つらぬ)” の例文
麦の畑をつらぬいた細い道は、向こうに見えるひょろ長いはんの並木に通じて、その間から役場らしい藁葺屋根わらぶきやね水彩すいさい画のように見渡される。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
奧へ入つて見ると、後添のお國は、まゝしい二番目娘お雪の部屋で、床の中に入つたまゝ、見事に喉笛をつらぬかれて死んでをりました。
おどろいたのは、やまふたわかれの真中まんなかを、温泉宿をんせんやどつらぬいてながれる、かはを、何時いつへて、城趾しろあとはうたかすこしもおぼえがい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
またいかに他人が自分をうとんじても、我はあくまでも自らおもんじて、所信をつらぬくという、みずからいさぎよしとするところがなければならぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
この畜類ちくるゐ、まだ往生わうじやうしないか。』と、手頃てごろやりひねつてその心臟しんぞうつらぬくと、流石さすが猛獸まうじうたまらない、いかづちごとうなつて、背部うしろへドツとたをれた。
いずれにしても、この人の後にいて行くからには、どういう結果になっても、不平はないという固いものが一軍をつらぬいていた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ベアトリーチェかく、またかの喜べる魂等は、動かざる軸のつらぬく球となりて、そのはげしく燃ゆることあたかも彗星はうきぼしに似たりき 一〇—一二
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
草原をつらぬき、ヒースが道の兩側のすぐきはまで蓬々と生ひ繁つてゐる。が、それでもふと通りすぎる旅の人があるかも知れない。
将門傾国のはかりごときざすといへども、何ぞ旧主を忘れんや。貴閣且つ之を察するを賜はらば甚だ幸なり。一を以て万をつらぬく。将門謹言。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
大講堂を十個ぐらいうちつらぬいたようなこの広い試験室の中央には、噴水塔ふんすいとうのようなものがあって、上は、金属棒をくみあわせた檻になっていた。
人造人間の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
……心の臓にふれて、しかもこれを深くつらぬかず、さりげなきかすり傷の如くに見えますのは、鶴に近づいて手突矢をもって突いたゆえにございます
顎十郎捕物帳:09 丹頂の鶴 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
双方から打つ玉は大抵頭の上を越して、堺筋さかひすぢでは町家まちやの看板がはちの巣のやうにつらぬかれ、檐口のきぐちの瓦がくだかれてゐたのである。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
この事業はいまだ半途はんとにして如何いかになり行くべきや、常なき人の世のことはあらかじめいいがたし、ただこの趣意をつらぬかんこそ、わらわが将来の務めなれ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
戸をけると、露一白つゆいっぱく芝生しばふには吉野紙よしのがみを広げた様な蜘網くものあみが張って居る。小さな露の玉を瓔珞ようらくつらぬいたくもの糸が、枝から枝にだらりとさがって居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
父はあまり遠くない蘆の中で、カンテラを燃して数珠子釣りをやっている。洲の中の環虫類かんちゅうるいを糸にたくさんつらぬいて、数珠輪のようにして水に垂らす。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
神田小川町おがわまちの通にも私が一橋ひとつばしの中学校へ通う頃には大きな銀杏が煙草屋たばこやの屋根をつらぬいて電信柱よりも高くそびえていた。
視線は毒矢のごとくくうつらぬいて、会釈えしゃくもなく余が眉間みけんに落ちる。はっと思う間に、小女郎が、またはたと襖を立て切った。あとは至極しごく呑気のんきな春となる。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わたししや地球ちきうつらぬいて一直線ちよくせんちてくのぢやないかしら!さかさになつてあるいてる人間にんげんなかつたらどんなに可笑をかしいでせう!オー可厭いやなこと
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
深海をも、影ふかい谷をも、ふたりで歩きつらぬくことになった。ひとりのためには、そこに、死が待っていたのだ。女のまことが、赤く咲いてもいたのだ。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
かたしめて立出たり折柄師走しはすの末なれば寒風かんぷうはだへつらぬく如きを追々の難儀に衣類は殘ず賣拂うりはらひ今は垢染あかじみたる袷に前垂帶まへだれおびをしめたるばかり勿々なか/\夜風はしのぎ難きを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
こはいかにするぞと叫びぬれども、かれ七一かつて聞かず顔にもてなしてなはをもて我が七二あぎとつらぬき、芦に船をつなぎ、我をかごに押入れて君が門に進み入る。
玄関げんかんの出入口と書いてある硝子戸ガラスどを引くと寄宿舎のように長い廊下ろうかが一本横につらぬいていて、それに並行へいこうして、六じょうの部屋が三ツ、鳥の箱のように並んでいる。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
続いて眼に触れたのは醜怪なる𤢖わろ三人の屍体で、一人いちにんは眼をつらぬかれた上に更に胸を貫かれ、一人は脳天を深くさされて、荒莚あらむしろの片端をつかんだまま仰反のけぞっていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その日の十時頃、敵の大砲弾が見事に第二砲台のペトンの掩堡えんほうつらぬいて、内部で爆発をした。ガスコアン大尉は損害を視察するため、急いでそこへ駆けつけた。
ゼラール中尉 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
まが方士はうしひげである藻草もぐさした、深淵の底に眠つてゐられる、忘却ばうきやくの花は、その眼のくぼつらぬいて咲いてゐる。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
