つた)” の例文
旧字:
そそけがみの頭をあげて、母は幾日か夢に描きつづけた一男の顔を、じっと眺めた。涙が一滴ひとしずく、やつれた頬をつたって、枕のきれぬらした。
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
笠森かさもりのおせんだと、だれいうとなくくちからみみつたわって白壁町しろかべちょうまでくうちにゃァ、この駕籠かごむねぱなにゃ、人垣ひとがき出来できやすぜ。のうたけ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
とうとう船長が、あれがバルフルールだと指さしてくれたとき、わたしは急いで船室に下りて、かれにいい知らせをつたえようとした。
そこで手まえのあつかいますのは、近江おうみ琵琶湖びわこ竹生島ちくぶしまに、千年あまりつたわりました、希代きたいふしぎな火焔独楽かえんごま——はい、火焔独楽!
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
るりをしきつめたみちをとおって、さんごでかざった玄関げんかんはいって、めのうでかためた廊下ろうかつたわって、おくおく大広間おおひろまへとおりました。
田原藤太 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
クラリオネットとラッパの音とが、はなれたりもつれたり、何か見知らぬ遠い国からきこえて来るゆめのようなひびきをつたえて来ます。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
しろかげは、鉄道線路てつどうせんろつたって、ついにまちほうへやってきました。こんどは、まちのあちらこちらで、しろかげのうわさがさかんになりました。
白い影 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ただ其折そのおり弟橘姫様おとたちばなひめさま御自身ごじしんくちづからもらされたとおむかしおもばなし——これはせめてその一端いったんなりとここでおつたえしてきたいとぞんじます。
私は手を振って、いて来ちゃいけないと合図すると、彼は笑って素直に再び酒を呑み出した。私はつつみつたって川上の方へ歩いて行った。
桃のある風景 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
こいしはばら/\、飛石とびいしのやうにひよい/\と大跨おほまたつたへさうにずつとごたへのあるのが、それでもひとならべたにちがひはない。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
垣根にはしおりがあった。道夫はそれを押して入った。庭には石南しゃくなげのような花の咲いた木があった。彼は庭の敷石をつたって縁側へ往った。
馬の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
あえてとがむるにらずといえども、これを文字にしるして新聞紙上におおやけにするに至りては、つたえまた伝えて或は世人をあやまるの掛念けねんなきにあらず。
「それじゃ、君はこの穴のふちつたって歩行あるくさ。僕は穴の下をあるくから。そうしたら、上下うえしたで話が出来るからいいだろう」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
所のつたへに大なるを時平しへいの塚とし、小なるを時平の夫人ふじんの塚といふ。時平大臣夫婦の塚此地にあるべき由縁いはれなきことは論におよばざる俗説ぞくせつなり。
つた聖約翰せいヨハネ荒野あれの蝗虫いなごしよくにされたとか、それなら余程よほどべずばなるまい。もつと約翰様ヨハネさま吾々風情われわれふぜいとは人柄ひとがらちがふ。
(お父さんわたしの前のおじいさんはね、からだに弾丸たまをからだに七つっていたよ。)ともうされたとつたえます。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
これから、その母のはなしというのを一つ二つ紹介しょうかいするが、僕は出来できるだけ彼女の話しっりをそのままつたえることにしよう。これがまた素敵すてきなのである。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
長い疲れの底に密封されてきて、もう悪臭を放ちそうなよどみ腐れた涙が、ようやくたらたらと頬につたうのを感じた。
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
一人の三吉を不憫ふびんがっていますけれど、あすこから電話線をつたって行ったもう一つの端の東京には、三吉みたいな可愛いい子供さんが何十万人と居て
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかしまだ十三四の子供の手では溝の底までとどかないので、かれは思い切って下駄をぬいで、石垣をつたって降りようとするらしかった。半七は再び声をかけた。
半七捕物帳:25 狐と僧 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それはき兄の物なりしをつたへていと大事と思ひたりしに果敢はかなき事にてうしなひつるつみがましき事とおもふ、此池このいけかへさせてなど言へどもださながらにてなん
月の夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
う思つて、貴女も?』と、清子の顔を見るその静子の眼から、美しい涙が一雫二雫頬につたつた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
白鹿はくろくかみなりというつたえあれば、もしきずつけて殺すことあたわずば、必ずたたりあるべしと思案しあんせしが、名誉めいよ猟人かりうどなれば世間せけんあざけりをいとい、思い切りてこれをつに
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
あたりがしずかなので、戸をしめきっても、四方に余音よいんつたわる。蓄音器があると云う事を皆知って了うた。そこで正月には村の若者四十余名を招待しょうだいして、蓄音器を興行こうぎょうした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
