ひぢ)” の例文
云つしやるなとひぢを張ば理左衞門大いに怒りヤイおのれ役人にむか再應さいおうの口こた不屆ふとゞきな奴ソレしばれと差※さしづをなすに三五郎は理左衞門を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それからはつと思つて気が附いて見ますと、磯貝さんはいつの間にかデスクにひぢを持たせて、何か書いて入らつしやるのでございます。
魔睡 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
其處そこ風呂敷ふろしきひぢなりに引挾ひつぱさんだ、いろ淺黒あさぐろい、はりのある、きりゝとしたかほの、びん引緊ひきしめて、おたばこぼんはまためづらしい。……
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
本當ほんたう御天氣おてんきだわね」となかひとごとやうひながら、障子しやうじけたまゝまた裁縫しごとはじめた。すると宗助そうすけひぢはさんだあたますこもたげて
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
花吉はがツくり島田の寝巻姿ねまきすがた、投げかけしからだを左のひぢもて火鉢にさゝへつ、何とも言はず上目遣うはめづかひに、低き天井、なゝめに眺めやりたるばかり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
見物に交つた八五郎は、兩手りやうてを揉み合せて、獨りえつに入るのを、並んで見て居る平次が何遍ひぢで突いたかわかりません。
銭形平次捕物控:315 毒矢 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
「ふゝ」と、女は袖口のまくれた白いひぢをあげて、島田のをなでながら、うつとりした目をして天井をながめてゐた。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
と、ひぢを張つて威張るのも変になつて来た。自分達が御自慢の「退校」も、出来る事なら子供にだけは知らせないでおきたいものだと思ふやうになつた。
そして、醉ひにまかせて、火鉢のそばに倒れ、自分のひぢまくらをしながら、女の顏をわざと細目にした目で見つめて、「そんなに向うの男が可愛かあいいのか?」
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
「本人より聞いて居るもんが辛いので。」と平七は立膝の上にひぢをもたせて髪の毛の中へ指を突き込んだ。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
『疲労』『泣きわらひ』『ひぢの侮辱』中でも『肱の侮辱』などは確かにチエホフの塁を摩してゐる。あゝいふ短篇は、小さな真珠は、容易に拾へるものではない。
小説新論 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
「そんなにひぢを張らないでお呉れ。おれの横の腹に病気が起るぢゃないか。」
楢ノ木大学士の野宿 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
ひぢを曲げて一睡をむさぼると思ふに、夕陽すで西山せいざんに傾むきたれば、晩蝉ばんせんの声に別れてこの桃源を出で、元の山路にらで他の草径くさみちをたどり、我幻境にかへりけり、この時弦月漸く明らかに
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
私はその人を真実ほんたうの狸とも思つて居ませんでしたが、人間とは少し違ふもののやうに思つて居ました。安兵衛はひぢに桃色をした花の刺青いれずみがしてありました。友吉は顔に黒子ほくろが幾つもある男でした。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
白絣しろがすりが二三寸ビリ/\と破け、勢ひでひぢをグツととがめたやうだつた。鷹雄はしかし、袖ごと傷を押へて、昂奮から足が自由にならぬ歩き付きで、砂地を荒々しく踏みながら門を出て行つてしまつた。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
書きながらひぢをちぢめしわがすがたわが文章になしといはなくに
つめいよよ張りて堪へたる右手めてひぢ矢頃はよろしひようとはなしつ
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
じつさい、ひぢひざをすりむいて血がでてゐました。
シロ・クロ物語 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
巫女くちよせばあさんは先刻さつきおなじくはこひぢいて
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
すそひぢかゝつて、はしつてゆかく、仰向あふむけのしろ咽喉のどを、小刀ナイフでざつくりと、さあ、りましたか、いたんですか。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
代助は今読みつたばかりうすい洋書を机の上にけた儘、両ひぢいて茫乎ぼんやり考へた。代助のあたまは最後のまくで一杯になつてゐる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
最初に匕首の持主なる囃子方の六助、樂屋の隅へ呼出されて、五尺そこ/\の小男の癖に、精一杯のひぢを張ります。
吾助は得たりと太刀たち振上ふりあげたゞ一刀に討たんとするやお花は二ツと見えし時友次郎がえいと打たる小柄こづか手裏劍しゆりけんねらたがはず吾助が右のひぢに打込みければ忽ち白刄しらは
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
前からも微かに感じてゐたことではあつたが、たえ子は其の時ふと暗い蔭になつてゐる右の方の手先に何やら這寄るやうな不思議な触覚を感じて、無意識的にひぢすくめた。
復讐 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
ひぢのあたり、お信さんの身体の重みや温みを、絶えずやんはりと感じてゐるのも快かつた。
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
