着物きもの)” の例文
三十七ねんぐわつ十四幻翁げんおう望生ぼうせい二人ふたりとも馬籠まごめき、茶店ちやみせ荷物にもつ着物きものあづけてき、息子むすこ人夫にんぷたのんで、遺跡ゐせきむかつた。
そのとき、のぶは、お人形にんぎょう着物きものをきかえさせて、あそんでいましたが、それを手放てばなして、すぐにおかあさまのそばへやってきました。
青い花の香り (新字新仮名) / 小川未明(著)
家の中はまっくらで、しんとして返事へんじをするものもなく、そこらにはあつ敷物しきもの着物きものなどが、くしゃくしゃらばっているようでした。
ガドルフの百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
昨夜ゆうべもすがらしづかねぶりて、今朝けされよりいちはなけにさまし、かほあらかみでつけて着物きものもみづからりしを取出とりいだ
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そしてじぶんの顔を黒くぬって、年よりの小間物屋こまものやのような着物きものをきて、だれにも女王さまとは思えないようになってしまいました。
あのしろ着物きものに、しろ鉢巻はちまきをした山登やまのぼりの人達ひとたちが、こしにさげたりんをちりん/\らしながら多勢おほぜいそろつてとほるのは、いさましいものでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「里見さん。あなたが単衣ひとへものて呉れないものだから、着物きものにくくつてこまる。丸で好加減いゝかげんにやるんだから、少し大胆ぎますね」
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その帽子ぼうし着物きものくつはもとより、かお手先てさきまで、うすぐろくよごれていて、長年のあいだたびをしてあるいたようすが見えています。
活人形 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
今は儂にとりて着物きものの如く、むしろ皮膚ひふの如く、居れば安く、離るれば苦しく、之を失う場合を想像するにえぬ程愛着を生じて来た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ね、母様おつかさん、あのおやしきぼつちんママあをだの、むらさきだのまじつた、着物きものより、はなはうがうつくしいつて、さういふのね。だもの、先生せんせいなんざ。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
お前はわたしにだまされたと言うか言わない時に、一番はしに伏していたわにがわたくしをつかまえてすつかり着物きものいでしまいました。
あれと私達わたしたちとはなん關係くわんけいいやうなものの、あれも着物きもの私達わたしたちたがひ着物きものなんとなく世間せけんたいして、わたし氣耻きはづかしいやうでなりませんのよ
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
おれの姿すがた透明とうめい着物きものを身につけさえしなければ、だれにも姿をみられなくなるってことを、みんなに知られてしまったんだ。
二番にばんめのわがおもふどちは、おれのなかよしだといふくらゐの意味いみで、おれだつてしらみとおんなじことだ、とまるで、綿入わたいりの着物きものひめに
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
しかし時計とけいはどうしたろう、それからポッケットにれていた手帳てちょうも、巻莨まきたばこも、や、ニキタはもう着物きもの悉皆のこらずってった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「遅くなって、伸ちゃんには気の毒だけど、でもまあいいわ。その代わり手当をたんともらえるんだから、今にいい着物きものを買って上げてよ。」
秘密の風景画 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
おとうとかみたいそうよろこんで、おかあさんのこしらえてくださったふじづるの着物きものくつからだにつけて、ふじづるの弓矢ゆみやちました。
春山秋山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
よき着物きものを着たものと汚ない着物を着たものと喧嘩したらば、よき着物を着た方が巡査の前へ出ても必ず勝つことに極つて居る。(六月四日)
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
フランス軍がウィーンに侵入してハイドンの家近く砲丸たまが落ちて来たとき、起き上って着物きものえさせ、驚き騒ぐ家人達に
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
唯、おぼろげながら、知れるのは、その中にはだかの屍骸と、着物きものを着た屍骸とがあると云ふ事である。勿論もちろん、中には女も男もまじつてゐるらしい。
羅生門 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
もっとも君の見らるる通り、僕の家には、装飾品もなければ骨董品こっとうひんもないし、また僕の着る着物きものは、家内のも子供のも同然、流行にはわない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
道子みちこ其辺そのへんのアパートをさがして一人暮ひとりぐらしをすることになつたが、郵便局いうびんきよく貯金ちよきんはあらかた使つかはれてしまひ、着物きものまで満足まんぞくにはのこつてゐない始末しまつ
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
いまぐにもける器用きよううでかえって邪間じゃまになって、着物きものなんぞおんないても、はじまらないとのこころからであろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ひさしぶりでかしらはうつくしいこころになりました。これはちょうど、あかまみれのきたな着物きものを、きゅうににきせかえられたように、奇妙きみょうなぐあいでありました。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
もう何百万という数の、星のように光るこな雪でった、うすい白いしゃ着物きものを着ていました。やさしい女の姿はしていましたが、氷のからだをしていました。
