しば/\)” の例文
農夫はしば/\おくるるゆゑつひにはすてひとりさきの村にいたり、しるべの家に入りて炉辺ろへんあたゝめて酒をくみはじめ蘇生よみがへりたるおもひをなしけり。
マス君はしば/\真直まつすぐな鋭い剣を送つたが、たま/\其れを避け外したカ君の右腕うわんから血が流れた。なり深い負傷であるにかゝはらずカ君は戦闘を続けた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
後抽斎の未亡人五百は、当時柏軒が「目を泣き腫らし、額に青筋を出してゐた」状を記憶してゐて、しば/\人に語つたさうである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
かれは此能力の為に、今日迄一図にものに向つて突進する勇気をくぢかれた。即かず離れず現状に立ちすくんでゐる事がしば/\あつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
これ位の僅な事は考へるまでもなく誰でも承知してゐることであるが、実際は小さいものゝ上に大きい物を重ねる様な真似をしば/\演ずるものである。
些細なやうで重大な事 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
むしさら上層じようそうのぼるか、あるひ屋上おくじよう物干場ものほしば避難ひなんすることをすゝめるのであるが、實際じつさいかういふ賢明けんめい處置しよちられたれいしば/\みゝにするところである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
下水と溝川みぞかははその上にかゝつたきたな木橋きばしや、崩れた寺の塀、枯れかゝつた生垣いけがき、または貧しい人家のさまと相対して、しば/\憂鬱なる裏町の光景を組織する。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
しかれども机上きしやう編筆へんひつせはししば/\稿かうだつするの期約きやくうしなひしゆゑ、近日このごろつとめて老人が稿本かうほん残冊ざんさつていし、もつて其乞そのこひさづく。
近い処に居る人の目はしば/\われの女に注がれる。絵はがきになつて居る赤坂のなにがしだらうなどヽ云つて居る者もあつた。
御門主 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
現時げんじひとよりうらやまるゝほど健康けんかうたもれども、壯年さうねんころまでは體質たいしついたつてよわく、頭痛づつうなやまされ、み、しば/\風邪ふうじやをかされ、えずやまひためくるしめり。
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
あらつてはかわかし/\しば/\それが反覆はんぷくされてだん/\に薄青うすあをく、さうしてやみをさへあかるくするほど純白じゆんぱくさらされた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
就中なかんづくマリウチアといふ娘は、この戲にて我を泣かすることしば/\なりき。マリウチアは活溌なる少女なりき。
己達は昔のやうに又島の倶楽部の卓を囲むことになり、それよりはしば/\博奕の卓を囲むことになつた。紙で拵へた仮面は己達の顔を掩つた。己達は興をほしいままにした。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
この弦月丸げんげつまるにもしば/\そのもようしがあつて私等わたくしら折々をり/\臨席りんせきしたが、あること電燈でんとうひかりまばゆき舞踏室ぶたうしつでは今夜こんやめづらしく音樂會おんがくくわいもようさるゝよしで、幾百人いくひやくにん歐米人をうべいじんおいわかきも其處そこあつまつて
南洲及び大久保公、木戸公、後藤象次郎、坂本龍馬等公を洛東より迎へて、朝政に任ぜしむ。公既に職に在り、しば/\刺客せきかく狙撃そげきする所となり、危難きなんしきりに至る、而かもがう趨避すうひせず。
友之助は一体い人でございますから、二なき出入が出来たと心得て、しば/\参ります。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
浮世に背き微志を蓄へてより、世路はなは峭嶢せうげう、烈々たる炎暑、凄々せい/\たる冬日、いつはつべしとも知らぬ旅路の空をうち眺めて、しば/\、正直男と共に故郷なつかしく袖を涙にひぢしことあり。
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
彼はこの出来事を、思ひのほか重大視してゐる彼女の心を、今までにもしば/\経験する機会をもつてゐた。それはむしかつて見たこともなかつたやうな、彼女の可憐いぢらしさだとしか思へなかつた。
花が咲く (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
彼女はY町の偏邊かたほとりの荒れるに委せた墳墓のことを圭一郎が厭がる程しば/\口にした。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
欧洲では近頃まで硝子粉末による殺児がしば/\行はれた。ダイヤモンドも同様にある場合には毒と考へられ、かの文芸復興期に出た鬼才パラセルズスはダイヤモンド中毒で死んだと伝へられて居る。
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)
農夫はしば/\おくるるゆゑつひにはすてひとりさきの村にいたり、しるべの家に入りて炉辺ろへんあたゝめて酒をくみはじめ蘇生よみがへりたるおもひをなしけり。
必ずや茶山は相見る日を待たずしてしば/\報復を促し、蘭軒は遂に一たび断えたコレスポンダンスの緒を継いだことであらう。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
僕は巴里パリイに居て常にセエヌの河岸かしを逍遥した如く、しば/\テエムス河の岸と倫敦橋ロンドンけうの上とを散歩して英仏両国民の性情の相ことなる特色を此処ここに読む気がした。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
然し彼等はその名前に特別なあたらしい意味をけた。さうして彼の思想をこの大戦争の影響者である如くに言ひ出した。是は誰のにもうつる程しば/\繰りかへされた。
