)” の例文
あはれ新婚しんこんしきげて、一年ひとゝせふすまあたゝかならず、戰地せんちむかつて出立いでたつたをりには、しのんでかなかつたのも、嬉涙うれしなみだれたのであつた。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
こんなきんぼうでも、おばあさんだけは、るほど、かわいいとみえて、きんぼうのあとから、どこへでもついてあるきました。
泣きんぼうの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
女の子は、まい日、おかあさんのおはかのところへいっては、いてばかりいました。でも、神さまをしんじて、すなおな心でいました。
そのわすがたあぢかされて、ことくが——たび思出おもひだしては、歸途かへりがけに、つい、かされる。——いつもかへとき日暮ひぐれになる。
なみだを目に一ぱいにしたかとみるまに、いてたわが子を邪険じゃけんにかきのけて、おいおい声を立ててきだすようなことがあるのである。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
おみちは子供こどものようにうなずいた。嘉吉はまだくしゃくしゃいておどけたような顔をしたおみちをいてこっそり耳へささやいた。
十六日 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
一羽のからすが、彼と母とのすすく声に交えて花園の上でき始めた。すると、彼の妻は、親しげな愛撫の微笑を洩らしながらつぶやいた。
花園の思想 (新字新仮名) / 横光利一(著)
公爵夫人こうしやくふじんそのだいせつうたも、えず赤子あかごひどゆすげたりゆすおろしたりしたものですから、可哀相かあいさうちひさなのがさけぶので
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
さうして愛情あいじやう結果けつくわが、ひんのためにくづされて、ながうちとらへること出來できなくなつたのを殘念ざんねんがつた。御米およねはひたすらいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
なぜかおッさんは、つらです、そして私をしかるように「窪田さん、そんなものをごらんになるならあっちへ持っていらっしゃい」
あの時分 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そのうち牛若うしわかはだんだんものがわかってました。おとうさんが平家へいけのためにほろぼされたことを人からいて、くやしがってきました。
牛若と弁慶 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
此上このうへにおたのみは萬々ばん/″\見送みおくりなどしてくださるな、さらでだにおとこ朋友ともだち手前てまへもあるになにかをかしくられてもおたがひつまらず
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
シューラはおいおいいた。あたりのものがばらいろもやつつまれて、ふわふわうごした。ものくるおしい屈辱感くつじょくかんに気がとおくなったのだ。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
クリストフはくちびるをかみしめた。あごがふるえていた。かれきたかった。ゴットフリートは自分でもまごついてるようにいいはった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
わたしは庭にいた二人の子どもをびに行った。帰ってみると、小さいリーズはすすりきをしてお父さんの両手にだかれていた。
うっかりしたら、お守役もりやくわたくしまでが、あの昂奮こうふんうずなかまれて、いたずらにいたり、うらんだりすることになったかもれませぬ。
浮浪者ふろうしゃのトーマスは、いまにもきだしそうだった。目にみえて元気をうしない、あきらめきったようすで、とぼとぼと歩きつづけた。
「よきはどうしたんだ」おつぎはきしあがつてどろだらけのあしくさうへひざついた。與吉よきち笑交わらひまじりにいて兩手りやうてしてかれようとする。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ヂュリ おゝ、はやめて、そしてしめてまうたら、わたしと一しょにいてくだされ。もう絶望だめぢゃ! 絶望だめぢゃ、絶望だめぢゃ!