とほくアムールのきしなみひゞきは、興安嶺こうあんれいえ、松花江しようくわかうわたり、哈爾賓はるびん寺院じゐんすり、間島かんたう村々むら/\つたはり、あまねく遼寧れいねい公司こんするがし、日本駐屯軍にほんちうとんぐん陣営ぢんえいせま
建文皇帝果して崩ぜりや否や。明史みんしには記す、帝終る所を知らずと。又記す、あるいう帝地道ちどうよりぐと。又記す、滇黔てんきん巴蜀ばしょくかんあいつたう帝の僧たる時の往来の跡ありと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
頃日けいじつ脱稿だっこうの三十年史は、近時きんじおよそ三十年間、我外交がいこう始末しまつにつき世間につたうるところ徃々おうおう誤謬ごびゅう多きをうれい、先生が旧幕府の時代よりみずから耳聞じぶん目撃もくげきして筆記にそんするものを
すると、甚兵衛の評判ひょうばんはもうそのみやこにもつたわっていますので、見物人けんぶつにんが朝からつめかけて、たいへんな繁昌はんじょうです。甚兵衛は得意とくいになって、毎日ひょっとこの人形をおどらせました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
ももつた磐余いはれいけかも今日けふのみてや雲隠くもがくりなむ 〔巻三・四一六〕 大津皇子
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
二階のテスリから繻子しゅすの帯をおろし、それをつたって表の広小路に出ると、辻車つじぐるまにのって一晩じゅう当てもなく向島むこうじま辺をき歩かせた揚句あげく本所ほんじょの知合いの家へころがり込んで、二日二晩
一寸ちょっとその家の模様をはなしてみると、通路とおりから、五六階の石段をあがると、昔の冠木門かぶきもん風な表門で、それから右の方の玄関まで行く間が、花崗石みかげいしの敷石つたい、その間の、つまり表から見ると
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
是より水上にいたらば猶斯の如き所おほきやひつせり、此に於て往路をりてかへり、三長沢口にはくし徐計をなすべしと云ひ、あるひただちに此嶮崖けんがいぢて山にのぼり、山脈をつたふて水源にいたらんと云ひ
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
貴方あなたはそんな哲学てつがくは、あたたかあんずはなにおいのする希臘ギリシヤっておつたえなさい、ここではそんな哲学てつがく気候きこういません。いやそうと、わたくしたれかとジオゲンのはなしをしましたっけ、貴方あなたとでしたろうか?
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
何となれば、こちらの世界では交通は物のかずでなく、離れていても、立派に相互の胸奥きょうおうつたえることができるからである。強いてこの法則を破ることは、いたずらに不幸の種子であり、進歩の敵である。
かがりから篝へつたって行きましょう。4070
かくてまた遠きおやよりつたヘこし秘密ひみつ聖磔くるす
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
何の病か人につたふべき。
ある二人ふたりは、ひそかに部落ぶらくからのがました。そして、たにつたい、やまえて、たからかになみせる海岸かいがんまでやってきました。
幸福に暮らした二人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
宴会えんかいへ行くときにあれほどれ晴れとしていたかの女のかわいらしい顔は、いまは悲しみにしずんで、なみだがほおをつたっていた。
もう一おせんはおくむかって、由斎ゆうさいんでた。が、きこえるものは、わずかにといつたわってちる、雨垂あまだれのおとばかりであった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
をりからきこえはじめたのはどツといふ山彦やまひこつたはるひゞき丁度ちやうどやまおくかぜ渦巻うづまいて其処そこから吹起ふきおこあながあいたやうにかんじられる。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わたくしうかがった橘姫たちばなひめのお物語ものがたりなかには、まだいろいろおつたえしたいことがございますが、とても一かたりつくすことはできませぬ。
浜手へ向った右翼、大館宗氏の一隊が、この朝の引潮どきを狙ッて、稲村ヶ崎の干潟ひがたつたい、敵中突入への“抜け駈け”に出たのであった。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
所のつたへに大なるを時平しへいの塚とし、小なるを時平の夫人ふじんの塚といふ。時平大臣夫婦の塚此地にあるべき由縁いはれなきことは論におよばざる俗説ぞくせつなり。
一時少し前にうちを出た津田は、ぶらぶら河縁かわべりつたって終点の方に近づいた。空は高かった。日の光が至る所にちていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
嘉十かじふはにはかにみゝがきいんとりました。そしてがたがたふるえました。鹿しかどものかぜにゆれる草穂くさぼのやうなもちが、なみになつてつたはつてたのでした。
鹿踊りのはじまり (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
たまたまきこりにえばみちき、おに岩屋いわやのあるという千丈せんじょうたけひとすじにざして、たにをわたり、みねつたわって、おくおくへとたどって行きました。
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
このうわさはすぐに方々ほうぼうつたわったので、もうだれもこの寺の住職じゅうしょくになろうというものがなくなってしまった。
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
しかし乗客たちは、安全に陸に上ることが出来た。その浮かべる寝台の上をつたい歩いて渡った結果……。
それを見ると一男も何かぐっとこみげて来て、わけの分からない涙が頬をつたって、抱いている人の顔へ落ちた。と、急に抱いている山田の体が重くなったような気がした。
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)