蝙蝠傘かうもりがさ)” の例文
旅商人たびあきうどけば、蝙蝠傘かうもりがさ張替直はりかへなほしもとほる。洋裝やうさうしたぼつちやんのいて、麥藁帽むぎわらばう山腹さんぷくくさつてのぼると、しろ洋傘パラソル婦人ふじんつゞく。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
つけるに外見みえを捨てその蝙蝠傘かうもりがさを借り遂に兩杖となりたるぞあはれなる道は捗取はかどらねど時が經てば腹は减りてまた苦を重ぬるを道人勇みを
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
すると、その池の向う側の椎の樹かげに、裁縫通ひの娘らしいのが三名、すぼめた蝙蝠傘かうもりがさを杖について、水中の魚の泳ぐのを見てゐた。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
茶話子は散歩をするのに、四つ辻へ来ると手に持つた洋杖ステツキなり蝙蝠傘かうもりがさなりを真直に立ててみてそれが倒れる方へ歩き出す事がよくある。
黒縮緬くろちりめん羽織はおり唐繻子たうじゆすおびめ、小さい絹張きぬばり蝙蝠傘かうもりがさそばに置き、後丸あとまるののめりに本天ほんてん鼻緒はなをのすがつた駒下駄こまげたいた小粋こいき婦人ふじんが、女
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
『こんなことをして、これなんになるんだらう。』と、小池は細卷きの袋入りの蝙蝠傘かうもりがさ尖端さきで、其の女の黒髮を突ツついた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
つて来た風呂敷包を背負せおつて、古びた蝙蝠傘かうもりがさを持つて、すり減した朴歯ほほばの下駄を穿いて、しよぼたれたふうをして、隣の老人はいとまを告て行つた。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「和作、この間忘れて行つた蝙蝠傘かうもりがさを持つて行けよ」野田が窓の方に背を向けた儘、優しく云つた。「雨になつてれでもすると、又いけないぞ」
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
さう言つて目賀田は蝙蝠傘かうもりがさを多吉に渡し、痛い物でも踏むやうな腰付をして、二三間離れた橋の袂の藪陰につくばつた。禿げた頭だけがうつすりと見えた。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ふとだれやら自分を呼ぶ声がしますから、振り返つてみますと、暗い片隅かたすみに、白いおひげの長く垂れたおぢいさんが、蝙蝠傘かうもりがさを手にもつて、立つて居りました。
夢の国 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
宗助そうすけ此處こゝ訪問はうもんしたのは、十ぐわつすこのある學期がくきはじめであつた。殘暑ざんしよがまだつよいので宗助そうすけ學校がくかう徃復わうふくに、蝙蝠傘かうもりがさもちひてゐたこといま記憶きおくしてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「やあ、之は皆様。」と蝙蝠傘かうもりがさを杖にして頭を下げた。女達は一人一人叮嚀に挨拶した。そして皆な
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
海といふものに就ての私の第一の印象は私を抱いて船から上陸した人の眞白まつしろ蝙蝠傘かうもりがさの輝きであつた。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
小川をがはあぶらのやうな水面すゐめんおほきく波立なみだつて、眞黒まつくろ人影ひとかげこはれた蝙蝠傘かうもりがさのやうにうごいてゐた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
つゞいて尻端折しりはしをり股引もゝひきにゴム靴をはいた請負師うけおひしらしい男のとほつたあとしばらくしてから、蝙蝠傘かうもりがさ小包こづゝみげた貧しな女房が日和下駄ひよりげたで色気もなく砂を蹴立けたてゝ大股おほまたに歩いて行つた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
かと思ふと張り子のやうな虎が檻一杯に突つ立つていかめしく睨んでゐるその檻の前には「おらんだ人」と肩書きのある紅毛碧眼の異国人が蝙蝠傘かうもりがさをさした日本の遊女と腕を組んで
「杖になるやうな蝙蝠傘かうもりがさをお持ちぢやないですね?」
道楽雀 蝙蝠傘かうもりがささして
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
そして、それと同じ庭園の一部らしいところで、お鳥が片手に蝙蝠傘かうもりがさをつき、一方の肩に寫眞機を入れたかくカバンをかけてゐるのもある。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
大降おほぶり小降こぶり幾度いくどあめれ、おまけに地震ぢしんにあつた、裾短すそみじか白絣しろがすりあかくなるまで、苦労くらうによれ/\のかたちで、くろ信玄袋しんげんぶくろ緊乎しつかりと、巌丈がんぢやう蝙蝠傘かうもりがさ
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
お光の手には蝙蝠傘かうもりがさ手提てさげの千代田袋とがあるばかりで、買つたものは千代田袋の中にでも入つてゐるらしかつた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
沒する程の所あり何卒なにとぞ小山の上を少しの間歩き玉ひてと車夫の乞ふに心得たりと下りては見たれどなまじ車に足をすくめたる爲め痛み強くわづかに蝙蝠傘かうもりがさ
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
そして日本で買つた繻子張しゆすばり蝙蝠傘かうもりがさをつきながら、例のだくだくのフロツクコートで大股に町を歩いてゐた。
忽ちあかい郵便筒がいた。すると其赤い色が忽ち代助のあたまなかに飛び込んで、くる/\と回転し始めた。傘屋かさやの看板に、赤い蝙蝠傘かうもりがさを四つかさねてたかるしてあつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
……蝙蝠傘かうもりがさしてるのに、拭いても拭いても顔から雫がるのですものなあ。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