と見かえして、そういうが早いか、燕作のからだは、いわ着物きものをきせてころがしたように、そこからさわの下の水辺みずべまで一いきにザザザザザとかけおりてしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先頃越後國猿島さるしま河原よりあとくらましたる昌次郎夫婦の者はおや憑司とはかりてころせし男女の死體したい己等おのれら着物きものきせそれより信州の山路やまぢにかゝりしのび/\に江戸へ來りて奉公口ほうこうぐち
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
見れば、男の人は、しゅすの着物きものの上に、毛皮けがわをふちにつけた長いマントを着て、はね毛のかざりのついたぼうしをななめにかぶり、むねには、世にも美しいくさりをさげています。
「あら、着物きものなんかいらなくつてよ。——さうね、あたしの今一番しいのは上とうの乳母ぐるまよ。ほらキルビイさんのおたくにあるやうな。あたしれい子をあんなのにせてやりたいわ。」
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
『はい!』とさけんだものゝあいちやんは、あまりに狼狽あはてたので自分じぶん此所こゝ少時しばらくあひだに、如何いかばかりおほきくなつたかとふことを全然すつかりわすれて、にはかにあがりさま、着物きものすそ裁判官さいばんくわんせきはら
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
おとうさんはらへ仕事しごとにでかけ、おじいさんは湖の岸へ、「のっこみぶな」というのをつりにでかけたあとで、おっかさんはひとりでよそいきの着物きものにきかえ、ふろしきづつみ一つをもって
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
二人ふたりは、そんなはなしをして、つまらなそうにわらつた。そして、なんとなくあきらしいそらのいろと、着物きものはだざわりとにがつくと、やはり二人ふたりえがたいやうに故郷こきやう自然しぜん思浮おもひうかべるのであつた。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
姿にしても其通そのとほりだ、奈何いかにもキチンとしまツて、福袢じゆはんえりでもおびでも、または着物きものすそでもひツたり體にくツついてゐるけれども、ちつとだツて氣品きひんがない。別のことばでいふと、奥床おくゆかしい點が無いのだ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
夫人は、いかにもよく整った面長な中高な顔に丸髷まるまげ両鬢りょうびんを張って年にしては少し地味な柄の着物きものえりを、幾枚も張り重ねた様に見せ、何故か、厚い毛皮のショールは膝の上の手に捲き付けている。
動かぬ女 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そうママにきまとってばかりいるなんて、いやなくせはじめたものね! あすのばんには取っかえてあげるって、そいってるじゃないの。もっと悪戯いたずら加減かげんしたら、着物きものだってもう少しもつのにねえ。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
それから二週間しゅうかんもたったでしょうか。よくはれたのおひるちかくに、着物きものはぼろぼろ、かみはぼうぼうのおんなこじきが、諭吉ゆきちいえもんそとにたち、はいろうか、はいるまいかと、ためらっていました。
數多あまたの若き漁夫ロツキユ着物きものつけぬ女との集まりて
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
あか着物きもののおきやがりこぼし
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
これらの粘土細工ねんどざいくは、おどろいたかおつきをして、きゅうに、その仕事場しごとばへはいってきた派手はで着物きものたお人形にんぎょうつめているようすでした。
風の寒い世の中へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
草がからだをげて、パチパチったり、さらさら鳴ったりしました。霧がことしげくなって、着物きものはすっかりしめってしまいました。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
いよいよ、お妃さまがはしらにしばりつけられました。火がはやくも赤いしたをチョロチョロさせて、お妃さまの着物きものをなめはじめました。
風呂ふろびてれゆけばつきかけ下駄げたに七五三の着物きもの何屋なにやみせ新妓しんこたか、金杉かなすぎ糸屋いとやむすめう一ばいはながひくいと
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あとは散漫に美禰子の事があたまうかんでる。美禰子のかほや、襟や、帯や、着物きものやらを、想像に任せて、けたりつたりしてゐた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
赤と黄とみどりと青とむらさきとの五しきのしまのはいった着物きものをつけ、三かくの金色の帽子ぼうしをかぶり、緋色ひいろ毛靴けぐつをはいて、ぶらりとさがっていました。
活人形 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
しか時計とけい奈何どうしたらう、れからポツケツトにれていた手帳てちやうも、卷莨まきたばこも、や、ニキタはもう着物きもの悉皆のこらずつてつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
もの着物きものだって……すこしちたまえ、なにかあるだろう。が、家のものをさわがしたくないから、まにあわせだよ」
といって、はちかつぎをつかまえて、むりに着物きものをぬがせて、よごれたひとえものを一まいせたまま、してしまいました。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
とうさんの子供こども時分じぶんには祖母おばあさんのつてくださる着物きものぢいやのつくつてれる草履ざうりをはいて、それで學校がくかうかよひました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
天明調はどこまでも引しめて五もすかぬやうに折目正しく着物きもの着たらんが如く、天保調はのろまがはかまを横に穿うがちて祭礼のぜに集めに廻るが如し。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
そこでその父母が、その人を知りたいと思つて、その女に教えましたのは、「赤土を床のほとりに散らし麻絲を針に貫いてその着物きものの裾に刺せ」