電燈でんとう)” の例文
新字:電灯
このやみなかに、ただ一つきているもののごとくおもわれたものがあります。それは、半丁はんちょうおきごとにともされている電燈でんとうでありました。
すると其時そのとき夕刊ゆふかん紙面しめんちてゐた外光ぐわいくわうが、突然とつぜん電燈でんとうひかりかはつて、すりわる何欄なにらんかの活字くわつじ意外いぐわいくらゐあざやかわたくしまへうかんでた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
よる戸毎こごと瓦斯がす電燈でんとう閑却かんきやくして、依然いぜんとしてくらおほきくえた。宗助そうすけこの世界せかい調和てうわするほど黒味くろみつた外套ぐわいたうつゝまれてあるいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
窓の外はもう夜になっていたが、並んだ鏡台の前ごとに、一ツずつかなり明るい電燈でんとうがついているので写真を取るには都合がよい。
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
電燈でんとうの光で明るい窓をみつめながら、じっと反応を待っている子供たちの、一人ひとりの顔が、先生にはに見えるように思えた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ほんとうにジョバンニは、夜の軽便鉄道けいべんてつどうの、小さな黄いろの電燈でんとうのならんだ車室に、まどから外を見ながらすわっていたのです。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
五年ほど前の夏には避暑客でごったかえしていた片貝の銀座も、いまは電燈でんとう一つともっていない。まっくらである。犬の遠吠とおぼえも、へんにすごい。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
就寝しゅうしんの時刻についても、十時半になったらきちんと電燈でんとうを消すことになっているから、そのつもりで、という注意があたえられただけだった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
真暗まっくらなヴェランダに出て懐中電燈でんとうを空に向けて見ると、底なしの暗い空の奥から、数知れぬ白い粉があとから後からと無限に続いて落ちて来る。
雪雑記 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
いつでもそこの電燈でんとうは消してあるはずなのに、その晩ばかりは昼のように明るくなっていました。なんでもよく見えました。
僕の帽子のお話 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
田圃向うの黒い村をあざやかにしきって、東の空は月の出の様に明るい。何千何万の電燈でんとう瓦斯がす松明たいまつが、彼夜の中の昼をして居るのであろう。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それでも私は、便所をのぞいたり、湯殿を調べたり、なお念のために勝手口へ降りて、流しもとの電燈でんとうをつけて見ました。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
まだ暮果くれはてずあかるいのに、れつゝ、ちらちらとひともれた電燈でんとうは、つばめさかなのやうにながして、しづか谿川たにがはつた。ながれほそい。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
瑠璃子は、狼狽ろうばいして、召使に命じると、ピッタリと閉ざされた部屋の中に、今宵に限って、妙に薄暗く思われる電燈でんとうの下に、小さく縮かまっていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そのとき電燈でんとうかさにとまつてゐた黄金蟲こがねむし豫言者よげんしやらしい口調くちやうで、こんなことをひました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
この弦月丸げんげつまるにもしば/\そのもようしがあつて私等わたくしら折々をり/\臨席りんせきしたが、あること電燈でんとうひかりまばゆき舞踏室ぶたうしつでは今夜こんやめづらしく音樂會おんがくくわいもようさるゝよしで、幾百人いくひやくにん歐米人をうべいじんおいわかきも其處そこあつまつて
しかも、その暗記あんき仕方しかたといふのが、日光につくわうなかで、つぎくもつぎ夕方ゆふがたつぎ電燈でんとう結局けつきよく最後さいご蝋燭らふそくひかりなかでといふふう明暗めいあん順序じゆんじよつてらしながら研究けんきう暗記あんき
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
家じゅうにたったひとつの十六しょく電燈でんとうが、親子のすがたをぼんやりらしていた。
美しき元旦 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
しづかにあしきよをはりていざとばかりにいざなはれぬ、流石さすがなり商賣しやうばいがらさんとして家内かないらす電燈でんとうひかりに襤褸つゞれはりいちじるくえてときいま極寒ごくかんともいはずそびらあせながるぞくるしき
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
線路せんろわきにぽつりぽつりついてる電燈でんとうの光が、とおくやみにまぎれて、レールもみわけのつかないそのさきの方に、大きな眼玉めだまのようなヘッドライトの光をかがやかし、煙突えんとつからけむりをはいて
ばかな汽車 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
F病院の二階にも電燈でんとうがあかあかと輝いている。私は手術着のF博士に会った。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
そして一人留守番るすばんのときの用心に、いつものように入口にかぎをかけ、電燈でんとうを消して、蚊帳かやの中に這入はいり、万一しのむものがあるときのおどしに使う薄荷はっか入りの水ピストルを枕元まくらもとへ置いた。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ついであらはれて水力電氣すいりよくでんきそのものはすべてこの都市とし村落そんらく燈火あかりや、いろ/\の動力どうりよくにも利用りようせられ、電車でんしや電信でんしん電話でんわ電燈でんとう工業用機械動力こうぎようようきかいどうりよくをはじめ、朝夕あさゆふ煑炊にたき、すとうぶや按摩あんま
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
電燈でんとうがないので、いまでもよるはランプをともすのだ。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
