたきである。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
菊王の手の水馴棹みなれざおが、水の中で、ぶるとふるえた。もすこし、男のことばの裏に何かがひそんでいたら、一さつの水玉と共に、棹は、相手を河へ叩き落していたかも知れない。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かごける、と飜然ひらりた、が、これ純白じゆんぱくゆきごときが、うれしさに、さつ揚羽あげはの、羽裏はうらいろあはに、くち珊瑚さんご薄紅うすくれなゐ
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
沍寒ごかん大床おおゆかは氷を張つめたようである。泥舟はりゅうと一さつ氷気をいて相手の影へ迫った。
剣の四君子:04 高橋泥舟 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、こゑないまで、したかわいたか、いきせはしく、をとこあわたゞしく、懷中ふところ突込つゝこんだが、かほいろせてさつかはつた。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)