なやましいばかりの羞恥しゅうちと、人に屈辱くつじょくあたえるきりで、なんやくにも立たぬかたばかりの手続てつづきをいきどお気持きもち、そのかげからおどりあがらんばかりのよろこびが、かれの心をつらぬいた。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
時しも寒気かんきはだへつらぬくをりふしなれば、こゞえすべきありさま也。ふたおやはさら也人々もはじめてそれと知り、にもとてみな/\おなじく水をあびていのりけり。
雲雀ひばりの鋭い声が二つ三つ続けざまに、霞を縦につらぬいて昇天する。やがて彼が優しく問ひかけた。
ジェイン・グレイ遺文 (新字旧仮名) / 神西清(著)
偶〻月光の一の壁面を照すを見れば、半ば剥蝕はくしよくせられたる鮮畫フレスコは、つらぬかれたるサンセバスチアノの像を物せり。此廣間は絶えず遠雷の如き響ありて、四壁に反響す。
兵馬の心をつらぬく暗示。なんらの証拠しょうこがあるわけではないが、こう思いきたると、今すれ違ったのがどうも竜之助らしい。兵馬はきびすを廻して黒門の方へ取って返そうとすると
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
雀躍じゃくやくして家にとって返した紀昌は、再び窓際の虱に立向い、燕角えんかくゆみ朔蓬さくほうやがらをつがえてこれを射れば、矢は見事に虱の心の臓をつらぬいて、しかも虱を繋いだ毛さえれぬ。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
まるでけものの牙のやうな刀樹の頂きを半ばかすめて(その刀樹の梢にも、多くの亡者が纍々と、五體をつらぬかれて居りましたが)中空なかぞらから落ちて來る一輛の牛車でございませう。
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ぐんをなして腸腺ちょうせんつらぬき、これを破壊して血管と腹膜に侵入し、そこに瓦斯がすを発生して、組織を液体化する醗酵素はっこうそを分泌するのだが、この発生瓦斯の膨脹力は驚くべきものであって
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
和尚はすこし首をかがめて夫人の唇を己のほおに受けようとした。と、李張の手にした矢が飛んでその前額ぜんがくから後脳こうのうにかけてつらぬいた。夫人の倒れた上に血にんだ和尚おしょうの体が重なった。
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
むりでもそれに違いない、と権柄けんぺいずくで自説をつらぬいて、こそこそと山をりはじめる。
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
村落むらがぽつり/\と木立こだちかたどつてほかには一たいたゞ連續れんぞくして水田すゐでんつらぬいてみちはるかとほく、ひつゝいたやうな臺地だいちはやしのぞんで一直線ちよくせんである。かれかつ其處そこあるいたことはあつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
全体ぜんたいに樣々の沈紋ちんもん有り。他の土器どきと等しく火にけたる物にして、色はくろし。長さのきにあな有りて恰もぢくき取りたる紡錘の如し。思ふに此あなに糸をつらぬきて身にぶるに便にせしならん。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
「かくて彼は、友の一人が差し伸べしつるぎに、われとわが身をつらぬいて死せり」
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
しかれども余の誠心まごころつらぬかざるより、余の満腔のねがいとして溢出あふれいだせし祈祷の聴かれざるより(人間の眼より評すれば)余は懐疑の悪鬼に襲われ、信仰の立つべき土台を失い、これを地に求めて得ず
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
私達わたくしたちはその野原のはらつらぬ細道ほそみちをどこまでもどこまでもきへいそぎました。
これを読まれた時分にネパールの大王殿下はその書を下に置き手をって「愉快だ、実に愉快だ」と三度大呼たいこせられ、なお「チベット法王の胸に一弾丸を放ってつらぬいたごとく実にこの論法はするどい。 ...
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
帝室にしてくその地位を守り幾艱難いくかんなんのその間にも至尊しそんおかすべからざるの一義をつらぬき、たとえばの有名なる中山大納言なかやまだいなごん東下とうかしたるとき、将軍家をもくして吾妻あずまの代官と放言したりというがごとき
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
冒険ぼうけんなること上州人のく及ぶ所に非ずと云ふ、其方法に依ればくま銃撃じゆうげきして命中あやまり、熊逃走とうさうする時之を追駆つゐくすれば熊つひいかりて直立し、まさに一てうひとつかまんとす、此に於て短剱たんけんを以て之をつらぬ
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
山はらをつらぬきめぐる道ありて馬けゆくがをりをりに見ゆ
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
此の腦髓なうずゐつらぬいてくれ
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
つらぬはねぶく
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
ゆふべつきつらぬきて
全都覚醒賦 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
せておまへさまは何故なぜそのやうに御心おこゝろよわいことおほせられるぞ八重やへ元來もとより愚鈍ぐどんなり相談はなしてからが甲斐かひなしとおぼしめしてかれぬ御使おつかひも一しんは一しん先方かなたさまどのやう御情おなさけしらずでらうともつらぬかぬといふことあるやうなしなにともしておのぞ屹度きつとかなへさせますものを
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
空をつらぬ
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
主人は寢込んだまゝ、一刀の下にやられたらしく、脇差が喉をつらぬき、蒲團までも突き拔けて、疊へ切つ尖が達してをります。