ことわ)” の例文
新字:
あけしに驚きさす旅宿屋やどやの主人だけよひことわりもなき客のきふに出立せしはいかにも不審ふしんなりとて彼の座敷をあらためしにかはる事もなければとなり座敷を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
らばとつて、一寸ちよつとかへるを、うけたまはりまするでと、一々いち/\町内ちやうない差配さはいことわるのでは、木戸錢きどせんはらつて時鳥ほとゝぎするやうな殺風景さつぷうけいる。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
げにも浮世うきよ音曲おんぎよく師匠ししやうもとしかるべきくわいもよほことわりいはれぬすぢならねどつらきものは義理ぎりしがらみ是非ぜひたれて此日このひ午後ひるすぎより
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そうさんおこつちや不可いけませんよ。たゞ叔父をぢさんのつたとほりをはなすんだから」と叔母をばことわつた。宗助そうすけだまつてあとをいてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
たゞこゝにことわりをようすることは噴火ふんかといふ言葉ことば使つかかたである。文字もんじからいへばくとなるけれども、これはえるすのではない。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
あなたにあの人の申し込をことわる勇氣があつたのに私は驚くわ。ではあなたはあの人を愛してやしないのね、ジエィン?
おつぎは卯平うへいいたはるにはいく勘次かんじ八釜敷やかましくても一々ことわりをいうてはなかつた。勘次かんじはおつぎが暫時しばしでもなくなると假令たとひ卯平うへいそばるとはつても
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
島を案内しようといふのをことわつて公學校を退却すると、私は獨りで、島民に道を聞きながら、「レロの遺跡」といふ名で知られてゐる古代城郭の址を見に行つた。
いまのバラツクだて洋館やうくわんたいして——こゝに見取圖みとりづがある。——ことわるまでもないが、地續ぢつゞきだからといつて、吉良邸きらていのではけつしてない。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かれこれほど偶然ぐうぜん出來事できごとりて、うしろからことわりなしに足絡あしがらけなければ、たふこと出來できないほどつよいものとは、自分じぶんながらにんじてゐなかつたのである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
みなことわり其宵ば部屋に差向さしむかひ伯父長庵が惡巧わるだくみ何と御わびの仕樣もなく私しまでさぞにくしと思すらん然はさりながらゆめにだも知らぬ此身の事なればたゞ堪忍かんにん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
わしやお内儀かみさんかゝあおつころしてからつちものは乞食こじきげだつて手攫てづかみでものしたこたあねえんでがすかんね、そらおつうげもはあことわつてくんでがすから
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
私は先づ云つた、「お掛けなさい、リヴァズさん。」ところが、彼は、例の通り、長居ながゐは出來ないとことわつた。「さうですか。」と、心の中で私は答へた——
びつくりしたのと、言葉が不自由なのとで、私は、勝手に留守宅に休ませて貰つたことわりを言ひそびれ、默つて女の顏を見てゐた。こんなに眼を外らさない女は無い。
原告げんこくだの被告ひこくだのといふひとたのんでたもおほくあつたれど、それをわたし一切いつさい受附うけつけなかつたは、山口昇やまぐちのぼるといふ裁判官さいばんくわんつまとして、公明正大こうめいせいだいことわつたのでは
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
不安ふあんをりだし、御不自由ごふじいうまことにおどくまをねるが、近所きんじよけるだけでもみづりない。外町ほかまちかたへは、とつて某邸ぼうていことわつた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
偖質屋よりは今日中猶豫いうよ致し明日は是非とも質物しちもつ相流し候旨ことわりに來りければ文右衞門は途方とはうにくれ如何はせんと女房お政に相談さうだんなしけるにお政も太息といき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
何處どこでもはうがようがす、わしはけつしてはこんだおぼえなんざねえから」かれおそろしい權幕けんまくできつぱりことわつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それから又羅甸ラテンよみにしてもクオンチチイを付けて發音しないで、のべつに羅馬ローマ字綴りの讀み方たやうにつたのがあるなら、それついでことわつて置いて御遣おやんなさい。
『伝説の時代』序 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
