建物たてもの)” の例文
冷酷れいこく建物たてものかげになっているくらいところで、しかもつめたい鉄管てっかん周囲まわりで、あわれな三つのかげは、こうしてうごめいているのでありました。
石段に鉄管 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ハイ、御覽ごらんとほり、むらではおほきな建物たてものです。しかしこのおてら村中むらぢう人達ひとたちめにあるのです。わたしはこゝに御奉公ごほうこうしてるのです。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
しか今日こんにちところでは病院びやうゐんは、たしか資力ちから以上いじやう贅澤ぜいたくつてゐるので、餘計よけい建物たてもの餘計よけいやくなどで隨分ずゐぶん費用ひようおほつかつてゐるのです。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
その土地の裕福な情深い人々が五六人で、もつといゝ場所にもつと設備のいゝ建物たてものを建てる爲めに澤山の寄附を約束したのである。
我もこの時かゝる建物たてものをみしをおぼえぬ、また風をいとへどもほかに避くべき處なければ、われ身を導者の後方うしろに寄せたり 七—九
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
それからこんどは、島のまんなかにあるたいらな高台たかだいにのぼっていきました。そこには風車ふうしゃのほかは、建物たてものはなんにもありませんでした。
伊部熊蔵いのべくまぞう山掘夫やまほりどもや、あとからくりこんだ大久保おおくぼ手勢てぜいは、みな、貝殻虫かいがらむしのように、砦の建物たてものにもぐりこんでているようす。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのくせ、そこはだれも行く用事のない場所であったという証言しょうげんがあったので、建物たてもの請負人うけおいにんは一文の賠償金ばいしょうきんもしはらわないというのである。
おほきな藏々くら/″\建物たてものむなしくほどさい傭人やとひにん桃畑もゝばたけに一にち愉快ゆくわいつくすやうになれば病氣びやうきもけそりとわすれるのがれいであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
かういふ種類しゆるい建物たてもの設計せつけい施工しこうによつて地震ぢしんいためられる模樣もようかはるけれども、おほくの場合ばあひ地上階ちじようかい比較的ひかくてき丈夫じようぶ出來できてゐるため被害ひがいすくな
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
「王様の宮殿きゅうでんは、美しいけれど、大理石の建物たてものがないのは、玉にきずだとある旅人たびびともうしていました。大理石のとうでもたてられてはいかがですか?」
巨男の話 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
すなわち秋の田の苅穂かりほのいほも同じで、かりの建物たてものばかりに萱や藁、その他の不用品をつかっていたので、こんな名が今ものこっているのかと思う。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
いかさまふる建物たてものと思はれて、はしらさびがある。其代り唐紙からかみ立附たてつけが悪い。天井は真黒だ。洋燈許らんぷばかりが当世にひかつてゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
でつかい建物たてものや、ごてごてした裝飾には口をあけておつたまげても、こんな幽邃の美には一向に感心しない。浦島さん、あなたの上品じやうぼんもあてにならんね。
お伽草紙 (旧字旧仮名) / 太宰治(著)
しかし、球台たまたいたま、キユウ、チヨウク、おきやくの人から建物たてものかんじ、周圍しうい状態ぜうたい經營者けいえいしや經營振けいえいふり——さうした條件ぜうけんがいい持にそろふのはじつ困難こんなんな事なので
文壇球突物語 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
わたくしはうれしくもあれば、また意外いがいでもあり、わるるままにいそいで建物たてもの内部なかはいってますと、中央ちゅうおう正面しょうめん白木しらきつくえうえにははたして日頃ひごろ信仰しんこう目標まとである
町四方ちょうしほうもある、宏大なお屋敷は、樹木と土塀とで、厳重にかこまれておりまして、外から見ますると、内部なか建物たてものは、家根さえ見えないほどなのでございます。
怪しの者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
建物たてもの取𢌞とりまはした一棟ひとむね其池そのいけのあるうへばかり大屋根おほやね長方形ちやうはうけい切開きりひらいてあるから雨水あまみづたまつてる。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
道子みちこはし欄干らんかんをよせるとともに、真暗まつくら公園こうゑんうしろそびえてゐる松屋まつや建物たてもの屋根やねまど色取いろど燈火とうくわ見上みあげるを、すぐさまはしした桟橋さんばしから河面かはづらはううつした。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
「なに、これも侯爵こうしゃくのお城。いやどうも、お庭といい、建物たてものといい、こんなりっぱなお城は見たことがないわい。では、拝見はいけんしよう。どうぞ案内あんないをたのみますぞ。」
二十けんにもあま巨大きよだい建物たてものは、るから毒々どく/\しい栗色くりいろのペンキでられ、まどは岩たたみ鐵格子てつがうしそれでもまぬとえて、内側うちがはにはほそい、これ鐵製てつせいあみ張詰はりつめてある。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
にわかにぱっとくらくなり、そこらのこけはぐらぐらゆれ、あり歩哨ほしょう夢中むちゅうで頭をかかえました。をひらいてまた見ますと、あのまっ白な建物たてものは、柱がれてすっかり引っくりかえっています。
ありときのこ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
二人ふたりのこんなはなしは、いつまでたつてもつきなかつた、彼女かれやまかはが、かれにすぐにかんじられ。かれのいふそらくさ建物たてものは、彼女かれこゝろにすぐづいて思浮おもひうかべることが出來できるからであつた。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
