ふと)” の例文
みみずは、おもいきりいきながいて、ジーイ、ジーイ、といい、かえるは、ふとく、みじかく、コロ、コロ、といって、うたっていました。
春の真昼 (新字新仮名) / 小川未明(著)
親仁おやぢわめくと、婦人をんな一寸ちよいとつてしろつまさきをちよろちよろと真黒まツくろすゝけたふとはしらたてつて、うまとゞかぬほどに小隠こがくれた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
だが、そこへ来たのは噂をしていた者ではなく、丹前を着た別なお客、ふとじしでいい年をして、トロンとした目で手拭てぬぐいを探している。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つめは地面をひっかきしっぽはみじかくふとくなり、耳はつったち、口からはあわをふき、目は大きくひらいて、ほのおのようにかがやきました。
「うん」と、清七は大きくうなずいて、「子分が何人居るか知らんけんど、することだけはふといのう。四斗樽一挺とは、豪勢じゃ」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
百姓は、そっと黒いつめをしたどろまみれのふとゆびをのばして、まだひくひくひっつれているわたしのくちびるにかるくさわりました。
最もほそく作られたるものは其原料げんれう甚だ見分みわけ難けれどややふときもの及び未成みせいのものをつらね考ふれば、あかがひのへり部分ぶぶんなる事を知るを得。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
ふと麥藁むぎわらにはかなら一方いつぱうふしのあるのがります。それが出來できましたら、ほそはう麥藁むぎわらふと麥藁むぎわらけたところへむやうになさい。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「馬鹿ね。二時間許り損をして」と云ひながら、折角いた水彩のうへへ、横縦に二三本ふとい棒を引いて、絵の具函のふたをぱたりと伏せた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
はなしませう』とつて海龜うみがめふと銅鑼聲どらごゑで、『おすわりな、二人ふたりとも、それでわたしはなをへるまで、一言ひとことでも饒舌しやべつてはならない』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
手桶てをけつめたいみづさらした蕎麥そば杉箸すぎはしのやうにふといのに、黄蜀葵ねり特色とくしよくこはさとなめらかさとでわんからをどさうるのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
庇間合ひあはひ捨置すておき早足はやあし逃出にげいだし手拭ひにて深く頬冠ほゝかむりをなしきもふとくも坂本通りを逃行くをりから向うより町方の定廻り同心手先三人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
我はかのふとみにくき肩の上に坐せり、ねがはくは我を抱きたまへといはんと思ひしかどもおもふ如くに聲出でざりき 九一—九三
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
猫は、すばやく木の上へ跳びあがって、いく本ものふとい枝やこんもりした葉が自分のからだをすっかりかくしてくれるこずえへすわりこみました。
う云いながら、色の白いふとじしの体を其処へ表わしたのは、かやの婆やのお常である。婆やは両手を広げる様な恰好かっこうをして、かやに近づいた。
かやの生立 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「その通りだ。そこで俺は三十七を金科玉条きんかぎょくじょうとしている。八以上は困ると言ってあるのに、青山君の奥さんは四十三のふとちょを持って来たんだ」
人生正会員 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
といって、ふときりして、の中につっんできました。このいたきりを木のひつの上からさしみますと、中で山姥やまうばぼけたこえ
山姥の話 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「それは親切とも」いきなりふとい声がしました。気がついてみると、ああ、二人ともいっしょにゆめを見ていたのでした。
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ひとつおかしいのは肉体にくたい幽体ゆうたいとのあいだひもがついてることで、一ばんふといのがはらはらとをつなしろひもで、それは丁度ちょうど小指位こゆびぐらいふとさでございます。
このぼうおほきくないものは、つた棍棒こんぼうかとおもはれますが、ふとくておほきなものには、とうていつてりまはすことの出來できないものがありますから
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
やがて彼れ衣嚢かくしを探りいとふとやかなる嗅煙草かぎたばこの箱を取出とりいだし幾度か鼻に当て我を忘れて其香気をめずる如くに見せかくる、れど余はかねてより彼れに此癖あるを知れり
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
要吉はくやしさに思わず、ふとったおかみさんのからだをむこうへつきとばしたゆめを見て目をさましました。
水菓子屋の要吉 (新字新仮名) / 木内高音(著)
いませたる傘屋かさや先代せんだいふとぱらのおまつとて一代いちだい身上しんじやうをあげたる、女相撲をんなずまふのやうな老婆樣ばゝさまありき、六年前ろくねんまへふゆこと寺參てらまゐりのかへりに角兵衞かくべゑ子供こどもひろふて
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その古い色を見ると、木村の父のふとぱらな鋭い性格と、波瀾はらんの多い生涯しょうがい極印ごくいんがすわっているように見えた。木村はそれを葉子の用にと残して行ったのだった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
二年生のエピファーノフが、ナイフと一ルーブリ銀貨ぎんかをなくしたのである。このあかいほっぺたをしたふとっちょの子供は、盗難とうなんに気がつくと、わっと泣声なきごえをあげた。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
それから五日目、三月の宵のお月樣が少しばかりふとつて、櫻の便りがあちこちから、活溌に傳はつて來る頃、思ひも寄らぬ客が明神下の平次の長屋を驚かしました。
