あだか)” の例文
あいちやんはたゞちにれが扇子せんすつて所爲せいだとことつていそいで其扇子そのせんすてました、あだかちゞむのをまつたおそれるものゝごとく。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
なんためわたしだの、そらここにいるこの不幸ふこう人達ひとたちばかりがあだか献祭けんさい山羊やぎごとくに、しゅうためにここにれられていねばならんのか。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
昭和二年しようわにねん大噴火だいふんかをなしたときも噴火口ふんかこうからなが鎔岩ようがんが、あだか溪水たにみづながれのように一瀉千里いつしやせんりいきほひもつくだつたのである。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
麻酔剤によって仮死の状態に置かれてある人体は、首を切断されたまま、あだかも泥人形の首がげたように、何うしてももう附着しなかった。
出港しゆつかうのみぎり白色檣燈はくしよくしやうとうくだけたこと、メシナ海峽かいきようで、一人ひとり船客せんきやくうみおぼれた事等ことなどあだかてんこゝろあつて、今回こんくわい危難きなん豫知よちせしめたやうである。
あだかの字の形とでも言おうか、その中央なかの棒が廊下ともつかず座敷ともつかぬ、細長い部屋になっていて、妙にるく陰気で暗いところだった。
女の膝 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
あだかも四月末だったので、百姓が麦を刈り取って馬に積み、前を通った。すると氏政は側近の者に、あれで直ぐ麦飯を作って持って来いと命じた。
小田原陣 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
あだかもその肉体の魅力で私を脅迫するかのように、真珠色に濡れた乳をゆらめかせながら、私の顔をニッコリと覗き込んだ。声を低くして囁いた。
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
丁度その方向が容疑者の真正面に当りましたので、あだかも一匹の白蛇が、彼に向って飛びかかるかのように見えたのです。
三つの痣 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
あだかも『オイ、君、離して呉れてはどうだね。さう押すとおれはひよつとすると土俵の外へ出て仕舞ふかも知れないよ』
甲胄堂かつちうだう婦人像ふじんざうのあはれにのあせたるが、はるけき大空おほぞらくもうつりて、にじより鮮明あざやかに、やさしくむものゝうつりて、ひとあだかけるがごとし。
甲冑堂 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
れはまぬ事だと思い、あだかも一念こゝに発起ほっきしたように断然酒をめた。スルト塾中のおお評判ではない大笑おおわらい
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
あだか向岸むこうぎしの火事を見る様にかたわらで見ていて如何どうする事も出来ず、ただはらはらと気をんでいたばかりであった。
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
自分はあだかも姑の不平を訴へる若い嫁のやうに、來訪者の顏を見るや否や、既に此れまで幾度いくたびとなく聞かした歸朝後の不平、日本の生活の不便を繰返して話した。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
し一歩をあやまらんか深谷中に滑落こつらくせんのみ、其危険きけんふべからず、あだかも四足獣の住所にことらずと云ふべし。
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
そこの窓際まで来て、雨戸を開けて、あだか戸外おもての人とはなしをしているかの様子であった、暫時しばらくして、老爺おやじはまた戸を閉めて、手に何か持ちながら其処そこの座に戻って来たが
千ヶ寺詣 (新字新仮名) / 北村四海(著)
突然、あだかもこれから攻めよせて来る海の大動乱を知らせる先触れのよう、一きわ、きわだった大きな波が、二三うねどこからともなく起って、入江の口へ押しよせました。
少年と海 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
大聲おほごゑで『雲飛うんぴ先生せんせい、雲飛先生! さう追駈おつかけくださいますな、わづか四兩のかねで石を賣りたいばかりに仕たことですから』と、あだか空中くうちゆうひとあるごとくにさけるのに出遇であつた。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
最も近き山にり、蕨を採りたりしに、四囲より小虫の集る事は、あだかけぶりの内に在るが如くにして、面部くび手足等に附着してぬかを撒布したるが如くにして、皮膚を見ざるに至れり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
すると或年下の友人はあだかもそれを待つてゐたかのやうに、忽ちその先を暗誦したさうである。抒情詩人としての薄田泣菫氏の如何に一代を風靡したかはかう言ふ逸話にも明かであらう。
それはあだかも昔の七つさがり、すなわ現今いまの四時頃だったが、不図ふと私は眼を覚ますと、店から奥の方へ行く土間のすみの所から、何だかポッとけむの様な、楕円形だえんけい赤児あかんぼの大きさくらいのものが
子供の霊 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
かなり広いが、これも長年手をはいらぬと見えて、一面にこけして、草が生えたなりの有様ありさまなのだ、それに座敷の正面のところに、一本古い桜の樹があって、あだか墨染桜すみぞめざくらとでもいいそうな
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
敵は血にみたる洋刃をふるって、更に市郎を目がけて飛びかかって来たが、眼前めさきあだかも燐寸の火がぱっと燃ゆるや、彼は電気に打たれたように、にわかに刃物をからりと落して、両手で顔をおおったまま
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
なんためわたしだの、そら此處こゝにゐる不幸ふかう人達計ひとたちばかりがあだか獻祭けんさい山羊やぎごとくに、しゆうためこゝれられてゐねばならんのか。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
あだか炭團屋たどんや長男ちやうなんのやうになつたことにはかぬ無邪氣むじやきさ、只更ひたすらわたくしかほゆびさわらつたなど、くるしいあひだにも隨分ずいぶん滑※こつけいはなしだ。
『もう一復誦ふくせうしてれッて、むすめへ』れはあだかあいちやん以上いじやう權威けんゐつてゞもるかのやうに、グリフォンのはうかへりみました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
あだかも自分で建築した迷路の中を、苦しみさまようことに興味を持って居るかのように見えるのが人間の常であります。
