みだ)” の例文
旧字:
こまかきあめははら/\とおとして草村くさむらがくれなくこほろぎのふしをもみださず、かぜひとしきりさつふりくるはにばかりかゝるかといたまし。
雨の夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
屋敷やしき周囲まわりには広々ひろびろとしたはたけがありました。そして、そこにはばらのはなや、けしのはなが、いまをさかりにみだれているのであります。
けしの圃 (新字新仮名) / 小川未明(著)
やがて間もなく、真蒼まっさおになった女房が番台からすそみだして飛び降りて来るなり、由蔵の駆けて入った釜場の扉口とぐち甲高かんだかい叫びを発した。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いろよい返事へんじしたためたおせんのふみを、せろせないのいさかいに、しばしこころみだしていたが、このうえあらそいは無駄むださっしたのであろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
よし子は障子をてゝ、枕元へすはつた。六畳の座敷が、取りみだしてあるうへに、今朝けさ掃除さうじをしないから、なお狭苦せまくるしい。女は、三四郎に
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「いいやいや。にえみだれて刃みだれざるは上作なりと申す。およそ直刃すぐはに足なく、位よきは包永かねなが新藤五しんとうご千手院せんじゅいん粟田口あわたぐち——。」
寛永相合傘 (新字新仮名) / 林不忘(著)
またその内容ないよう古今ここんわたり、顕幽けんゆうまたがり、また部分ぶぶんは一般的ぱんてきまた部分ぶぶん個人的こじんてきった具合ぐあいに、随分ずいぶんまちまちにみだれてります。
あぜに突き当たってうずを巻くと、其処そこの蘆は、裏をみだして、ぐるぐると舞うに連れて、穂綿が、はらはらと薄暮うすくれあいをあおく飛んだ。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
足許に白蟻ほどの小粒なのが、空から投げだされて、さんみだして転がっている。よく見るとひょうだ。南はななめ菅笠冠すげがさかぶりの横顔をひんなぐる。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
百合と薔薇ばらとを取りかへて部屋へやくらさをわすれてゐると、次ぎにはおいらんさうが白と桃色もゝいろくものやうに、庭の全面ぜんめんみだれた。
美しい家 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
その夢の中で、天照大神あまてらすおおかみ高皇産霊神たかみむすびのかみのお二方ふたかたが、建御雷神たけみかずちのかみをおめしになりまして、葦原中国あしはらのなかつくには、今しきりにみださわいでいる。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
燃え叫ぶ六疋は、もだえながら空をしずみ、しまいの一疋は泣いて随い、それでも雁の正しい列は、けっしてみだれはいたしません。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
その声はもの考えする人の神経しんけいをなやましそうな声であった。ほうきめのついてる根元ねもと砂地すなちに、ややばんだせんだんのみだしてある。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
其妾と云うかみみだした女は、都の女等をくさげににらんで居た。彼等は先住の出で去るを待って、畑の枯草の上にいこうた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
やがて鏑矢かぶらやがぶうんとおとててんで行きますと、たしかに手ごたえがあったらしく、きゅうくもみだれはじめて、中から
(新字新仮名) / 楠山正雄(著)
その、無法な胆気たんきと、国光のみだれにおびやかされて、周馬は少し気を乱しながら、こう兵字構ひょうじがまえに直って、寄らば——とまなこをいからせた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今通っている山中の笹の葉に風が吹いて、ざわめきみだれていても、わが心はそれにまぎれることなくただ一向ひたすらに、別れて来た妻のことをおもっている。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
あへて往路を俯瞰ふかんするものなし、荊棘けいきよくの中黄蜂の巣窟すうくつあり、先鋒あやまつて之をみだす、後にぐもの其襲撃しうげきを被ふるもあへて之をくるのみちなし、顔面ためれし者おう
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
「あ、ではみだれになっているのだろう。それから、にえにおい、それは、あなたにはわかるまいが……銘があるとの話、その銘は何という名か覚えていますか」
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「去年は倭奴わど上海をおびやかし、今年は繹騒えきそう姑蘇こそのぞむ。ほしいままに双刀を飛ばし、みだりにを使う、城辺の野草、人血まみる」。これ明の詩人が和寇わこうえいじたるものにあらずや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
わたし自身も心持ちがなんだかぼんやりとりとめなくみだれていた。いく時間も、あるいはいく日も、わたしたちはおたがいにとんきょうなふうでおしゃべりをしつづけていた。
此一おしにて男女とも元結もとゆひおのづからきれてかみみだす㕝甚なり。七間四面の堂の内にはだかなる人こみいりてあげたる手もおろす事ならぬほどなれば、人の多さはかりしるべし。
天然てんねん設計せっけいによる平衡へいこうみだす前には、よほどよく考えてかからないと危険きけんなものである。
蛆の効用 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「守りがみだれて隙となる。最初から体を守らなかったら、隙の出来よう筈はない」
戯作者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
規律きりつみだすことは出来できません、いけません!』とニキタはさとすような調子ちょうし
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
異邦の渺茫びょうぼうたる高原の一つ家で、空高い皎々こうこうたる秋の月を眺めた者のみの知る、あのたえ難いみだすような胸の疼痛とうつう、死の苦痛にも勝るあの恐ろしい郷愁にも似た苦悩に充満するのだった。
