おもひ)” の例文
二日ふつか眞夜中まよなか——せめて、たゞくるばかりをと、一時ひととき千秋せんしうおもひつ——三日みつか午前三時ごぜんさんじなかばならんとするときであつた。……
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
心なき里人も世に痛はしく思ひて、色々の物など送りてなぐさむるうち、かの上﨟はおもひおもりてや、みつきて程もず返らぬ人となりぬ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
宗助そうすけこの可憐かれん自白じはくなぐさめていか分別ふんべつあまつて當惑たうわくしてゐたうちにも、御米およねたいしてはなはどくだといふおもひ非常ひじやうたかまつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
松虫鈴虫のみ秋を語るにあらず。古書古文のみ物の理を我に教ふるにあらず。一蟋蟀の為に我は眠を惜まれて、物思ひなき心におもひを宿しけり。
秋窓雑記 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
さうしてとげえた野茨のばらさへしろころもかざつてこゝろよいひた/\とあふてはたがひ首肯うなづきながらきないおもひ私語さゝやいてるのに
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
保雄はとキイツののこした艶書が競売に附せられた事をおもひ出して、自分達の艶書はぜにに成るには早いと独り苦笑した。
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
おもひのとゞくまではどうして動くものか、といふやうな気になつたりして、いづれとも決心がつかず、唯おちつかない心持で其日其日を送つてゐた。
人妻 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
朝五つ時に天満てんまから始まつた火事は、大塩の同勢が到る処に大筒を打ち掛け火を放つたので、風の余り無い日でありながら、おもひほかにひろがつた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ミルトンのたからかにぎんじたところ饑渇きかつなか々にしがたくカントの哲学てつがくおもひひそめたとて厳冬げんとう単衣たんいつひしのぎがたし。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
たづぬるにもと大和國やまとのくに南都なんと春日かすが社家しやけ大森隼人おほもりはいとの次男にて右膳うぜん云者いふものありしが是を家督かとくにせんとおもひ父の隼人は右膳に行儀ぎやうぎ作法さはふ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
かうしたおもひを取集めて考へることは、一しやうちう幾度いくどもないやうにさへ思はれた。人間はたゞ※忙そうばううちに過ぎてく……あぢはつてる余裕すらないと又繰返した。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
我々われ/\門川もんかはりて、さら人力車くるまりかへ、はら溪谷けいこくむかつたときは、さながらくもふかおもひがあつた。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
何卒御ぼしめしニ相叶あいかない候品、何なり共被遣候得バ、死候時も猶御側ニ在之候おもひ之候。何卒御願申上候。
『いや、どうも忙しいおもひを為て来ましたよ。』う言つて笑ふ声を聞くと、高柳はさも得意で居るらしい。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
彼女は、照つてゐる月が、忽ち暗くなつてしまつたやうなおもひがした。青年と並んで歩くことが堪らなかつた。彼女の幸福の夢は、忽ちにして恐ろしい悪夢と変じてゐた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
更にきてはたけの中にたゝずむ。月はいま彼方かなた大竹薮おほだけやぶを離れて、清光せいくわう溶々やう/\として上天じやうてん下地かちを浸し、身は水中に立つのおもひあり。星の光何ぞうすき。氷川ひかわの森も淡くしてけぶりふめり。
良夜 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
時計とけいる。アンドレイ、エヒミチは椅子いす倚掛よりかゝりげて、ぢてかんがへる。さうしていまんだ書物しよもつうち面白おもしろ影響えいきやうで、自分じぶん過去くわこと、現在げんざいとにおもひおよぼすのであつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
身もたまも捧げて彼を愛すと誓へる神前の祈祷いのり、嬉しき心、つらおもひ、千万無量の感慨は胸臆三寸の間にあふれて、父なる神の御声みこえ、天にます亡母はゝの幻あり/\と見えつ、聞えつ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
すがらにねむられずおもひつかれてとろ/\とすればゆめにもゆる其人そのひと面影おもかげやさしきそびら
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
つき上る苦敷くるしきおもひも涙も共に唯一息眼つぶりてのみ込ば、又盃は嫁に𢌞りぬきらりと取手とりてに光物靜夫が目に入し時、花笄の片々する/\とぬけて、かた袖仲人が取つくろふひまも無
うづみ火 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
飄々へうへうたる天地の一沙鴎いちさおうかくて双翼さうよくおもひはらんで一路北に飛び、広瀬河畔ひろせかはんに吟行する十日、神威犯しがたき故苑の山河にまみえんがために先づ宮城野の青嵐に埃痕あいこんを吹き掃はせて、かくて
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
往時わうじかへりみて感慨かんがいもよふすのとき換骨脱體くわんこつだつたいなる意味いみはじめてかいしたるのおもひあり。