建物たてものを建築するに、出来方できかたは同じように出来ても、作っている間に、ある所では技師職工しょっこうにいたるまで面白くこころよく仕事すると、他の一方には軋轢あつれきしょう同僚どうりょうなぐれとか、ぼうがこんなことをいったとか
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
あら 向ふにつづいてるまる円筒ゑんとうのやうな建物たてものはなにかしら
そのうちに、ニールスは牛小屋らしい建物たてものを見つけました。そこで、ガチョウたちをゆり起こして、その入口へつれていきました。
尖端せんたんうへけてゐるくぎと、へい、さてはまた別室べつしつ、こは露西亞ロシアおいて、たゞ病院びやうゐんと、監獄かんごくとにのみる、はかなき、あはれな、さびしい建物たてもの
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
たかやまはいり、ついで、いろいろの建物たてものはいるようにちかづきました。すると、まる屋根やねもあれば、またとがったのもありました。
消えた美しい不思議なにじ (新字新仮名) / 小川未明(著)
ソーンフィールドも好きです、その古風こふう閑寂かんじやくさ、古い、からすの木や枳殼からたちの木、灰色の建物たてものの正面、また鋼鐵色の空をうつす暗い窓の線などもね。
でもユッセルの町は子どもの目にそんなに美しくはなかったし、それに町のとうや古い建物たてものなどよりも、もっと気になるのはくつ屋の店であった。
我はネムブロットが、あたかも惑へるごとく、かの大いなる建物たてもののほとりに、己と共にセンナールにてたかぶれる民をながむるをみき 三四—三六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
山の五合目虚無僧壇こむそうだんとよぶところ、暗緑色あんりょくしょくかいへだてた向こうと、丸石まるいしたたみあげたとりで石垣いしがき黒木くろきをくんだ曲輪くるわ建物たてものらしいのがチラリと見える。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
和尚をしやうさん、和尚をしやうさん、こちらは大層たいそういお住居すまゐですね。このむら澤山たくさんうちがありましても、こちらにかなふところはありません。村中むらぢうだい一の建物たてものです。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
靜寂ひつそり人氣ひとけのなくなつたとき頽廢たいはいしつゝあるその建物たてもの何處どこにも生命いのちたもたれてるとはられぬほどかなしげであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
でつかい建物たてものや、ごてごてした装飾には口をあけておつたまげても、こんな幽邃の美には一向に感心しない。浦島さん、あなたの上品じやうぼんもあてにならんね。
お伽草紙 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
……おとやりだけ中空なかぞら相聳あひそびえて、つき太陽むかふるとく……建物たてものはさすがに偉大おほきい。——おぼろなかばかりはびこつたうし姿すがたも、ゆかはしねずみのやうにえた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
母に言文一致の手紙をかいた。——学校は始まつた。是から毎日出る。学校は大変広いい場所で、建物たてものも大変美くしい。真中まんなかに池がある。池の周囲まはりを散歩するのが楽しみだ。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
三月もたつと、巨男おおおとこがとってきた大理石はつきてしまいました。とうの高さは宮殿きゅうでんのどの建物たてものよりも高くなりました。それでも、王様は、それでよいとはおっしゃいませんでした。
巨男の話 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
建物たてもの土木工事どぼくこうじ耐震的たいしんてきにするといふようなことは、これまた平日へいじつおこなふべきことではあるが、しかしこれは其局そのきよくあたるものゝ注意ちゆういすべき事項じこうであつて、小國民しようこくみんあづからずともよいことである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
松屋まつや建物たてもの周囲ゐまはり燈火あかりすくな道端みちばたには四五にんヅヽをんなてゐないばんはない。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
まどの外の、まるで花火でいっぱいのような、あまの川のまん中に、黒い大きな建物たてものが四むねばかり立って、その一つの平屋根ひらやねの上に、もさめるような、青宝玉サファイア黄玉トパーズの大きな二つのすきとおったたま
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
あらまあ とりのやうに建物たてもの屋根やねの上にとまつてゐるわ
ちいさい建物たてものがありました。
しかし今日こんにちところでは病院びょういんは、たしか資力ちから以上いじょう贅沢ぜいたくっているので、余計よけい建物たてもの余計よけいやくなどで随分ずいぶん費用ひようおおつかっているのです。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
もう、は、れてしまって、西にしそらには一にち余炎よえんもうすれてしまいました。そして、もののかげや、建物たてものかげに、やみ暈取くまどっていました。
石段に鉄管 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのうちに、高いエントツの立っている大きな広い建物たてものがたくさんあって、そのまわりに小さいうちがいくつもならんでいるところへ来ました。
さてかく變りて後この聖なる建物たてものその處々ところ/″\より頭を出せり、即ち轅よりは三、かどよりはみな一を出せり 一四二—一四四
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
私は修道院に似た庭をずつと家の方まで見𢌞した。その家は大きな建物たてもので、その半分は灰色で古く見えた。そして殘りの半分はまつたく新らしかつた。
りやくぬぎがもつとつたはずぢやないか勘次かんじはどうかしやしないか」巡査じゆんさういつてあたりをたが勘次かんじちひさな建物たてもの何處どこにもそれは發見はつけんされなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
その坂のてっぺんから見下ろすと、目の前にはてしもなく大きな町が開けて、いちめんもうもうと立ち上がった黒けむりの中に、所どころ建物たてもののかげが見えた。