さいはひ)” の例文
清淨しやうじやうみづでもければ、不潔ふけつみづでもい、でもちやでもいのである。不潔ふけつみづでなかつたのは、りよがためには勿怪もつけさいはひであつた。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
さいはひ非常ひじやうなる同情どうじやう好意かういもつて一億圓おくゑんのクレデイツトの設定せつていをすることが出來できたことは、日本にほん財界ざいかいつて此上このうへもなき次第しだいである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
彼等の物語をばゑましげに傍聴したりし横浜商人体しようにんていの乗客は、さいはひ無聊ぶりようを慰められしを謝すらんやうに、ねんごろ一揖いつゆうしてここに下車せり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
いたみをあたふること死に劣らじ、されどわがかしこに享けしさいはひをあげつらはんため、わがかしこにみし凡ての事を語らん 七—九
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
懼れて慎み、慎みて誠ならば、修省の道はおのづから目前に在り足下に現はるべきである。修省すれば福来りさいはひ至るは自然の理である。
震は亨る (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
さいはひそのは十一時頃じごろからからりとれて、かきすゞめ小春日和こはるびよりになつた。宗助そうすけかへつたとき御米およねいつもよりえ/″\しい顏色かほいろをして
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しかし將來このさきこれをさいはひであつたとときいへども、たしかに不幸ふかうであるとかんずるにちがいない。ぼくらないでい、かんじたくないものだ。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
れいしたいて悠々いう/\小取廻ことりまはし通抜とほりぬける旅僧たびそうは、たれそでかなかつたから、さいはひ其後そのあといてまちはいつて、ほツといふいきいた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しかも、この三人が互に優劣なく固執し、相牽制して均衡の勢力を保ちながら、空しく年月を費してゐたことが、信長にさいはひしたのである。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
お猫さんはさいはひなことに、水泳の選手でしたから、ズブぬれになりましたが、すぐに川からはひ上つて、三ママ四方にもひゞきわたる程大きく
さいはひ最初さいしよ一瞬間いつしゆんかんおいて、非常ひじよう地震ぢしんなるかいなかの判斷はんだんがついたならば、其判斷そのはんだん結果けつかによつて臨機りんき處置しよちをなすべきである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
予はここに於て、予が警告をふたたびするの、必要なる所以ゆゑんを感ぜざるあたはず。予は全然正気しやうきにして、予が告白は徹頭徹尾事実なり。卿等さいはひにそを信ぜよ。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
義足はさいはひに成功して、牝牛は亡くなつた大隈侯のやうに元気よく野原を歩きまはつた。牛乳を調べてみても、成分に少しも変りはなかつたさうだ。
弥ざゑもんはからず十両の金をしち入れせし田地をもうけもどし、これよりしば/\さいはひありてほどなく家もあらたに作りたていぜんにまさりてさかえけり。
さいはひに空は晴れてゐて、星の光が僅かに四辺あたりを照して呉れた。私は知らず識らずに或る野寺のうしろに当る墓地へ出た。
愛は、力は土より (新字旧仮名) / 中沢臨川(著)
尋ぬるにさいはひの時節なりとて日毎ひごと群集ぐんじゆの中にまぎれ入て尋けるに似たりと思ふ人にもあはざれば最早もはや江戸には居るまじ是よりは何國いづくを尋ねんと主從三人ひたひ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それにさいはひに追手の夕風が吹いた。船頭は帆をげて、かぢをギイと鳴らして、暢気のんきに煙草をふかした。誰の心も船のやうに早く東京に向つてせて居た。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
さいはひにもネープルスちゆうで「富貴ふうきなる日本人につぽんじん。」と盛名せいめい隆々りう/\たる濱島武文はまじまたけぶみ特別とくべつなる盡力じんりよくがあつたので、吾等われらつひこの最上さいじやう船室キヤビン占領せんりやうすることになつた。
「ウム、何かと云ふと、直ぐ元老が呼び出されるので、てもかなはん——只だ美姫びきさいはひに我労を慰するに足るものありぢや、ハヽヽヽヽ、なア浜子」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
然し尋ねて見たところで綾子は答へる筈はない、と思つたから縁日をさいはひ外へ出てそれから銀座へでも廻り、綾子の思ひ通りの物を買つてやらうとめた。
秋雨の絶間 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
その声はさいはひに少しつんぼのふくろふの坊さんには聞えませんでしたが、ほかの梟たちはみんなこっちを振り向きました。
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
さいはひに一ぱいみて歇息やすませ給へとて、酒をあたため、下物さかなつらねてすすむるに、赤穴九一袖をもておもておほひ、其のにほひをくるに似たり。左門いふ。
あいちやんのためには勿怪もツけさいはひちひさな魔法壜まはふびんいま充分じうぶん其功能そのこうのうあらはしをはつたので、あいちやんもうこれよりおほきくはなりませんでした、が、それは非常ひじよう不愉快ふゆくわい
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
あの震災当時をばさんと一緒につぶされ、さいはひにお怪我けがもなくて出て、僕もさうだつたんだが、どこを頼ることもできず、僕の厄介やくかいになつてをる招寿軒だからと思つて
椎の若葉 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
「見ずして信ずるものはさいはひなり」、「信仰は未だ見ざる所を望んで疑はず」などいふ古言もあることなれど、是れ未だ真理の両端を尽くしたるものとは言ふべからず。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
