ぐち)” の例文
だれが、そのあいだにやってきてもあわないつもりで、ぐちかためた。そして、まめふくろからして、熱心ねっしんかぞえはじめました。
幸福の鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
さいわいに、くまのつめにはかからなかったが、たった一つののがれ道であるまどぐちを、くまのために占領せんりょうされてしまったのである。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
博士は国文学者には珍しい気焔家だけに、布哇ハワイやカリフオルニヤでは日本人を集めて、国語教育について随分にくまれぐちを利いたものだ。
尤も其間そのあひだに梅子は電話ぐちへ二返呼ばれた。然し、あによめの様子に別段変つたところもないので、代助は此方こつちから進んで何にも聞かなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
などと揶揄からかったりしていたが、やがて、その人々のぐちも、裏垣根の門から駈け込んで来た一人の男のことばに、冗談口をふさがれて
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其樣そんなものに鼻毛はなげよまれてはてあとあしのすな御用心ごようじんさりとてはお笑止しようしやなどヽくまれぐちいひちらせどしんところねたねたしのつも
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
これは空気抜けの穴でもあったし、また室内を水で洗浄するとき、その水のぐちでもあった。この穴に手首を入れてみると、楽に入った。
鍵から抜け出した女 (新字新仮名) / 海野十三(著)
するうち、牛若うしわか毎晩まいばんおそく僧正そうじょうたにへ行って、あやしいものから剣術けんじゅつをおそわっているということを和尚おしょうさんにぐちしたものがありました。
牛若と弁慶 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
らつしやいまし。」とわか女中ぢよちゆうあがぐちいたひざをつき、してあるスリツパをそろへ、「どうぞ、お二かいへ。突当つきあたりがいてゐます。」
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
うんよく、そこに立っていたこなひきの小僧こぞうがそれを見つけて、とびぐちでもってひきよせました。小僧こぞうは、すばらしいたからものを見つけたと思いました。
裾通りに狭い細谷ほそたにをへだてたむこうの松林の中にあり、橋本左京というのが出丸の大将で、千人ばかりで守り、鍋島信濃の軍勢がぐちをとっていた。
ひどい煙 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「私たちは、そんなのんきな身分ではありません。これから江戸へ出て、つとめぐちを捜さなければいけません。」
清貧譚 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
有楽町駅の這入はいぐちにも小さい店のおでんやがある。そこにも又二、三人の人が暖かそうにおでんを食べている。
丸の内 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
おちよぼぐちにお鐵漿かねくろをんなは、玄竹げんちく脇差わきざしをて、かうひながら、あかたすきがけのまゝで、しろした。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
盗人ぬすびとたちは、きたからかわ沿ってやってました。はなのきむらぐちのあたりは、すかんぽやうまごやしのえたみどり野原のはらで、子供こどもうしあそんでおりました。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
もう、そろそろみせをしまう時間じかんなので、ぐちの白いのれんをとりはずしているところへ、めずらしく、おさけをのんでいるらしいよしむらさんがはいってきた。
ラクダイ横町 (新字新仮名) / 岡本良雄(著)
父さまがはえぐち駄荷だにい置いて気の利かねえ馬方むまかただって、突転つッころばして打転ぶっころばされたが、中々強い人で、話いしたところが父さまの気に入らねえば駄目だよ、アハー
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
くるまは、きふ石磈路いしころみちに、がた/\とおとててやますそ曳込ひきこんだが、ものの半町はんちやうもなしに、あがぐちの、草深くさぶかけはしさかるのであるから、だまつてても其處そこまつた。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いまかりにその根元ねもとからつたぐちたゝみいてみるとしますと六十九疊ろくじゆうくじようけますから、けっきよく、八疊はちじよう座敷ざしきやつつと、五疊ごじよう部屋へやひとつとれる勘定かんじようになります。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
だが、困ったことに家の構造が、角の土蔵なので、煙のはけばに弱らされていた。住居にしている二階のあがぐちへまっすぐに煙筒えんとつをつけて、窓から外へ出すようにしてあった。
旧聞日本橋:02 町の構成 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
余りあがぐちに近いので、自分の敷いていた座布団だけはまだ人に占領せられずにあったのである。そこで据わろうと思うと半分ばかり飲みさしてあった茶碗をひっくり返した。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
色の生白なまちろいタヴァイニング氏の事をぐち(それともいぢめたと云つてもいゝわ)したことがありましたつけ——ほら、何時も、私たちが、憂鬱な人と呼んでゐた、あの人さ。
すると梯子のあがぐちには、もう眼の悪い浅川の叔母おばが、前屈まえかがみの上半身を現わしていた。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
水手かこの勝が威勢よく返事をしました。お松は伝馬に乗って岸へ行くためにかよぐちから出直して、伝馬に乗るべく元船もとふねを下りて行きました。その後で船頭、親仁おやじ水手かこ舵手かじとりらが
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
つまりは一種の内通であって、猿の生肝話いきぎもばなしぐちなどともこの点だけは似ている。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
