すん)” の例文
「ウム、てめえが自斎らしいたあ、その髯と風態で立場から感づいていたんだが、はッきり分った以上は、もう一すんも馬はやれねえ」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とりわけひだりの手がみぎの手より四すんながかったものですから、みの二ばいもあるつよゆみに、二ばいもあるながをつがえてはいたのです。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
見るとその中には、小指の太さに束ねた長さ八すんばかりのかもじが一房と、よごれた女の革手袋がかたしと、セルロイドの櫛が一枚あった。
謎の咬傷 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
すん近くもある鶏の脚の骨を、二、三度不器用に大きい口でくわえたり吐き出したりしているうちに、すっぽりと呑み込んでしまうのである。
由布院行 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
ところが長い間そこにたたずんでいたものと見えて、磁石じしゃくで吸い付けられたように、両足は固く重くなって一すんも動きそうにはなかった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「豆ちゃん。お前。髭さんの大魔術をやるといいわ。一すんだめし五だめし、美人の獄門ごくもんてえのを、ね、いいだろ。おやりよ」
踊る一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ただ幾分か優しいように着こなすだけであって着物の仕立方したてかたは同じ事である。帯は幅一すん位、たけは八尺位、まあ細帯ほそおびのようなものです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
すんぐらいあるふなをとって、顔をまっにしてよろこんでいたのだった。「だまってろ、だまってろ。」しゅっこが云った。
さいかち淵 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
しばらくして吉は、その丸太を三、四すんも厚味のある幅広い長方形のものにしてから、それと一緒に鉛筆と剃刀とを持って屋根裏へ昇っていった。
笑われた子 (新字新仮名) / 横光利一(著)
霧は一すんさきも見えないくらいくなってきました。と、どうでしょう、鳥たちはまるで気でもちがったようになりました。
が、食ってしまって見ると、椀の底に残っているのは一すんほどのへびあたまだった。——そんな夢も色彩ははっきりしていた。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
其他そのたには、だい一のあなにもあるごとく、周圍しうゐ中央ちうわうとに、はゞ四五すんみぞ穿うがつてあるが、ごど床壇ゆかだんもうけてい。
と、画像のすその線がぼやけて、二三すん見えたばかりで宗右衛門の胸はいくらかときめいた。まだいけないと思つてあはてゝ宗右衛門は眼を閉ぢた。
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
しかし、そのおおきさは矢張やはり五すんばかり蒼味あおみがかったちゃっぽい唐服からふくて、そしてきれいな羽根はねやしてるのでした。
げんのしようこ牻牛児ぼうぎゅうじ。植物。草の名。野生やせいにして葉は五つに分れ鋸歯のこぎりばの如ききざみありて長さ一すんばかり、対生たいせいす。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「こうれ、うめえものろえまあ」といつてけてると一すんばかりの蟷螂かまきりをのもたげてちよろちよろとあるした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
わたし今朝けさ急患きゅうかんがあつて往診おうしんかけました。ところがきにもかえりにも、老人ろうじんうちもんが五すんほどひらきかかつていたから、へんなことだとおもつたのです。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
書類は厚さにしてほぼ二すんもあったが、風の通らない湿気しっけた所に長い間放り込んであったせいか、虫に食われた一筋のあとが偶然健三の眼を懐古的にした。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
じゃすんにしてへびを呑む。翁が十歳ばかりの年の冬に家人から十銭玉を一個握らせられて、蒟蒻こんにゃく買いにられた。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
清次せいじは、ちからいっぱいにそのりました。すると、は、ふかはいっていたとみえて根本ねもとから一、二すんしたのところで、ぽきりとれてしまいました。
僕のかきの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ともかく、一すん延しにしてその間にしかるべき応急手段をめぐらそうという魂胆こんたん。タヌは、四分の三身トロワ・キャアという仕立か外套に腕を通し運転用手袋クーリスパンをはきながら
やうやなほしてやつたれいが、たつた五りやうであつたのには、一すんりやう規定きていにして、あまりに輕少けいせうだと、流石さすが淡白たんぱく玄竹げんちくすこおこつて、の五りやうかへした。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
不思議に思って、蝶々がする風情に、手で羽のごとく手巾を揺動かすと、一すんばかり襖が…………い……た。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぐっとたづなを左手にしめて、清兵衛せいべえは二の太刀たちちおろす。相手はぱっととびのきざま、横にはらった一刀で、清兵衛のひざがしらを一すんばかりきった。
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
女のかひなは生きてるうちと同じやうに、亡くなつてからも学者なぞの為めには、一すんも動かうとはしなかつた。
