ぐら)” の例文
ただ、ここがこんなに、うすぐらいさびしいところでなければいいとおもうな。——なにしろ、野うさぎ一ぴき、はねてこないのだもの。
そして、しばらくそこに良吉りょうきちはいますと、やがてがうすぐらくなります。するとかれ名残惜なごりおしそうにかえってゆくのでありました。
星の世界から (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのほのぐら長屋門ながやもんをくぐって、見知みしらぬ男がふたりいそいそとはいってくる。羽織はおりはもめんらしいが縞地しまじ無地むじかもわからぬ。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ひぐらしいたとともに、れてしまつた、と自分じぶんがふっとさうかんがへたのは、やまのかげが、いへほうへさしてて、うすぐらくなつたためだつたのだ。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
彼は物好ものずきにもみずから進んでこのうしぐらい奇人に握手を求めた結果として、もう少しでとんだ迷惑をこうむるところであった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ぼくはうすぐらくなった店の中をわがものがおで歩きまわって、下着したぎやくつ下などの売場うりばから、ふかふかしてあたたかそうな下着やくつ下をとりだして身につけた
そとのぞくと、うすぐらいプラットフォオムにも、今日けふめづらしく見送みおくりの人影ひとかげさへあとつて、ただをりれられた小犬こいぬが一ぴき時時ときどきかなしさうに、ててゐた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
神保大吉じんぼうだいきちは、あたりのほのぐらさに、それを独楽こまともなんともさとらずに、力まかせに手もとへひく! と一方の独楽のひもも、負けずおとらず剛力ごうりきをかけて引ッ張った。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
森の木はかさなり合ってうすぐらいのでしたが、そのほかにどうも空までくらくなるらしいのでした。
こと巴里パリイで名高い古い街の一つに数へられて居るだけ昔のすゝびた建物が多いので一層どすぐらく、その酒場キヤバレエまで登つてく間の曲りくねつた石畳の坂みちの不気味さと云つたらない。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
制動室というのはブレーキがあるからそういうので、車掌室のことだ。自分はそこのかたいこしかけへ腰をおろすと、うすぐらいシグナル・ランプをたよりに、かたい鉛筆えんぴつをなめなめ、日記にっきをつけた。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
そのくらゐですからえだもおそろしくしげりひろがつてゐてあさ杵島岳きしまだけかくし、夕方ゆふがた阿蘇山あそさんおほつて、あたりはひるも、ほのぐらく、九州きゆうしゆう半分程はんぶんほど日蔭ひかげとなり、百姓ひやくしようこまいてゐたといひますが
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
「なにか、よくよくうしろぐらいことがあるのね」
キャラコさん:03 蘆と木笛 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ランプのはうすぐらく、うちなからしました。まだ、けなかったのです。しかし、真夜中まよなかぎていたことだけは、たしかでした。
大きなかに (新字新仮名) / 小川未明(著)
シギもいつしかせんだんをって、庭先にわさきくりの木、かきの木に音のするほど雨もりだした。にわかにうすぐらくなって、日もれそうである。めがねをはずしてつくえを立った老人ろうじん
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ほのぐら宵闇よいやみのそこから、躑躅つつじさきほりの流れは、だんだん透明とうめいぎだされてきた。ひとみをこらしてのぞきこむと、にねむるうおのかげも、そこ砂地すなじへうつってみえるかと思う。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふるびた時計とけいが四時をうった。あたりはいつのまにか、うすぐらくなっていた。
いえうちにはうすぐら燈火とうかがついて、しんとしていました。まだねむ時分じぶんでもないのにはなごえもしなければ、わらごえもしなかったのであります。
いいおじいさんの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
窓のカーテンはすっかりおろされ、部屋の中はうすぐらかった。
気がついてみると、いつか手元がほのぐらい夕ぐれ。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのあとで、あには、物置ものお小舎ごやにゆきました。そして、まったくわすれていた、むかし地面じめんにたたきつけたくわを、うすぐらなかからしました。
くわの怒った話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いってみると、いえなかのうすぐらい、喫茶店きっさてんでありました。こわれた道具どうぐや、不用ふようのがらくたをってくれというのでした。
おじいさんが捨てたら (新字新仮名) / 小川未明(著)
にんは、うすぐらい、建物たてものかべにそってあるいていました。そこの電信柱でんしんばしらしたにも、なが機械きかいのねているように、おおきな鉄管てっかんころがっていたのです。
石段に鉄管 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「お世話せわになりました。」と、おんなは、れいをいって、子供こどもき、かぜなかをうすぐらくなりかけたみちえていきました。
とうげの茶屋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
と、くまはいいました。くまの力強ちからづよ言葉ことばに、ちいさなにわとりはまったくたれてしまいました。そして、ついに、うすぐら貨車かしゃなかがりました。
汽車の中のくまと鶏 (新字新仮名) / 小川未明(著)
今日こんにちは。」と、金持かねもちは、おとこのところをたずねました。かつて、金持かねもちが、このおとこせまい、うすぐらいえたずねるようなことは、ありませんでした。