彼女は原っぱのさかいの木戸を押しける。そして、ぐちをしたエルネスチイヌを従えて、はいって来た。生籬いけがきのそばを通る時、彼女はいばらの枝をへし折り、とげだけ残して葉をもぎ取った。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
このいししつは、圓塚まるづかではたいていそのまへほうみなみいたものがおほいのですが)にくちひらいてをり、前方後圓ぜんぽうこうえんつかでは、うしろほうまるをかよこぐちひらいてゐるのが普通ふつうであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
「僕は、君、にくまれぐちを利くのもいやだと思うから、黙って見ていたがネ」と宗蔵は病身らしい不安な眼付をして、「この調子で進んで行ったら、小泉の家は今にどうなるだろうと思うよ」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
菓子くわしなんぞまたつちやへねえぞ、うむ、そつちのはう酒樽さかだるとこにもつてゝぐちでもつこかねえでもらあべえぞ、みんな」と痘痕あばたぢいさんはひと乘地のりぢつていふのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
すっかり鉄格子てつごうしがはめてあったし、壁一重ひとえ向うのぐちには女中がいるのだし、窓の外は少しの空地を隔てて、高い塀が厳重に建てめぐらしてあったので、殆ど不安を感じることはないのだ。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ぐちさん。シッカリおやんなさいよ。名優の菱田新太郎君が昨日きのうからたった一人であの一番うしろの席に来ておられるのですよ、新太郎君は女嫌いと西洋音楽嫌いで有名な人なんですからね。
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と左膳が虹のような酒気を吐いたとき、おさよの声が土間ぐちをのぞいた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
好いまうぐちがあるからと言つて、飛びこんで来た知り合ひの大工は、外神田の電車通りに、羅紗らしやや子供服やボタンなどの、幾つかの問屋にするのに適当な建築を請負つて、その材料を分の好い条件で
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
その時、高天の大御祖のお示しで、中臣のおやおしくもね、天の水のぐちを、此二上山にところまで見届けて、其後久しく 日のみ子さまのおめしの湯水は、中臣自身此山へ汲みに参りました。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
「これこれ、おやじ、慶応義塾けいおうぎじゅくはここか。そうしてぐちはどこか。」
このひらぐち人畜じんちくおちいつてえなくなつたことがしるされてある。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
河野はその晩たにぐち持宿もちやどをした。
神仙河野久 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
少年しょうねんは、マントのしたかたからかけた、新聞しんぶんたばから、一まいくと、もんけてぐちへまわらずに、たけ垣根かきねほうちかづきました。
生きぬく力 (新字新仮名) / 小川未明(著)
平常つね美登利みどりならば信如しんによ難義なんぎていゆびさして、あれ/\意久地いくぢなしとわらふてわらふてわらいて、ひたいまゝのにくまれぐち
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
決して、ただしざまに申したり、ぐちもてあそんだ次第ではありませぬ。どうぞ、烏滸おこがましい女の取越し苦労と、お聞き流し下さいませ
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あにいへの門を這入ると、客間きやくまでピアノのおとがした。代助は一寸ちよつと砂利のうへに立ちどまつたが、すぐ左へ切れて勝手ぐちの方へ廻つた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
爆弾は、爆弾庫ぐちから水兵の手によって甲板に運ばれ、ひとまず飛行機エレベーター脇の甲板の隅に積みかさねられた。
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そしてその子を、みものをつがせにここへよこす。そうすると、きっとあの十字じゅうじのとびぐちがその子の頭の上におちてきて、その子をころしてしまうわ。
そうなるといよいよはちかつぎひめをじゃまにして、ひめがああしました、こうしましたといっては、ありもしないことを、おとうさんにぐちばかりしていました。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
おっかねえ、からもう憎まれぐちを利くから村の者はたれわっしをかまって呉れません、ヘエ、御免なすって、えゝ此の間一寸ちょっとねえさんを見ましたが、えゝあれはあのお妹御様いもうとごさま
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
きつと私のした惡事をすつかりぐちしてゐるのに違ひないと思つたので、今にもあの黒目がちの眼球が、いとはしげな、さげすんだ眼付を私に向けるだらうと心待ちにしながら
純一は真っ黒な、狭い梯子はしごを踏んで、二階に上ぼった。のぼぐち手摩てすりがめぐらしてある。二階は縁側のない、十五六畳敷の広間である。締め切ってある雨戸のほかには、建具が無い。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
あがぐち電信でんしんはしらたてに、かたくねつて、洋傘かうもりはしらすがつて、うなじをしなやかに、やはらかなたぼおとして、……おび模樣もやうさつく……羽織はおりこしたわめながら、せはしさうに、ぢつのぞいたが
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いまもその洞穴ほらあないりぐちつてゐる碑文ひぶんにそのことがしるされてあります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
かへつたくちびるのやうにふくれたにくほこりまみれてくろへんじてた。棺臺くわんだいかしてひとこれうかゞへば恐怖おそれいだいてすこしづゝのたくるのであつた。女房にようばうたのだといつて村落むらものらずぐちたゝいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)