手拭てぬぐひ)” の例文
ところがすこつたとき、嘉十かじふはさつきのやすんだところに、手拭てぬぐひわすれてたのにがつきましたので、いそいでまたかへしました。
鹿踊りのはじまり (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
揃ひの手拭てぬぐひ、叔母さんに達引かしたあはせ身扮みなりは氣の毒なほど粗末だつたが、きりやうは向島一帶をクワツと明るくしたお糸ですよ。
「十三囘忌くわいき、はあ、大分だいぶひさしいあとの佛樣ほとけさまを、あのてあひには猶更なほさら奇特きとくことでござります。」と手拭てぬぐひつかんだを、むねいてかたむいて
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
読んでしまふと、しばらく開かれた手紙を、手拭てぬぐひのやうに、両手の上にひろげたまま、ぼんやりしてゐたが、やがてきかへした。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
伯父をぢさんはもうこまつてしまつて、とうさんのめておび手拭てぬぐひゆはひつけ、その手拭てぬぐひとうさんをいてくやうにしてれました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
取出してのみ暫時しばし其處に休み居ける中段々夜も更行ふけゆき四邊あたりしんとしける此時手拭てぬぐひに深くおもてをつゝみし男二人伊勢屋のかどたゝずみ内の樣子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
手拭てぬぐひひたたびちひさな手水盥てうずだらひみづつきまつたかげうしなつてしばらくすると手水盥てうずだらひ周圍しうゐからあつまやう段々だん/\つきかたちまとまつてえてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
荷車きの爺さんは、薄ぎたない手拭てぬぐひで、額の汗をき拭き、かう言つて、前に立つた婦人の顔を敵意のある眼で見返しました。
黒猫 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
ふんどしのしり手拭てぬぐひをブラ下げたり、お尻ばかりプツクリ浮べたり、仲間を背中に乗せたりして、さかんに騒ぎまはつてゐます。
プールと犬 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
なほさら五月蠅うるさいとはしくくるまのおとのかどとまるをなによりもにして、それおいできくがいなや、勝手かつてもとのはうき手拭てぬぐひをかぶらせぬ。
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
俄盲目にはかめくらかんるいけれども、もらつた手拭てぬぐひきず二重ふたへばかりいて、ギユツとかためますと、くすり効能かうのう疼痛いたみがバツタリ止まりました。
赤い襦袢じゆばんの上に紫繻子むらさきじゆすの幅広いえりをつけた座敷着ざしきぎの遊女が、かぶ手拭てぬぐひに顔をかくして、まへかゞまりに花道はなみちから駈出かけだしたのである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
氷嚢こほりぶくろ生憎あいにくかつたので、きよあさとほ金盥かなだらひ手拭てぬぐひけてつてた。きよあたまやしてゐるうち、宗助そうすけ矢張やは精一杯せいいつぱいかたおさえてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
部屋の隅のシツクイ塗りの天井に、針金を渡して、手拭てぬぐひが二本かゝつてゐた。ベッドの裏側には、林業に関する本が二十冊ばかり積んであつた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
ほのほしたをくゞるときは、手拭てぬぐひにて頭部とうぶおほふこと。手拭てぬぐひれてゐればなほよく、座蒲團ざぶとんみづひたしたものはさらによし。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
それで、人足たちの手も足も、着てゐる仕事着も、ほゝかぶりにした手拭てぬぐひまで——身体ぢゆう泥だらけになつてゐた。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
あかしかけをきた人形にんぎやうは、しろ手拭てぬぐひのしたにくろひとみをみひらいて、とほくきたたびをおもひやるやうにかほをふりあげました。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
翌日礼助は起きるなりすぐ髪床へ行き湯に入つて、手拭てぬぐひを番台に預けると、懐手ふところでをしてぶらりと近所を散歩した。
曠日 (新字旧仮名) / 佐佐木茂索(著)
初夏の赤い太陽が高い山のに傾いた夕方、私は浴場を出て手拭てぬぐひをさげたまゝ寄宿舎の裏庭を横切つてゐると
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
そこへ私より一足遅れて権八が一人の仲間にれられて頭を手拭てぬぐひ繃帯はうたいしながら帰つて来た。かみさんはそれを見るとたちまち色を変へて狂気のやうになつた。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
手拭てぬぐひの端へ包んで田舎者のやうに肩へ掛けて歩くのが、どんなに面白く思はれたでせう。しかも私のなどは帰りみちの細い道で、大かたはころ/\と落ちてしまひました。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
僕は風呂ふろへはひりに行つた。彼是かれこれ午後の十一時だつた。風呂場の流しには青年が一人ひとり手拭てぬぐひを使はずに顔を洗つてゐた。それは毛を抜いたにはとりのやうにせ衰へた青年だつた。
鵠沼雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
つたり、しやがんだりしてるばかりで、手拭てぬぐひもつないらし、何時いつふうえず、三時間じかんでも五時間じかんでも一日でも、あアやつてるのだらうと自分じぶんにはおもはれた。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
私はまた新たになき始めました。母は私の側へよつて手拭てぬぐひで私の涙をぬぐひ
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
