受取うけと)” の例文
この上もなく美しい鈴子夫人と結婚式を挙げるという通知を受取うけとった頃、私はうつうつした心持で、当てもない旅を続けておりました。
「おいこれ一寸ちよつと其所そこいてれ」とわたすと、きよめうかほをして、不思議ふしぎさうにそれを受取うけとつた。御米およねおく座敷ざしき拂塵はたきけてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そして田舎ゐなかかへつてから、慇懃いんぎん礼状れいじやう受取うけとつたのであつたが、無精ぶしやう竹村たけむら返事へんじしそびれて、それりになつてしまつた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
重太郎はいさぎよくお葉を思い切ったのであろうか。彼はお葉から受取うけとった椿の枝を大事に抱えて、虎ヶ窟のかた悄々しおしお引返ひっかえした。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それにはこたえずに、藤吉とうきちから羽織はおりを、ひったくるように受取うけとった春信はるのぶあしは、はやくも敷居しきいをまたいで、縁先えんさきへおりていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
御苦労ごくらう御厚意ごかうい受取うけとつたが、おれきざんだをんなきとるぞ。貴様きさまたちに持運もちはこばれてはみちおこさう、自分じぶんでおんぶだ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「現金一万円を出せばし、さもなければどんなに警戒しても駄目だと書いてあります。今日までに五通も受取うけとりました」
海浜荘の殺人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ほのほまなこ忿怨神いかりのかみよ、案内者あんないじゃとなってくれい!……(チッバルトに對ひ)やい、チッバルト、先刻せんこく足下おぬしおれにくれた「惡漢あくたう」のいまかへす、受取うけとれ。
A 大隈侯おほくまこうまへ正月しやうぐわつ受取うけとつた年始ねんし葉書はがき無慮むりよ十八まん五千九十九まいで、毎日々々まいにち/\郵便局いうびんきよくからだいぐるまはこびこんだとふが、隨分ずゐぶんきみエライもんぢやないか。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
しかしいくら信号をしても 火星に智慧ちゑのある生物いきものがゐなければ われ々の信号を受取うけとることができない
それをくと、とりりてて、みぎあし黄金きんくさり受取うけとり、金工かざりやのすぐまえとまって、うたいました。
うへなき滿足まんぞくもつ書見しよけんふけるのである、かれ月給げつきふ受取うけとると半分はんぶん書物しよもつふのにつひやす、の六りてゐるへやの三つには、書物しよもつ古雜誌ふるざつしとでほとんどうづまつてゐる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
一寸ちょとついわたいた受取うけとった/\一つでは乳首くわえて二つでは乳首はないて三つでは親の寝間を離れて四つにはよりよりいつつでは糸をとりそめ六つでころ機織はたおりそめて——
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
此二このふたつ悲劇ひげきをわつて彼是かれこれするうち大磯おほいそくと女中ぢよちゆうが三にんばかり老人夫婦としよりふうふ出迎でむかへて、その一人ひとりまどからわたしたつゝみ大事だいじさうに受取うけとつた。其中そのなかには空虚からつぽ折箱をりも三ツはひつてるのである。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
かたまってようやくの思いをして帰ったとの事だが、こればかりは、老爺おやじが窓のところへたつて行って、受取うけとった白衣びゃくえ納経のうきょうとを、あたり見たのだから確実のだんだといって、私にはなしたのである。
千ヶ寺詣 (新字新仮名) / 北村四海(著)
米「左様なれば百目の金子お受取うけとり下さいませ」
彼女かのぢよはそこでかるれいつてかさ受取うけとつた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
みんなお前たちの手に受取うけとるのです。
ゆづり葉 (新字旧仮名) / 河井酔茗(著)
さうして御米およねかすり羽織はおり受取うけとつて、袖口そでくちほころびつくろつてゐるあひだ小六ころくなんにもせずに其所そこすわつて、御米およね手先てさき見詰みつめてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「よしよし其処そこに隠してあると言うのか、——見せて悪いものなら、眼をつぶって受取うけとろう、どうだ、これでは?」
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
洗面台から水を流して、料理部屋で、料理人コックが溝口から流れ出るのを受取うけとって逃げようと計画してあったのですね
謎の頸飾事件 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
おやとおもふと、灰色はひいろひらきいて、……裏口うらぐちですから、油紙あぶらがみなんからかつた、廊下らうかのつめに、看護婦かんごふつて、ちやう釣臺つりだい受取うけとところだつたんですつて。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
のくらゐ苟且かりそめならぬこひ紀念きねんが、其後そのゝちたゞわすられて此背負揚このしよいあげなかのこつてゐるものとは。如何どうしても受取うけとれぬ。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
このうえなき満足まんぞくもっ書見しょけんふけるのである、かれ月給げっきゅう受取うけとると半分はんぶん書物しょもつうのについやす、その六りているへやの三つには、書物しょもつ古雑誌ふるざっしとでほとんどうずまっている。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
するととりはおりてて、ひだりつめくつ受取うけとると、また家根やねんでって、うたしました。
