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ふりがな文庫
“
芬
(
ぷん
)” の例文
と
停車場
(
ステエション
)
の
後
(
うしろ
)
は、
突然
(
いきなり
)
荒寺の裏へ入った形で、
芬
(
ぷん
)
と身に
沁
(
し
)
みる
木
(
こ
)
の葉の
匂
(
におい
)
、鳥の羽で
撫
(
な
)
でられるように、さらさらと——袖が鳴った。
唄立山心中一曲
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
枕元の机の上の
巻烟草
(
まきたばこ
)
を取ろうとして、
袂
(
たもと
)
を
啣
(
くわ
)
えて
及腰
(
およびごし
)
に手を伸ばす時、
仰向
(
あおむ
)
きに
臥
(
ね
)
ている私の眼の前に、雪を
欺
(
あざむ
)
く二の腕が近々と見えて、懐かしい女の
香
(
か
)
が
芬
(
ぷん
)
とする。
平凡
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
舟の方へ下りて来ると
芬
(
ぷん
)
と酒の
臭
(
におい
)
がして、真先に女しかも女郎の肩に手をかけてぐでんぐでんに酔って、赤い眼をとろとろさせて、千鳥足に下りて来るのを見ると、此は驚いた
漁師の娘
(新字新仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
兎も角も、お蔭さまで助かりますと、
片肘
(
かたひじ
)
に身を持たせて
吸筒
(
すいづつ
)
の紐を
解
(
とき
)
にかかったが、ふッと中心を失って今は恩人の死骸の胸へ
伏倒
(
のめ
)
りかかった。如何にも
死人
(
しびと
)
臭
(
くさ
)
い匂がもう
芬
(
ぷん
)
と鼻に来る。
四日間
(新字新仮名)
/
フセヴォロド・ミハイロヴィチ・ガールシン
(著)
其處
(
そこ
)
へ
古
(
ふる
)
ちよツけた
能代
(
のしろ
)
の
膳
(
ぜん
)
。
碗
(
わん
)
の
塗
(
ぬり
)
も
嬰兒
(
あかんぼ
)
が
嘗
(
な
)
め
剥
(
は
)
がしたか、と
汚
(
きたな
)
らしいが、さすがに
味噌汁
(
みそしる
)
の
香
(
か
)
が、
芬
(
ぷん
)
とすき
腹
(
はら
)
をそゝつて
香
(
にほ
)
ふ。
二た面
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
▼ もっと見る
風
(
かぜ
)
は
冷
(
つめた
)
く
爽
(
さわやか
)
に、
町一面
(
まちいちめん
)
に
吹
(
ふ
)
きしいた
眞蒼
(
まつさを
)
な
銀杏
(
いてふ
)
の
葉
(
は
)
が、そよ/\と
葉
(
は
)
のへりを
優
(
やさ
)
しくそよがせつゝ、
芬
(
ぷん
)
と、
樹
(
き
)
の
秋
(
あき
)
の
薫
(
かをり
)
を
立
(
た
)
てる。……
十六夜
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
扨
(
さ
)
て、
芬
(
ぷん
)
と
薫
(
かを
)
りの
高
(
たか
)
い
抽斗
(
ひきだし
)
から、
高尾
(
たかを
)
、
薄雲
(
うすぐも
)
と
云
(
い
)
ふ
一粒選
(
ひとつぶえり
)
の
處
(
ところ
)
を
出
(
だ
)
して、ずらりと
並
(
なら
)
べて
見
(
み
)
せると、
件
(
くだん
)
の
少年
(
せうねん
)
鷹揚
(
おうやう
)
に
視
(
み
)
て
居
(
ゐ
)
たが
人参
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
こいつ
嗅
(
か
)
がされては百年目、ひょいと立って
退
(
すさ
)
ったげな、うむと
呼吸
(
いき
)
を詰めていて、しばらくして、
密
(
そっ
)
と嗅ぐと、
芬
(
ぷん
)
と——
貴辺
(
あなた
)
。
星女郎
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
芬
(
ぷん
)
と、
麝香
(
じゃこう
)
の
薫
(
かおり
)
のする、
金襴
(
きんらん
)
の袋を解いて、
長刀
(
なぎなた
)
を、この乳の下へ、平当てにヒヤリと、また芬と、
丁子
(
ちょうじ
)
の香がしましたのです。
神鷺之巻
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
上には知らぬ間の大鯛が尾を
刎
(
は
)
ねて、二人の抜出した台所に、
芬
(
ぷん
)
と酢の香の、暖い
陽炎
(
かげろう
)
のむくむく立って
靡
(
なび
)
くのは、
早鮨
(
はやずし