まし種々いろ/\に手をかへいひよるゆゑをつと喜八と申者あるうちは御心に從ひては女の道たち申さずと一すんのがれに云拔いひぬけけるを或時粂之進ちやくま持來もちきたる其手をらへ是程までに其方を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
南無大慈大悲なむだいじだいひ観世音菩薩くわんぜおんぼさつ……いやアおほきなもんですな、人が盲目めくらだと思つてだますんです、浅草あさくさ観音くわんおんさまは一すんだつて、虚言うそばツかり、おほきなもんですな。
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
相手の人にお世辞せじを述べるか、あるいはみだりに自分を卑下ひげして、なさずともよいお辞儀じぎをなし、みずから五しゃくすん体躯からだを四尺三尺にちぢめ、それでも不足すれば
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
忙しい家の嫁や娘は、一日にせいぜい五か一すん、一枚に十年もかかったというものを自慢にしていた。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それが一すん燃えれば一時間というように定めていたが、時計が這入って来たので非常に便利になった。
やっと雨が小降りになったので、わたくしたちは、めったむしょうにツェレの原っぱのほうへ馬を進めましたが、あたりは一すんさきも見えないような眞暗闇でした。
ちょうど光の霧に包まれたように、表面から一すんばかりの空間に、澄んだ青白い光が流れ、それが全身をしっくりと包んで、陰闇の中から朦朧もうろうと浮き出させている。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それはねこのため、兒猫こねこのため、五すんにたらぬちひさなねこぴきで、五しやくちかからだてあます。くるしい。
ねこ (旧字旧仮名) / 北村兼子(著)
はなから羽織はおりッたくった伝吉でんきちは、背筋せすじが二すんがったなりにッかけると、もう一はなりもぎって、喧嘩犬けんかいぬのように、夢中むちゅう見世みせした。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
すん、雪のように真っ白ですこぶる可愛らしいので、彼はそれを買って帰ってかめのなかに養って置くと、日を経るにしたがって大きくなって、やがて一尺ほどにもなったので
可哀相かあいさうに!それはあとまつりでした!あいちやんは段々だん/\おほきくなるばかり、ゆかうへひざまづかなければならなくなつて、其爲そのため部屋へやたちまち一すん隙間すきまもないほどになりました
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
たうたかさ三じやくすん三尖方形さんせんほうけい大理石だいりせきで、そのなめらかなる表面ひやうめんには「大日本帝國新領地朝日島だいにつぽんていこくしんりようちあさひとう」なる十一ふかきざまれて、たふ裏面うらには、發見はつけん時日じじつと、發見者はつけんしや櫻木海軍大佐さくらぎかいぐんたいさとが
すんほどにのびた院内ゐんない若草わかぐさが、下駄げたやはらかくれて、つちしめりがしつとりとうるほひをつてゐる。かすかなかぜきつけられて、あめいとはさわ/\とかさち、にぎつたうるほす。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
その先の方は簑の尾の尖端から下へ一すんほども突き出て不恰好に反りかえっていた。
小さな出来事 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
富田さんは家令かれいだ。もう年よりで目がわるいから一すん角ぐらいの字で書いてある。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
夜學やがくはもとよりのこと明日あしたつとめにるさへがりて、一すんもお美尾みをそばはなれじとするに、あゝお前樣まへさま何故なぜそのやう聞分きゝわけてはくださらぬぞとあさましく、たがひのおもひそはそはにりて
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
マーキュ おゝ、ても𢌞まはるわ、すんからしゃくびる莫大小口めりやすぐちとは足下おぬしくちぢゃ。
麻布あざぶのお宅というのはね、あのひとの居間の天井は、古代更紗こだいさらさで張ってあるのですとさ、それが一すん何円てしようっていうのだから剛勢じゃありませんか、何しろ女に生れなけりゃ駄目ですね
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
天皇はお身のたけが九しゃく二寸五、お歯のながさが一すんはばが二おありになりました。そのお歯は上下とも同じようによくおそろいになって、ちょうど玉をつないだようにおきれいでした。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
すんとははずしません。目黒へ行って訊いて下されば、すぐわかることです
をつけてしないと、れて、とれてしまひますよ。それからふと麥藁むぎわらふしのあるしたのところを一すんばかりおまへさんのつめでおきなさい。これもをつけてしないと、みんなけてしまひますよ。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
其れから一切の句読くどく其他そのたの記号をも排斥するかはりに代数学の符号があらたに採用され、ぎやうれんわかつのも不経済だとあつてれんの場合だけに約一すんばかり字間をけ、其他そのたは散文の如くに続けて書く。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
もう一すん一寸に暗くなって行く時、よくは分らないが、お客さんというのはでっぷりふとった、眉の細くて長いきれいなのがわずかに見える、耳朶みみたぶはなはだ大きい、頭はよほど禿げている、まあ六十近い男。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
歌をかぞへその子この子にならふなのまだすんならぬ白百合の芽よ
みだれ髪 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
そのあいだに一点の帆影はんえいも見えない、一すん陸影りくえいも見えない。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)