とお)” の例文
それは、ひろい、さびしい野原のはらでありました。まちからも、むらからも、とおはなれていまして、人間にんげんのめったにゆかないところであります。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そしていきなりおひめさまにとびかかって、ただ一口ひとくちべようとしました。おひめさまはびっくりして、とおくなってしまいました。
一寸法師 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
シューラはおいおいいた。あたりのものがばらいろもやつつまれて、ふわふわうごした。ものくるおしい屈辱感くつじょくかんに気がとおくなったのだ。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
子供こどもたちはとおくへいき、「もういいかい。」「まあだだよ。」というこえが、ほかのものおととまじりあって、ききわけにくくなりました。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
内実はくまでも鎖攘主義さじょうしゅぎにして、ひたすら外人をとおざけんとしたるその一例をいえば、品川しながわ無益むえき砲台ほうだいなどきずきたるその上に
幾月いくつきかをすごうちに、てき監視みはりもだんだんうすらぎましたので、わたくし三崎みさきみなとからとおくもない、諸磯もろいそもう漁村ぎょそんほうてまいりましたが
大きなみやこにでて、世間せけんの人をびっくりさせるのもたのしみです。それでさっそく支度したくをしまして、だいぶとおみやこへでてゆきました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
昨日きのうまでのあそびの友達ともだちからはにわかにとおのいて、多勢おおぜい友達ともだち先生達せんせいたち縄飛なわとびに鞠投まりなげに嬉戯きぎするさまを運動場うんどうじょうすみにさびしくながめつくした。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こういいながら、なみうちぎわにって、とおい、はい色の空をゆびさしておられた先生のすがただけを、はっきりおぼえている。
ラクダイ横町 (新字新仮名) / 岡本良雄(著)
五人の仲間なかまはそんなとおくまでは行きません。けれども、おともだちのジャンのいえへ行くのには、たっぷり一キロは歩かなければならないのです。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
そんなとおくにいたんじゃ、本当ほんとうかおりはわからねえから、もっと薬罐やかんそばって、はなあなをおッぴろげていでねえ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
重「はい大きに有難う、誠にとおとこに御苦労さま、婆アさま腹アったろう、何もないがおまんまア喰ってくがい」
と、おもいました。それでかれつぶって、なおもとおんできますと、そのうちひろひろ沢地たくちうえました。るとたくさんの野鴨のがもんでいます。
「はははは大盗賊のくせに、僕がそんな用心はもうとおにしているということぐらい分らんかなあ、ははは、僕はそんな馬鹿じゃありませんよ。はははは」
恐らく彼女の一行はこのようにとおはしりもせず、V停車場ステーションを離れると、じきに郊外の小駅しょうえきで下車して了ったものであろうか、それとも同じ終点で下りたが
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
併し旅舎に帰って来た時はもうとおに夜半を過ぎていた。僕は自分の部屋に行って料理を食べながら麦酒を飲んでいると、「籠っている」感じで気持が好い。
ドナウ源流行 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
それがとおうい遠うい昔から、傷つけつ傷つけられつして積み重ねて来た「ごう」が錯雑しているのだからな。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
これからは肝心かんじん飲食のみくいとなるのだが、新村入しんむらいりの彼は引越早々まだ荷も解かぬ始末しまつなので、一座いちざに挨拶し、勝手元に働いて居る若い人だちとおながら目礼して引揚げた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
彼一たび死す、水戸老公はあたかも放たれたる虎の如し、その幕閣よりとおざかるに比例して朝廷と密着し、一孔生じて千そう出で、遂に容易ならざる禍機を惹起せり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
立って地蔵峠じぞうとうげいただきからふりかえると、もう三方みかたはらとおくボカされて、ゆうべのこともゆめのようだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大陸から渡る新しい文物は、皆一度は、このとお宮廷領みかどを通過するのであった。唐から渡った書物などで、太宰府ぎりに、都まで出て来ないものが、なかなか多かった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
まあおちなさい、左様さよういまはるとお未来みらいに、監獄かんごくだの、瘋癲病院ふうてんびょういん全廃ぜんぱいされたあかつきには、すなわちこのまど鉄格子てつごうしも、この病院服びょういんふくも、まった無用むようになってしまいましょう、無論むろん
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
もうかれこれ四時ぎ五時にもなるか、しずかにおだやかな忌森忌森いもりいもりのおちこち、とおくの人声、ものの音、をへだてたるもののひびきにもにて、かすかにもやのそこに聞こえる。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
今夜にも旅費をこしらえて、田舎の方にいる兄のところへとおぱしりをしようかとも考えていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
まあなるたけ主人の気のやすまるようとおのいて、身辺しんぺんの平和を守るか(この際扶養ふようの責任あらば、それだけは物質だけでもはたすべし)、さもなくば、妻は身をもって円満につくし、親
良人教育十四種 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
心配しんぱいそうにたずねた。トーマスはじりじりとベンチからとおざかってゆきながら