)
の仕込みらしい。
卵塔場の天女
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
蚊帳が顔へ搦んだのが、
芬
(
ぷん
)
と鼻をついた水の
香
(
におい
)
。引き息で、がぶりと一口、
溺
(
おぼ
)
るるかと飲んだ思い、これやがて気つけになりぬ。
悪獣篇
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
扱
(
しご
)
けば、するすると伸び、伸びつつ、長く美しく、黒く艶やかに、
芬
(
ぷん
)
と薫って、手繰り集めた杯の
裡
(
うち
)
が、光るばかりに漆を
刷
(
は
)
く。
薄紅梅
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
番茶を
焙
(
ほう
)
じるらしい、いゝ
香気
(
におい
)
が、真夜中とも思ふ頃
芬
(
ぷん
)
としたので、うと/\としたやうだつた
沢
(
さわ
)
は、はつきりと目が覚めた。
貴婦人
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
と
如何
(
いか
)
なる
企
(
くはだて
)
か、
内證
(
ないしよう
)
の
筈
(
はず
)
と
故
(
わざ
)
と
打明
(
うちあ
)
けて
饒舌
(
しやべ
)
つて、
紅筆
(
べにふで
)
の
戀歌
(
こひうた
)
、
移香
(
うつりが
)
の
芬
(
ぷん
)
とする、
懷紙
(
ふところがみ
)
を
恭
(
うや/\
)
しく
擴
(
ひろ
)
げて
人々
(
ひと/″\
)
へ
思入
(
おもひいれ
)
十分
(
じふぶん
)
で
見
(
み
)
せびらかした。
二た面
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
しかしこれを供えた白い手首は、野暮なレエスから出たらしい。勿論だ。意気なばかりが女でない。同時に
芬
(
ぷん
)
と、
媚
(
なまめ
)
かしい
白粉
(
おしろい
)
の
薫
(
かおり
)
がした。
灯明之巻
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
雫
(
しずく
)
を切ると、雫まで
芬
(
ぷん
)
と
臭
(
にお
)
う。たとえば貴重なる香水の
薫
(
かおり
)
の一滴の散るように、洗えば洗うほど流せば流すほど香が広がる。
伯爵の釵
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
雫
(
しずく
)
を切ると、雫まで
芬
(
ぷん
)
と
臭
(
にお
)
ふ。たとへば貴重なる香水の
薫
(
かおり
)
の一滴の散るやうに、洗へば洗ふほど流せば流すほど
香
(
か
)
が広がる。
伯爵の釵
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
市場を出た処の、乾物屋と思う軒に、
真紅
(
まっか
)
な蕃椒が
夥多
(
おびただ
)
しい。……新開ながら
老舗
(
しにせ
)
と見える。わかめ、あらめ、ひじきなど、
磯
(
いそ
)
の香も
芬
(
ぷん
)
とした。
古狢
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
と
吐
(
ぬか
)
いて、附木を
持翳
(
もちかざ
)
すと、
火入
(
ひいれ
)
の
埋火
(
うずみび
)
を、口が燃えるように吹いて、緑青の炎をつけた、
芬
(
ぷん
)
と、
硫黄
(
いおう
)
の
臭
(
におい
)
がした時です。
雪柳
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
「糸ちゃん、望みが叶うと、よ、もやいの
石鹸
(
しゃぼん
)
なんか使わせやしない。お京さんの肌の香が
芬
(
ぷん
)
とする、女持の
小函
(
こばこ
)
をわざと持たせてあげるよ。」
薄紅梅
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
芬
(
ぷん
)
と薬の香のする
室
(
へや
)
の
空間
(
あきま
)
を
顫動
(
せんどう
)
させつつ
伝
(
つたわ
)
って、雛の全身に
颯
(
さっ
)
と流込むように、その一個々々が活きて見える……
日本橋
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
中形模様の
媚
(
なまめ
)
かしいのに、
藍
(
あい
)
の香が
芬
(
ぷん
)
とする。突立って見ていると、夫人は中腰に膝を
支
(
つ
)
いて、鉄瓶を掛けながら
婦系図
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