五階の窓:04 合作の四 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
だんじほれたるイイダ姫は、暫く心附かでありしが、かの笛の音ふと耳に入りぬと覚しくにわかにしらべをみだりて、楽器のはこくだくるやうなる音をせさせ、座を起ちたるおもては、常よりあおかりき。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
かつて制度いまだ備わらずして諸王の服乗ふくじょうも太子に擬せるを見、太祖に直言して、嫡庶ちゃくしょあいみだり、尊卑序無くんば、何をもって天下に令せんや、と説き、太祖をして、なんじげんなり、とわしめたり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
然るに分娩ぶんべんさいは非常なる難産にして苦悶二昼夜にわたり、医師の手術によらずば、分娩ぶんべん覚束おぼつかなしなど人々立騒たちさわげる折しも、あたかも陣痛起りて、それと同時に大雨たいうしのみだしかけ、鳴神なるかみおどろ/\しく
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
青木む富士の裾原風みだり行きはしる雲の絶ゆるまもなし
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
はぎのすこしくみだれたるかな
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
みだれてものに狂ひよる
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
みだれてびし花片はなびら
友に (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
家来けらいは、ながたびをしたので、かおいろは、けて、頭髪とうはつは、あめや、かぜに、たびたびうたことをおもわせるように、びてみだれていました。
珍しい酒もり (新字新仮名) / 小川未明(著)
跫音きようおんみだれて、スツ/\とれつゝ、ひゞきつゝ、駅員えきゐん驚破すわことありげなかほふたつ、帽子ぼうしかたひさしめて、そのまどをむづかしく覗込のぞきこむだ。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さうして、其くもみねをよく見ると、真裸まはだか女性によせう巨人きよじんが、かみみだし、身をおどらして、一団となつて、れ狂つてゐるやうに、うまく輪廓をらした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そこは春のけしきで、いちめん、ぼうっとかすんだなかに、さくらの花が、うつくしい絵のように咲きみだれていました。
浦島太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
頭髪かみみだしているもの、に一まとわない裸体はだかのもの、みどろにきずついてるもの……ただの一人ひとりとして満足まんぞく姿すがたをしたものはりませぬ。
酒肴しゅこうが出ると座がみだれて、肝腎の相談が出来ないというので一どう素面すめんである。ズラリと大広間に居流れて評定ひょうじょうの最中だ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
なお、人麿の覉旅歌には、「飼飯けひの海のにはよくあらしかりごものみだれいづ見ゆ海人あまの釣船」(巻三・二五六)というのもあり、棄てがたいものである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
欝金うこんつつみかかえたおこのは、それでもなにやらこころみだれたのであろう。上気じょうきしたかおをふせたまま、敷居際しきいぎわあたまげた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
(ははあ、ここは空気の稀薄きはくほとんど真空しんくうひとしいのだ。だからあの繊細せんさいな衣のひだをちらっとみだす風もない。)
インドラの網 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
わしがみるところでは、世はいよいよみだれるだろう、いくさは諸国しょこくにおこってえないであろう、人間はますます殺伐さつばつになり、人情にんじょう美風びふうはすたれるだろう。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
折角せっかくこうして探偵たる気持をわすれて麻雀を打ち、のうのうとした気分になっている筈の彼の心は、いつの間にかみだされているのを感ぜずには居られなかった。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
天照大神あまてらすおおかみ高皇産霊神たかみむすびのかみとは、あれほどみだれさわいでいた下界を、建御雷神たけみかずちのかみたちが、ちゃんとこちらのものにして帰りましたので、さっそく天忍穂耳命あめのおしほみみのみことをおしになって
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
此一おしにて男女とも元結もとゆひおのづからきれてかみみだす㕝甚なり。七間四面の堂の内にはだかなる人こみいりてあげたる手もおろす事ならぬほどなれば、人の多さはかりしるべし。
「ははあ、みだれと来ていますね、悪い刀じゃありません、いや、どうして結構なものです、ちょっと、この類の程度はありません——誰ですか、相州の五郎入道正宗ですか」
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
どうしてこの明るい家の中に、こんなくらさがあるのだらうとかんがへた。北側きたがはに一れんかべがあるこれだ。——しかし、私は間もなく周囲しうゐの庭にみだれてゐるとりどりのはないろまよひ出した。
美しい家 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
おもみちは一すぢなれと夏引なつびきの手引てびきのいとみだれぐるしきはこひなるかや優子ゆうこ元來もとよりさいはじけならず柔和をとなしけれど悧發りはつにてもの道理ことはりあきらかに分別わきまへながららきはれぬむねくもにうつ/\として
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
金髪きんぱつ千筋ちすぢなし、さとみだる。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)