市郎はお杉の手から燈火あかり受取うけとって、左右の隅々くまぐまてらたが、上も下も右も左もただ一面のけわしい岩石で、片隅の低い岩の上には母子おやこ寝道具ねどうぐかと思われる獣の生皮二三枚と
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
A フーン、そいつア面白おもしろはなしだね。學生がくせいとしてはすこ不穩ふおん行動かうどうかもれないが、多數たすう葉書はがき受取うけとひと心理しんり研究けんきうするには材料ざいれうだね。きみ實際じつさい葉書研究はがきけんきう專門家せんもんかだよ。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
伸一先生しんいちせんせい給料きふれうつき十八ゑんしか受取うけとりません、それで老母らうぼ妻子さいし、一にん家族かぞくやしなふてるのです。家産かさんといふは家屋敷いへやしきばかり、これを池上權藏いけがみごんざう資産しさんくらべてると百分一ひやくぶんのいちにもあたらないのです。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
從者じゅうしゃより假面めん受取うけとり、かぶらうとして
まへ門野かどのが夜中投函から手紙を一本してた。代助は暗いうちでそれを受取うけとつた儘、べつに見様ともしなかつた。門野かどの
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
為替かわせしてきらめくものをつかませて、のッつッつの苦患くげんを見せない、上花主じょうとくいのために、商売冥利みょうり随一ずいいち大切なところへ、偶然受取うけとって行ったのであろうけれども。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
吾郎は手紙を受取うけとると、ぐずくさと白堊館を出ていった。ちょうど時計が八時をうっている時だった。
幽霊屋敷の殺人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
竹村たけむらはその温順おとなしさと寛容くわんようなのに面喰めんくらはされてしまつた。彼女かのぢよやはらかで洗煉せんれんされた調子てうしから受取うけとられる感情かんじやうると、しかしかんがかたが、きはめて自然しぜんえるのであつた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
際限もなくまアまアの連発をして、その手からスーツケースを受取うけとるのでした。
彼は一枝ひとえだをお葉に渡した。お葉も黙って受取うけとった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
下人げにんより書附かきつけ受取うけとりてむ。
貴方あなた、あの屏風びやうぶつちや不可いけなくつて」と突然とつぜんいた。抱一はういつ屏風びやうぶ先達せんだつ佐伯さへきから受取うけとつたまゝもととほ書齋しよさいすみてゝあつたのである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
昨日きのふ晩方ばんがた受取うけとつてから以來いらいこれ跡方あとかたもなしにかたちすのに屈託くつたくして、昨夜ゆうべ一目ひとめねむりません。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
伊藤青年は夕食前に、仙台から帰るという博士の電報を受取うけとったので上野駅まで迎えに行って来たのである。したがって留守中にそんな事件のあった事などは知る由もない。
亡霊ホテル (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
山浦丈太郎やまうらじょうたろうは、不思議な手紙を受取うけとりました。その意味は——。
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
美禰子がこれを受取うけとるときに、又一煽ひとあほるに極つてゐる。三四郎は成るべく大きくればいと思つた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
『おねんご受取うけとろ。』とふのが、何処どこからこゑか、一本竹いつぽんだけつたなかから、ぶる/\湧出わきだす。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
受取うけとってみると、赤い紙に邦文タイプライターで、左のような文句がうってあった。
水中の怪人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
この噂を、深沢深は冷静に受取うけとりました。
三四郎がうごく東京の真中まんなかに閉ぢ込められて、一人ひとりふさぎ込んでゐるうちに、国元の母から手紙が来た。東京で受取うけとつた最初のものである。見ると色々書いてある。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
春は過ぎても、初夏はつなつの日の長い、五月中旬なかば午頃ひるごろの郵便局はかんなもの。受附にもどの口にも他に立集たちつどう人は一人もなかった。が、為替は直ぐ手取早てっとりばやくは受取うけとれなかった。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
という意味の電報を受取うけとった。
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
千代之助は、それを受取うけとると
百唇の譜 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
七輪しちりんうへ見計みはからひ、風呂敷ふろしき受取うけとつて、屋臺やたいち、大皿おほざらからぶツ/\とけむりつ、きたてのを、横目よこめにらんで、たけかはしごきをれる、と飜然ひらりかはねるうへ
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「指環を受取うけとるなら、これを受取つても、同じ事でせう。紙の指環ゆびわだと思つて御貰ひなさい」
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)