松茸の香を
芬
(
ぷん
)
とさせて、蛇の
茣蓙
(
ござ
)
と
称
(
とな
)
うる、裏白の葉を
堆
(
うずたか
)
く
装
(
も
)
った
大籠
(
おおかご
)
を
背負
(
しょ
)
ったのを、一ツゆすって通過ぎた。
みさごの鮨
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
その身動きに、
鼬
(
いたち
)
の
香
(
におい
)
を
芬
(
ぷん
)
とさせて、ひょこひょこと
行
(
ゆ
)
く
足取
(
あしどり
)
が
蜘蛛
(
くも
)
の巣を渡るようで、
大天窓
(
おおあたま
)
の
頸窪
(
ぼんのくぼ
)
に、
附木
(
つけぎ
)
ほどな腰板が、ちょこなんと見えたのを
憶起
(
おもいおこ
)
す。
国貞えがく
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
屋根板
(
やねいた
)
の
臭
(
にほひ
)
の
芬
(
ぷん
)
とする、いぢかり
股
(
また
)
の、
腕脛
(
うですね
)
の
節
(
ふし
)
くれ
立
(
た
)
つた
木像女
(
もくざうをんな
)
が
何
(
なに
)
に
成
(
な
)
る! ……
悪
(
わる
)
く
拳
(
こぶし
)
に
采
(
さい
)
を
持
(
も
)
たせて、
不可思議
(
ふかしぎ
)
めいた、
神通
(
じんつう
)
めいた、
何
(
なに
)
となく
天地
(
あめつち
)
の
神鑿
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
鮨
(
すし
)
の
香気
(
かおり
)
が
芬
(
ぷん
)
として、あるが中に、
硝子戸越
(
ガラスどごし
)
の
紅
(
くれない
)
は、住吉の浦の鯛、淡路島の
蝦
(
えび
)
であろう。市場の人の紺足袋に、はらはらと散った青い菜は、皆天王寺の
蕪
(
かぶら
)
と見た。
南地心中
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
夥間
(
なかま
)
の友だちが話しました事を、——その大木戸向うで、蝋燭の
香
(
におい
)
を、
芬
(
ぷん
)
と
酔爛
(
よいただ
)
れた、ここへ、その脳へ差込まれましたために、ふと
好事
(
ものずき
)
な心が、火取虫といった形で
菎蒻本
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
舞台ただ
充満
(
いっぱい
)
の古狐、もっとも
奇特
(
きどく
)
は、鼠の油のそれよりも、狐のにおいが
芬
(
ぷん
)
といたいた……ものでござって、上手が占めた鼓に劣らず、声が、タンタンと響きました。
白金之絵図
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
「おまけにお
前
(
まへ
)
、
小屋
(
こや
)
一杯
(
いつぱい
)
、
蘭麝
(
らんじや
)
の
香
(
かをり
)
が
芬
(
ぷん
)
とする。
其
(
そ
)
の
美
(
うつく
)
しい
事
(
こと
)
と
云
(
い
)
つたら、
不啻毛嬙飛燕
(
まうしやうひえんもたゞならず
)
。」
鑑定
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
と云って
推重
(
おしかさ
)
なった中から、ぐいと、犬の顔のような
真黒
(
まっくろ
)
なのを
擡
(
もた
)
げると、陰干の
臭
(
におい
)
が
芬
(
ぷん
)
として、内へ反った、しゃくんだような、霜柱のごとき長い歯を、あぐりと
剥
(
む
)
く。
露肆
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
……
天麩羅
(
てんぷら
)
とも、
蕎麦
(
そば
)
とも、焼芋とも、
芬
(
ぷん
)
と塩煎餅の
香
(
こうば
)
しさがコンガリと鼻を突いて、袋を持った手がガチガチと震う。
近飢
(
ちかがつ
)
えに、冷い汗が
垂々
(
たらたら
)
と身うちに流れる堪え難さ。
売色鴨南蛮
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
血に
剥
(
は
)
がれてのた打つ
状
(
さま
)
して、ほとんど無意識に両手を
拡
(
ひろ
)
げた、私の袖へ、うつくしい首が
仰向
(
あおの
)
けになって胸へ入り、
櫛笄
(
くしこうがい
)
がきらりとして、前髪よりは、眉が
芬
(
ぷん
)
と匂うんです。
白花の朝顔
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
と
紅筆
(