天下一品 (新字新仮名) / 小川未明(著)
にんは、このなつ真昼間まひるま不思議ふしぎゆめつづけて、のうすぐらくなるまで、野原のはらなかけまわっていたのでした。
草原の夢 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのとしれ、大雪おおゆきってさむばんに、からすは一つのうまやつけて、その戸口とぐちにきて、うすぐらうちをうかがい、一宿やどもとめようとはいりました。
馬を殺したからす (新字新仮名) / 小川未明(著)
けるように、あかくいろどられていたは、きゅうすずしく、うすぐらくかげったのでした。その時分じぶんからかみなりおとは、だんだんおおきくちかづいてきたのでした。
負傷した線路と月 (新字新仮名) / 小川未明(著)
バナナは、いま、うすぐらいところをとおったが、あすこは、はしのかかっているしたであったのかとおもいかえしました。
河水の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
きゅうに、さわさわというおとがして、燈火ともしびひかりがうすぐらくなったとおもって、っている電燈でんとうほうると、いく百、いく千となくがけておそったのです。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いえうちに、ランプのは、うすぐらくともっていました。そして、おじいさんが、つちでわらをたたおとが、さびしいあたりに、おりおりひびいたのであります。
こまどりと酒 (新字新仮名) / 小川未明(著)
太陽たいようのまだがらない、うすぐらいうちから、そしてほしひかりえる時分じぶんそらを、いていったこともあります。
一本のかきの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
まだ、むらまでは、二あまりもありました。あさくるときには、小鳥ことりのさえずっていたはやしも、ゆきがかかって、おともなく、うすぐらがりのなかにしんとしていました。
雪の上のおじいさん (新字新仮名) / 小川未明(著)
うすぐらい、かたすみのところに、みすぼらしいとしとったおばあさんが、かたちんばのふるげたをよりわけて、あれか、これかと、くみあわせてみているのでした。
緑色の時計 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そらいろは、よるともつかず、またひるともつかずに、うすぐらくぼんやりとしていました。ただ、ためいきのように、かぜいて、しのあしにどこへかいくのでありました。
消えた美しい不思議なにじ (新字新仮名) / 小川未明(著)
ほとんど、いくねんあいだ、そのいしは、故郷こきょうのうすぐらい、いえとこに、ほこりをびてかれていました。
山へ帰りゆく父 (新字新仮名) / 小川未明(著)
おとこは、うすぐらくなった光線こうせんのうえで、はこうえにのせてあったぜにげて、しらべてました。
火を点ず (新字新仮名) / 小川未明(著)
はずかしそうにしてす、おたけを、てのひらから、つまさきまで、若者わかものは、うすぐら提燈ちょうちんらしながら、虫眼鏡むしめがねでこまかにながめていたが、やがて、かおげると
だまされた娘とちょうの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あさ、まだうすぐらいうちから、にわさきの木立こだちへ、いろいろの小鳥ことりんできてさえずりました。
すずめを打つ (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのうちにふえがひびいて、ゴト、ゴト、とって、汽車きしゃうごきはじめました。しばらくするとくまは、このときまで、まだ、うすぐらかたすみにじっとしているにわとりほういて
汽車の中のくまと鶏 (新字新仮名) / 小川未明(著)
翌朝よくあさでした。まだうすぐらいうちから、屋根やねですずめがチュン、チュン、いていました。
すずめの巣 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのことが、あたまにあるとみえて、いまおおきないぬいかけられたゆめてしくしくといていました。無邪気むじゃきなほおのうえなみだながれて、うすぐら燈火ともしびひかりが、それをらしています。
ある夜の星たちの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
鉛色なまりいろをした、ふゆあさでした。往来おうらいには、まだあまり人通ひとどおりがなかったのです。ひろみち中央ちゅうおう電車でんしゃだけが、うしおしよせるようなうなりごえをたて、うすぐらいうちから往復おうふくしていました。
波荒くとも (新字新仮名) / 小川未明(著)
小太郎こたろうは、父親ちちおやはどうしたのだろうとおもって、酒屋さかやぐちって、うすぐらうちをのぞきました。しかしそこには、父親ちちおやのいるけはいもなければ、またひとはなごえもしませんでした。
けしの圃 (新字新仮名) / 小川未明(著)
神社じんじゃ境内けいだいにあった、いちょうのは、黄色きいろく、ひらひらと、すでにうすぐらくなったうえまれるようにっていました。少年しょうねんは、いつまでもいていたが、きゅうになきやんだ。
火を点ず (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのばんは、あめになりました。むすめは、うすぐらいえのうちで、あかぼうりをしながら、先刻さっきまえとおったやさしい少女しょうじょは、いまごろどうしたろうとおもって、そのうえあんじていたのです。
海からきた使い (新字新仮名) / 小川未明(著)
「つい、二、三日前にちまえのことで、まだうすぐらくなったばかりのころだそうだ。」
とうげの茶屋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
正吉しょうきちは、一人ひとりおんなが、さびしそうに往来おうらいつめてすわっているのをました。そして、提燈ちょうちんのうすぐら火影ほかげで、そのかおますと、こいしいおかあさんに、まったくよくているのでありました。
幸福のはさみ (新字新仮名) / 小川未明(著)
西にしやまのふもとのもりなかに、からすがつくっていました。そして、毎日まいにちあさはまだ、そらけきらないうすぐらいうちから、みんなのからすはれつをなして、ひがしそらしてたかんでゆきました。
翼の破れたからす (新字新仮名) / 小川未明(著)