あがめたてまつ先生せんせいでもゆきあめには勿論もちろんこと、三に一はおことわりがつねのものなり、それをなんぞや駄々だヾさま御機嫌ごきげんとり/″\、此本このほんさつよみおはらば御褒美ごはうびにはなにまいらせん
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
殆んど絶望的になつた私は、お菓子を半分でもと哀願した、がそれもことわられて了つた。
仕方がないから、東京からかよつてゐる地理の教師のY君に頼んで上野へ持つて行つて貰はうと思ふ。學校の方ではもうこんな蟲のことなんか忘れてゐるだらうから、ことわるにも及ぶまい。
かめれおん日記 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
揚場あがりばから奧方おくがたこゑける。一寸ちよつとことわつてくが、はう裸體らたいでない。衣紋えもんたゞしくとつたふうで、あさからの厚化粧あつげしやう威儀ゐぎそなはつたものである。
銭湯 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しよ、ことわつてお仕舞しまひなとへば、こまつたねとおきやう立止たちどまつて、それでもきつちやんわたしあらはりきがて、もうおめかけでもなんでもい、うで此樣こんつまらないづくめだから
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
夫婦ふうふかほ見合みあはして微笑ほゝゑんだ。もうすこらずにいて見樣みやうぢやないかとつて、らずにいた。すると道具屋だうぐやまたた。またらなかつた。御米およねことわるのが面白おもしろくなつてた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
あけてはをつとにもげられねば、病氣びやうき介抱かいはうことわるとふわけにかないので、あい/\と、うちのこことつたのは、まないたのない人身御供ひとみごくうおなことで。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
なんとも思召おぼしめすまじけれどものごゝろ其頃そのころよりさま/″\のこと苦勞くらうにしてだしなみものまなれかれかおりたやかれまじとこゝろのたけは君樣故きみさまゆゑ使つかはれて片時かたときやすおもひもせずお友達ともだちあそびも芝居しばゐきもおきらひとれば大方おほかたことわりいふて僻物ひがものわらはれしはれのため
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
たゞことわつてくが、そのゆる篝火かゞりびごとき、大紅玉だいこうぎよくいだいたのをんなは、四時しじともに殺生禁斷せつしやうきんだんのはずである。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
こゝに、一寸ちよつとことわつておくのは、工學士こうがくしかつ苦學生くがくせいで、その當時たうじは、近縣きんけん賣藥ばいやく行商ぎやうしやうをしたことである。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
江戸兒夥間えどつこなかまだと、をつけろい、ぢやんがら仙人せんにん何處どこ雨乞あまごひからやあがつた、で、無事ぶじむべきものではないが、三代相傳さんだいさうでん江戸兒えどつこは、田舍ゐなかものだ、とことわうへ
銭湯 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あひだ中之橋なかのはしがあつて、ひとうへに、上之橋かみのはしながれるのが仙臺堀川せんだいぼりがはぢやあありませんか。……ことわつてきますが、その川筋かはすぢ松永橋まつながばし相生橋あひおひばし海邊橋うみべばし段々だん/\かゝつてゐます。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わびしさは、べるものも、るものも、こゝにことわるまでもない、うす蒲團ふとんも、眞心まごころにはあたゝかく、ことちと便たよりにならうと、わざ佛間ぶつま佛壇ぶつだんまへに、まくらいてくれたのである。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
のために東京とうきやうから故郷くにかへ途中とちうだつたのでありますが、よごれくさつた白絣しろがすりを一まいきて、頭陀袋づだぶくろのやうな革鞄かばんひとけたのを、玄關げんくわんさきでことわられるところを、めてくれたのも
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
此處こゝ空屋あきやつてります……昨年さくねんんでましたつてなんえんもありませんものが、夜中やちうことわりもなしにはひつてまゐりましたんですもの。れましては申譯まをしわけがありません……
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あくるあさいのちみづまうとすると、釣瓶つるべ一杯いつぱいきたなけものいてあがる……三毛猫みけねこ死骸しがい投込なげこんであつた。そのことわられたものの口惜くやしまぎれの惡戲いたづらだらうとふのである。——あさことで。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)