べにふで
)
の
戀歌
(
こひか
)
、
移香
(
うつりが
)
の
芬
(
ぷん
)
とする
懷紙
(
くわいし
)
を
恭
(
うや/\
)
しく
擴
(
ひろ
)
げて、
人々
(
ひと/″\
)
へ
思入
(
おもひいれ
)
十分
(
じふぶん
)
に
見
(
み
)
せびらかした。
片しぐれ
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
冷
(
つめた
)
い酢の香が
芬
(
ぷん
)
と立つと、瓜、
李
(
すもも
)
の躍る底から、
心太
(
ところてん
)
が三ツ四ツ、むくむくと泳ぎ出す。
瓜の涙
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
二人分
(
ににんぶん
)
、
二枚
(
にまい
)
の
戸
(
と
)
を、
一齊
(
いつしよ
)
にスツと
開
(
ひら
)
くと、
岩膚
(
いははだ
)
の
雨
(
あめ
)
は
玉清水
(
たましみづ
)
の
滴
(
したゝ
)
る
如
(
ごと
)
く、
溪河
(
たにがは
)
の
響
(
ひゞ
)
きに
煙
(
けむり
)
を
洗
(
あら
)
つて、
酒
(
さけ
)
の
薫
(
かをり
)
が
芬
(
ぷん
)
と
立
(
た
)
つた。
手
(
て
)
づから
之
(
これ
)
をおくられた
小山内夫人
(
をさないふじん
)
の
袖
(
そで
)
の
香
(
か
)
も
添
(
そ
)
ふ。
雨ふり
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
一山に寺々を構えた、その
一谷
(
ひとたに
)
を町口へ出はずれの窮路、
陋巷
(
ろうこう
)
といった細小路で、むれるような湿気のかびの一杯に
臭
(
にお
)
う中に、
芬
(
ぷん
)
と
白檀
(
びゃくだん
)
の
薫
(
かおり
)
が立った。小さな仏師の家であった。
夫人利生記
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
此
(
これ
)
は
鯉
(
こい
)
、
其
(
それ
)
は金銀の糸の翼、輝く
虹
(
にじ
)
を
手鞠
(
てまり
)
にして投げたやうに、空を舞つて居た
孔雀
(
くじゃく
)
も、
最
(
も
)
う庭へ帰つて居るの……
燻占
(
たきし
)
めはせぬけれど、棚に飼つた
麝香猫
(
じゃこうねこ
)
の強い
薫
(
かおり
)
が
芬
(
ぷん
)
とする……
印度更紗
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
賑
(
にぎや
)
かな
明
(
あかる
)
い通りで、
血腥
(
ちなまぐさ
)
いかわりに、おでんの香が
芬
(
ぷん
)
とした。もう一軒、
鮨
(
すし
)
の酢が鼻をついた。
真中
(
まんなか
)
に鳥居がある。神の名は
濫
(
みだり
)
に記すまい……神社の前で、冷たい汗の帽子を脱いだ。
雪柳
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
同じ文字を
露
(
あらわ
)
した大形の名刺の
芬
(
ぷん
)
と薫るのを、
疾
(
と
)
く用意をしていたらしい、ひょいと
抓
(
つま
)
んで、
蚤
(
はや
)
いこと、お妙の
袖摺
(
そです
)
れに出そうとするのを、
拙
(
まず
)
い! と目で留め、教頭は髯で制して
婦系図
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
カタリとも言わず……あまつさえ西洋
室
(
ま
)
の、ひしとあり、
寂
(
しん
)
として、
芬
(
ぷん
)
と、
脳
(
ここ
)
へ
染
(
く
)
る、強い、湿っぽい、重くるしい薬の
匂
(
におい
)
が、形ある
箔
(
はく
)
のように
颯
(
さっ
)
と来て、時にヒイヤリと寝台を包む。
沼夫人
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
さそくに
友染
(
ゆうぜん
)
の膝を乱して、
繕
(
つくろ
)
いもなくはらりと
折敷
(
おりし
)
き、片手が踏み抜いた
下駄
(
げた
)
一ツ
前壺
(
まえつぼ
)
を押して
寄越
(
よこ
)
すと、
扶
(
たす
)
け起すつもりであろう、片手が薄色の
手巾
(
ハンケチ
)
ごと、ひらめいて
芬
(
ぷん
)
と
薫
(
かお
)
って
春昼後刻
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
緑蝶夫人
(
ろくてふふじん
)
といふ
艶麗
(
あでやか
)
なのが、
麹町通
(
かうじまちどほ
)
り
電車道
(
でんしやみち
)
を
向
(
