幾日いくにち)” の例文
湯治たうぢ幾日いくにち往復わうふく旅錢りよせんと、切詰きりつめた懷中ふところだし、あひりませうことならば、のうちに修善寺しゆぜんじまで引返ひきかへして、一旅籠ひとはたごかすりたい。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
宝石商ほうせきしょうは、それから幾日いくにちたびをしました。やまえ、かわわたり、あるときはふねり、そして、みなみくにして、たびをつづけました。
宝石商 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そういうことが幾日いくにちか続いたある日、涼しい風が吹きだして、山の向こうからまっ黒な雲が、むくむくとふくれ上がってきました。
ひでり狐 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
大地震後だいぢしんご餘震よしんあまりに恐怖きようふするため、安全あんぜん家屋かおく見捨みすてゝ、幾日いくにちも/\野宿のじゆくすることは、震災地しんさいちける一般いつぱん状態じようたいである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
むかしのことで、越後えちごからみやこのぼるといえば、幾日いくにちも、幾日いくにちたびかさねて、いくつとなく山坂やまさかえてかなければなりません。
松山鏡 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
まだあつ空氣くうきつめたくしつゝ豪雨がううさら幾日いくにち草木くさきいぢめてはつて/\またつた。例年れいねんごと季節きせつ洪水こうずゐ残酷ざんこく河川かせん沿岸えんがんねぶつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
だって、そうしたまま、幾日いくにちも幾晩もすぎていったのですもの。だれも、上ってきませんでした。しかし、とうとう、だれかが上ってきました。
「お定、きょうは幾日いくにちだっけねえ」と、日も御存ごぞんじないことがある。たまたま壁の暦を見て、時の経つのに驚きました位。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
おどろいたのは御亭主ごていしゆでした。大變たいへんなことになつたものです。天地てんちが、ひつくりかえつたやうです。そんながそれ以來いらい幾日いくにち幾日いくにちつゞきました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
「あれでは今に維康さんにきらわれるやろ」夫婦はひそひそ語り合っていたが、案の定、柳吉はある日ぶらりと出て行ったまま、幾日いくにちも帰って来なかった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
彼はクリストフがかなしがってるのに気がついて、いてやろうとした。しかしクリストフはおこって横を向いた。そして彼は幾日いくにち不機嫌ふきげんだった。小父おじにくんでいた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
あふちいてゐるいへ外側そとがは木立こだちの下蔭したかげに、ぽた/\とつゆちるほどに、かぜきとほる。それは、幾日いくにちつゞいてをつた梅雨ばいうあがかぜである、といふ意味いみです。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
晴れた日が幾日いくにちも続いてかわいた春であつた。雪解時ゆきげどきにもかゝはらず清水は減つて、上田橋うへだばしたもとにある水量測定器の白く塗られた杭には、からびた冬のあくたがへばりついてゐた。
父の死 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
自分がまるで「爆弾ばくだんみたいに」(コム・ユヌ・ボンブ)ロシアへ落下したという考えに、いても立ってもいられず、物凄ものすごい表情を顔に浮べながら、幾日いくにちも幾日もぶっとおしに
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
こちらにはひるよるもないのですから、現世げんせのようにとても幾日いくにちとはっきりかぞえるわけにはかないのでございます。そのへんがどうもはなしたいへんにしにくいてんでございまして……。
といって古い肉を買って来て四日も五日も置いたらたちまち腐ってしまいます。食べ頃の幾日いくにち目というのは屠った日より勘定するので買った日でありませんから間違ってはなりません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
果実にもももなし楊梅やまもも覆盆子いちご等、やわらかくて甘いものがいろいろあるが、なまで食べられる日は幾日いくにちもないから、年中いつでも出るのはほしてたくわえて置かれるものだけであった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ひとしきり毎日毎夜まいよのやうにりつゞいた雨のあと、今度は雲一ツ見えないやうな晴天が幾日いくにちかぎりもなくつゞいた。しかしどうかして空がくもるとたちまちに風が出てかわききつた道の砂を吹散ふきちらす。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そしてそれから幾日いくにちも幾日もそのままで安らかに眠りつづけました。
神様の布団 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
それから又不安な日が幾日いくにちか過ぎて
葦と別れてから幾日いくにちめでしたろう。
燕と王子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「なんのいけないことがあるもんですか、あなたのこころがけですよ。幾日いくにちも、幾日いくにちも、みなみをさしてゆけば、しぜんにいかれますよ。」
馬を殺したからす (新字新仮名) / 小川未明(著)
う、幾日いくにちだか、ひるだかよるだかわかりません、けれども、ふつとわたし寢臺ねだいそばすわつてる……見馴みなれないひとがあつたんです。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それでも幾日いくにちつゞいたあめみづたくはへてひくはたしばらかわくことがなかつた。みづためひたつた箇所かしよすくなくなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
どうしまして、わたしのようなうんわるもの使つかってくれる人もありません。ごらんのとおり、もう幾日いくにちなにべません。
