似合にあ)” の例文
ふいとつて、「一所いつしよな。」で、とほりて、みぎ濱野屋はまのやで、御自分ごじぶん、めい/\に似合にあふやうにお見立みたくだすつたものであつた。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
私が立派でないと同じ位にあなたも綺麗ぢやないが、しかし困つたやうな容子は君によく似合にあひますよ。それにその方が都合がいゝのだ。
「君、こまるじゃないか。すこしは、こっちのむねのうちを察してくれなくちゃ。日ごろ、あたまのいい君にも似合にあわないぜ」
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
二人は馬車を雇って、似合にあわしい家を捜して歩いた。「別に倹約をしなくても好い、まだおれの財産が無くなりはしないから」
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
「おまえさんには、くろ着物きものがよく似合にあうようだ。」といって、おじょうさまは、魔術使まじゅつつかいのおんなには、くろ着物きものをきせました。
初夏の空で笑う女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
山谷が驚いて豹一の顔を見ると、怖いほど蒼白あおじろみ、唇に血がにじんでいた。子供に似合にあわぬうらみの眼がぎらぎらしていた。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
そしてくやしまぎれに、ありもしないことをいろいろとこしらえて、おひめさまが平生へいぜい大臣だいじんのおむすめ似合にあわず、行儀ぎょうぎわるいことをさんざんにならべて
一寸法師 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「とまれーっ。」とさけびました。からだに似合にあわず、太いしゃがれ声を出したので、見物人けんぶつにんはびっくりしました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
戀人こひゞとそのうるはしい光明ひかりで、戀路こひぢやみをもらすといふ。またこひめくらならば、よるこそこひには一だん似合にあはず
このそうわかいに似合にあはずはなは落付おちついた話振はなしぶりをするをとこであつた。ひくこゑなに受答うけこたへをしたあとで、にやりとわら具合ぐあひなどは、まるをんなやうかんじを宗助そうすけあたへた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
こううたうと、とり黄金きんくさりを、おとうさんのくびのうえへおとしました。そのくさりはすっぽりとくびへかかって、おとうさんによく似合にあいました。おとうさんはうちはいって
裁判官さいばんくわんつひでに、王樣わうさまがなされました。王樣わうさまかつらうへかんむりいたゞき、如何いかにも不愉快ふゆくわいさうにえました、それのみならず、それはすこしも似合にあひませんでした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
するとO君はいつもに似合にあはず、肘掛ひぢかけ窓の戸などをしめはじめた。のみならず僕にかう言つて笑つた。
O君の新秋 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
まへまつり姿なり大層たいそうよく似合にあつて浦山うらやましかつた、わたしをとこだとんなふうがしてたい、れのよりもえたとめられて、なんれなんぞ、おまへこそうつくしいや
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
見ると、すがたに似合にあわぬ名刀をさしているので、こいつ一番セシめてやろうと、蚕婆はやなぎの木の上にかくれ、わっしはそしらぬ顔で、なれなれしく話しかけたものです
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ううん、派手なものは私に似合にあやしないの。それにそんなものは先へ寄って困るもの。」
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
柳川君やながはくんらばこれにておわかまうすが、春枝はるえ日出雄ひでをこと何分なにぶんにも——。』とかれ日頃ひごろ豪壯がうさうなる性質せいしつには似合にあはぬまで氣遣きづかはしに、あだか何者なにもの空中くうちゆう力強ちからつようでのありて
とはうも出来でけた、それはさうと君は大層たいそう衣服きものうたな、何所どこうた、ナニ柳原やなぎはらで八十五せん、安いの、うもこれ色気いろけいの本当ほんたうきみなにを着ても似合にあふぞじつ好男子かうだんしぢや
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
松島まつしまにあそぶきであつたか鴻斎翁こうさいおうはじめかれの文章を見た時、年の若いに似合にあはぬふでつきをあやしんで、剽窃へうせつしたのであらうととがめたとふ話を聞きましたが、漢文かんぶんく書いたのです
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「へい、ちつぢゞいには似合にあひましねえ、むらしゆわらふでがすが、八才やつつぐれえな小児こどもだね、へい、菊松きくまつつてふでがすよ。」
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
無口むくちな、おとなしそうなおとこ似合にあわず、きゅうおそろしいけんまくとなりました。おとこは、すぐさましていきました。
火を点ず (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかし、その形は姉のとはひどく異つてゐた——ずつとすらりとたれて似合にあつてゐた——一方のが清教徒めいて見えるだけ、こちらはしやれて見えた。
そして座敷ざしきのまん中に落ちつきはらってすわり、勿体もったいぶって考えていましたが、やがてぽんとひざをたたいて、とんまに似合にあわないおごそかな声で言いました。
とんまの六兵衛 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
きみのわるい顔に似合にあわず、鬼のお上さんは、ジャックのひもじそうなようすをみて、かわいそうにおもいました。それで、さもこまったように首をふって
ジャックと豆の木 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
