かへ)” の例文
よ、かしらなきむくろ金鎧きんがい一縮いつしゆくしてほこよこたへ、片手かたてげつゝうままたがり、砂煙すなけむりはらつてトツ/\とぢんかへる。陣中ぢんちうあにおどろかざらんや。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
言はれて内室ないしつはひつて見ると成程なるほど石は何時いつにか紫檀したんだいかへつて居たので益々ます/\畏敬ゐけいねんたかめ、うや/\しく老叟をあふぎ見ると、老叟
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
ぱん子女しぢよ境涯きやうがい如此かくのごとくにしてまれにはいたしかられることもあつてそのときのみはしをれても明日あすたちま以前いぜんかへつてその性情せいじやうまゝすゝんでかへりみぬ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「そんなに言ふのなら、かへつて阿父さんに話をして見やうけれど、何もその所為せゐで体が弱くなると云ふ訳も無かりさうなものぢやないか」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
プレトー去つて遠し、シヱーキスピーア去つて又たかへらず、ウオーヅオルスけり、カアライル逝けり、ボルテーア逝き、バイロン逝けり。
思想の聖殿 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
「恐れ入るが、田原屋殿。此まゝ立ちかへるにしても、一應の手當をいたしたい。何處かの隅なりと、お場所を拜借いたし度い」
さかええよかしでいははれてよめに来たのだ、改良竈かいりやうかまどと同じくくすぶるへきではない、苦労くらうするなら一度かへつて出直でなほさう。いかさまこれは至言しげんと考へる。
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
僕はこの一行いちぎやうの中に秋風しうふうの舟を家と頼んだ幇間ほうかんの姿を髣髴はうふつした。江戸作者の写した吉原よしはらは永久にかへつては来ないであらう。
されど己が願ひにそむきまたならはしに背きてげに世にかへれる後にも、未だかつて心の面帕かほおほひくことなかりき 一一五—一一七
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
すなはその(二二)ぼくくるま(二三)左駙馬さふば左驂ささんとをり、もつて三ぐんとなふ。使者ししやかへはうぜしめ、しかのちく。
主婦かみさん、乃公わしはこゝで一寸天文学の講釈をするがね、すべてこの世界にある物は、二千五百万年経つと、また元々もと/\通りにかへつて来る事になつてゐる。
又牢に入れてくれるなと云ふ。大阪の牢屋から生きてかへるものゝ少いのは公然の秘密だから、病体でなくても、らずにめばるまいとする筈である。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
若し自然にかへると云ふことを以て孔子が所謂身を殺して仁を為すもの也、パウロが所謂もはや吾くるに非ず、基督吾れに在りて活くる者也と云はゞ可也。
他日幕府の政權をかへせる、其事實に公の呈書ていしよもとづけり。當時幕府ばくふ既におとろへたりと雖、威權ゐけん未だ地にちず。公抗論かうろんしてまず、獨立の見ありと謂ふべし。
辛未かのとひつじ、皇太子、使をまたして飢者を視しむ。使者かへり来て曰く、飢者既にまかりぬ。ここに皇太子おほいこれを悲しみ、則ちりて以て当処そのところほふりをさめしむ。つかつきかたむ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
それから後見こうけんけてもらうて、覺束無おぼつかなげにれい入場にふぢゃう長白つらねべるのもうれしうい。先方さき如何どうおもはうとも、此方こっち此方こっちで、おも存分ぞんぶんをどりぬいてかへらう。
三三ゆゑなき所に永くらじと、三四おのが身ひとつをぬすみて国にかへみちに、此のやまひにかかりて、思ひがけずも師をわづらはしむるは、身にあまりたる御恩めぐみにこそ。
『それはかくしまひからはじめにかへるのにはうしたらいの?』とあいちやんが突飛とつぴなことをたづねました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
流浪るらうの女人を本属にかへすは法式の恒例であると、相馬小次郎は法律に通じ、思ひやりに富んで居た。衣一襲ひとかさねを与へて放ちかへらしめ、つ一首の歌を詠じた。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
あけぬれば月は空にかへりて名残なごりもとゞめぬを、すずりはいかさまになりぬらん、な/\影やまちとるらんとあはれなり。
月の夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
私はねえ、私を神樣にかへし、神樣を私にあらはしてくれる、大事な時が來るまで、時間を數へてゐればいゝの。
壁に木板の畫をてうしたる房に入り、檸檬リモネ樹の枝さし入れたる窓を見て、われはきのふの苦を忘れぬ。フラア・マルチノは我をペツポが許へはかへさじと誓ひ給へり。
「珠洲郡より発船ふなでして治布ちふかへりし時、長浜湾ながはまのうらてて、月光を仰ぎ見て作れる歌一首」という題詞と
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
手品師はきつと真面目まじめな顔にかへつて、右手に少し長い刀を取り上げた。緊張がしばらく彼の顔にみなぎる……額のあたりが少しあをざめて、眼が猛々たけ/″\しく左腕に注がれた。
手品師 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
景色の爽やかさと雑誌の小説の筋の面白さとで、思はず呑気のんきになつてゐた主人は、ふと我にかへつた。眼の下の生垣を見え隠れに、黒い帽子がスツと軽快に通り過ぎた。
姉弟と新聞配達 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
蓮見に見せないうちにかへしたが、それが近所の待合に貰はれて、今でも外で圭子の姿を見ると、けつけて来て、何か話しかけるし、今一人は月島の活版屋の子だつたが