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「あの、ィ………四つ目の瓦斯燈ガスとうの出てるところだよ。松葉屋まつばやと書いてあるだらう。ね。あのうちよ。」とおいとしば/\橋場はしば御新造ごしんぞにつれて来られたり
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
私等は十五のとしに女学校を卒業しましたが、南さんはそのまゝおさがりになり、私は補習科に残りましたから、淋しく物足らない思ひをすることもしば/\ありました。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
余也よやもとより浅学せんがくにして多くしよ不読よまず寒家かんかにして書に不富とまず、少く蔵せしもしば/\祝融しゆくいううばゝれて、架上かしやう蕭然せうぜんたり。
しば/\海底かいてい大地震だいぢしんおこ場所ばしよせつし、そこにむかつておほきく漏斗形じようごがたひらいた地形ちけい港灣こうわんがそれにあたるわけであるが、これにいで多少たしよう注意ちゆういはらふべきは、遠淺とほあさ海岸かいがんである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
其處そこには毛蟲けむし淺猿あさましい損害そんがいあるひるにしても、しと/\としば/\こずゑあめそらあをさをうつしたかとおもふやうに力強ちからづよふかいみどり地上ちじやうおほうてさわやかなすゞしいかげつくるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
其後そののち數年間すうねんかん春夏しゆんかさい折々をり/\おこなふにぎざりしが、二十五六さいころもつつるにおよび、日夜にちや奔走ほんそうさい頭痛づつうはなはだしきとき臥床ふしどきしことしば/\なりしが、そのさいには頭部とうぶ冷水れいすゐもつ冷却れいきやく
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
弥ざゑもんはからず十両の金をしち入れせし田地をもうけもどし、これよりしば/\さいはひありてほどなく家もあらたに作りたていぜんにまさりてさかえけり。
程霞生赤城、一相塘しやうたうである。しば/\長崎に来去して国語を解し諺文げんぶんを識つてゐた。「こりずまに書くや此仮名文字まじり人は笑へど書くや此仮名」
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
滋野の話にると、修繕前の若鳥号にしば/\乗つて飛行を試験して居た飛行家ピロツトにナルヂニイと云ふ伊太利イタリイ人が居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
とよ長吉ちやうきちが久しい以前からしば/\学校を休むめに自分の認印みとめいんぬすんで届書とゞけしよ偽造ぎざうしてゐた事をば、暗黒な運命の前兆ぜんてうであるごとく、声までひそめて長々しく物語る………
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
鳥海ちようかいまた阿蘇あそ噴火ふんか大蛇おろちしば/\あらはれるのも、迷信めいしんからおこつた幻影げんえいほかならないのである。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
そろつてそとことめづらしくはなかつた。うちなかかほはせることなほしば/\あつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
明日あしたにしろ」とかれ簡單かんたん拒絶きよぜつしてさうしてそれつきりいはないことがるやうになつた。與吉よきちしば/\さういはれて悄然せうぜんとしてるのを、卯平うへい凝視みつめて餘計よけいしかめつゝあるのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
牧之ぼくし老人は越後ゑちご聞人ぶんじんなり。かつて貞介朴実ていかいぼくじつもつてきこえ、しば/\県監けんかん褒賞はうしやうはいして氏の国称こくしようゆるさる。生計せいけい余暇よか風雅ふうがを以四方にまじはる。余が亡兄ぼうけい醒斎せいさい京伝の別号をう鴻書こうしよともなりしゆゑ、またこれぐ。
弥ざゑもんはからず十両の金をしち入れせし田地をもうけもどし、これよりしば/\さいはひありてほどなく家もあらたに作りたていぜんにまさりてさかえけり。
有志之士、不堪杞憂きいうにたへずしば/\正論讜議たうぎすと雖、雲霧濛々もう/\がうも採用せられず。すなはち断然奸魁かんくわいたふして、朝廷の反省を促す。下情壅塞ようそくせるより起ると云ふは即是也すなはちこれなり
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
れば園丁の云ふところ亦にはかに信ずるに足らず。余しば/\先考の詩稿を反復すれども詠吟いまだ一首としてこの花に及べるものを見ず。母に問ふといへどもまた其の名を知るによしなし。
来青花 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
さう場合ばあひには、こゝろのうちに、當時たうじ自分じぶん一圖いちづ振舞ふるまつたにが記憶きおくを、出來できだけしば/\おこさせるために、とくにてん小六ころく自分じぶんまへけるのではなからうかとおもつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
餘震よしん恐怖きようふせるため、消防しようぼう十分じゆうぶん實力じつりよく發揮はつきすることが出來できなかつたとは、しば/\專門せんもん消防手しようぼうしゆから述懷じつかいであるが、著者ちよしや此種このしゆ人士じんし餘震よしん誤解ごかいしてゐるのを、もつと遺憾いかんおもふものである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
しかれども机上きしやう編筆へんひつせはししば/\稿かうだつするの期約きやくうしなひしゆゑ、近日このごろつとめて老人が稿本かうほん残冊ざんさつていし、もつて其乞そのこひさづく。
眞志屋の自立してゐた間の菓子店は、既にしば/\云つたやうに新石町、金澤の店は本石町二丁目西角であつた。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
○同年閏十月十九日大政□臣をおくらる。しかれば此 御神の御位は正一位大政□臣としるべし。後年こうねんしば/\神灵しんれい赫々かく/\たるしるしありしによりて、 天満宮、或 自在天神の贈称さうしようあり。