可愛かあい)” の例文
それは畑のまめの木の下や、林のならの木の根もとや、また雨垂あまだれの石のかげなどに、それはそれは上手に可愛かあいらしくつくってあるのです。
カイロ団長 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
医者に何一つい事はないが、若い女の手が握られるだけが取柄だと。卜新老は人も知つてる通り若い妾を可愛かあいがるので名高い人だ。
あるところにくせ のわる夫婦ふうふがありました。それでもどもがないので、一鸚鵡あふむどものやうに可愛かあいがつてをりました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
サア、みな水兵ものどもた/\、大佐閣下たいさかくかのおかへりだよ、それに、めづらしい賓人おきやくさんと、可愛かあいらしい少年せうねんとが御坐ござつた、はや御挨拶ごあいさつまうせ/\。
ちょいちょい遊びにやってくる、私も仕事の相間あいま退窟たいくつわすれに、少なからず可愛かあいがってやった、頃は恰度ちょうど、秋の初旬はじめ九月頃だったろう
闥の響 (新字新仮名) / 北村四海(著)
きやうさんれが本當ほんたう乞食こじきならおまへいままでのやうに可愛かあいがつてはれないだらうか、振向ふりむいててはれまいねとふに
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「どうせ、お前さんの手下……おっといけねえ、しつけをお願いしなくっちゃあならねえ子供だ、可愛かあいがってやるもんだぜ、へっへっへ」
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
いろ/\な可愛かあいらしい蝶々てふ/\澤山たくさんあるなかで、あのおほきなくろ蝶々てふ/\ばかりは氣味きみわるいものです。あれは毛蟲けむし蝶々てふ/\だとひます。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
いけどしぢゞいが、女色いろまよふとおもはつしやるな。たぬまご可愛かあいさも、極楽ごくらくこひしいも、これ、おなことかんがえたゞね。……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
山「さア/\今度は私に遣らしてくれ、可愛かあいい忰が不便ふびんの死を遂げたも此奴こいつの為、また娘を斬殺きりころしたのも此奴のわざ、此奴め/\」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
で、祖父じじいは、猫をあんまり可愛かあいがっちゃ、けないけないって言っておりましたけれど、そのの猫は化けるまで居た事は御座ございません。
「ああしんど」 (新字新仮名) / 池田蕉園(著)
「母様とは私の面倒を見て下さって、私を可愛かあいがって、そして、いま少し、もう少しって——終日いちにち——縫物をして居る人です」
少年・春 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
送るさま側眼わきめで見てさへ不便ふびんなるに子の可愛かあいさの一筋に小半年ほどすごせしが妻のお久が病中より更に家業も成ぬ上死後しご物入ものいり何ややに家財雜具を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
酒を飲うが歌おうが、おつゆ可愛かあいがって抱いて寝ようが、それで先生の資格なしとやかましく言う者はこの島に一人もない。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「むむ、いかにも無心に遊んでるのが可愛かあいい」といいながらふと見ると、白には頸環くびわが附いている。黒斑の頸には何もない。
一日一筆 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
屹度きツとたまちやんは世界中せかいぢゆうで一ばんねこちがひないわ!おゥ可愛かあいたまちやん!わたし今迄いまゝでのやうに始終しゞゆうまへそばられるかしら!
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
おぢさんは、みんながたいへん可愛かあいい。このほんきみたちにんでもらひ、うたつてもらうためにいたのだ。金持かねもち子供こどもなんかまなくたつていい。
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
わたしばうやはね、ひづめが二つにれてゐて、毛色けいろはぶちでつぽもちやんとついてゐて、わたしぶときは、もう/\つて可愛かあいこゑびますよ。」
お母さん達 (旧字旧仮名) / 新美南吉(著)
小供は大層可愛かあいい子で、もう何もかも面白くゆきそうでした。カラザースさんは、大へん親切で、音楽もよく解り、ゆうべの集いはとても愉快でした。
... 東京で可愛かあいい可愛い女が出来ているとよ」お代驚き「アラ、ホント」老人「アーニ、出来たろうと思ってよ。マア折角めかさっせい、さようなら」
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
和蘭陀ヲランダと云ふ国は可愛かあいさうな位小さい国だね。素通りしてしまはうと思へば七時間位で通つてしまへるのだからね。」
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
薄暗うすぐらつるしランプの光がせこけた小作こづくりの身体からだをば猶更なほさらけて見せるので、ふいとれがむかし立派りつぱな質屋の可愛かあいらしい箱入娘はこいりむすめだつたのかと思ふと
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
しかしてふたたび白の独天下になった。可愛かあいがられて、大食して、弱虫の白はます/\弱く、どんの性質はいよ/\鈍になった。よく寝惚ねぼけて主人しゅじんに吠えた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
いくら御常から可愛かあいがられても、それにむくいるだけの情合じょうあいがこっちに出てないような醜いものを、彼女は彼女の人格のうちかくしていたのである。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして、醉ひにまかせて、火鉢のそばに倒れ、自分のひぢまくらをしながら、女の顏をわざと細目にした目で見つめて、「そんなに向うの男が可愛かあいいのか?」
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
おれのは憎いんでもないければ可愛かあいいといふんでもない………たゞしツくりしやうが合はんといふだけのことなんだ。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
折ふしおひざの上へ乗せておつれになる若殿さま、これがまた見事に可愛かあいい坊様なのを、ろくろくお愛しもなさらない塩梅あんばい、なぜだろうと子供心にも思いました。
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
有難ありがたい、成程い味がすると、よろこんで喰て仕舞しまって二時間ばかりたってから、「イヤ可愛かあいそうに、今喰たのは鯛でも何でもない、中津屋敷で貰た河豚の味噌漬だ。 ...
