うで)” の例文
「あのつらに、げんこつをくらわせることはなんでもない。だが、おれが、うでちからをいれてったら、あのかおけてしまいはせぬか?」
からす (新字新仮名) / 小川未明(著)
一列に六人ずつ、それこそうでも動かせないくらい、ぎっしりとならんでいるのでした。けれども、かえって、それでよかったのです。
とかくするうち、少年のうでのできものはすっかりかわきましたが、ジェンナーは、おいそれと第二の実験にはかかり得ませんでした。
ジェンナー伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
三人の友だちとは、俳人の露柴ろさい、洋画家の風中ふうちゅう蒔画師まきえし如丹じょたん、——三人とも本名ほんみょうあかさないが、その道では知られたうできである。
魚河岸 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
なんにもならないで、ばたりとちからなく墓石はかいしからりて、うでこまぬき、差俯向さしうつむいて、ぢつとしてつてると、しつきりなしにたかる。
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
こういいのこしたおに言葉ことばつなわすれずにいました。それで万一まんいちかえされない用心ようじんに、つなうで丈夫じょうぶはこの中にれて、もんそと
羅生門 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
王子はうでんで、いわの上にすわりました。いつまでもじっと我慢がまんしていました。しかし、そのうちに、だんだんおそろしくなってきました。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
澄まして行き過ぎるうしろ姿に、いっそうムッとした二人の雲助、いきなり空駕からかごをほうりだして、バラバラッとうでまくりのただ一打ち!
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父がマレーフスキイ伯爵はくしゃくうでをとって、広間を横ぎって玄関げんかんの方へ連れ出し、従僕じゅうぼくのいる前で、冷やかにこう言い渡したのである。——
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
そして、年とった頭をニールスのうでになんどもなんどもこすりつけて、こまっている者をよくたすけてくれたと言って、ほめました。
古木こぼくやうみにくうでのばして、鐵車てつしやおり引握ひきつかみ、力任ちからまかせにくるま引倒ひきたほさんとするのである。猛犬稻妻まうけんいなづま猛然まうぜんとしてそのいた。
蟲のわたりて月高く、いづれも哀れは秋の夕、しとてものがれんすべなきおのが影を踏みながら、うでこまぬきて小松殿のかどを立ち出でし瀧口時頼。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
≪オォルの折れるまでうでの折れる迄もと思い全力を挙げて戦って参りましたが武運つたなく敗れて故郷の皆様みなさま御合おあわせする顔もありません。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
伊賀の暴れん坊こと、柳生源やぎゅうげんろうは、江戸から百十三里、剣術大名柳生対馬守やぎゅうつしまのかみの弟で、こいつがたいへんにうでのたつおっかない若侍。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そのうちに午後になりましたから、このかわいい奥さんはうでに手かごをかけて、子どもの手を引いて出かける用意をしました。
かく呼んだのであろう〕今にうで一本で食べて行かなければならない者が素人しろうとのこいさんに及ばないようでは心細いぞといった。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
かくてもあられねばつまたる羽織はおりをつとくびをつゝみてかゝへ、世息せがれ布子ぬのこぬぎて父の死骸しがいうでをそへてなみだながらにつゝみ脊負せおはんとする時
十二ばかりのの茶いろな可愛かわいらしい女の子が、黒い外套がいとうて青年のうでにすがって不思議ふしぎそうにまどの外を見ているのでした。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
芋蟲いもむしうでんで其頂そのいたゞきにすわり、悠々いう/\なが水煙草みづたばこ煙管きせるふかしてゐて、あいちやんや其他そのたものにも一切いつさいをくれませんでした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
成程うでぷしつよさうに出来てゐるが、その二十年といふもの、金なぞたんまり握つた事の無ささうな掌面てのひらだなと弟子は思つた。
父親てゝおや先刻さきほどよりうでぐみしてぢてありけるが、あゝ御袋おふくろ無茶むちやことふてはならぬ、しさへはじめていてうしたものかと思案しあんにくれる
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
頭はたたきられ、うではへし折られて、これがあの温厚おんこうな人の姿であるか、といきどおりを感じさせるほどに、ひどいものだった。
それでもかれ強健きやうけん鍛練たんれんされたうでさだめられた一人分にんぶん仕事しごとはたすのはやゝかたぶいてからでもあなが難事なんじではないのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
打れて眞逆まつさかさまに倒るゝをお花はすかさず駈寄かけよつて左のうで打落うちおとせば吾助はおきんと齒切はがみを爲す友次郎お花忠八諸共もろとも押重おしかさなり十分止めを刺貫さしとほし終に首を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
小初は、み台のやぐらの上板に立ち上った。うでを額にかざして、空の雲気を見廻みまわした。軽く矩形くけいもたげた右の上側はココア色に日焦ひやけしている。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