一本のわら (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
あぶうまれてまだ幾日いくにちにもなりませんでした。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
わしはよるとなく、ひるとなく、幾日いくにちか、きたたびをしました。砂漠さばくえ、やまえ、りくえて、青々あおあおとしたうみうえんでゆきました。
北海の白鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ふたゝ幾日いくにち何時なんじごろに、第一震だいいつしん以上いじやうゆりかへしがる、そのとき大海嘯おほつなみがともなふと、何處どこかの豫言者よげんしやはなしたとか。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
こういって、その男は観音かんのんさまのまえにつっしました。それなり幾日いくにちたってもうごこうとはしませんでした。
一本のわら (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
幾日いくにちもぐつしりとみづひたつてた大豆だいづ黄色味きいろみつた褐色ちやいろさやからどろよごれたやうくろずんでた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「だいぶんみずあたたかになった。旅行りょこうにはいい時分じぶんである。幾日いくにちかかるかしれないが、このひろ領地りょうち一巡ひとめぐりしてこようとおもう。」
太陽とかわず (新字新仮名) / 小川未明(著)
とし押詰おしつまつて師走しはす幾日いくにちかは、當邸たうやしき御前ごぜん服部式部はつとりしきぶどの誕生日たんじやうびで、邸中やしきぢうとり/″\支度したくいそがしく、なんとなくまつりちかづいたやうにさゞめきつ。
片しぐれ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それから幾日いくにち幾日いくにちもかかって、貞光さだみつ金太郎きんたろうれてみやこかえりました。そして頼光らいこうのおやしきへ行って
金太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
おとこは、さまざまな空想くうそうにふけりました。そして幾日いくにち幾日いくにちたびをつづけました。おとこは、よるになるとさびしい宿屋やどやまりました。
おかしいまちがい (新字新仮名) / 小川未明(著)
とし寛政くわんせいねん押詰おしつまつて師走しはす幾日いくにちかは當邸たうてい御前ごぜん服部式部はつとりしきぶどの誕生日たんじやうびとあつて、邸中やしきぢうが、とり/″\支度したくいそがしくなんとなくまつりちかづいたやうにさゞめきつ。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そのなかで、いまでも、このあおそらいろるにつけておもさるるのは、きたうみうえ幾日いくにち航海こうかいしたときのことであります。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
のこんあつ幾日いくにちぞ、また幾日いくにちぞ。
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
からすは、かもめのようにそらたかく、またはやぶことはできませんでした。それでも幾日いくにちかかかって、にぎやかなみやこ到着とうちゃくいたしました。
馬を殺したからす (新字新仮名) / 小川未明(著)
それは、粗末そまつだけれど、おおきなはちえてある南天なんてんであります。もう、幾日いくにちみずをやらなかったとみえて、もとのつちしろかわいていました。
おじいさんが捨てたら (新字新仮名) / 小川未明(著)
あわれな木立こだちは、さもたよりなさそうにえました。からすは、やがてわかれをげてってしまいました。それから幾日いくにちもたったふゆのはじめです。
山の上の木と雲の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ははねこは、子供こどもをあるいえやぶれた物置ものおきのすみへとしました。ここで幾日いくにちごすうちに、ねこは、やっとえるようになりました。
どこかに生きながら (新字新仮名) / 小川未明(著)
けれど、質樸しつぼくきたほうくに人々ひとびとは、そのことをりませんでした。また、とおみなみくにへゆくにしても、幾日いくにち幾日いくにちたびをしなければならない。
宝石商 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あるとしなつのことでありました。幾日いくにち幾日いくにちも、天気てんきばかりがつづいて、あめというものがすこしもりませんでした。
神は弱いものを助けた (新字新仮名) / 小川未明(著)
あらんかぎりのちからをつくしたにもかかわらず、ちいさな、なんのつみもない子供こどもは、幾日いくにちたかねつのためにくるしめられました。
星の子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それから、幾日いくにちかたってから、あには、まちにりっぱな商店しょうてんしました。そして、そこの帳場ちょうばにすわって、おおくの奉公人ほうこうにん使つか身分みぶんとなりました。
くわの怒った話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
巡礼じゅんれいは、とおざかってゆきました。彼女かのじょは、あのあおい、あおうみを、汽船きせん幾日いくにちられてきた時分じぶんのことをおもしました。
二番めの娘 (新字新仮名) / 小川未明(著)
びきのありは、そのからはじめて、らない土地とちつくってはたらいたのです。幾日いくにちがたつと、このあたりの土地とちにも幾分いくぶんれてきました。
三匹のあり (新字新仮名) / 小川未明(著)
幾日いくにちかののち、みんなは、南洋なんようしまにあった庭園ていえんきました。そこだけには、ふゆというものがなかったのです。いつもうつくしいはないていました。
花咲く島の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あめ幾日いくにちりつづいて、ながれがあふれたからであります。ねずみはあななかみずがはいるので、そこにじっとしているわけにはいきませんでした。
ねずみとバケツの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
幾日いくにち幾夜いくよ看病かんびょうつかれがて、いくら我慢がまんをしても、しきれずに、うたこえは、だんだんかすれて、とぎれたのでした。
雲と子守歌 (新字新仮名) / 小川未明(著)