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一搖
夜中頃には
武生の
町を
笠のやうに
押被せた、
御嶽といふ
一座の
峰、
根こそぎ
一搖れ、
搖れたかと
思ふ
氣勢がして、
風さへ
颯と
吹き
添つた。
氣をつけて
居るのだから、
臺所、もの
置は
荒しても、めつたに
疊は
踏ませないのに、
大地震の
一搖れで、
家中、
穴だらけ、
隙間だらけで、
我家の
二階でさへ、
壁土と
塵埃と
煤と、
襖障子の
骨だらけな
で、
一搖り
肩を
搖つて、
無雜作に、
左右へ
遣違へに、ざくりと
投掛ける、と
腰でだぶりと
動く。