たい)” の例文
旧字:
なつになると、しろくも屋根やねうえながれました。おんなは、ときどき、それらのうつりかわる自然しぜんたいして、ぼんやりながめましたが
ちょうと三つの石 (新字新仮名) / 小川未明(著)
と言って、それから特に小さい者だけが来るようにと東のたいのほうへ童女を呼びにやった。しばらくして愛らしい姿の子が四人来た。
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
印南は嘗て蘭軒に猪牙ちよき舟のたいを求められて、たゞちに蛇目傘と答へたと蘭軒雑記に見えてゐるから、必ずや詩をも善くしたことであらう。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
しかし段々だんだん落着おちつくにしたがって、さすがにミハイル、アウエリヤヌイチにたいしてはどくで、さだめし恥入はじいっていることだろうとおもえば。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
さうとまりが知れて見ると急ぐにも当らんから、どうだね、一ゲエム。君はこの頃風早とたいに成つたさうだが、長足の進歩ぢやないか。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
花前は主人にたいしても、ただれいのごとくちょっと頭をさげたばかりである。かえって主人のほうからしたしくことばをかけた。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
そうほうのなか板挟いたばさみとなって、ややしばらく、うでをくんでしまったが、やがて、大久保おおくぼがたの者と忍剣にんけんたちの両方りょうほうたいして
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
越後の西北は大洋おほうみたいして高山かうざんなし。東南は連山れんざん巍々ぎゝとして越中上信奥羽の五か国にまたがり、重岳ちようがく高嶺かうれいかたならべて十里をなすゆゑ大小のけものはなはだおほし。
現世的げんせてき執着しゅうじゃくなかで、わたくしにとりて、なによりもるのにほねれましたのは、まえもうすとおり矢張やはり、けた両親りょうしんたいする恩愛おんあいでございました。
こらへよ、暫時しばし製作せいさくほねけづり、そゝいで、…苦痛くつうつくなはう、とじやうぬまたいして、瞑目めいもくし、振返ふりかへつて、天守てんしゆそらたか両手りやうてかざしてちかつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ソログーブはおさなときからはは奉公先ほうこうさきやしきで、音楽おんがく演劇えんげきなどにしたしむ機会きかいち、読書どくしょたいするふか趣味しゅみやしなわれた。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
てられる立禁たちきんふだ馘首かくしゆたいする大衆抗議たいしうこうぎ全市ぜんしゆるがすゼネストのさけび。雪崩なだれをはん×(15)のデモ。
かの女の子の五つばかりなる、本院の西のたいに遊びありきけるを呼び寄せて、母に見せ奉れとてかひなに書きつけ侍りける。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「ええ、平らです、けれどもここの平らかさはけわしさにたいする平らさです。ほんとうの平らさではありません。」
マグノリアの木 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
西にしたいあたりから、それにまじって、つい今しがた少女の習い出したらしい琴の幼い調べが途絶えがちに聴えて来る。
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
六の宮へ行つて見ると、昔あつた四足よつあしの門も、檜皮葺ひはだぶきの寝殿やたいも、ことごとく今はなくなつてゐた。その中に唯残つてゐるのは、崩れ残りの築土ついぢだけだつた。
六の宮の姫君 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
はなし段々だん/\すゝんだ。わたし詰問きつもんたいして、つまは一ととほり弁解べんかいをしてから、それこひふほどではなかつたと説明せつめいする。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
我等われら今度こんど下向候処げこうそろところ其方そのほうたい不束之筋有之ふつつかのすじこれあり馬附之荷物積所うまつけのにもつつみしょ出来申候しゅったいもうしそろつき逸々はやばや談志之旨だんしのむね尤之次第もっとものしだいおおきに及迷惑申候めいわくをおよぼしもうしそろよっ御本陣衆ごほんじんしゅうもって詫入わびいり酒代さかて差出申候さしだしもうしそろ仍而件如よってくだんのごとし
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
何れも平紋ひょうもん狩衣かりぎぬに帯剣、お経の施物、御剣ぎょけん御衣ぎょいを捧げ持ち、次々に東のたいより南庭を渡り、西の中門へ静かに出て行くさまは、まことに壮厳で美しかった。
寂寞じやくまく罌粟花けしを散らすやしきりなり。人の記念にたいしては、永劫にあたひすると否とを問ふ事なし」といふ句がいた。先生は安心して柔術の学士と談話をつゞける。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
要吉は、そんなことを思いだすと、みすみすすてるもんだとは思いながらも、貧乏びんぼうなおばあさんや子どもにたいしても、みかんひとつまけてやることができませんでした。
水菓子屋の要吉 (新字新仮名) / 木内高音(著)
そして小父おじのゴットフリートにたいして、しみじみと愛情あいじょうおぼえた。もう今は、すべての人のうちで、ゴットフリートがいちばんよく、いちばんかしこく、いちばん立派りっぱに思われた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
義一を外へ呼出そうか、みんなのいないところで、義一とたいでやってみようかとも思った。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
多分はオカタに大をかぶせたもので、田舎武士が郷里から携えてきた語だとしても、京都語の北のかたや東のたいなどと別のものでなく、起こりは御前の「前」も同然の「御方おかた」で
