あと)” の例文
しかるにその大乗教の仏典なるものは仏法の本家なるインドにはあとを絶って、今はネパールあるいはチベットに存在して居るという。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「おかあさん、つきは、去年きょねんはるとちがって、あたりがあんなあとになったので、びっくりしたでしょうね。」と、少年しょうねんがいいました。
夢のような昼と晩 (新字新仮名) / 小川未明(著)
格之助はじめ、人々もこれに従つて刀を投げて、皆脇差わきざしばかりになつた。それから平八郎の黙つて歩くあとに附いて、一同下寺町したでらまちまで出た。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「その平松屋源左衛門というのは、本郷一番の金貸かねかしで、五年前に亡くなった、松前屋三郎兵衛のあとだということも、御存じでしょうね」
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
これが西暦せいれき千八百八十三年せんはつぴやくはちじゆうさんねん大爆裂だいばくれつをなして、しま大半たいはんばし、あとにはたかわづか八百十六米はつぴやくじゆうろくめーとる小火山島しようかざんとうのこしたのみである。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
忍剣にんけんが気のついたクロとは、そもなにものかわからないが、かれのすがたは、まもなく、変りはてた恵林寺えりんじあとへあらわれた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すべて雪道は人のふみかためたるあとのみをゆきゝするゆゑ、いかなる広き所も道は一条ひとすぢにて其外そのほかをふめばこしをこえて雪にふみ入る也。
あとになって玉子の代価を勘定して西洋菓子は高くかかるとよく苦情を申しますが家へ十羽も鶏を飼っておけば惜気おしげなく玉子を使えます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
たゞしけるにおや三藏は近年病死びやうし致し私しは當年廿五歳なれば廿二三年あとの事は一向覺えなしと云にぞ然らば廿二三年ぜんの奉公人の宿帳やどちやう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
震災しんさい以來いらい東京とうきやう梅園うめぞの松村まつむら以外いぐわいには「しるこ」らしい「しるこ」あとつてしまつた。そのかはりにどこもカツフエだらけである。
しるこ (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
人々の立去ったあとにいつまでもただよっている一種のにおいのようなもの、——ことにその年の夏が一きわ花やかで美しかっただけ
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
其樣そんなものに鼻毛はなげよまれてはてあとあしのすな御用心ごようじんさりとてはお笑止しようしやなどヽくまれぐちいひちらせどしんところねたねたしのつも
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
餘程よほど大火おほびかなければ、馬籠まごめにてたるごとあとのこすものでない。かまどとか、とか、それくらゐため出來できたのではおそらくあるまい。
現に柏木かしわぎの附近では毎年二月五日に「南朝様」をお祭り申し、将軍の宮の御所あとである神の谷の金剛寺こんごうじにおいておごそかな朝拝の式を挙げる。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あとを追ひて行く方を知らんとせし人ありけれども、絶壁の路も無き処を、鳥の飛ぶ如くに去る故、ついに住所を知ること能はずと謂へり。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
江戸開城かいじょうの後、予は骸骨がいこつい、しばらく先生とたもとわかち、あと武州ぶしゅう府中ふちゅうの辺にけ居るに、先生は間断かんだんなく慰問いもんせられたり。
それで、その當時とうじひと住居じゆうきよしたあと海岸かいがん附近ふきんのこつてゐて、かれつてすてた貝殼かひがらや、さかなけだものほねなどがたまつてゐるところがあります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
果たしてその通り、夕食の頃に汐を噴いているのを一頭見かけたが、あんな地位にあっては、船でそのあとを追いかけることは不可能であった。
従妹いとこの影を見て双子ふたごは一緒に出て行つた。晨も行つてしまつた。お照が榮子を抱いて来た。泣いたあとらしく榮子の頬がぴりぴりと動いて居る。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
勘次かんじそのあさ未明みめいにそつといへうしろならあひだはしへおりて境木さかひぎ牛胡頽子うしぐみそば注意ちういしてた。唐鍬たうぐはなにかでうごかしたつちあといた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
左側に続いた赤い煉瓦塀の家の中でづピヤノの音がする。主人達が避暑に行つたあとを預かつた用人ようにんの娘か小間使こまづかひの手すさびの音とも聞かれる。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「いいえ。あたしから御処分を願ひますなど決して申さなかつたんです。そんなことをするとあとがこはいんですもの。」
二黒の巳 (新字旧仮名) / 平出修(著)
未亡人種子の行動を探るには、そのあとをつけたり何かするよりは、専業の秘密探偵に依頼してその身元から調べ上げてもらうのが一番捷径ちかみちであろう。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
どうかあとを立ててくれろという遺言があったもんですから、子分たちもとうとうわたくしをかつぎ上げて二代目の親分ということにしてしまいました。
半七捕物帳:02 石灯籠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
主人あるじらしき人の車その門にとまりしを見たる人まれなり、売り物なるべしとのうわさ一時は近所あたりの人の間に高かりしもいつかこのうわさも消えてあとなく
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
父樣おとつさんいおかたで、それきりあとえるやうなわること爲置しおかれたかたではありませんから、わたくしどもは甚麽どんなあぶなこは出會であひましても、安心あんしんでございます。
