父母ふぼ)” の例文
二人ふたりは、はゝ父母ふぼで、同家ひとついへ二階住居にかいずまひで、むつまじくくらしたが、民也たみやのものごころおぼえてのちはゝさきだつて、前後ぜんごしてくなられた……
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そのうちで生長するのはわずか数匹すひきに過ぎないのだから、自然は経済的に非常な濫費者らんぴしゃであり、徳義上には恐るべく残酷な父母ふぼである。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
夫婦ふうふあひだうまれたもの幾人いくにん彼等かれらあひだ介在かいざいしてた。有繋さすが幾人いくにん自分じぶん父母ふぼばれるのでにがわらひんでひかへてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それにつけて、三びきのありは、父母ふぼのすんでいる故郷こきょうを、こいしくおもったのです。けれど、いくらおもっても、かえることができませんでした。
三匹のあり (新字新仮名) / 小川未明(著)
ぼくの十二のときです。ぼく父母ふぼしたがつてしばら他國たこくましたが、ちゝくわんするとともに、故郷くにかへりまして、ぼく大島小學校おほしませうがくかうといふにはひりました。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
チョビやすの「辻のお地蔵さん」に合わせて、お美夜みやちゃんがいろいろと父母ふぼうる所作事をして見せるんです。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しかもなによりこまるのは、現世げんせのこっている父母ふぼ悲嘆なげきが、ひしひしと幽界ゆうかいまでつうじてることでございました。
一月ひとつき二月ふたつきとたつうちに、学校の窓からのぞいた人生と実際の人生とはどことなく違っているような気がだんだんしてきた。第一に、父母ふぼからしてすでにそうである。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
釋尊、八幡のうまれ替りとや申さん。日蓮は凡夫なればよくしらず。これしかし、日蓮がまゐらせしゆゑなり。さこそ父母ふぼよろこ給覽たまふらん。誠に御祝として、餅、酒、鳥目てうもく貫文くわんもん送給候畢おくりたまひさふらひぬ
またたとへば、父母ふぼはととさま、ははさまんですこしもつかへなきのみならず、かへつ恩愛おんあいぜうこもるのに、なにくるしんでかパパさま、ママさまと、歐米おうべい模倣もはうさせてゐるものが往々わう/\ある。
国語尊重 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
あたか父母ふぼ未生前みしやうぜんより小説や戯曲に通じてゐたやうに滔滔たうたう聒聒くわつくわつ絮絮じよじよ綿綿めんめんと不幸なる僕等におしへれるのである。すると文壇に幅をかせてゐるのは必ずしも小説や戯曲ではない。
変遷その他 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
今日此頃けふこのごろ全盛ぜんせい父母ふぼへの孝養こうよううらやましく、おしよくとほあねの、いのらいのかずらねば、まちびとふるねづみなき格子かうし呪文じゆもんわかれの背中せな手加减てかげん秘密おくまで、たゞおもしろくきゝなされて
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
われもの父母ふぼわれもの鮑子はうしなり
父母ふぼとしをば知らざる可からず。」
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
父母ふぼに心配をかけない程度で、実際の事実に多少の光沢つやを着けるくらいの事は、良心の苦痛を忍ばないで誰にでもできる手加減であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
にん子供こどもたちは、自分じぶんたちが、父母ふぼにねこの世話せわをすることをちかって、ねこをったことをおぼえているから、できるだけの世話せわをしたのでした。
小ねこはなにを知ったか (新字新仮名) / 小川未明(著)
はでもるおきぬ最早もはや中西屋なかにしやないのである、父母ふぼいへかへり、嫁入よめいり仕度したくりかゝつたのである。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
『これはもときょううまれじゃが、』と老人ろうじんは一こうました面持おももちで『ごくおさな時分じぶん父母ふぼわかれ、そしてこちらの世界せかいてからかくまで生長せいちょうしたものじゃ……。』
彼等かれらをんな所在ありかねらふのはきはめて容易よういなもののやうではありながら蛸壺たこつぼすこしのさまたげもなくしづめられるやうではなく、父母ふぼやみにさへひかりはなつてをんな彼等かれらから遮斷しやだんしようとしてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
今年ことし三月さんぐわつなかばより、東京市中とうきやうしちうおだやかならず、天然痘てんねんとう流行りうかうにつき、其方此方そちこちから注意ちういをされて、身體髮膚しんたいはつぷこれを父母ふぼにうけたりあへそこなやぶらざるを、と父母ふぼおはさねども、……生命いのちしし
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
