あやふ)” の例文
いまかならずしも(六四)其身そのみこれもらさざるも、しかも((説者ノ))((適〻))かくところことおよばんに、かくごとものあやふし。
ほとんあやふかつたその時、私達は自らすくふために、十ぶんにそのちからうたがひをのこしながらも、愛とその結婚にかくを求めようとしました。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
言下ごんか勿焉こつえんと消えしやいばの光は、早くも宮が乱鬢らんびんかすめてあらはれぬ。啊呀あなやと貫一のさけぶ時、いしくも彼は跂起はねおきざまに突来るきつさきあやふはづして
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
その始末をば媼深く祕めかくす樣なれど、姫の命もあやふかるべき程の事なりきとぞ。姫は彼公子にたづね出されじとて、再び羅馬に逃れ來たり。
それにわたくしあやふければ、おとうとたすけてくれます、わたくしもまたおとうと一人ひとりころしません。それ二人ふたりとも大丈夫だいぢやうぶおもひますから。すこしもこはくはござらぬ。
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
で、その子は生れたその日に、『慈善おかみ』の冷たい膝に——今夜、僕があやふく埋められかけた雪だまりのやうに冷たい膝に、抱きとられたのです。
茶に染返そめかへしたる布子ぬのこなり是は取置とりおけと申付られやがて火もしづまりしかば皆々火事場をひかれけり扨又喜八はあやふくも袖を切て其の場を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
と詠みしも今の棧橋かけはしの所にては有まじ四五丁のぼりかけて谷に寄たるかたに土地の者の行く近道あり折々此の近道あれど草深く道の跡もさだかならであやふければ是を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
「早い話が、何家どこの大事な公達きんだちだツて、要するに、親の淫行の收穫よ。ふゝゝゝ」とあやふく快げに笑出さうとして
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
〔譯〕已むことを得ざるのいきほひうごけば、則ち動いてくわつせず。ぐ可らざるのみちめば、則ち履んであやふからず。
さゝ、はやなしゃれ。生存いきながらへて、後日ごじつ自分じぶんは、狂人きちがひ仁情なさけで、あやふところたすかったとおひなされ。
着流きなが散髪ざんぱつの男がいかにも思ひやつれたふう足許あしもとあやふあゆみ出る。女とれちがひに顔を見合みあはして
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
あやふく引つくり返りさうになつて、後ろに眼を光らせてゐる、ガラツ八に押し戻されたほどです。
あやふかつた。危かつた。——婆やの手伝などをしてゐる面窶おもやつれした顔を今更見てゐると、娘がまだ/\飼兎かひうさぎか何かとさう違ひのないほど、無力無抵抗なことを沁々しみ/″\と感じるのだ。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
丑松は其葉蔭を選んで、時々私語さゝやくやうに枝を渡る微風の音にも胸を踊らせ乍ら、懐中ふところから例の新聞を取出してひろげて見ると——蓮太郎の容体は余程あやふいやうに書いてあつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
こんな薄氷を渡るやうなあやふい心で(実際今度発見されたら……あゝ考へても怖ろしい)
青白き公園 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
たゞ見るさへあやふければ、芭蕉ばせうが蝶も居直ゐなほる笠の上といひし木曾きそかけはしにもをさ/\おとらず。
象だの、荷車だのといふものは、よくお役人の手技てぬかりの穴へ脚を突込むもので、その頃常磐橋にも橋板のひどく損じた所があつた。象はあやふくそこへ片足を踏込んで、横つ倒しに倒れた。
はなしではあるが一月ひとつきのうちに生命せいめいあやふいとかつたさうな、いてるとあまこゝろよくもないに當人たうにんしきりといやがる樣子やうすなり、ま、引移ひきうつりをするがからうとて此處こゝさがさせてはたが
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
愛嬌あいきやうもありなか/\大腹おほつぱらひとです、布袋和尚ほていをしやうえんがあるのは住居すまゐ悉皆みなてらです、こと彼程あれほどるまでには、跣足はだしで流れ川をわたやうあやふい事も度々たび/\ツたとさ、遊ぶ時には大袋おほぶくろひろげる事もあり
七福神詣 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
まことに傍観わきめは心細げなれど、海浅くして沙平らかなるところの事とて、まことはあやふげ更に無く、海原に我たゞ一人立ちたる心地よさ、そらよりおろす風に塵無く、眼に入るものに厭ふべきも無し。
鼠頭魚釣り (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
破れた雨戸から雨がつぶてのやうに降込んで来た。従つて何処もれてゐないところはなかつた。廊下に出ようとすると、風が凄じく吹いて来て、手に持つた蝋燭はあやふくそのために消されようとした。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