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
明りがついて、お膳が出ると新調の可愛かあいらしい玉子焼のお鍋が、一雄の小さなお膳の上にのっていました。
祖母 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
二里あまりへだてたる村より十九歳のよめをむかへしに、容姿すがたにくからず生質うまれつき柔従やはらかにて、糸織いとはたわざにも怜利かしこければしうとしうとめ可愛かあいがり、夫婦ふうふの中もむつまし家内かない可祝めでたく春をむかへ
煙草たばこふかしてけむだして、けむなかからおせんをれば、おせん可愛かあいや二九からぬ。色気いろけほどよくえくぼかすむ。かすえくぼをちょいとつっいて、もしもしそこなおせんさま
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
よるいろにそのみどりくろずみ、可愛かあいらしい珊瑚珠さんごじゆのやうなあかねむたげではあるけれど、荒涼くわうりやうたるふゆけるゆゐ一のいろどりが、自然しぜんからこの部屋へやうつされて
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
白猿はくゑん余光よくわう抱一はういつ不白ふはくなどのもとへも立入たちいるやうになり、香茶かうちや活花いけばなまで器用であはせ、つひ此人このひとたちの引立ひきたてにて茶道具屋ちやだうぐやとまでなり、口前くちまへひとつで諸家しよけ可愛かあいがられ
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
西田甫にしたんぼの細道をとおると、どこやらで、ちち、ちち、と可愛かあいい声がしますから、ふりかえって見ますと、すぐ道端の積藁つみわらのかげに、こんな小さなひばりの子がひとつ
ひばりの子 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
他所よその物を盗むといふことは悪い事には違ひありませぬがお玉の可愛かあいさが胸一パイになつてるお母様の身に取つては善い事も悪い事も考へるひまがありませんでした。
金銀の衣裳 (新字旧仮名) / 夢野久作(著)
「許して下さい。許して下さい。僕はあなたが可愛かあいいのだ。生かして置けない程可愛いのだ」
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と健ちゃんがこたえると、その男のひとは硝子戸を丁寧に閉めて雨の中へ出て行きました。より江は、ざァとう雨の音をきくと、いまのおじさんはれて可愛かあいそうだとおもい
(新字新仮名) / 林芙美子(著)
何人だれにも可愛かあいがられるものは世にないと思う。もしかかるひとがありとすれば、そは自己の意志なきものである。何人だれにも程よくお茶を濁すものは、憎まれもせぬ代りにはびこりもせぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
あゝ、今の今まで私は自分の可愛かあいいジエィンはすつかり私のものだと思つてゐた! 私を捨てゝ行つたときにさへ、私を愛してゐたと信じてゐた。それがひどいつらさの中での僅かな喜びだつた。
お母さんがいくら八っちゃんは弟だから可愛かあいがるんだと仰有おっしゃったって、八っちゃんが頬ぺたをひっかけば僕だって口惜くやしいから僕も力まかせに八っちゃんの小っぽけな鼻の所をひっかいてやった。
碁石を呑んだ八っちゃん (新字新仮名) / 有島武郎(著)
いろいろなことを尋ねたり語ッたりしていたが,その声の中には最愛いとおし可愛かあいという意味の声が絶えず響いていたように思われた,そして祖母は娘がちいさかッた時のように今もなお抱いたり、でたり
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
女人よ、ひがみ給うな、釈尊もお若いころは、菩提ぼだい樹下で、欲染よくぜん能悦のうえつ可愛かあい、などという魔女たちにきなやまされて、ひどく女性を悪観したものだが、晩年になると、女のお弟子も持たれている。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
可愛かあいをとこ
別後 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
皆樣みなさまは、其樣そんなにあの可愛かあいがつてくださつたのですか。わたくしなん御禮おれい言葉ことばもございません。』とゆきのやうなるほう微※えくぼなみたゝえて
くちしてわたし我子わがこ可愛かあいいといふことまをしたら、さぞ皆樣みなさま大笑おほわらひをあそばしましやう、それは何方どなただからとて我子わがこにくいはありませぬもの
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
可愛かあいらしい手を出してひざしたなでつてる、あゝ/\可愛かあいだ、いまのうくすりるよ、……煙草たばこ粉末こなぢやアかへつてけない
「あなたにお目に懸つたあとなんで、もしやその晩中に頓死しやすまいかと気遣つたのださうですよ。可愛かあいらしいもんですな。」
直樣すぐさまに自ら訴へ主殺しの御所刑しおき願ふ氣なげさよ我が子で有ぞ可愛かあいやといだきも仕度親心立派りつぱな男も三歳兒つごの樣に思はるゝのが子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
母様はますますあなたを可愛かあいがり、あなたもますます母様に尽したのでした。この日頃ひごろあなたは病気ではあったものの、なおかつ機嫌がよかった。
少年・春 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
あつすぐねむくなつたり、懵然ぼんやりするものだから一しんに)こゝろうちかんがへてゐますと、突然とつぜん可愛かあいをした白兎しろうさぎが、そのそばつてました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)