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
平凡な読みては、自分とその対象をたいにしておいたままで、ちょいちょい本へ出入りして、わずかのものを運び出して来て自分の袋へつめこんで自分は元のところにいるのね。
筒井はあかくなってうつ向いた。梅のこずえにきょうの夕陽はひとしきり華やいで間もなく、日ぐれがいきなりやって来て暗くなるのであろう、西、東のたいにはや灯火ともしびがともれはじめた。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
それは、さっきのとりらなければ、どこへんでったのかもりませんでしたけれど、うまれてからいままでにったどのとりたいしてもかんじたことのない気持きもちかんじさせられたのでした。
長官はおどろいて家の中を捜索そうさくした。すると、例の血痕けっこんが北のたいはな座敷ざしき)の車宿(車を入れておく建物)にこぼれているのが分った。北の対と云えば、官邸に使われている女中達の宿である。
女強盗 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
一人前にたいしてかくのごとき標準をもうけたのは何より起こったのであるか。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
にわ金魚鉢きんぎょばちに、なにかかくしているとがついてからは、近所きんじょからもつまはじきされている老人ろうじんたいし、ことさら親切しんせつにしてやつて、そのかくしているものがなにかということをるのにつとめたのでした。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
君不酔作麼生 君とたいしてわずんば作麼生いかんせん〕
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
帆村探偵ほむらたんていたいウルフ
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
はじめの二、三にちは、そのおんなたいして、べつにしたしくしたものもなかったが、また、悪口わるくちをいうようなものもありませんでした。
青いボタン (新字新仮名) / 小川未明(著)
それは自分じぶんが二十年以上ねんいじょう勤務つとめをしていたのに、それにたいして養老金ようろうきんも、一時金じきんもくれぬことで、かれはそれをおもうと残念ざんねんであった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
久子は、いちど良人を寝所へ送ってから、いつものように子供らが枕をならべているたいのわが寝間へひきとっていた。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お昼から西のたい——寝殿しんでんの左右にある対の屋の一つ——のお嬢様が来ていらっしって碁を打っていらっしゃるのです」
源氏物語:03 空蝉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
淫慾いんよく財慾ざいよくよくはいづれも身をほろぼすの香餌うまきゑさ也。至善よき人は路に千金をいへ美人びじんたいすれどもこゝろみだりうごかざるは、とゞまることをりてさだまる事あるゆゑ也。
見舞みまひはお見合みあはせくだされたく、差繰さしくつてまをすやうながら、唯今たゞいまにもおくださること当人たうにんよくぞんじ、とく貴兄きけいたいしては……とおもむきであつた。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
人間にんげんなにがつらいともうしても、おやとが順序じゅんじょをかえてぬるほど、つらいことはないようにおもわれます。無論むろんわたくしには良人おっとたいする執着しゅうじゃくもございました。
姫君は寂しい屋形のたいに、やはり昔と少しも変らず、琴を引いたり歌をんだり、単調な遊びを繰返してゐた。
六の宮の姫君 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その自分にたいして、去年きょねんうたときには、某牛舎ぼうぎゅうしゃておって、うん安藤あんどうかといったきり、おきもしなかった。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
わか女性ぢよせいたいして、じゆん感情かんじやうももつてゐたから、誘惑いうわくふのはあたらないかもれなかつたけれど、色々いろ/\条件でうけんと、同棲生活どうせいせいくわつ結果けつくわからると、かれ本能ほんのう
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
なかば傾いた西にしたいの端に、わずかに雨露をしのぎながら、女はそれでもじっと何物かを待ち続けていた。
曠野 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
それは少年少女おわりごろから、アドレッセンス中葉ちゅうようたいする一つの文学としての形式けいしきをとっている。
是はあによめの質問と同様であるが、代助は梅子うめこたいする様に、たゞ苦笑くしやうばかりしてはゐられなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
這麼こんなふう中坂なかさかしやまうけてからは、石橋いしばしわたしとが一切いつさい処理しよりして、山田やまだ毎号まいごう一篇いつぺんの小説を書くばかりで、前のやうに社にたいしてみつなる関係くわんけいを持たなかつた、とふのが
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そうって子家鴨こあひるまわりにあつまってました。子家鴨こあひるはみんなにあたまげ、出来できるだけうやうやしい様子ようすをしてみせましたが、そうたずねられたことたいしては返答へんとう出来できませんでした。野鴨達のがもたちかれむかって
かたつたし、メッキ工場こうじょう中内技師なかうちぎしは、自宅じたくでそのつまたい
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
ただ陛下へいかたいたてまつる至誠にめんじてお許しを願う
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
西のたいで二人はしずかに別れた。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)