草木くさき)” の例文
(武さんは立ち小便をする時にも草木くさきのない所にしたことはない。もつともその為に一本の若木の枯れてしまつたことは確かである。)
素描三題 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
なにわすてて、狂氣きやうきごとく、その音信おとづれてくと、おりうちやう爾時そのとき……。あはれ、草木くさきも、婦人をんなも、靈魂たましひ姿すがたがあるのか。
三尺角拾遺:(木精) (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そのくには、いつもいろいろなはないていました。そして、いつもなつのように草木くさきがしげってうつくしいちょうがんでいました。
木と鳥になった姉妹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
諸〻の聖なる光の輝と𢌞轉めぐりとは、すべての獸及び草木くさきの魂をば、これとなりうべき原質よりひきいだせども 一三九—一四一
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
まだあつ空氣くうきつめたくしつゝ豪雨がううさら幾日いくにち草木くさきいぢめてはつて/\またつた。例年れいねんごと季節きせつ洪水こうずゐ残酷ざんこく河川かせん沿岸えんがんねぶつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
もんれいとほあけぱなしだからたゝ世話せわいらず、二人ふたりはずん/\とうちはひつてたが草木くさき縱横じゆうわうしげつてるのでラクダルの居所ゐどころ一寸ちよつとれなかつた。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
日にも風にもけなかつた、草木くさきもこほるほどの寒さが、邸内を支配して居つた。着物の裾で、頭と手をおほつて、奧まつた木立の奧の方へ歩きに行つた。
その年も何時いつしか暮れて、また来る春に草木くさきいだしまする弥生やよい、世間では上野の花が咲いたの向島が芽ぐんで来たのと徐々そろ/\騒がしくなって参りまする。
あか摘取つみとると、すぐそれがけがれてしまひ、ちよいと草木くさき穿ほじつても、このくとしぼんでゆく。
物に由りて或はくしされて燒かれしも有るべく或は草木くさきの葉につつまれて熱灰にうづめられしも有るべし。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
これほどまでも草木くさきは人間の心事しんじに役立つものであるのに、なぜ世人せじんはこの至宝しほうにあまり関心をはらわないであろうか。私はこれを俗に言う『食わずぎらい』にしたい。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
きよらかなみづ滾々こん/\いづながれて、其邊そのへん草木くさきいろさへ一段いちだんうるはしい、此處こゝ一休憩ひとやすみこしをおろしたのは、かれこれ午後ごゝの五ちかく、不思議ふしぎなるひゞきやうやちかくなつた。
昔の画家えかきが聖母を乗せる雲をあんな風にえがいたものだ。山のすそには雲の青い影がいんせられている。山の影は広い谷間にちて、広野ひろの草木くさきの緑に灰色を帯びさせている。
それからこのたまみみてれば、鳥獣とりけもの言葉ことばでも、草木くさきいしころの言葉ことばでも、手にるようにかります。この二つの宝物たからもの子供こどもにやって、日本にっぽん一のかしこい人にしてください。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
草木くさきのそよぎにも心をおくという、落武者おちむしゃ境遇きょうぐうにある者が、なんでそれを気づかずにいよう。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ことにわれは多恨の遊子いうし、秋の草木くさきに置く露の觸るればやがて涙の落つる悲しき身なるをや。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
このふくれるように盛りあがって満ちてくるしおなやましさ! わしはこの島の春がいちばん苦しい。わしの郷愁きょうしゅうえがたいほどさそうから。とぼしい草木くさきも春のよそおいをしている。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
食物しよくもつはる樹木じゆもく若芽わかめるとこのんでべ、またしるおほくさべますが、なつになつて草木くさき生長せいちようすると穀物こくもつやそばなどべ、さむくなつてくさしほれると森林内しんりんないでぶな、かし
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
いずれ草木くさきの茂った加賀屋敷のどこかに住んでいたのがこの頃の気圧の変調を感じてさまよい出て、途中でこの籠の鳥を見附けたものだろう。岡田もどうしようかとちょいと迷った。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
野邊のべ草木くさきにのみ春は歸れども、世はおしなべて秋の暮、枯枝かれえだのみぞ多かりける。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
洗ふ波音なみおとたかく左りは草木くさき生茂おひしげりし鈴ヶ森の御仕置場にして物凄ものすごき事云ふばかりなし然れども孝行かうかうの一心より何卒なにとぞちゝの骨をさがし求め故郷こきやうへ持歸りて母に見せんと御所刑場おしおきばの中へ分入わけいり那方あなた此方こなた
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
もなく草木くさきの緑の中に、立派な御殿が立ちました。
そのかみ、やまいちに、草木くさきはなべて
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
夜具やぐの上に草木くさきの散りぼふが見えて
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
草木くさきの葉つぱにぴかぴか光る朝露を
草木くさきにいこひ野にあゆみ