鐘楼しゅろうしたにあじさいがきさかっている真昼まひるどきだった。松男君まつおくんうでによりをかけて、あざやかに一つごオん、とついた。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
すると、聖母せいぼマリアは、生まれたばかりの赤ちゃんをおきさきさまのうでからとって、子どもといっしょにきえてしまいました。
朝月は朝月で、近づく敵兵のかたうでかぶとのきらいなくかみついてはふりとばし、また、まわりの敵をけちらしふみにじる。
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
女神はまず急いでかみをといて、男まげにおゆいになり、両方のびんと両方のうでとに、八尺やさか曲玉まがたまというりっぱな玉のかざりをおつけになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
珠運とか云う小二才はおのれだななま弱々しい顔をしてよくもお辰を拐帯かどわかした、若いには似ぬ感心なうでしかし若いの、闘鶏しゃもの前では地鶏じどりはひるむわ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
この貝輪かひわうでにはめる風俗ふうぞくは、今日こんにちでも南洋なんようあたりの野蠻人やばんじんあひだおほ見受みうけられますが、たゞその貝輪かひわはそのゑぐあながわりあひにちひさいので
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
「柳君!」と千三は光一のうでをとった。「きみは後悔こうかいするぞ、きみはぼくをそんな人間だと思っていたのか、きみは……」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
れはうでほそかつたが、このなかには南蠻鐵なんばんてつ筋金すぢがねはひつてゐるとおもふほどの自信じしんがある。ほそきにいてゐるてのひらが、ぽん/\とつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
それはうでぷしが強くて、さながら町の英雄でした。町の英雄というのはどこにでもあり、どこででも調法ちょうほうがられました。
法一さん、それは、おまえのふしぎなほどに、たくみなびわのうでまえが、おまえをそういうところへみちびいたのじゃ。
壇ノ浦の鬼火 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
うでを消毒したりするのに手間取っているのを見ると、寺田は一代の苦痛を一秒でも早くやわらげてやりたさに、早く早くと自分も手伝ってやるのだった。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
ところで、きょう、ユリの左腕は惨たる有様なのよ、あわれ玉の(うでに非ず)かいなも虫にくわれて、赤ブツブツで、丁度この間の輝坊のようです。
いまぐにもける器用きよううでかえって邪間じゃまになって、着物きものなんぞおんないても、はじまらないとのこころからであろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
神風かみかぜを起こしてあのをふくらせ、水夫かこうでの力を二倍にし、鳥のごとくにすみやかにこの岸に着かしめたまえ。(鳥居とりいのほうに走り出そうとする)
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
が、それはべつはなし、あのときなにをいうにも四辺あたり真暗まっくらでどうすることもできず、しばらくうでこまねいてぼんやりかんがんでいるよりほかみちがなかった。
何しろうでぱいのところを見せて、すくなくとも日本の洋畫界やうぐわかいに一生面せいめんひらかうといふ野心やしんであツたから、其の用意、其の苦心くしん、實にさん憺たるものであツた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
葛西かさい肥料屋こやしやでは、肥桶こえおけにぐっとうでを突込み、べたりと糞のつくとつかぬで下肥しもごえ濃薄こいうすい従って良否を験するそうだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
あそんでツてよ。」と周囲しうゐ人込ひとごみはゞかり、道子みちこをとこうでをシヤツのそでと一しよに引張ひつぱり、欄干らんかんから車道しやだうやゝ薄暗うすぐらはうへとあゆみながら、すつかりあまえた調子てうしになり
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
あんな奴にかかっては鉄拳制裁てっけんせいさいでなくっちゃ利かないと、こぶだらけのうでをまくってみせた。おれはついでだから、君の腕は強そうだな柔術じゅうじゅつでもやるかと聞いてみた。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
質屋の番頭が目的だった彼の十代の日のひざ苦行くぎょうはもう身についてしまっているというのだ。彼はいま、三十に近くなって、こんどはうでをかためねばならないのだ。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
それに大概たいがいうでよりもより以上いじやうくち達者たつしや面面めんめんおほいのだからその騷々さう/″\しさももつさつすべきである。
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
「そこで途中のやぶでそのうでぷしで貝がられるのか、そうは子供をあやすようにはまいらぬ。」
「ちょっとした怪我けがでも痛いンだから、これでうであしを切断するとなると、どんなでしょう?」
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
私には今のところそれを退治るいい工夫がかばん。このさいきみのうでにたよるほかない……
そんなみちみち私の出遇であうのは、ごくまれには散歩中の西洋人たちもいたが、大概たいがい、枯枝を背負せおってくる老人だとかわらびとりの帰りらしいかごうでにぶらさげた娘たちばかりだった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)