たゝず)” の例文
取出してのみ暫時しばし其處に休み居ける中段々夜も更行ふけゆき四邊あたりしんとしける此時手拭てぬぐひに深くおもてをつゝみし男二人伊勢屋のかどたゝずみ内の樣子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
かど背戸せどきよながれのきたか二本柳ふたもとやなぎ、——青柳あをやぎ繁茂しげり——こゝにたゝずみ、あの背戸せど團扇うちはつた、姿すがたおもはれます。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
今こゝへ来てたゝずんでみると、矢張土間にはかまどの湯がたぎらしてあって、生暖なまあたゝかい空気の中に、あの忘れられない異臭が匂っているのである。
此春より來慣れたる道なればにや、思はぬ方に迷ひ來しものかなと、無情つれなかりし人に通ひたる昔忍ばれて、築垣ついがきもとに我知らずたゝずみける。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
他の一匹はおくみがこちらにたゝずんでゐるのを見ると、柵の側まで歩いて来て、頭を出してぢつとこちらを見てゐるのであつた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
襖のかげにたゝずんで、袖口で眼をふいてゐた母が、思ひ迫つたやうにみよ子に囁いた。みよ子はなぜかぞつとしてふるへた。
父の帰宅 (新字旧仮名) / 小寺菊子(著)
潮田さんは折々雪中にたゝずんでは、目を閉ぢて黙祷して居た。翁は堪へることが出来ず、真赤になつて叫んだ。
政治の破産者・田中正造 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
〽しばしたゝず上手うはてより梅見返うめみがへりの舟のうた。〽忍ぶなら/\やみは置かしやんせ、月に雲のさはりなく、辛気しんき待つよひ十六夜いざよひの、うち首尾しゆびはエーよいとのよいとの。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ば加へたり此の時少し篁村息をき河原に立やすらひて四方を眺めくえたる崕道がけみち見上みあぐるに夫婦連めをとづれ旅人たびゝと通りかゝり川へ下りんも危うし崖を越んも安からずとたゝずみ居しがやがて男はくえたる處ろへ足を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
一寸立留つて振かへつて見ると、少し隔つて若い女性がたゝずんでゐる。見覺えのある顏だな、と思つたが、其人は立つたまゝ動かない、おりて來ようともしない。何人だらう。私は二三歩後戻りした。
(旧字旧仮名) / 吉江喬松吉江孤雁(著)
ゆふぐれの中庭に、疲れた一匹の馬がたゝずむ。
詩集夏花 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
可哀あはれ車夫しやふむかつて、大川おほかはながれおとむやうに、姿すがた引締ひきしめてたゝずんだ袖崎そでさき帽子ばうしには、殊更ことさらつき宿やどるがごとえた。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
外の三人の首に対しても順々に祈りを捧げたあとで、又もう一度父の前へ来てぼんやりたゝずんでいた時であった、娘は乳母にそう云われたので
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「いゝお天気でございますね。」と言ひつゝ、おくみはそこにたゝずんで、青木さんの足もとの方の壁にかけてある、珍らしい壁かけの画を見てゐた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
何を便たよりに尋ぬべき、ともしびの光をあてに、かずもなき在家ざいけ彼方あなた此方こなた彷徨さまよひて問ひけれども、絶えて知るものなきに、愈〻心惑ひて只〻茫然と野中のなかたゝずみける。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
も見ずに迯行にげゆきしが殘りし二人は顏見合せこはい者見たしのたとへの如く何樣どんな人やらよくんと思へば何分おそろしく小一町手前てまへたゝずみしがつれの男は聲をかけいつその事田町とほりを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
るな、るな、で、わたしたちは、すぐわき四角よつかどたゝずんで、突通つきとほしにてんひたほのほなみに、人心地ひとごこちもなくつてた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「もう大抵一と通りはお調べがついたんでございますか?」と、おくみは坊ちやんと二人でしばらくそこにたゝずんだ。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
中門のあたりとおぼしい所にほと/\と戸をたゝく者があるので、開けて見ると、亡くなった筈の菅丞相がたゝずんでいた。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
つかひ盡しはや一錢もなくなりいと空腹くうふくに成しに折節をりふし餠屋もちや店先みせさきなりしがたゝずみて手の内を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
欄干らんかん横木よこぎが、みづひゞきで、ひかりれて、たもときかゝるやうに、薄黒うすぐろふたたゝずむのみ、四邊あたり人影ひとかげひとツもなかつた。
月夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それでもあえて近寄ろうとはせず、五六歩離れてたゝずんでいると、父が小声で何かぶつ/\つぶやいているのが聞えた。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あかるきよりくらきにところくらきよりあかるきにづるところいしひ、たけひ、まがきち、たゝずみ、馬蘭ばらんなかの、古井ふるゐわきに、むらさきおもかげなきはあらず。