浮かぶや否や、帳面の第三頁へ熊岳城ゆうがくじょうにてと前書まえがきをして、きびとお河原かわら風呂ふろわたひとしたためて、ほっと一息吐いた。そうして御神さんの御礼も何も受ける暇のないほど急いでトロに乗った。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今やこの未来のとおおやは、恰かも用心深い猫が、どこかから主人が見ておりはせぬかと、片方の眼であたりに注意をはらいながら、石鹸でござれ、蝋燭でござれ、獣脂でござれ、金糸鳥カナリヤでござれ
今ごろやる物があるくらいならとおの昔にやっているんだ。
ドモ又の死 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「そうだ。きっとからすさんだ。からすさんはえらいんだよ。ここからとおくてまるでえなくなるまでひといきんでゆくんだからね。たのんだら、ぼくらふたりぐらいきっといっぺんにあおぞらまでつれていってくれるぜ。」
いちょうの実 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
はなが、東京とうきょう奉公ほうこうにくるときに、ねえさんはなにをいもうとってやろうかとかんがえました。二人ふたりとおはなれてしまわなければなりません。
赤いえり巻き (新字新仮名) / 小川未明(著)
宰相殿さいしょうどのはなおなおおおこりになって、一寸法師いっすんぼうしにいいつけて、おひめさまをお屋敷やしきからして、どこかとおところてさせました。
一寸法師 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ただ其折そのおり弟橘姫様おとたちばなひめさま御自身ごじしんくちづからもらされたとおむかしおもばなし——これはせめてその一端いったんなりとここでおつたえしてきたいとぞんじます。
さあそれが評判ひょうばんになりまして、「甚兵衛の人形は生人形いきにんぎょう」といいはやされ、町の人たちはもちろんのこと、とおくの人まで、甚兵衛の人形小屋ごや見物けんぶつまいりました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
だがおかしいのは、とおくへでもいくひとのように、しろちいさいあしに、ちいさい草鞋わらじをはいていることでした。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
折柄おりから上潮あげしおに、漫々まんまんたるあきみずをたたえた隅田川すみだがわは、のゆくかぎり、とお筑波山つくばやまふもとまでつづくかとおもわれるまでに澄渡すみわたって、綾瀬あやせから千じゅしてさかのぼ真帆方帆まほかたほ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
とおせていた目を、すぐ真下ました作事場さくじば——内濠うちぼりのところにうつすと、そこには数千の人夫にんぷ工匠こうしょうが、朝顔あさがおのかこいのように縦横たてよこまれた丸太足場まるたあしばで、エイヤエイヤと
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
イワン、デミトリチははじめのうち院長いんちょう野心やしんでもあるのではいかとうたがって、かれにとかくとおざかって、不愛想ぶあいそうにしていたが、段々だんだんれて、ついにはまった素振そぶりえたのであった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ここからそうとおくないところにまだほかの沢地たくちがあるがね、そこにやまだかたずかないがんむすめがいるから、きみもおよめさんをもらうといいや。きみっともないけど、うんはいいかもしれないよ。
よくよく糟谷かすや苦悶くもんにつかれた。とおいさきのことはとにかく、なにかすこしのなぐさめをて、わずかのあいだなりとも、このつかれのくるしみをわすれる娯楽ごらくを取らねば、とてもたえられなくなった。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
人びとはとおまきに黒馬旅館くろうまりょかんをとりかこんで
そして、あたりはしずかであって、ただ、とおまちかどがる荷車にぐるまのわだちのおとが、ゆめのようにながれてこえてくるばかりであります。
花と人の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
桃太郎ももたろうもすぐきじのったあとからこうをますと、なるほど、とおとおうみのはてに、ぼんやりくものようなうすぐろいものがえました。
桃太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
その街道かいどうくらいつづいているかとおたずねですか……さァどれくらい道程みちのりかは、ちょっと見当けんとうがつきかねますが、よほどとおいことだけたしかでございます。
とおくなるにつれてだんだん小さく、帽子ぼうしの下に白いハンケチの目かくしをしたその後姿うしろすがたが、まるで人形のようで……そしてふしぎにも、まっすぐに歩いていきます。
風ばか (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
そこで西にしひがしみなみきたたにんでいるひとたちやら、もっととおくのあっちこっちのむらまで合力ごうりょくしてもらいにいったんだそうだ。合力ごうりょくというのは、たすけてもらうことなのさ。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
凄然せいぜんたるつきへいうえくぎ監獄かんごく骨焼場ほねやきばとおほのお、アンドレイ、エヒミチはさすがに薄気味悪うすきみわるかんたれて、しょんぼりとっている。と直後すぐうしろに、ほっとばかり溜息ためいきこえがする。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
にわにはむしこえもなく、とおくのそらわたかりのおとずれがうつろのように、みみひびいた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
街道かいどうとおくはなれて、人もとおらぬ山河さんがえ、ようよう遠江の国へはいったが、こんな厳重げんじゅうさでは、さきに桑名くわなを立った伊那丸いなまるたちも、やすやす、無事ぶじにここを通れたとは思われない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ポンポン、そのおととおくではてしなくこだまして、たくさんのがんむれいっせいにがまなかからちました。おとはなおも四方八方しほうはっぽうからなしにひびいてます。狩人かりうどがこの沢地たくちをとりかこんだのです。