滿谷みつたに、小林、三浦、僕等の如き隠し芸を持たない者はかへつ観客くわんかくとなるさいはひを得た。牧野事務員が富樫に扮して滑稽勧進帳を演じて居る頃わが𤍠田丸は香港ホンコン港口かうこうに着いて居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
上町かみまちの古本屋にはかつて雑誌の古を引取つて貰つた縁故もあつた。丁度其店頭みせさきに客の居なかつたのをさいはひ、ついと丑松は帽子を脱いで入つて、例の風呂敷包を何気なく取出した。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
さいはひなるかな、せふ姙娠中にんしんちゆう屡〻しば/\診察を頼みし医師は重井おもゐと同郷の人にして、日頃ひごろ重井おもゐの名声を敬慕し、彼と交誼こうぎを結ばん事を望み居たれば、此人このひとによりて双方の秘密を保たんとて
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
院長ゐんちやうアンドレイ、エヒミチはとうからまち病家びやうかたぬのを、かへつてさいはひに、だれ自分じぶん邪魔じやまをするものはいとかんがへで、いへかへると書齋しよさいり、書物しよもつ澤山たくさんあるので
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「トゥロット、ひとの不幸のなかにじぶんのさいはひをもとめることは禁じられてゐます。この動物をおとなりへなげれば、おとなりの植物を食べます。そんなことをするのは不正です。」
かたつむり (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
さいはひ師匠ししやうはマア寄席よせへもおなさいません閑人ひまじんでいらつしやる事でげすから、御苦労ごくらうながら三いうしや総代そうだいとして、貴方あなた京都きやうとつてくださるわけにはまゐりませんかと、円朝わたくしたのまれました。
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
そのために、若葉わかばをふいてから次第しだい丈夫じようぶにかため、なつさかりをさいはひに、どん/\太陽たいようひかりともはたらいて、あき紅葉もみぢをする支度したくや、ふゆてもこまらない、養分ようぶんたくはへをするのです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
おかみさん、そら、あつた、こゝにあつた、ひとりぽつちで忍冬すいかづらの中につぶれてゐた。たつた、ひとりぽつちでさ、この花は世界に一つしか無いんだ。それ、暴風あらしと涙とさいはひにほひがしないかね。
わるい花 (旧字旧仮名) / レミ・ドゥ・グルモン(著)
狹苦せまくるしい掘立小屋ほつたてごやかれ當初はじめおもんだほどかれためさいはひところではなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
彼少女も我等と同じくこよひのさいはひを覺えたりしか。友。アントニオよ。汝が感動せるさまこそ珍らしけれ。「ジエスヰタ」の學校にて結びし氷今融くるなるべし。アヌンチヤタが何を云ひしと問ふか。
此の宿に引越して來て二日目の、それがさいはひなる日曜だつた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
貧しきはさいはひなり、うらがなしき。
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
さいはひ」住むと人のいふ。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
さいはひなりと
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
されば汝、かゝるさいはひをかくしし葢をわがためにひらける者よ、若し知らば、我等が倶に登るをうべき道ある間に、我等の年へし 九四—
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
その人ならず、善く財を理し、事を計るに由りて、かかる疎放の殿をいただける田鶴見家も、さいはひ破綻はたんを生ずる無きを得てけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
さいはひ御米およね産氣さんけづいたのは、宗助そうすけそとようのない夜中よなかだつたので、そばにゐて世話せわ出來できるとてんからればはなは都合つがふかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
而るに公家褒賞の由く、しば/″\譴責けんせきの符を下さるゝは、身を省みるに恥多し、面目何ぞ施さん。推して之を察したまはば、甚だ以てさいはひなり。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
わたくしの推測はさいはひにして誤でなかつた。三陽さんの言ふ所に從へば、神惟徳しんゐとくの米庵略傳にしもの如く云つてあるさうである。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
さいはひにして一人ひとりではひきれぬほど房々ふさ/\つてるのでそのうれひもなく、熟過つえすぎがぼて/\と地にちてありとなり
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
さうして一ぱうには全國ぜんこく此方針このはうしん實行じつかうせしむるために、らゆる手段しゆだんつたのであるが、さいはひにこのことは國民こくみん歡迎くわんげいされて徹底てつていしたのである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
「それはめでたいの。ゆつくり往つて来るがいゝ、さいはひ乃公おれの馬もあいてるから、あれに乗つてくとしたらどうぢや、馬丁べつたうに案内して貰つての。」
弥ざゑもんはからず十両の金をしち入れせし田地をもうけもどし、これよりしば/\さいはひありてほどなく家もあらたに作りたていぜんにまさりてさかえけり。
人生さいはひにこの別乾坤あり。誰か又小泉八雲こいづみやくもと共に、天風海濤てんぷうかいたうの蒼々浪々たるの処、去つて還らざる蓬莱ほうらい蜃中楼しんちうろうを歎く事をなさん。(一月二十二日)
火はさいはひにも根本の母屋には移らずに下の小い家屋いへ一軒で、兎に角首尾よく鎮火したので、手伝ひに来て呉れた村の人々、喞筒ポンプの水にずぶれになつた村の若者
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)