土手の上には、白樺色しらかばいろ蝙蝠傘かうもりがさと派手な鼻緒のすがつた下駄と……
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
蝙蝠傘かうもりがさつゑにして、わたしがひよろ/\として立去たちさときぬまくらうございました。そしてなまぬるいあめ降出ふりだした……
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
蝙蝠傘かうもりがさかつぐやうにして、お光は肩で息をしてゐた。薄鼠の絽縮緬ろちりめん羽織はおりは、いで手に持つてゐた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
ずつと以前まへ、丁度この頃のやうな秋日和に東京の近郊、雑司ざふし附近あたり徜徉ぶらついてゐると、一人の洋画家が古ぼけた繻子張しゆすばり蝙蝠傘かうもりがさの下で、其辺そこらの野道をせつせと写生してゐた。
若い婦人がからだの曲線を衣物のいい着こなしに表はして、顏を蝙蝠傘かうもりがさで隱して行く。
終点迄た時は、精神が身体からだおかしたのか、精神の方が身体からだに冒されたのか、いやな心持がして早く電車をりたかつた。代助はあめの用心に持つた蝙蝠傘かうもりがさを、杖の如く引きつてあるいた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
もとめ蝙蝠傘かうもりがさにかへてこゝにて一句あるべきと梅花道人の云へば
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
骨折れた蝙蝠傘かうもりがさをさしかけてかどいづれば
心の姿の研究 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
しばらくすると見上みあげるほどなあたり蝙蝠傘かうもりがささきたが、えだとすれ/\になつてしげみなかえなくなつた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
宗助そうすけ二人ふたりもんまへたゝずんでゐるとき彼等かれらかげまがつて、半分はんぶんばかり土塀どべいうつつたのを記憶きおくしてゐた。御米およねかげ蝙蝠傘かうもりがささへぎられて、あたまかはりに不規則ふきそくかさかたちかべちたのを記憶きおくしてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
西洋のある学者はみぞれの降る冬の日に蝙蝠傘かうもりがさをさして大学から帰る途々みち/\、家へ着いたなら、蝙蝠傘を壁にたてかけて置いて、自分は暖炉ストーヴに当つて暖まらうとたのしみに思つてゐるうち、うち辿たどり着く頃には
骨折れた蝙蝠傘かうもりがさをさしかけて門を出れば
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
をりからせなに、御新造ごしんぞ一人いちにん片手かたて蝙蝠傘かうもりがさをさして、片手かたて風車かざぐるまをまはしてせながら、まへとほきぬ。あすこが踏切ふみきりだ、徐々そろ/\出懸でかけようと、茶店ちやてんす。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
桐油合羽とういうがつぱちいさくたゝんで此奴こいつ真田紐さなだひもみぎつゝみにつけるか、小弁慶こべんけい木綿もめん蝙蝠傘かうもりがさを一ぽん、おきまりだね。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
で、衣兜かくしから半拭はんかちして、きにかゝつたが、蝙蝠傘かうもりがさ片手かたてつてたからけやうとして咽喉のどかたのあひだへはさんで、うつむいて、たまぬぐひかけた。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
……人生じんせいいやしくも永代えいたいわたつて、辰巳たつみかぜかれようといふのに、足駄あしだ蝙蝠傘かうもりがさ何事なにごとだ。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わたしたちは、蝙蝠傘かうもりがさを、階段かいだんあづけて、——如何いか梅雨時つゆどぎとはいへ……本來ほんらい小舟こぶねでぬれても、あめのなゝめなるべき土地柄とちがらたいして、かうばんごと、繻子張しゆすばり持出もちだしたのでは
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
だつて、眼鏡めがねかうとして、蝙蝠傘かうもりがさをとがひおさへて、うつむいたとおもふと、ほら/\、帽子ばうしかたむいて、重量おもみしづして、てるうちにすつぼり、あかはなうへかぶさるんだもの。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
日和癖ひよりぐせで、何時なんどきぱら/\とようもれないから、案内者あんないしや同伴つれも、わたしも、各自おの/\蝙蝠傘かうもりがさ……いはゆる洋傘パラソルとはのれないのを——いろくろいのに、もさゝないし、たれはゞかるともなく
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
何処どこまでもひとしのいだ仕打しうち薬売くすりうり流盻しりめにかけてわざとらしうわし通越とほりこして、すた/\まへて、ぬつと小山こやまのやうなみち突先とつさき蝙蝠傘かうもりがさしてつたが、そのまゝむかふへりてえなくなる。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
言問こととひ曲角まがりかどで、天道てんだうか、また一組ひとくみこれまた念入ねんいりな、旦那樣だんなさま洋服やうふく高帽子たかばうしで、して若樣わかさまをおあそばし、奧樣おくさま深張ふかばり蝙蝠傘かうもりがさすまして押並おしならあとから、はれやれおひとがついてぶらなり。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あたりは蝙蝠傘かうもりがさかついで、やごゑけて、卍巴まんじともえを、薙立なぎた薙立なぎた驅出かけだした。三里さんり山道やまみち谷間たにまたゞ破家やぶれや屋根やねのみ、わし片翼かたつばさ折伏をれふしたさまなのをたばかり、ひとらしいもののかげもなかつたのである。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
帽子ばうしりあげやうとしたから蝙蝠傘かうもりがさがばツたりちた。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)