おさ)” の例文
どじょうが居たらおさえたそうに見える。丸太ぐるみ、どか落しでげた、たった今。……いや、遁げたの候の。……あかふんどしにも恥じよかし。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
土神は俄に両手で耳をおさえて一目散に北の方へ走りました。だまっていたら自分が何をするかわからないのがおそろしくなったのです。
土神ときつね (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
相手が動きに移ろうとし、または移りかけた時に、当方からほどこすわざで、先方の出頭でがしらを撃つ出会面であいめん出小手でこておさ籠手こてはら籠手こて
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「ああ、いやだ! いやだ! 僕は東京へ歸りたくは無い」と叫んで、渠は兩手であたまをおさへたまま、呑牛と氷峰とのかたはらに倒れる。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
しづい、しづい』と彼は心に繰返くりかへしながら室内をのそ/\歩いて居たが、突然ソハの上に倒れて両手を顔にあてゝあふるゝ涙をおさへた。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
ふくみ何にもないが一ツ飮ふと戸棚とだなより取出す世帶せたいの貧乏徳利干上ひあがる財布のしま干物さしおさへつ三人が遠慮ゑんりよもなしに呑掛のみかけたりお安は娘に逢度さを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
暖簾のれんしたにうずくまって、まげ刷毛先はけさきを、ちょいとゆびおさえたまま、ぺこりとあたまをさげたのは、女房にょうぼうのおこのではなくて、男衆おとこしゅうしん七だった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
上からおさえ押えんとする雲の厚衾あつぶすまと爭つて、はね除け突き破り、再び自在な自己の天地を見出さんとするやうに、風は次第に吹きつのつて來る。
山岳美観:02 山岳美観 (旧字旧仮名) / 吉江喬松(著)
がたうはござりますが、不調法ぶてうほふでござりますし、それに空腹くうふくもよほしましたで。‥‥』と、玄竹げんちくはペコ/\になつたはら十徳じつとくうへからおさへた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
そのおさへて居ると云ふのは喜びに伴ふ悲哀でもんでもない、良人をつとと二人で子の傍へ帰つて来る事の出来なかつたのがあからままに悲しいのである。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ここは門司の埠頭ふとうです。一人の青年が東京へ急ぐこころをおさえて、大きな汽船から降り、倉庫のあたりを一人で静かに散歩していたとしましょう。
赤耀館事件の真相 (新字新仮名) / 海野十三(著)
老人は彼をおさえている人の名を聞いた時、これはもう彼の知りたがっていることは何でも教えないといけないということを、すぐにさとりました。
前の奴は二人で、一人は右の腕をおさえ、一人は胸倉を取って押える、うしろの奴はせつない、庚申塚と関取の間にはさまれ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
れないものはおそれるために、小火ぼやうちにこれをおさけることが出來できずして大事だいじいたらしめることがおほい。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
で、「ええ、思いませんとも」真面目に言いきりましたが、そういう口のから、へんに肉感的な微苦笑びくしょうが、唇をゆがめるのを、おさえられませんでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
って、ばけものをおさえますと、早太はやたがあずかっていた骨食ほねくい短剣たんけんいて、ただ一突ひとつきにしとめました。
(新字新仮名) / 楠山正雄(著)
驚いて口をはなし、手で柔くおさえると、それでも痛いという、血がにじんでも痛いとは言わなかった女だったのに、妊娠にんしんしたのかと乳首を見たが黒くもない。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
老人としよりの泥棒はまごついて外後架そとごうかへ逃込んで、中から戸をおさえていた。先生は持っているむちで、戸をはたいて
正太しようたはかけりてたもとおさへ、美登利みどりさん昨夕ゆふべ御免ごめんよと突然だしぬけにあやまれば、なにもおまへ謝罪わびられることい。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
おさへは大筒おほづゝちやうかせ、小筒持こづゝもち雑人ざふにん二十人を随へた瀬田で、そばに若党植松周次うゑまつしうじ、中間浅佶あさきちが附いてゐる。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
或はだいの上に石を横たへて左手の指にてこれおさへ右手には、前述の骨角こつかくの如き堅き物にて作れる棒を持ち、此棒このばうの尖端を石片の周縁いんえんに當て少しづつし缺きしならん。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
外から格子をおさながら、逃げ腰になつて物を言ふ男、——頬冠りに隱れて、よく人相もわかりませんが、まだ年も若いらしく、身扮みなりも物言ひも、堅氣の者らしくない
窓向まどむこうの壁がかぶりつきたいほどうまそうな狐色きつねいろに見えた。彼女は笑った。横隔膜おうかくまくを両手でおさえて笑った。腹が減り過ぎてかえっておかしくなる時が誰にでもあるものだ。
売春婦リゼット (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
傍屋はなれの、せまくるしいうすぎたないひかしつへ、わたしがおさえても止らぬ武者ぶるいに総身をふるわせながら入って行くと、そこでわたしをむかえたのは、白髪しらがあたまの老僕ろうぼくだった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
よかつたとか、悪かつたとか云ひながら、実はおさがたい愛着を其品物に感じて居るなつかしみ。
買ひものをする女 (新字旧仮名) / 三宅やす子(著)