月を負ひて其の顏は定かならねども、立烏帽子に綾長そばたか布衣ほいを着け、蛭卷ひるまきの太刀のつかふときをよこたへたる夜目よめにもさはやかなる出立いでたちは、何れ六波羅わたりの内人うちびとと知られたり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
この快挙を具体化させた者は、ドレゴ、水戸、エミリーの三人と、ふとぱらのケノフスキーだった。彼等間の友愛と信頼感と感情とが、この事を早く搬んだのであった。
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
こういうように三方は山でふさがっているが、ただ一方川下の方へと行けば、だんだんに山合やまあいひろくなって、川がふとって、村々がにぎやかになって、ついに甲州街道へ出て
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
金田 うんこそなんか、そぎやんふとあしば、やあち……。おい、とみ公、コンニヤクを一杯……。
牛山ホテル(五場) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
私は飛礫つぶてを打つことが好きであった。非常に高い樹のてっぺんには、ことに杏などは、立派な大きなやつがあるかぎりの日光に驕りふとって、こがね色によく輝いていた。
幼年時代 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「おれのつのはなんてうつくしいんだらう。だが、このあしほそいことはどうだろう、もすこしふとかつたらなア」と独語ひとりごといつた。そこへ猟人かりうどた。おどろいて鹿しかげだした。
天滿與力てんまよりきは、ふとぼうなにかでむねでもかれたやうに、よろ/\としながら、無念氣むねんげ玄竹げんちく坊主頭ばうずあたまにらけたが、『多田院御用ただのゐんごよう』の五文字いつもじは、惡魔除あくまよけの御符ごふうごと
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
製煉所の銅煙は、禿げ山の山腹のふと短かい二本の煙突から低く街に這いおりて、靄のように長屋を襲った。いがらっぽいその煙にあうと、犬もはげしく、くしゃみをした。
土鼠と落盤 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
天業てんげふ恢弘くわいこう黎明しののめ、鎭みに鎭む底つ岩根いはねの上に宮柱みやばしらふとしき立てた橿原かしはら高御座たかみくらを、人皇第一代神倭磐余彦かむやまといはれひこ天皇すめらみことを、ああ、大和やまとは國のまほろば、とりよろふ青垣あをがきとびは舞ひ
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
間口まくち九間の屋根やねのきに初春の頃の氷柱つらゝ幾条いくすぢもならびさがりたる、その長短ちやうたんはひとしからねども、長きは六七尺もさがりたるがふとさは二尺めぐりにひらみたるもあり
ふとの声にはなりきらないので、師匠を苛々いらいらさせ、ざっと一段あげるのにたっぷり四日かかったのだったが、その間に「日吉丸」とか「朝顔」とか「堀川」、「壺坂」など
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
備前の新太郎少将が、ある時お微行しのびで岡山の町を通つた事があつた。普魯西プロシヤのフレデリツク大王は忍び歩きの時でも、いつもにぎふとステツキり廻して途々みち/\なまものを見ると
ふとった奴国の宮の君長ひとこのかみは、童男と三人の宿禰すくねとを従えてやぐらの下で、痩せ細った王子の長羅ながらと並んでいた。長羅は過ぎた狩猟の日、行衛ゆくえ不明となって奴国の宮を騒がせた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
ところで「その大地主さんて人は人を助けるのにふとぱらになれそうな人だとお前さんは思うかね?——お前さんの話だと、その人も困った羽目になってるということだが。」
その時、僕は何だかさげすむやうな気持で二人を見つめてやつた。男は痩せて鋭い顔をしてゐる。山のぼりの仕度をして、背嚢ルツクサツクを負つてゐる。女は稍ふとじしで、醜い顔をしてゐる。
接吻 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
すぎがたにちてゐたのは、そのときて忘れたなはなのです。)をとこ血相けつそうへたままふと太刀たちきました。とおもふとくちかずに、憤然ふんぜんとわたしへびかかりました。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
くきくらべて非常ひじようふとながくなり、いはなどにふかくもぐりこんでゐます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
柔順な若い男は、ふとった浮気婆さんのために、頭から押しつぶされています。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
紳士たちのふと聲音こわねと貴婦人たちの銀のやうな調子アクセントとが美しくからみ合つてゐた。
文豪ぶんごうジョンソンが若い時非常の貧苦を経た結果、位置が出来ても、物を食えばひたいふとすじあらわれ、あせを流し、犬の如くむしゃ/\喰うた、と云う逸話を思いうかべて、甚可哀想かあいそうになった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
遠いところでんでいるのが、だんだん近くなって来て、ふとい声が耳のそばでひびくのを聞いた時に、清造は、はっとわれに返りました。気がついてみると、それは凧屋たこやの店のうらでした。
清造と沼 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
年ごろで、ますますふとる一方の小ツルの目は、全く糸のように細くなっていた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
ふといみきのかわをはがれ、まるはだかの、ほそっこいものにされて、とうとう、木だかなんだかわけのわからないものになると、この若いもみの木は、それをみてこわがってふるえました。
その密儀ミステリーの香気のゆえに、何となく人らしくない感じもする。しかしふとじしの女であって唐風の衣裳をつけている点は変わらない。だからインドの女神としての印象を与えるとはいえない。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)