現に二人の若い船頭が将棋をさしているが、そこは店の外で、電燈でんとうの光などは届かないのに、こまを動かすのに少しも不自由はなかった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ついに、しんぱくは、岩頭がんとうのかわりに、紫檀したんたくうえかられたのでした。そして、ほしのかわりに、はなやかな電燈でんとうらしたのでした。
しんぱくの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかしその電燈でんとうひかりらされた夕刊ゆふかん紙面しめん見渡みわたしても、やはりわたくし憂鬱いううつなぐさむべく世間せけんあまりに平凡へいぼん出來事できごとばかりでつてゐた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
夜遅く下関へ着いて、駅前の名もない宿へとまる。すぐ前は、何とかホテルという大きい洋館だった。暗い電燈でんとうの下で、教室の連中へ葉書を書く。
由布院行 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
中にはまだひるなのに電燈でんとうがついて、たくさんの輪転機りんてんきがばたりばたりとまわり、きれで頭をしばったりラムプシェードをかけたりした人たちが
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
すくなくも、電燈でんとうくやうにると、人間にんげん横着わうちやくで、どうしてあんなだつたらうとおもふ、がそれはまつたくくらかつた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
恐ろしい風が、グラ/\と家を吹き揺すったかと思う途端に、電燈でんとうがふっと消えてしまった。こうした場合に、燈火あかりの消えるほど、心細いものはない。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それに私も、今夜に限ってこんな時刻に電燈でんとうをつけて、雑誌を読んでいたと云うのは、虫が知らしたせいなのだ。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
夜十時頃、こっそり家へ帰って、暗い玄関でくつひもを解いていたら、ぱっと電燈でんとうがついて兄さんが出て来た。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
書斎には洋机テーブル椅子いすほかに、沢山の書物が美しい背皮せがわを並べて、硝子越ガラスごし電燈でんとうの光で照らされていた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かれは、あたたかい夜具をはねのけ、勢いよく起きあがって、電燈でんとうのスウィッチをひねった。その瞬間しゅんかん枕時計まくらどけいがジンジンと鳴りだした。きっかり起床きしょう時刻の五時半である。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
おろかなり、海賊かいぞく! わが縱帆架ガーフひるがへ大日本帝國軍艦旗だいにつぽんていこくぐんかんきずや。」と。たちま海蛇丸かいだまる滿船まんせん電燈でんとうはパツとえた。同時どうじに七せき海賊船かいぞくせん黒煙こくゑん團々だん/\怒濤どとうつて此方こなた猛進まうしんきたる。
やがて台所だいどころかたづけものましたおくさんはつぎかしてある子どもやう子をちよつとてくると、またちやへはいつて※て、しやうちかくにきよせた電燈でんとうの下で針仕事はりしごとにとりかゝつた。
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
お千代は南京玉の簾を掻分かきわけて這入ると、内は人の顔も見分けられないほど薄暗い土間のままの一室で、植木や卓子テーブルのごたごた置いてある向うの片隅かたすみに、酒場の電燈でんとうが棚の上に並べた洋酒のびん
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
十六しょく電燈でんとうが急にぱっと明るくなったように思われた。
美しき元旦 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
そして或る夜、——元井エンジが晩めしを済ませ、燭光しょっこうの弱い電燈でんとうの下へ将棋盤をえて、例のとおり自分に話しかけながらこまを並べた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
子供こどもは、これにたいして、すげなくあたまをふりました。そして、うつろにひらいたで、電燈でんとうひかりが、うす弱々よわよわしくただよう、四ほうまわしました。
雲と子守歌 (新字新仮名) / 小川未明(著)
たしか六年生の頃に、初めて電燈でんとうがついたくらいで、徳川時代からずっとおどんでいた空気は、まだこの小さい旧い城下町の上を低くおおっていた。
簪を挿した蛇 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
そしてたくさんのシグナルや電燈でんとうあかりのなかを汽車はだんだんゆるやかになり、とうとう十字架じゅうじかのちょうどまかいに行ってすっかりとまりました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
しゝ飛出とびだしたやうにまたおどろいて、かれひろつじ一人ひとりつて、店々みせ/\電燈でんとうかずよりおほい、大屋根おほやねいし蒼白あをじろかずた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼はもう明るく電燈でんとういた部屋の中を、四五歩ずつ行ったり来たりしていたが、なかば独語のように美奈子にった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それからその紐のもう一方の端を持って、又ひとしきりうろうろしていたが、とうとう天井から下っている電燈でんとうのコードにくくり着けると、やっと安心して階下したへ降りた。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
若旦那わかだんなばれて、苦笑にがわらひする小六ころくかほると、ひとしくこゑしてわらした。小六ころくはるらしい空氣くうきうちからた。さうして一ちやうほどさむさを横切よこぎつて、またはるらしい電燈でんとうもとすわつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
あるくもつたふゆ日暮ひぐれである。わたくし横須賀發よこすかはつのぼり二とう客車きやくしやすみこしおろして、ぼんやり發車はつしやふえつてゐた。とうに電燈でんとうのついた客車きやくしやなかには、めづらしくわたくしほか一人ひとり乘客じようきやくはゐなかつた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
心憎こゝろにくや、奇怪きくわいふねは、晝間信號ちうかんしんがう電燈でんとうひかり應用おうようせんとするのである。
私は立上って、電燈でんとうのスイッチをひねった。つかない。
(新字新仮名) / 太宰治(著)