見ればおぼろあやふげに、ねぶれるけもの
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
ジウスのさへあやふきを
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
替て責られし故今は一めいあやふきとの事を妻のお節はきゝ及び有るにもあられぬ思ひなれば村役人倶々とも/″\お慈悲願ひに出けれども其度々たび/\役場にてしかりを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
なに遠慮ゑんりよをしねえでびるほどやんなせえ、生命いのちあやふくなりや、くすりらあ、其為そのためわしがついてるんだぜ、なあねえさん。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
(七一)これふるにかならさざるところもつてし、これとどむるにあたはざるところもつてするものあやふし。
彼の存在といふ陽の光からまつたく追放しないと彼が思つてゐるのではないかとあやふく希望を持ちさうになつた。
あやまちて野中の古井ふるゐに落ちたる人の、沈みも果てず、あがりも得為えせず、命の綱とあやふくも取縋とりすがりたる草の根を、ねずみきたりてむにふと云へる比喩たとへ最能いとよく似たり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
自體人間の生存税は滅切めつきり高價かうかになツて來た、こと吾々われ/\藝術家は激戰げきせんさい中で平和演説へいわえんぜつツてゐるやうなもんだから、存立そんりつあやふい!………これからは誰が俺のみたして呉れるんだ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
きしにたちてこれをみれば、かのはしご石壇いしだんのごとくふみくだり、橋をゆく事平地のごとく、そのなかばにいたれば橋揺々えう/\としてあやふき事いはんかたなく、見るにさへ身の毛いよだつばかり也。
帰りに乗つた駿河丸するがまるは敵艦に追掛けられたといふ船だ。あやふいところをのがれたことを同じ船の上で笑話わらひばなしのやうにするのを聞いて来て、私は小諸の家の方へ引返してから其話をお島にして聞かせた。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
わたしもおあとからまゐりまするとてのうちには看護まもりひまをうかゞひていだすこと二度にど三度さんどもあり、井戸ゐどにはふたき、きれものとてははさみ一挺いつちやうにかゝらぬやうとの心配こゝろくばりも、あやふきはやまひのさするわざかも
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
島田しまだつて弱々しく両肩りやうかたさがつた小作こづくりの姿すがたと、口尻くちじりのしまつた円顔まるがほ、十六七の同じやうな年頃としごろとが、長吉ちやうきちをして瞬間しゆんかんあやふくベンチから飛び立たせやうとしたほどいとのことを連想せしめた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
かぎりなきあやふさのうちに、二人ふたりかぎりなくうれしくへり。
み国はし今あやふきに立ち
見込れ甚だあやふく心得只今言上せし通り其こゝろざしも知りしゆゑくしと取替に金子を預け其夜の盜難たうなんのがれたる儀に御座りますと云立ければ大岡殿大聲を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
宮はをんなともしらせ、自らは貫一の手を牽かんとせしに、彼はよろめきつつ肩にすがりてつひに放さざりければ、宮はその身一つさへあやふきに、やうやうたすけて書斎にりぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
貴人きじん(六五)過端くわたんり、しかうして説者ぜいしやあきらかに善議ぜんぎもつ其惡そのあくせばすなはあやふし。
もし一あしをあやまつ時はくだきてたきにおちいるめり、そのあやふき事いはん方なし。
列座れつざ方々かた/″\、いづれもかね御存ごぞんじのごとく、それがし勝手かつて不如意ふによいにて、すで先年せんねん公義こうぎより多分たぶん拜借はいしやくいたしたれど、なか/\それにて取續とりつゞかず、此際このさい家政かせい改革かいかくして勝手かつてとゝのまをさでは、一家いつかつひあやふさふらふ
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
私もお跡から参りまするとて日のうちには看護まもりの暇をうかがひて駆けいだすこと二度三度もあり、井戸にはふたを置き、きれ物とては鋏刀はさみちやう目にかからぬやうとの心配りも、あやふきは病ひのさする業かも
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かげ附纒つきまとあやふこひ履歴りれき
たもとを、はつとみだすと、お納戸なんど扱帶しごきめた、前褄まへづましぼるばかり、淺葱縮緬あさぎちりめん蹴出けだしからんで、踏出ふみだ白脛しらはぎを、くささきあやふめて……と、吹倒ふきたふされさうに撓々たわ/\つて、むねらしながら
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)