あみ)” の例文
叔父おじさんのいえは、ここから二十もあちらのはまなんだ。たいだの、さばだのあみにかかってくるって、ぼくのおとうさんが、いった。」
海が呼んだ話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あみつたと、つたとでは、たいの味が違ふと言はぬか。あれくるしませては成らぬ、かなしませては成らぬ、海の水を酒にして泳がせろ。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
多分対手の女はいい小鳥があみにかかったと思ったのだろう。お金のことは母もさほど不服そうでなく話は大体きまったようだった。
きつねはまだあみをかけて、かばの木の下にいました。そして三人を見て口をげて大声でわらいました。ホモイのお父さんがさけびました。
貝の火 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
斯く爲しつつ空中の鳥を目掛けてげる時は、あみを以て之をおほふと同樣、翼をおさへ体をけ鳥をして飛揚ひやうする事を得ざらしむ。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
あみつたたか竹竿たけざをには鳥籠とりかごかゝつてました。そのなかにはをとりつてありまして、小鳥ことりむれそらとほたびこゑびました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
と、するどく龍太郎の手をはらった呂宋兵衛は、いきなり駕籠かごにかぶせてあるくさりあみをつかんで、パッと大地へ投網とあみのように投げた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かわいそうに、小人は長いあみの底のほうに、さかさまになってころがっています。これでは、とうていげられっこありません。
髪の毛にはあみのように白い埃がたまっていて、それを眼にした僕の口の中には、何か火の玉をくくんだように切ないものがあった。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
得て早速さつそく阿漕あこぎうらへ到り見ればあんたがはずあみおろす者あり與力こゑをかけ何者なれば禁斷きんだんの場所に於て殺生せつしやういたすや召捕めしとるべしと聲を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いまかく空腹くうふくかんじて塲合ばあひに、あのさかなを一とらへたらどんなにうれしからうとかんがへたが、あみ釣道具つりどうぐのたゞこゝろいらだつばかりである。
するとその頃、あみはまから出て来て、市中をさまよい歩く白痴の乞食こじき、名代のダラダラ大坊だいぼうというのが前に立ちふさがった。
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
けいという字は、あみのことです。魚をとる網です。という字は、障礙物しょうがいぶつなどという、あのがいという字で、さわり、ひっかかりという意味です。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
又かれがうみおきたるはらゝごをとればその家断絶だんぜつすといひつたふ。鮏の大なるは三尺四五寸にあまるもあり、これ年々とし/″\あみのがれて長じたるならん。
そのあいだに点々としてあるいは魚をあみし、あるいは草をかり、あるいは家畜にえをやり、あるいは木材を運ぶ同士のすがたがのごとく展開する。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
くもあみをむすびて九二諸仏を繋ぎ、燕子つばくらくそ九三護摩ごまゆかをうづみ、九四方丈はうぢやう九五廊房らうばうすべて物すざましく荒れはてぬ。
ただ考えたのは、何とかして、検札けんさつ旅客訊問りょきゃくじんもんあみ引懸ひっかかるまいとして、こそこそ逃げ込むことばかりにこれつとめた。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
さうして胚種はいしゆの通りすがりに、おまへは之を髮に受けとめる、おまへは風と花とをさへぎらうとして張りつめたあみだ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
漁夫ぎよふさけ深夜しんやあみかゝるのをちつゝ、假令たとひ連夜れんやわたつてそれがむなしからうともぽつちりとさへねむることなく
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
下人 こゝに名前なまへいてある人達ひとたち見附みつけい! えゝと、靴屋くつやものさしかせげか、裁縫師したてや足型あしかたかせげ、漁夫れふしふでかせげ、畫工ゑかきあみかせげといてあるわい。
請ふ我等に告げよ、汝未だ死のあみの中に入らざるごとく、身を壁として日をさへぎるはいかにぞや。 二二—二四
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
〔譯〕論語ろんごかうず、是れ慈父じふの子を教ふる意思いし孟子まうしを講ず、是れ伯兄のをしふる意思いし大學だいがくを講ず、あみかうに在る如し。中庸ちゆうようを講ず、くもしうを出づる如し。
そこではさきほどの百姓の兄弟にあたる人があみをしていました。鳩はあしの中にとまって歌いました。
その金めっきをした木は虫に食いあらされています。クモが王冠から棺まであみを張りめぐらしています。
往きかけたところで救助あみにすれすれになった処にしゃがんで何か探している者があるじゃありませんか。
雪の夜の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そして、やっとのことで和那美わなみという港でわなあみを張って、ようやく、そのこうの鳥をつかまえました。そして大急ぎでみやこへ帰って、天皇におさし出し申しました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