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
その業務として行はざるべからざる残忍刻薄を自らふる痛苦は、く彼の痛苦と相剋あひこくして、そのかんいささおもひを遣るべき余地をぬすみ得るに慣れて、彼はやうやく忍ぶべからざるを忍びて為し
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ナニネ、おまへが真実善をしたいと思ふ心根です。たとひウツカリ忘れて、ずるにめたことをせずにしまふことが有ても、又おもひ直して新らしく決心をするから、それが一ツ取どころです。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
霖雨リンウ(ながめ)、ナガむなどいふ別種の言語の感じも伝習的に附け加へられて、一種の憂鬱なおもひに耽つて居る時分の有様を表はすに適当な語となつて居るが、「眺」の意は、明かに存して居る。
古歌新釈 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
われたゞひとりとなりぬ。君の御前みまへでては、更に新らしきわが身のおもひして
頌歌 (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
氣球きゝゆう動搖どうえうしづまつたので、吾等われらははじめて再生さいせいおもひをなし。
そがひなる山を越えゆく矢上やがみにもおもひのこりてわれ発たむとす
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
古年ふるとせや王者に似たるおもひいでて浮び來淡く秋の夕雨
短歌 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
さくら貝遠つ島辺の花ひとつ得つとゆふべの磯ゆくおもひ
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ありとあらゆるわがおもひ、「愛」と語りてたゆみなく
いついつきあへぬおもひゆたかにてせちにあらなむ。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
など知らむ、素肌すはだあせとろけゆく苦悩くなうおもひ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
湧きでゝまた消えはつるせつなきおもひ
晝のおもひの織り出でしあやのひときれ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
さこそおもひも清からじ
枯草 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
おもひむねあふれたり
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
おもひはし西にしうみ
寡婦の除夜 (新字旧仮名) / 内村鑑三(著)
わびしさ……わびしいとふは、さびしさも通越とほりこし、心細こゝろぼそさもあきらめ氣味ぎみの、げつそりとにしむおもひの、大方おほかた、かうしたときことであらう。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
不圖ふと小六ころくんなとひ御米およねけた。御米およね其時そのときたゝみうへ紙片かみぎれつて、のりよごれたいてゐたが、まつたおもひらないといふかほをした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
自分達の出立しゆつたつする時夫人は涙を目にいつぱいためて自動車の窓ごしに手を執られた。自分は此後こののち英国をおもひ出す度にこの夫人の顔が目に浮ぶであらう。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「我がかげの我をおひけりふゆつき」と人之をうたがふ時はやなぎかゝ紙鳶たこ幽靈いうれいかとおもひ石地藏いしぢざう追剥おひはぎかとおどろくがごとし然ば大橋文右衞門の女房お政はをつとの身の上を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
一夜の松風に夢さめて、おもひさびしきふすまの中に、わがありし事、すゝきが末の露程も思ひ出ださんには、など一言ひとことの哀れを返さぬ事やあるべき。思へば/\心なの横笛や。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
雨戸を開けて顔を出したのは、四角なあから顔のいさんである。瀬田の様子をぢつと見てゐたが、おもひほかこばまうともせずに、囲炉裏ゐろりそばに寄つて休めと云つた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
したつて仕様がありませんけれど、随分いやなおもひをさせられた事がありましたわ。
にぎり飯 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
このあたりの名寺なる東禅寺は境広く、樹古く、陰欝として深山しんざんに入るのおもひあらしむ。この境内に一条の山径やまみちあり、高輪たかなわより二本榎に通ず、近きをえらむもの、こゝを往還することゝなれり。
鬼心非鬼心:(実聞) (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
貫一はこの秘密のかぎを獲んとして、左往右返とさまかうさまに暗中摸索もさくおもひを費すなりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
荷物はすつかり引纏めて、いつ何時なんどきでも入院の出来るばかりにした。おもひの外、夫人は元気で居るので、お鶴はやう/\安心したといふ風で、その日の午後の汽車で東京の邸の方へ帰ることにした。
灯火 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ドクトルはれがためかんがへふけることもならず、おもひしづこと出來できぬ。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
あはれみ」仰ぐひとことは、すべてのおもひ皆おなじ