お鳥は二階の眞ン中で、だらりと足を投げ出し、そツぱうを向いてひぢまくらをしてゐた。
そこでこれではならんと奮発して、胡坐あぐらを掻いてゐる膝を両手で押へて、ひぢを張つて、口の内で、「へん、人を馬鹿にしてゐやがらあ」といふやうな事をつぶやいて、又身の周囲を見廻した。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
薬罎くすりびん載せたる円卓ゑんたくのはしにひぢつきながら
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ひぢをまげて外套ぐゎいたうのまゝ
楢ノ木大学士の野宿 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
ひぢをば突いて空を見る
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
……をんなは、薄色縮緬うすいろちりめん紋着もんつき單羽織ひとへばおりを、ほつそり、やせぎすな撫肩なでがたにすらりとた、ひぢけて、桔梗色ききやういろ風呂敷包ふろしきづつみひとつた。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さうして兩手りやうてはして、其中そのなかくろあたまんでゐるから、ひぢはさまれてかほがちつともえない。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
取直してこゝろよくさしさゝれつのみたりしが何時しか日さへ暮果くれはてて兩人共睡眠ねむりの氣ざしひぢまくらにとろ/\とまどろむともなしに寢入ねいりしが早三かうころ靱負は不※ふと起上おきあがり其のまゝ爰を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
平次はそつと八五郎のひぢを突きました。危ふく八五郎は死骸の前で笑ひ出しさうにしたのです。
きたな四疊半よでふはん肱掛窓ひぢかけまどに、ひぢどころか、こしけて、あがるやうにして、るのをつて、くるまおとみゝましたことがある。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しばらくすると、三千代は急に物に襲はれた様に、手をかほてて泣きした。代助は三千代のさまを見るにしのびなかつた。ひぢいてひたひ五指ごしうらかくした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「丸いひぢで、あつしの脇を小突いたんですよ」
哥太寛こたいくわん餞別せんべつしました、金銀きんぎんづくりの脇差わきざしを、片手かたてに、」と、ひぢつたが、撓々たよ/\つて、むらさききれみだるゝまゝに、ゆる博多はかた伊達卷だてまきへ。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
柱時計はもう十二時まはつてゐた。ばあさんは、めしましたあとえて、下女部屋で御はちうへひぢいて居眠ゐねむりをしてゐた。門野かどの何処どこつたかかげさへ見えなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
自棄やけ突立つゝたつて、胴體どうたいドタンと投出なげだすばかり、四枚よまい兩方りやうはうひきずりけた、ひぢかけまどへ、ねるやうに突掛つゝかゝつて
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
しかしあゝんぢやたまらないよ」と宗助そうすけつくゑはじひぢたせながら、倦怠けたるさうにつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
品物しなものわびしいが、なか/\の御手料理おてれうりえてはるし冥加みやうが至極しごくなお給仕きふじぼんひざかまへて其上そのうへひぢをついて、ほゝさゝえながら、うれしさうにたわ。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
與吉よきちひとりうなづいたが、背向うしろむきになつて、ひぢつて、なんしるしうごく、半被はつぴそでをぐツといて、つて
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
おどろいたかほをして、ちよつきをがつくりと前屈まへかゞみに、ひぢかに鯱子張しやちこばらせて、金時計きんどけいめながら
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
うしろいた腰掛臺こしかけだいうへに、一人ひとり匍匐はらばひになつて、ひぢつて長々なが/\び、一人ひとりよこざまに手枕てまくらして股引もゝひき穿いたあしかゞめて、天窓あたまをくツつけつて大工だいくそべつてる。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いま折曲をりまげたひぢところへつるりと垂懸たれかゝつてるのはおなじかたちをした、はゞが五たけが三ずんばかりの山海鼠やまなまこ
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いきくさこと……あまつさへ、つでもなくすはるでもなく、中腰ちゆうごししやがんだ山男やまをとこひざれかゝつた朽木くちぎ同然どうぜんふしくれつてギクリとまがり、腕組うでぐみをしたひぢばかりがむね附着くつつ
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
つぶやくのを機會しほに、またいだ敷居しきゐこしはづすと、まどひぢを、よこざまに、むね投掛なげかけて居直ゐなほつた。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
なんでえ、つてけ。」と、舞袴まひばかまにぴたりとひぢつて、とろりと一にらにらむのがおさだまり……
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ひぢをばさりとふつたけれども、よく喰込くひこんだとえてなかなかはなれさうにしないから不気味ぶきみながらつまんで引切ひツきると、ぶつりといつてやう/\れる暫時しばらくたまつたものではない
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)