またしても女人の煩悩ぼんのうあみに掛りました。その上このような浅ましい姿で尊いおん眼に触れました。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ぼんうへあまりのもち三切みきれ四片よきれせてあつた。あみしたから小皿こざらのこつた醤油しやうゆいろえた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
あるいまた、アイヌ人が川に魚をりに行こうと思って、あみをもって出かけるとしますと、それをどこかの蕗の葉の下から見付けると、早速さっそくその小さい体をうさぎのように走らして
蕗の下の神様 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
また錘石おもりいしといふのがあります。それはひらたい石塊いしころ上下じようげすこいて紐絲ひもいとけるのに便利べんりにしてあるもので、あみおもりとか、機織はたおりに使用しようしたものかといはれてゐます。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
二十けんにもあま巨大きよだい建物たてものは、るから毒々どく/\しい栗色くりいろのペンキでられ、まどは岩たたみ鐵格子てつがうしそれでもまぬとえて、内側うちがはにはほそい、これ鐵製てつせいあみ張詰はりつめてある。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
だから、月夜は蟹があみにかかっても逃がしてやるんじゃないか。かすかすで、うまないもん。やみ夜までおくと、しこしこのみがついて、うまいんじゃ。ほんまじゃのに、せんせ。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
要するに、潮時を見て引揚げること、あみを破ってけ出すことが、できないからですよ。君はどうやら、無事にげ出したらしいが、また網に引っかからないように用心しなさいよ。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
昼は近傍きんりん頑童等わらべらこゝに来りて、松下の細流に小魚をあみする事もあれど、夜に入りては蛙のみ雨を誘ひて鳴き騒げども、その濁れる音調を驚ろきます足音とては、稀に聞くのみなり。
鬼心非鬼心:(実聞) (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
おりから淡々あわあわしいつきひかり鉄窓てっそうれて、ゆかうえあみたるごと墨画すみえゆめのように浮出うきだしたのは、いおうようなく、凄絶せいぜつまた惨絶さんぜつきわみであった、アンドレイ、エヒミチはよこたわったまま
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
春の日のぽかぽかあたっているみずの浜べで、りょうしたちがげんきよく舟うたをうたいながら、あみをひいたり舟をこいだりしているところを、まざまざと夢に見るようになりました。
浦島太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
或日あるひ近所きんじよかはれふに出かけて彼處かしこふち此所こゝあみつてはるうち、ふと網にかゝつたものがある、いて見たが容易よういあがらないので川にはひつてさぐこゝろみると一抱ひとかゝへもありさうないしである。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
〽落ちて行衛ゆくゑ白魚しらうをの、舟のかゞりにあみよりも、人目ひとめいとうて後先あとさきに………
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
すこしも勞れ不申、朝暮は是非散歩いたし候樣承り候得共、小あみ町に而は始終相調あひかなひ申候處、青山之ごく田舍ゐなか信吾しんご之屋敷御座候間、其宅をかり養生中に御座候間、朝暮は駒場野はわづか四五町も有之候故
遺牘 (旧字旧仮名) / 西郷隆盛(著)
下にはあみがはってありません。そのまま落ちれば命はないのです。
サーカスの怪人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「私も大すきです。『りすれどあみせず』若様おわかりですか?」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ぬしや誰れねぶの木かげの釣床つりどこあみのめもるる水色のきぬ
みだれ髪 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
漁夫ぎょふ一登場、びくを岩の上に置きあみを打つ。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
宇陀の高臺たかだいでシギのあみを張る。
このとき、どこからか、さっとくものような灰色はいいろかげが、眼前がんぜんをさえぎったかとおもうと、たちまちあみあたまからかかってしまいました。
すずめ (新字新仮名) / 小川未明(著)
予が面體めんたい見覺みおぼあるかとの御尋なり此時忠右衞門かしこまり奉る上意の通り私し儀山田奉行勤役中きんやくちう先年阿漕が浦なる殺生禁斷せつしやうきんだんの場所へ夜々よな/\あみ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その幹に鉄のはしごが両方から二つかかって二人の男が登って何かしきりにつなをたぐるようなあみを投げるようなかたちをやって居りました。
どぜう一尾いつぴき獲物えものい。いのを承知しやうちで、此処こゝむとふのは、けるとみづしづめたあみなかへ、なんともへない、うつくしいをんなうつる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
河にうまれて海に成長せいちやうすれども、むかしより海にてあみに入たる事なし。其始終そのしじゆうをおもふに、さけ鱗族りんぞく奇魚きぎよといふべし。
その天井の下には、やはりおなじ色のばしが、あみのように、縦横じゅうおうにとりつけられ、どこまでものびていった。
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)