人工心臓 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
これで思出おもいだしたが、この魔のやることは、すべて、笑声わらいごえにしても、ただ一人で笑うのではなく、アハハハハハとあだか百人の笑うかの如きひびきをするように思われる。
一寸怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あだか相撲すまふのとき、土俵どひよう中央ちゆうおうからずる/\とされた力士りきしが、つるぎみねこらへる場合ばあひのようである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
一方には坑長の住宅の新築祝いに手伝いに行ってから以来このかた、若い二度目の奥さんに取り入って、あだかも源次の勢力に対抗するかのようにチョイチョイ御機嫌伺いに行っては
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あだかもかの厳島いつくしまの社の廻廊が満つる潮に洗われておるかのように見える、もっと驚いたのは、この澄んでいる水面から、深い水底みなそこを見下すと、土蔵の白堊はくあのまだこわれないのが
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
雲飛うんぴは三年の壽命じゆみやうぐらゐなんでもないとこたへたので老叟、二本のゆびで一のあなふれたと思ふと石はあだかどろのやうになり、手にしたがつてぢ、つひ三個みつゝあなふさいでしまつて、さて言ふには
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
あだかも鎮西に於ける官軍の活動も活溌であった。正行にすれば、此の際東西相呼応する大共同作戦も胸中に描いて居たらしい。併し何としても敵は十数ヶ国の兵を集めて優勢である。
四条畷の戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
何だか小さい手であだか合掌がっしょうしているようなのだが、頭も足もさらに解らない、ただ灰色の瓦斯体ガスたいの様なものだ、こんな風に、同じ様なことを三度ばかり繰返くりかえしたが、そのはそれもまって
子供の霊 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
二十日、瑞暲と北宝とが前脚ぜんきゃくを挙げてあだかも相撲の如くして遊ぶを見てたのしめり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
普通病気などで蒼褪あおざめるようなぶんではない、それはあだか緑青ろくしょうを塗ったとでもいおうか、まるで青銅からかねさびたような顔で、男ではあったが、頭髪かみのけが長く延びて、それが懶惰ものぐさそうに、むしゃくしゃと
青銅鬼 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
あだか四肢ししを以て匍匐ほうふくする所の四足獣にくわりたるのおもひなし、悠然いうぜん坦途たんとあゆむが如く、行々山水の絶佳ぜつくわしやうし、或は耶馬渓やまけいおよばざるの佳境かけうぎ、或は妙義山めうぎざんも三舎をくるの険所けんしよ
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
如何どうしても口が利けないし、声も出ないのだ、ただ女のひざ鼠地ねずみじ縞物しまもので、お召縮緬めしちりめんの着物と紫色の帯と、これだけが見えるばかり、そしてあだかも上から何か重い物に、おさえ付けられるような具合に
女の膝 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
兎角とかくするほどに、海底戰鬪艇かいていせんとうてい試運轉しうんてんをはり、櫻木海軍大佐さくらぎかいぐんたいさふたゝ一隊いつたい指揮しきして上陸じやうりくした。電光艇でんくわうていあだか勇士ゆうしいこうがごとく、海岸かいがん間近まぢか停泊ていはくしてる。
たのは白兎しろうさぎでした、ふたゝもどつてて、あだかなに遺失物おとしものでもしたときのやうにきよろ/\四邊あたり見廻みまはしながら
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
三人さんにんところに、割籠わりごひらきて、おほいくらふ。ひとげなることあだかかたはらにしたるがごとし。
甲冑堂 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
五本の指、たなごころ前膊ぜんはく上膊じょうはく、肩胛骨、その肩胛骨から発した肉腫が頭となって、全体があだかも一種の生物の死体ででもあるかのように、血にまみれて横たわって居た。
肉腫 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
あるひ患者くわんじやたいして、たん形式以上けいしきいじやう關係くわんけいたぬやうにのぞんでも出來できぬやうに、習慣しふくわんやつがさせてしまふ、はやへば彼等かれらあだかも、にはつてひつじや、うしほふ
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
あだか陸上りくじようける洪水こうずいごとかんていするので山津浪やまつなみばれるようになつたものであらう。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
すなわちその貼紙を発見したのだ、買った娘は、あだかも何か白羽の矢が自分にでも当ったかの如く思って、ワッとばかり自分の前に泣き伏した、自分は色々いろいろなぐさめて、ようやく安心させたが
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
何処どこから現われたのかすこしも気がつかなかったので、あだかも地の底から湧出わきでたかのように思われ、自分は驚いてく見ると年輩としは三十ばかり、面長おもながの鼻の高い男、背はすらりとした膄形やさがた
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それはあだかも旧暦八月の一日の夜で、すなわち名月の晩だったが、私は例の通り、師匠のうちをその朝早く出て、谷中に行って、終日遊んでとうとう夜食を馳走になって、彼処あちらを出たのが、九時少し前
死神 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
予は初めは和服にて蕨採りに出でし際に、小虫を耐忍する事一時ひとときばかりなるも、面部は一体に腫れ、殊に眼胞まぶたは腫れて、両眼を開く事能わず、手足も共に皮膚は腫脹しゅちょう結痂けっかとにてあだか頑癬かさの如し。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
自分の家の庭へ出ようとした、四隣あたりは月の光で昼間のようだから、決して道を迷うはずはなかろうと、その竹薮へかかると、突然行方ゆくてでガサガサとあだかも犬でも居るような音がした、一寸ちょっと私も驚いたが
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
あだかも西軍にとって、一つの吉報がもたらされた。
応仁の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)