蒲「に一つ行かうよ。手拭てぬぐひを貸してくれ給へな」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
かみさんは手拭てぬぐひかぶつてせつせと働いてた。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
そしていちばんはじめに手拭てぬぐひすゝんだ鹿しかから、一口ひとくちづつ団子だんごをたべました。六ぴきめの鹿しかは、やつと豆粒まめつぶのくらゐをたべただけです。
鹿踊りのはじまり (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
おつぎのまだみじか身體からだむぎ出揃でそろつたしろからわづかかぶつた手拭てぬぐひかたとがあらはれてる。與吉よきちみちはたこもうへ大人おとなしくしてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
施主せしゆ、へい、施主せしゆまをしますと……」となにかまぶしさうなほそうして、うす眉毛まゆげ俯向うつむけた、やつれ親父おやぢ手拭てぬぐひひたひく。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
うちでは祖母おばあさんや伯母をばさんやおひなまで手拭てぬぐひかぶりまして、伯父おぢさんやぢいやと一しよはたらきました。近所きんぢよから手傳てつだひにはたらひともありました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
むかし金瓶楼きんぺいろう小太夫こだいふはれた蘿月らげつの恋女房は、綿衣ぬのこ襟元えりもと手拭てぬぐひをかけ白粉焼おしろいやけのしたしわの多い顔に一ぱいのを受けて
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
皆んな川に捨てたり、手拭てぬぐひにしめしたりしたさうで——これは最初から素面しらふだつたお蔦と卯八が見屆けてゐますが。もつとも三吉はたしかに呑んださうで
ふくやいそいでお医者様いしやさまへおとつさんそこにつてらつしやらないでうかしてやつてださいりやうさん鳥渡ちよつと手拭てぬぐひ
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あとにをんな亭主ていしゆかへつてたならばませようと思つて買つて置いた酒をお客にましてしまつたのですから、買つて置かうと糸立いとだていて手拭てぬぐひかむ
道具屋は画かきの前で手拭てぬぐひかぶつて猫の真似をしたり、四つひになつて甲虫かぶとむしの真似をしたりした。そして西山氏が腹の底から笑ひ崩れるのを待つてゐた。
うちでは御米およねきよれてくとかつて、石鹸入しやぼんいれ手拭てぬぐひくるんで、留守居るすゐたのをつとかへりけてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
偖又雲助共は再び一所に集合あつまり己れはすねを拂はれわれは腰を打れたりと皆々疵所きずしよさすり又は手拭てぬぐひなどさいて卷くもあり是では渡世が六ヶ敷と詢言々々つぶやき/\八九人の雲助共怪我を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
男の子は女の子よりも少く、たいてい黒か白かのパンツをはき、手拭てぬぐひで頭に鉢巻はちまきをしてゐます。
プールと犬 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
「どうだらう。お前が今一緒にゐる下宿人達に私から手拭てぬぐひ煙草たばこでもやるがよくはないかの。」
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
半分はんぶんえる土間どまでは二十四五のをんな手拭てぬぐひ姉樣ねえさまかぶりにしてあがりがまちに大盥おほだらひほどをけひか何物なにものかをふるひにかけて專念せんねんてい其桶そのをけまへに七ツ八ツの小女こむすめすわりこんで見物けんぶつしてるが
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
けむりかれたら、地面ぢめんふこと、手拭てぬぐひにて鼻口はなくちおほふこと。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
と、頭を手拭てぬぐひでしばつてゐる子守がいつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
そこで嘉十かじふはちよつとにがわらひをしながら、どろのついてあなのあいた手拭てぬぐひをひろつてじぶんもまた西にしはうあるきはじめたのです。
鹿踊りのはじまり (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
おつぎのしろ手拭てぬぐひ段々だん/\むぎかくれると與吉よきちねえようとぶ。おつぎはおういと返辭へんじをする。おつぎのこゑきこえると與吉よきち凝然ぢつとしてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
清水しみづ清水しやうづ。——かつら清水しやうづ手拭てぬぐひひろた、とうたふ。山中やまなか湯女ゆな後朝きぬ/″\なまめかし。清水しやうづまできやくおくりたるもののよし。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
中から現はれたのは、お福の死骸と思ひきや、——血の附いた匕首あひくちと、ガラツ八の脇差と、便所の草履ざうりと、それから、最後に一つ、血に染んだ手拭てぬぐひが一と筋。
其上そのうへをとここのさむいのに膝小僧ひざこぞうすこして、こんちた小倉こくらおびしりした手拭てぬぐひいてははなしたこすつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
まと手拭てぬぐひにてかしらをつゝみ此處に這入はひり通夜をなし一心にをつとが災難をのがれる樣になさしめ給へと立願りふぐわん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それ/\……みるか、……あと、あまつたのをおまへげるから此薬これつておかへり。乞「はい/\。主「エーまア血が大層たいそう流れるが、手拭てぬぐひしばらなければけない。乞 ...
明けの別れに夢をのせ行く車のさびしさよ、帽子まぶかに人目をいと方様かたさまもあり、手拭てぬぐひとつてほうかふり、彼女あれが別れに名残の一撃ひとうち、いたさ身にしみて思ひ出すほど嬉しく
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)