生甲斐いきがひなや五尺ごしやく父母ふぼおんになれずましてや暖簾のれんいろむかしにめかへさんはさてきて朝四暮三てうしぼさんのやつ/\しさにつく/″\浮世うきよいやになりて我身わがみてたき折々をり/\もあれど病勞やみつかれし兩親ふたおや寢顏ねがほさしのぞくごとにわれなくばなんとしたまはん勿體もつたいなしとおもかへせどくは
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
彼等は未来の健康のため、一夏ひとなつさきに過すべく、父母ふぼから命ぜられて、兄弟五人で昨日きのうまで海辺うみべけ廻っていたのである。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ただ現世げんせのこした父母ふぼことはどうあせりましてもあきらめねてなやきました。そんな場合ばあいには、神様かみさまも、精神統一せいしんとういつも、まるきりあったものではございませぬ。
かれが、子供こども時分じぶん両親りょうしんわかれて、その父母ふぼ行方ゆくえがわからないので、こうして、たびからたびへさすらってさがしているというはなしいたときに、おな孤児みなしごうえから
北の不思議な話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
みやこなる父母ふぼかへたまひぬ。しうとしうとめらぬきやく許多あまたあり。附添つきそ侍女じぢよはぢらひにしつゝ、新婦よめぎみきぬくにつれ、浴室ゆどのさつ白妙しろたへなす、うるはしきとともに、やまに、まちに、ひさしに、つもれるゆきかげすなり。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「まあなにからはひつてもおなじであるが」と老師らうし宗助そうすけむかつてつた。「父母ふぼ未生みしやう以前いぜん本來ほんらい面目めんもくなんだか、それをひとかんがへてたらかろう」
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
あるときはまた、仕事しごと父母ふぼが、とっくにれたけれどかえってきません。そんなときは、さびしがってきます。わたしは、その子供こども無事ぶじいのらなければなりません。
王さまの感心された話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
さうして二十ねんむかし父母ふぼが、んだいもとためかざつた、あか雛段ひなだん五人囃ごにんばやしと、模樣もやううつくしい干菓子ひぐわしと、それからあまやうから白酒しろざけおもした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
つきまどあかるくらしたばんに、サフランのあかはなびらが、かぜにそよぐ夕方ゆうがた、また、しろいばらのはながかおるよいなど、おんなは、どんなに子供こどものころ、自分じぶんむらあそんだことや、父母ふぼ面影おもかげ
砂漠の町とサフラン酒 (新字新仮名) / 小川未明(著)
自分はこういう過去の記念のなかに坐って、久しぶりに父母ふぼや妹や嫂といっしょに話をした。家族のうちでそこにいないものはただ兄だけであった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうしてその信書はきっと父母ふぼが眼を通した上で本人の手に落つるという条件つきの往復であるという事まで確めた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宗助そうすけには父母ふぼ未生みしやう以前いぜんといふ意味いみがよくわからなかつたが、なにしろ自分じぶんふものは必竟ひつきやう何物なにものだか、その本體ほんたいつらまへてろと意味いみだらうと判斷はんだんした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
私の父母ふぼ、私の祖父母そふぼ、私の曾祖父母そうそふぼ、それから順次にさかのぼって、百年、二百年、乃至ないし千年万年の間に馴致じゅんちされた習慣を、私一代で解脱げだつする事ができないので
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あなたは父母ふぼ膝下しっかを離れると共に、すぐ天真の姿をきずつけられます。あなたは私よりも可哀相かわいそうです
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
親友もなんじを売るべし。父母ふぼも汝にわたくしあるべし。愛人も汝を棄つべし。富貴ふっきもとより頼みがたかるべし。爵禄しゃくろく一朝いっちょうにして失うべし。汝の頭中に秘蔵する学問にはかびえるべし。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
われは父母ふぼのために存在するか、われは子のために存在するか、あるいはわれそのものを樹立せんがために存在するか、吾人ごじん生存の意義はこの三者の一を離るる事が出来んのである
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おれ達は父母ふぼから独立したただの女として他人の娘を眺めた事がいまだかつてない。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自己のうちに過去なしと云うものは、われに父母ふぼなしと云うがごとく、自己のうちに未来なしと云うものは、われに子を生む能力なしというと一般である。わが立脚地はここにおいて明瞭めいりょうである。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)