むか
)
うへ、つい
近所
(
きんじよ
)
に、
家内
(
かない
)
の
友
(
とも
)
だちがあるのに——
開
(
あ
)
けないと
芬
(
ぷん
)
としないが、
香水
(
かうすゐ
)
の
薫
(
かを
)
りゆかしき
鬢
(
びん
)
の
毛
(
け
)
ならぬ、
衣裳鞄
(
いしやうかばん
)
を
借
(
か
)
りて
持
(
も
)
つた。
十和田湖
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
褄
(
つま
)
が幻のもみじする、
小流
(
こながれ
)
を横に、その
一条
(
ひとすじ
)
の水を隔てて、今夜は分けて線香の香の
芬
(
ぷん
)
と立つ、十三地蔵の塚の前には
外套
(
がいとう
)
にくるまって、
中折帽
(
なかおれぼう
)
を
目深
(
まぶか
)
く、欣七郎が
杖
(
ステッキ
)
をついて
彳
(
たたず
)
んだ。
怨霊借用
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
とやっぱり
芬
(
ぷん
)
とする
懐中
(
ふところ
)
の物理書が、その途端に、松葉の
燻
(
いぶ
)
る
臭気
(
におい
)
がし出した。
国貞えがく
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
妾宅では、前の晩、宵に一度、てんどんのお
誂
(
あつら
)
え、夜中一時頃に
蕎麦
(
そば
)
の出前が、
芬
(
ぷん
)
と
枕頭
(
まくらもと
)
を匂って露路を入ったことを知っているので、
行
(
ゆ
)
けば何かあるだろう……天気が
可
(
い
)
いとなお食べたい。
売色鴨南蛮
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
余程目に染みたものらしく、晩飯の折から、どうかした拍子だった、
一風
(
ひとかぜ
)
颯
(
さっ
)
と——田舎はこれが
馳走
(
ちそう
)
という、青田の風が
簾
(
すだれ
)
を吹いて、水の
薫
(
かおり
)
が
芬
(
ぷん
)
とした時、——
膳
(
ぜん
)
の上の
冷奴豆腐
(
ひややっこ
)
の鉢の中へ
沼夫人
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
清々
(
すが/\
)
しいのは、かけ
湯
(
ゆ
)
の
樋
(
ひ
)
の
口
(
くち
)
をちら/\と、こぼれ
出
(
で
)
て、
山
(
やま
)
の
香
(
か
)
の
芬
(
ぷん
)
と
薫
(
かを
)
る、
檜
(
ひのき
)
、
槇
(
まき
)
など
新緑
(
しんりよく
)
の
木
(
き
)
の
芽
(
め
)
である。
松葉
(
まつば
)
もすら/\と
交
(
まじ
)
つて、
浴槽
(
よくさう
)
に
浮
(
う
)
いて、
潛
(
くゞ
)
つて、
湯
(
ゆ
)
の
搖
(
ゆ
)
るゝがまゝに
舞
(
ま
)
ふ。
飯坂ゆき
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
黒表紙には
綾
(
あや
)
があって、
艶
(
つや
)
があって、真黒な
胡蝶
(
ちょうちょう
)
の
天鵝絨
(
びろうど
)
の羽のように美しく……一枚開くと、きらきらと字が光って、
細流
(
せせらぎ
)
のように動いて、何がなしに、言いようのない強い
薫
(
かおり
)
が
芬
(
ぷん
)
として
国貞えがく
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
旦那、
口幅
(
くちはば
)
っとうはござりますが、目で見ますより聞く方が
確
(
たしか
)
でござります。それに、それお通りだなどと、途中で皆がひそひそ遣ります処へ出会いますと、
芬
(
ぷん
)
とな、何とも申されません匂が。
怨霊借用
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
やがて
孫呉空
(
そんごくう
)
が雲の上を
曳々声
(
えいえいごえ
)
で
引背負
(
ひっしょ
)
ったほどな芭蕉を一枚、ずるずると切出すと、
芬
(
ぷん
)
と
真蒼
(
まっさお
)
な
香
(
におい
)
が樹の中に
籠
(
こも
)
って、草の上を引いて来たが——全身
引
(
ひっ
)
くるまって乗っかった程に
大
(
おおき
)
いのである。
沼夫人
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
芬
漢検1級
部首:⾋
7画
“芬”を含む語句
芬々
芳芬
芬蘭
芬香
芬蘭土
後芬陀利花
芬陀利花
芬氏
芬気
芬芬
芬芳
芬華
芬薫
芬郁
芬陀利花院
芬陀利華
芬陀梨峯
芬子
酒芬