チビの魂 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
この炎天えんてんにさらされて、くこともならず、かへりもされず、むなしく、うまはのんだくれ の何時いつだかれない眼覺めざめをまつて尻尾しつぽあぶはひとたわむれながら、かんがへました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
先生の宿志しゆくし、ここにおいてか足れり。すでにしてきやうかへり、即日、ところ瑞龍山ずゐりゆうざん先塋せんえいかたはらさうし、歴任れきにん衣冠魚帯いくわんぎよたいうづめ、すなはち封し載ちし、自ら題して、梅里先生ばいりせんせいはかふ。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
曩昔そのかみの東下りの御板輿おんいたごしを白き柩車きうしやに乗り換へて、今こそ君は浄土きよつちの西の京へとかへり玉はめ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ユニフォーミティの感覚が衰へるたびごとに、秦漢の篆隷てんれいかへらうとする運動を繰り返したのが中国書道史のたしかな一面であることを、どこかに強く説いてゐたことを記憶する。
秋艸道人の書について (新字旧仮名) / 吉野秀雄(著)
問ひくるものとては梢を傳ふ猨猴ましらなれば、すこしとゞまることなくかへるさ急ぐ恨みなる哉。
思ひ胸に迫りて、吁々あゝ太息といきに覺えず我れにかへりてかうべぐれば日はなかば西山せいざんに入りて、峰の松影色黒み、落葉おちばさそふ谷の嵐、夕ぐれ寒く身にみて、ばら/\と顏打つものは露か時雨しぐれか。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
飛ぶとしてしきり羽たたく雀の子声立ててかへる若葉の揺れに (四五頁)
文庫版『雀の卵』覚書 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
何んだか心淋しいやうな気持で注意した——インスピレーションが離れ去つて行くやうな——表面的な自己にかへつて行くやうな——何物かの世界から何物でもない世界に這入つて行くやうな——
An Incident (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
白熊の白きを見ればアムンゼンきてかへらぬむかし思ほゆ
河馬 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
わたしにかへらうとするあのかすかな声が
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
また 私にかへつてくる
我が愛する詩人の伝記 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
忙しく四方あたりの樣子を見廻して、もう一度ガラツ八の顏にかへつた瞳には、『——よく疑つた——』と言ふやうな色がチラリと見えるのでした。
漆の如きやみうちに貫一の書斎の枕時計は十時を打ちぬ。彼は午後四時より向島むこうじま八百松やおまつに新年会ありとていまかへらざるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
手桶てをけ一提ひとさげ豆腐とうふではいつものところをぐるりとまはれば屹度きつとなくなつた。かへりには豆腐とうふこはれでいくらかしろくなつたみづてゝ天秤てんびんかるくなるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
自分じぶん内職ないしよくかね嫁入衣裳よめいりいしよう調とゝのへたむすめもなく実家さとかへつてたのを何故なぜかとくと先方さきしうと内職ないしよくをさせないからとのことださうだ(二十日)
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
僕がまだ何とも答へない内に、氏の眼にはたちまち前のやうな溌剌たる光がかへつて来た。と同時に泡鳴氏はあたかも天下を憐れむが如く、悠然とかう云ひ放つた。
岩野泡鳴氏 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
彼等が自由となるに及び、この意志直ちに彼等をしてその強ひられて離れし路に再びかへらしめしなるべし、されどかく固き意志極めてまれなり 八五—八七
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
今の歐羅巴の美術は大抵沒理想派のたまものなり。沒理想派の賜をばわれ受けて、沒理想派の論をばわれ斥く。さればへきを留めてかへすを我山房のはかりごととするなり。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
「世の中に何が嬉しいといつたつて、みちで落したお鳥目てうもくが自分の手にかへつた時の気持ほどいゝものはございません。お上人様は御存じでいらつしやいますか。」
カピ長 いかにも、きてふたゝかへらぬ支度したくが。おゝ、婿むこどの、いざ婚禮こんれいまへに、死神しにがみめが貴下こなたつま寢取ねとりをった。あれ、あのやうにはなすがたいろせたわ。
此状で見ると将門が申訳まをしわけの為に京に上つた後、郷にかへつておとなしくしてゐた様子は、「兵事を忘却し、弓弦をゆるくして安居す」といふ語に明らかにあらはれてゐる。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
犧牲ぎせいにしてもおまへさまのおこゝろうかゞさききてかへねんはなし父御てゝごさまの今日けふおほ人非人にんぴにん運平うんぺいむすめ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
九三からすかしらは白くなるとも、都にはかへるべきときもあらねば、定めて九四海畔あまべおにとならんずらん。
老叟はわらつて『左樣さうはるゝならそれでもよし、イザおいとまましよう、おほきにお邪魔じやま御座ござつた』と客間きやくまを出たので雲飛うんぴよろこもんまでおくり出て、内にかへつて見るといしが無い。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)