正太しようたはじめて美登利みどりそでいて似合にあふね、いつつたの今朝けさかへ昨日きのふかへ何故なぜはやくせてはれなかつた、とうらめしげにあまゆれば、美登利みどりうちしほれて口重くちおも
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ヂュリ 乳母うばや、一しょに部屋へやて、明日あすねばならぬいっ似合にあ晴衣はれぎ手傳てつだうてえらんでくりゃ。
現にM子さんも始めに似合にあわず、妙に真剣な顔をしたまま、やはりK君の側に立っていたのです。
手紙 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
似合にあふでせう」と云つた。野々宮さんは何とも云はなかつた。くるりとうしろを向いた。後ろにはたゝみ一枚程の大きな画がある。其画は肖像画である。さうして一面に黒い。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
やなぎせいか、うめ化身けしんか、声すずしく手は白く、覆面すがたに似合にあわないやさしいすがたの者ばかりで、こうおつへいてい、どのかげもすべて一たい分身ぶんしんかと思われるほどみなおなじかたちだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はははは。きみは、見かけに似合にあわず臆病おくびょうだね。そんなことでは、これからきみに見せたいと思っていたものも、見せられはしない。見ている最中さいちゅう気絶きぜつなんかされると、やっかいだからね」
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
おや/\はさみおとをさせた。あつかましい。が、これにも似合にあはう……川柳せんりう横本よこぼんまくらはすつかけにあふぎながら
鳥影 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「ぢや、お化粧を直して坐つてごらんよ。髮は、今晩はそれでいゝわ。あしたの朝、髮ゆひさんへ行つてらつしやい。あんたはきつと結ひ綿わた似合にあふわね。」
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
と言ふよりむしろ若い婦人であつた。この人たちには、この着物は似合にあはなかつたし、大變綺麗な娘にさへ妙な風采を與へた。私はその娘たちをずつと見てゐた。
まいうらにして繻珍しゆちん鼻緒はなをといふのをくよ、似合にあふだらうかとへば、美登利みどりはくす/\わらひながら、せいひくひと角袖外套かくそでぐわいとう雪駄せつたばき、まあんなにか可笑をかしからう
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
これは、人違ひとちがいでないとおもいました。そして、かお似合にあわぬ、なんという、いやなだろうとおもいましたから、おばあさんは、おそろしいつきをして、にらんだのでした。
やんま (新字新仮名) / 小川未明(著)
かれさとりといふ美名びめいあざむかれて、かれ平生へいぜい似合にあはぬ冒險ばうけんこゝろみやうとくはだてたのである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そのえんじゅに張り渡した、この庭には似合にあわない、水色のハムモックにもふりいている。ハムモックの中に仰向あおむけになった、夏のズボンに胴衣チョッキしかつけない、小肥こぶとりの男にもふり撒いている。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
といって、ごちそうをおぼんにのせてしてくれました。ごちそうはたいへんうまかったし、あるじの様子ようすかお似合にあわず親切しんせつらしいので、三にんはすっかり安心あんしんして、べたりんだりしていました。
人馬 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
じつなんです。わたし主人しゆじんひますのが、身分柄みぶんがらにも似合にあはない、せゝツこましいひとでしてね。
人参 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
また馬鹿ばかなことをふよそんなよはだから病気びやうきがいつまでもなほりやアしないきみ心細こゝろぼそことつてたまへ御父おとつさんやおつかさんがどんなに心配しんぱいするかれません孝行かう/\きみにも似合にあはない。
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
おまえさんには、あおいろがよく似合にあうこと。ほんとうに、うつくしいむすめさんだ。しかしまれはこのまちひとでないようだが、どうして、このまちへきましたか。ったひとでもおありなさるのかね。
生きた人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
坂井さかゐうちもんはひつたら、玄關げんくわん勝手口かつてぐち仕切しきりになつてゐる生垣いけがきに、ふゆ似合にあはないぱつとしたあかいものがえた。そばつてわざ/\しらべると、それは人形にんぎやうけるちひさい夜具やぐであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かど青木堂あをきだうひだりて、つち眞白まつしろかわいた橘鮨たちばなずしまへを……うす橙色オレンジいろ涼傘ひがさ——たばがみのかみさんには似合にあはないが、あついからうも仕方しかたがない——涼傘ひがさ薄雲うすぐもの、しかしくものないさへぎつて
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さてもこのみのくまでに上手じやうずなるか、たゞしは此人このひとひし果報くわはうか、しろかね平打ひらうち一つに鴇色ときいろぶさの根掛ねがけむすびしを、いうにうつくしく似合にあたまへりとれば、束髮そくはつさしのはな一輪いちりん中々なか/\あいらしく
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「あの、あおっぽい着物きものが、ばかに似合にあっている。」
生きた人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
似合にあひます。」
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)