と、茶屋の亭主が、提灯をそれへ置くと、千浪もれた顔を上げて、重蔵と共に、繰りひろげられる手紙の文字に息をのんだ。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かない⁉ それはつよい! けれどいまあぶないからいけません、追付おつつ成長おほきくなつたら、大佐たいさ叔父おぢさんもよろこんでれてつてくださるでせう。
さきの勞働者の唄ね、きみは何うおもふからないけれど、あれを聽いてゐて、僕はにつまされて何んだかきたくなるやうな氣がしたよ。」
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
が、すすりきはじめたおくさんのかたをかけると、また心をとりなほしながら、力つよく、なぐさめるやうにその耳元にささやいた。
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
おまえさんは上戸じょうごえる。わしはわら上戸じょうごで、いているひとるとよけいわらえてる。どうかわるおもわんでくだされや、わらうから。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
腹立はらだたしさに、なかばきたい気持きもちをおさえながら、まつろうにらみつけた徳太郎とくたろうほそまゆは、なくぴくぴくうごいていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そこで少年は、自分の指が、そんなにいたいほどかじかんでいるのに気がついて、おいおいきながら、さきへかけだした。
内容のぞかず、それでも寝るときは忘れず枕もとへ置いて寝て、病気見舞いのひとりの男、蚊帳のそとに立ってその様を見て立ったままいて
創生記 (新字新仮名) / 太宰治(著)
妹が山の中でしくしくきだした。そうしたら弟まで泣きだした。ぼくもいっしょに泣きたくなったけれども、くやしいからがまんしていた。
火事とポチ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「誰がいうものか。死んでもいわねえ。しかし日本国中の人間どもがつらをすることは確かだ。もうとめてもとまらぬぞ。ざまアみやがれ」
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
団長だんちょうさん、団長さん、かんにんしてやって下さい。」というきそうな声がしました。見ると、それはふだんの着物をきたきえちゃんです。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
まったく夕方なんぞ、列車れっしゃ車掌室しゃしょうしつから、ひとりぼっちで外をながめていると、きたくも泣けないような気もちだった。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
れぢや基督ハリストスでもれいきませう、基督ハリストスいたり、微笑びせうしたり、かなしんだり、おこつたり、うれひしづんだりして、現實げんじつたいして反應はんおうしてゐたのです。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
意富祁おおけ袁祁おけのお二人を左右のおひざにおかかえ申しながら、お二人の今日こんにちまでのご辛苦しんくをお察し申しあげて、ほろほろとなみだを流してきました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
それがだん/\つのつて、七月しちがつ十五夜じゆうごやなどにはいてばかりゐました。おきなたちが心配しんぱいして、つきることをめるようにとさとしましたけれども
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
小舎こやかへつてからもなほ、大聲おほごゑきながら「おつかあ、おいらはなんで、あのがんのやうにべねえだ。おいらにもあんないいはねをつけてくんろよ」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
イザナミの命の枕の方や足の方にしておきになつた時に、涙で出現した神は香具山の麓の小高い處の木の下においでになる泣澤女なきさわめの神です。
いまでも世界中せかいちうからすくちなかには、そのとき火傷やけどのあとが真赤まつかのこつてゐるといふ。ひときらはれながらも、あのあはれなペンペのためにいてゐるのだ。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
そのあをざめたかほうへには、たけまじつたすぎむらのそらから、西日にしびひとすぢちてゐるのです。わたしはこゑみながら、死骸しがいなはてました。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
く/\担いで小川手前まで帰って来ました。うちではお清は角右衞門の帰りが遅いから案じて居ります所へ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
じっと突っ立って、二分間ほど考えこんでいた先生は、心配しんぱいそうにとりまいている生徒たちに気がつくと、きそうな顔で笑って、しかし声だけは快活かいかつ
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
お美代は到頭、両手でうた顔を、お婆さんの布団の端に伏せた。やがてすすきは、声にまでなって来た。
蜜柑 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
ある夕方ゆふがたこととうさんはなにかのことで三らうさんとあらそひまして、このあそ友達ともだちかせてしまひました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ああ是れ皆此の身、此の横笛のせしわざやいばこそ當てね、可惜あたら武士を手に掛けしも同じ事。——思へば思ふほど、乙女心をとめごゝろむねふさがりてくより外にせんすべもなし。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
わたしは、むせきに泣きもしなかったし、絶望のとりこにもならなかった。また、そんな事がいったいいつ、どんな風に起ったのかと自問してみるでもなかった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
秋の刈入かりいれがすんで、手伝てつだい仕事がなくなると、村のひとたちはだれも清造にこういうのでした。清造はそれを聞くとかなしくなって、沼のふちへ来ていていました。
清造と沼 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
ところがなか/\れないので、そのかなしいごゑが、天皇てんのう御殿ごてんにまできこえてました。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
防人さきもりちしあさけの金門出かなとで手放たばなしみきしらはも 〔巻十四・三五六九〕 東歌・防人
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
そして、もうすこしできだしそうになりました。が、ちょうどそこへ、一むれの大きな灰色はいいろの鳥が飛んできて、島におりましたので、それに気をとられてしまいました。
作らねばなりません。でないと子どもらがひもじいってきます。あとの事、あとの事。まだ天国の事なんか考えずともよろしい。死ぬ前には生きるという事があるんだから
卓の上の徳利とコップがねかえって落ちて割れ、女は刑事にむしゃぶりついてわめいた。
いずこへ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)