強ひて聞かうとすると、『父さんはひとりで温泉に物を書きに行つてゐたんですよ。他の人なんか誰も行つてはしませんよ』かう真面目にぴたりとおさへつけるやうに言つた。
父親 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
天下何事か為すからざらんや、と奮然として瓜を地になげうてば、護衛の軍士皆激怒して、すすんで昺と貴とをとらえ、かねて朝廷に内通せる葛誠かつせい盧振ろしんを殿下に取っておさえたり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
此時このとき不意ふいに、波間なみまからをどつて、艇中ていちう飛込とびこんだ一尾いつぴき小魚こざかな日出雄少年ひでをせうねん小猫こねこごとひるがへして、つておさへた。『に、にがしては。』とわたくし周章あはてゝ、そのうへまろびかゝつた。
おさえる必要上左手の指のつめえ加減を気にするものだが必ず三日目ごとに爪をらせやすり
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いや飛乗らうものならぐに顛覆てんぷくするに決つてるが、其れと見て岸に居る一人のたちばうが船をおさへてれる。其処そこへ船の中から差出す船頭の手につかまつてつと乗つたのだ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
海はとゞろきわたりて、若き牧神フォーンごとく吹く風は、其手そのておさゆるころもぎて、路上に若き女をはずかしめんとす。あたゝかく、うつら/\と暮れて行く Basqueバスク の里の夕まぐれ。
「馭者だ!今朝我々を乗せてきた馭者をおさえてこい。早くとり押えてこい!」
それで式のある日などには、夫人が無理におさえつけ、女中までが手伝ってさわぎながら、まるで駄々ッ子を扱うように、あやしたりすかしたりして、いやがるのをいて着せねばならなかった。
「そう?——寒いのね」うやうやしく座ぶとんをすすむるおんなをちょっと顧みて、浪子のそば近くすわりつ。桐胴きりどう火鉢ひばち指環ゆびわの宝石きらきらと輝く手をかざしつつ、桜色ににおえるほおおさう。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
また一方には上士じょうし下士かしとの分界をなおあきらかにして下士の首をおさえんとの考を交え、そのじつはこれがため費用を省くにもあらず、武備をさかんにするにもあらず、ただ一事無益の好事こうずくわだてたるのみ。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
博士の仕付しつけで、この娘は、程なくおしおされもせぬ立派な香料師になつた。
夜中よなか怪猫かいべうあらはれてわたしむねおさへた。
ねこ (旧字旧仮名) / 北村兼子(著)
「誰をおさえに」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
てこら」とホモイのお父さんがガラスのはこおさえたので、きつねはよろよろして、とうとうはこいたままげて行ってしまいました。
貝の火 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
話し御油斷ごゆだんあるべからずと云ふにより又七點頭うなづき今宵こよひもし菊が來たらばわれぢきに取ておさなはを掛くべし其時其方は早々さう/\加賀屋長兵衞を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
婦人をんな衣服きものひツかけて椽側えんがははいつてて、突然いきなりおびらうとすると、白痴ばかしさうにおさへてはなさず、げて。婦人をんなむねおさへやうとした。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
弁慶べんけいはくやしがって、はねきようとしましたが、おもいしおさえられたようにちっともうごかれないので、うんうんうなっていました。牛若うしわか背中せなかの上で
牛若と弁慶 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
と、上の甲板からは、ダイビングの女子選手が、胴のまわりを、吊鐶つりわおさえたまま、空中に、さッと飛びこむ。アクロバットなどより真面目まじめな美しさです。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
えつおさえつ話をしながら酒宴さかもりをして居りましたが、其の内にだん/\と爺さん婆さんも微酔ほろよいになりました。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
たい容顏きりようほうなれども、いかにもいかにもの田舍風いなかふう午房縞ごぼうじま綿入わたいれにろんなく白木綿しろもめんおびあを毛布けつとひざしたに、まへこゞみにりて兩手りようてかしらをしかとおさへし。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
もうし。お寒うはござりませぬか」笛を置いた若衆の左の手が、仰向あおむけになっている甘利の左の胸を軽くおさえた。ちょうど浅葱色あさぎいろあわせもんの染めいてある辺である。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
おさえたたもとはらって、おせんがからだをひねったその刹那せつな、ひょいと徳太郎とくたろう手首てくびをつかんで、にやりわらったのは、かさもささずに、あたまから桐油とうゆかぶった彫師ほりしまつろうだった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ドアを押して入ると、ムッとせかえるような生臭なまぐさ暖気だんきが、真正面から帆村の鼻をおさえた。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
天滿與力てんまよりき何某なにがしが、門前もんぜん旅籠屋はたごやとまり、大醉たいすゐして亂暴らんばうし、拔刀ばつたう戸障子としやうじやぶつたが、多田院ただのゐん寺武士てらざむらひ劍術けんじゆつらないので、おさへにくことも出來できなかつたといふはなし
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
額、座蒲団、花瓶はなかめ、書棚、火鉢、机と一順二階のしなおさへ終ると、執達吏と債権者は下へ降りた。保雄もいて降りたが、美奈子は末の娘のを抱いて火鉢の前に目を泣きはらして座つて居た。
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)