森の紫陽花 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
しかしはなはだ笑止なことに、平中は去年以来此の忍び歩きを繰り返して、或る時はこゝぞと思う遣戸やりどの外で息をらしてみたり、勾欄こうらんのほとりにたゝずんでみたり
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
行先ゆくさきあんじられて、われにもあらずしよんぼりと、たゝずんではひりもやらぬ、なまめかしい最明寺殿さいみやうじどのを、つてせうれて、舁据かきすゑるやうに圍爐裏ゐろりまへ
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
学校の往き復りには、よく清元の師匠の家の窓下にたゝずんで、うっとりと聞き惚れて居ました。
幇間 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
たゝずめば、あたゝかみづいだかれた心地こゝちがして、も、水草みづくさもとろ/\とゆめとろけさうにすそなびく。おゝ、澤山たくさん金魚藻きんぎよもだ。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
隙さえあれば、彼はこっそり瑠璃光丸の目を盗んで、大講堂の内陣にたゝずみながら、観世音や弥勒みろく菩薩の艷冶えんやな尊容に、夢見るような瞳を凝らしつゝ、茫然と物思いに耽って居た。
二人の稚児 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
碧潭へきたん一脈いちみやくらんきて、ゆかしきうすものかげむとおぼえしは、とし庄屋しやうやもりでて、背後うしろなる岨道そばみちとほひとの、ふとたゝずみて見越みこしたんなる。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その時衣ずれのおとが急に止んだので、夫人が人声のきこえて来る黒漆塗くろうるしぬりのわくの縁にたゝずみつゝ静かに耳を傾けている様子が推量された。河内介はふところから図書ずしょの密書を取り出して
予はほとんぜつせむとせり、そも何者の見えしとするぞ、雪もて築ける裸体らたい婦人をんな、あるがごとく無きが如きともしびの蔭に朦朧もうろうと乳房のあたりほの見えて描ける如くたゝずめり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
こう思って私は瓢箪形をした池のみぎわの芝生にたゝずんでひろい/\庭の中を見廻した。
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
みねながめて、やまたゝずんだときもあり、きしづたひに川船かはぶねつて船頭せんどうもなしにながれてくのをたり、そろつて、すつとけて、二人ふたりとこはしらからこともある。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
何方いづかたトモナク迷ヒ行ケリ、(中略)其外治部少輔ぢぶせういうガ息女ドモ多カリシガ、天下免許ヲ蒙リテ都ノ傍ニたゝずミケレドモ、人ノ情ハ世ニ有ル程昨日ニカハル習ナレバ、洛中ニすみカネテ西山辺ニ身ヲのが
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
三社樣さんじやさま御神輿おみこしが、芳原よしはらわたつたときであつた。なかちやうで、ある引手茶屋ひきてぢやや女房にようばうの、ひさしくわづらつてたのが、まつり景氣けいきやつきて、ほのかうれしさうに、しかし悄乎しよんぼり店先みせさきたゝずんだ。
祭のこと (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
楕圓形だゑんけいは、羽状複葉うじやうふくえふふのが眞蒼まつさをうへから可愛かはいはなをはら/\とつゝんで、さぎみどりなすみのかついで、たゝずみつゝ、さつひらいて、雙方さうはうからつばさかはした、比翼連理ひよくれんり風情ふぜいがある。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
夫人ふじん居室ゐまあたる、あまくしてつやつぽく、いろい、からきりはないたまどしたに、一人ひとりかげあたゝかくたゝずんだ、少年せうねん書生しよせい姿すがたがある。ひと形容けいようにしてれいなり、といてある。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
其時そのときうらやまむかふのみね左右さいう前後ぜんごにすく/\とあるのが、一ツ一ツくちばしけ、かしらもたげて、の一らく別天地べツてんち親仁おやぢ下手したでひかへ、うまめんしてたゝずんだ月下げツか美女びぢよ姿すがた差覗さしのぞくがごと
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
第一だいいちいたいとの、玩弄具おもちやとりが、たゝずんだものを、むかうへ通拔とほりぬけるすうはない。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
店頭みせさきへ、うや/\しくたゝずんで、四邊あたりながら、せまつたこゑ
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
すら/\と末廣すゑひろがりにほそたゝずゆふべけむりなかである。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わたし欄干らんかんたゝずんで、かへりを行違ゆきちがはせて見送みおくつた。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いは彼方かなたあだかつくえむかつてさましてたゝずんだ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しばしたゝずむ。
城の石垣 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)