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
蹄のあとはいまだに岩の上に残っている。鶏の鳴く真似まねをしたものは天探女あまのじゃくである。この蹄のあとの岩に刻みつけられている間、天探女は自分のかたきである。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
良人おっともなければ、いえもなく、またあとをつぐべき子供こどもとてもない、よくよくのひとかく鎌倉かまくらもどって、心静こころしずかに余生よせいおくるのがよいとおもうが……。
私は荷物の始末を忘れて、雪江さんの出て行ったあとをうっかり見ていた。事に寄ると、口をいていたかも知れぬ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
心臓のやまいさえ併発して医薬の効なくつい遠逝えんせいせられ、涙ながらに野辺送のべおくりを済ましてよりいまだ四十日を出でざるに、叔母上またもそのあとを追われぬ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
同船していたブラジル人で十五歳位の女の子がいて、それが大分早熟で、体操のKさんのあとばかり追っていました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
ひる前に隱居も古銅こどうの花瓶と、二幅對の箱と合乘でゆかれたあと入替いりかはりに、昨日花屋から來た松の枝小僧が取にくる
うづみ火 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
昔は樹木ありしと云ふも、今は赭禿の山海抜千六七百尺に過ぎず。此山のして平原にくだる所はエズレルのあと也。
長いこと、人間が住まなかったからであろう、部屋の中は馬糞紙ばふんしのような、ボコボコした古いにおいがこもっていて、黒い畳の縁には薄くかびあとがあった。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
うも杉山すぎやまえらい者ぢやの、うもこの行文かうぶん簡単かんたんにしての意味深く僕等ぼくらの遠くおよところではない、つてみなめてつたぜ、あとほう松嶋まつしまの詩があつたの
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
私は、倒れて、ドアに頭を打ちつけて、怪我をした。傷口きずぐちに、血がにじんで、痛みは鋭かつた。恐怖は、絶頂を過ぎて、別な氣持ちが、そのあとにつゞいて起つた。
その女の靴のあとと、お前の新しいゴム底の靴のあととがハッキリと残っているのだ……嘘を云うと承知せぬぞ
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しかしこのたいぞくする土地とちでも、その南部なんぶでは、自然しぜんのまゝにそだつたはやしすくなく、ひとがどん/\つてはそのあとへすぎ、ひのきなど植林しよくりんしてそだてたはやしおほいので
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
のつそつしながらすすびたる行燈あんどんの横手の楽落らくがきよめば山梨県士族山本勘介やまもとかんすけ大江山おおえやま退治の際一泊と禿筆ちびふであと、さては英雄殿もひとり旅の退屈に閉口してのおんわざくれ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
自然というのは神が仕組む天与のものであり、歴史というのは人間が開発した努力のあとであります、どんなものも自然と人間とのまじわりから生み出されて行きます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
それもほんのしばらくで、やがて地下戦車の入ったあとは妙なくずあとをのこしたきりで、戦車が今どんな活動をしているのか、さっぱり状況がわからなくなった。
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
室内しつないの有樣に付きては口碑こうひ存せず。火をきしあとの他、實地じつちに就いての調査てうさも何の證をも引き出さず。余は茲に想像そうぞうを述べて此點に關する事實じじつ缺乏けつばうおぎなはんとす。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
たくさんの男が、あとを追いかけたがどうにも手におえない。中には、引きづなに取りすがる者もいたがみな引き放されてしまう。ちょうど、そこへお兼が通りかかった。
大力物語 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
主人あるじはいとど不憫ふびんさに、その死骸なきがらひつぎに納め、家の裏なる小山の蔭に、これをうずめて石を置き、月丸の名も共にり付けて、かたばかりの比翼塚、あと懇切ねんごろにぞとぶらひける。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
親の身代を譲り受くればこれを遺物と名づくといえども、この遺物はわずかに地面、家財等のみにて、これを失えば失うてあとなかるべし。世の文明はすなわち然らず。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
このとき太子たいしのおあるきになったうまひづめあとが、国々くにぐにたかい山にいまでものこっているのでございます。
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
私もすぐあとからはいると、その光りはうず巻いて、小さい玉になって、非常に明かるく、あたかも生けるがごとくに輝いて、部屋の隅にある寝台の上にとどまっていたが
再び得難い天然を破壊し、失い易き歴史のあとを一掃して、其結果に得る所は何であろう乎。殺風景なる境と人と、荒寥こうりょうたる趣味の燃えくずを残すに過ぎないのではあるまい乎。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ぐわつすゑかたえがてなりしゆきも、次第しだいあとなくけた或夜あるよ病院びやうゐんにはには椋鳥むくどりしきりにいてたをりしも、院長ゐんちやう親友しんいう郵便局長いうびんきよくちやう立歸たちかへるのを、門迄もんまで見送みおくらんとしつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そしてまた一つ拙者不孝ながら孝に当る事がある。兄弟内に一人でも否様の悪い人があるとあとの兄弟自然と心がなごみて孝行でもするようになる。兄弟もむつまじくなるものじゃ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)