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
殿とのよツくきこし、呵々から/\わらはせたまひ、たれぢやと心得こゝろえる。コリヤ道人だうじんなんぢ天眼鏡てんがんきやうたがはずとも、草木くさきなびかすわれなるぞよ。
妙齢 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そうなってもちょうをきれいだなどというのは、ただふらふらしているあそにんだけで百しょうや、また草木くさきをかわいがる人間にんげんは、そうはいわない。
冬のちょう (新字新仮名) / 小川未明(著)
この力はその作用によらざれば知られず、あたかも草木くさき生命いのち縁葉みどりのはに於ける如くそのくわによらざれば現はれず 五二—五四
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
それを晩秋ばんしうそら悉皆みんなるので滅切めつきりえる反對はんたい草木くさきすべてが乾燥かんさうしたりくすんだりしてしまふのに相違さうゐないのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
この笛を吹きさえすれば、鳥獣とりけものは云うまでもなく、草木くさきもうっとり聞きれるのですから、あの狡猾こうかつな土蜘蛛も、心を動かさないとは限りません。
犬と笛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
草木くさきのそよぎにも、恟々きょうきょうと、心をおどろかす敗軍の落伍者らくごしゃが、身をかくまってもらおうと、弁天堂べんてんどう神主かんぬし、宮内の社家しゃけにヒソヒソと密話みつわをかわしていると、せばよいのに
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は草木くさきに愛を持つことによって人間愛をやしなうことができる、と確信して疑わぬのである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
ようよおかあがりまして、船を引上げ、二人ににんの死骸は人目にかゝらぬようにして、島の入口二三丁けども/\人家はなし、只荒れ果てたる草木くさきのみ、人の通りし跡だになければ
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ところどころになれない草木くさきえて、めずらしいにおいのはないていました。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
こくは、草木くさきねむる、一時いちじ二時にじとのあひだ談話だんわ暫時しばし途絶とだえたとき、ふと、みゝすますと、何處いづこともなく轟々ごう/\と、あだか遠雷えんらいとゞろくがごとひゞき同時どうじ戸外こぐわいでは、猛犬稻妻まうけんいなづまがけたゝましく吠立ほえたてるので
王者の座がそのまま生きた草木くさきの家になる。
びつしより濡れる草木くさき
そのおんばここそ、このなか神秘しんぴいてみせるちからがありました。かみさまは、たまたまこうして、草木くさきに、自分じぶんちからしめすというのです。
草原の夢 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この外には葉を出しまたは硬くなるべき草木くさきにてかしこに生を保つものなし、打たれてたわまざればなり 一〇三—一〇五
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
するとまた不思議なことには、どんな鳥獣とりけもの草木くさきでも、笛の面白さはわかるのでしょう。
犬と笛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
もしも私が日蓮にちれんほどの偉物えらぶつであったなら、きっと私は、草木を本尊ほんぞんとする宗教を樹立じゅりつしてみせることができると思っている。私は今草木くさき無駄むだらすことをようしなくなった。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
草木くさきとほはるかひゞけとこゑゆすられつゝよるあひだ生長せいちやうする。くぬぎならその雜木ざふきかへるけばほどさうしてそれが季節きせつまではいくらでも繁茂はんもすることを繼續けいぞくしようとする。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
すでに、あたりは、初夏しょかひかりが、まぶしかったのであります。そして、草木くさきがぐんぐんと力強ちからづよびていました。
二番めの娘 (新字新仮名) / 小川未明(著)
汝はこの花圈はなわ(汝を強うして天に登らしむる美しき淑女を圍み、悦びてこれを視る物)がいかなる草木くさきの花に飾らるゝやを知らんとす 九一—九三
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
日の光に煙った草木くさきの奥に、いつも人間を見守っている、気味の悪い力に似たものさえ。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
また撃たれし草木くさきにはそのさがを風に滿たすの力あり、この風その後吹きめぐりてこれをあたりに散らし 一〇九—一一一
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
すると、おつたくわえておいたみずきかかったころ、にわかにそらくもって大雨おおあめってきました。そして一井戸いどにはみずて、草木くさき蘇返よみがえりました。
神は弱いものを助けた (新字新仮名) / 小川未明(著)
どうかこのうばが一しやうのおねがひでございますから、たとひ草木くさきけましても、むすめ行方ゆくへをおたづくださいまし。なんいたにくいのは、その多襄丸たじやうまるとかなんとかまをす、盜人ぬすびとのやつでございます。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
汝をかこむ二十四本の草木くさきもとなる種のために、かの迷へる世と戰ふのもとなりしぞかし 九四—九六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)