渠等かれら)” の例文
何が可恐おそろしい? 何が不平だ? 何が苦しい? 己は、渠等かれらの検べるのより、お前がそこらをまごつく方がどのくらい迷惑か知れんのだ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
仰立おほせたてられなば其事のみにて渠等かれらつみし候なり其上主と家來の事なれば此公事このくじに於ては御前に九分のつよみが之あるゆゑ事の次第しだい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
渠等かれらつう原則げんそくまもりて俗物ぞくぶつ斥罵せきばするにもかかはらず。)然しながら縦令たとひ俗物ぞくぶつ渇仰かつがうせらる〻といへども路傍みちばた道祖神だうろくじんの如く渇仰かつがうせらる〻にあらす
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
と云ふのは、渠等かれらに對して義雄が隔意を持つて來たばかりではない。云つて置いて、また駄目であつたら、渠等の笑ひの種を増してやるばかりであるからだ。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
荘主あるじあふごを捨てて手をつて笑ひ、一八渠等かれらおろかなる眼より一九客僧をおどしまゐらせぬ。
わが渠等かれらを認めしとき、渠等も亦我を認めき。肥えたる二人はひとしく銃をりて立ち上りたり。客人は何の用ありてこゝに來しぞ。われ。舟をたづねて河をこさんとす。三人は目を合せたり。甲。
話に聞いた——谷を深く、ふもとを狭く、山の奥へ入った村里を廻る遍路のような渠等かれらには、小唄浄瑠璃じょうるりに心得のあるのが少くない。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もよほしける次の間なる吉兵衞は色々と思案し只此上は我膽力わがたんりよく渠等かれらに知らせ首尾しゆびよくはからば毒藥もかへつて藥になる時あらん此者共を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
渠等かれらには、淡路をなつかしい故郷と思ふ樣な氣はなくなつた。
日高十勝の記憶 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
が、松と緋葉もみじの中なれば、さすらう渠等かれらも恵まれて、足許あしもとの影はこまよこたえ、もすそ蹴出けだしは霧に乗って、つい狩衣かりぎぬの風情があった。
とゞめられしや又藤三郎は幼少えうせうなるを非道ひだう折檻せつかん致さるゝこと我子すけ五郎の爲に行末ゆくすゑしかりなんと思ひ渠等かれら兄弟を殺さすとの心底しんていなるや然樣さやうの惡心を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
鐘も響かぬ山家やまがにさえ、寝覚ねざめ跫音あしおととどろいたが、どっと伊豆の国を襲ったので、熱海における大地震は、すなわち渠等かれらが予言の計略。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
渠等かれらが妄執めいせず、帰せず、陰々たる燈火に映じて動出うごきいださんばかりなる、ここ屠犬児の働場はたらきばにして、地獄は目前の庖廚ほうちゅうたり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夢中になった渠等かれらそばで、駅員が一名、そっと寄って、中にもめ組の横腹のあたり唐突だしぬけに、がんからん、がんからん、がんからん。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
突如いきなり噛着かみつき兼ねない剣幕だったのが、ひるがえってこの慇懃いんぎんな態度に出たのは、人はすべからく渠等かれらに対して洋服を着るべきである。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
護送されたる一列の貧民は、果報つたなくして御扶持を頂くことを得ざりき。渠等かれらは青山の僻地へきちなる権田原ごんだわらにて放鳥はなしどりとなりぬ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
くもうごとき二人ふたりかたちおほきくつた。じつとするとき渠等かれら姿すがたちひさくつた。——飛騨ひだやまのあたりは、土地とち呼吸こきうをするのかもわからぬ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
狂気きやうきした、へんだ、とふのは言葉ことば切目毎きれめごとみゝはいつた。が、これほどたしかことを、渠等かれらくもつかむやうにくのであらう。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
渠等かれら米錢べいせんめぐまるゝときは、「お月樣つきさまいくつ」と一齊いつせいさけれ、あとをもずしてはしるなり。ただ貧家ひんかふことなし。
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
これをしも社会が渠等かれらに与うるに無形の桂冠けいかんをもってするしかき慈善事業というべきか、と皮肉なことはいいっこなし。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
同時に、渠等かれら怪しきやからが、ここにかかる犠牲いけにえのあるを知らせまいとして、我を拒んだと合点さるるにつけて、とこう言う内に、追って来てさまたげしょう。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はじめは人皆ひとみな懊惱うるさゝへずして、渠等かれらのゝしらせしに、あらそはずして一旦いつたんれども、翌日よくじつおどろ報怨しかへしかうむりてよりのちは、す/\米錢べいせんうばはれけり。
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
渠等かれらが炎熱を冒して、流汗面にこうむり、気息奄々えんえんとして労役せる頃、高楼の窓半ば開きて、へいげんとばりを掲げて白皙はくせきおもてあらわし、微笑を含みて見物せり。
金時計 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここに渠等かれらが伝う岸は、一間ばかりの川幅であるが、鶴谷の本宅のあたりでは、およそ三間に拡がって、川裾は早やその辺からびしょびしょと草に隠れる。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ハタと板塀いたべい突当つきあたつたやうに、棒立ぼうだちにつてたが、唐突だしぬけに、片手かたててのひらけて、ぬい、と渠等かれらまへ突出つきだした。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「はやい方がい、聞くのに——」けれども山吹と藤のほか、村路むらみちひるしずかに、渠等かれら差覗さしのぞく鳥の影もなかった。
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いで夏の日の眠気覚しに、泰助が片膚かたはだ脱ぎて、悪人ばらの毒手のうちより、下枝姉妹きょうだいを救うて取らせむ。証拠を探り得ての上ならでは、渠等かれらを捕縛は成り難し。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
渠等かれらあへおにではない、じきたれば人心地ひとごこちになつて、あたかし、谷間たにあひから、いたはつて、おぶつてた。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
捕縛してその後に、渠等かれらの罪を数うるには、娘を打たすも方便ならんか、さはさりながらいたましし、と出るにも出られずとつおいつ、こぶしに思案を握りけり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さればがう屋敷田畝やしきたんぼ市民しみんのために天工てんこう公園こうゑんなれども、隱然いんぜんおう)が支配しはいするところとなりて、なほもち黴菌かびあるごとく、薔薇しやうびとげあるごとく、渠等かれらきよほしいまゝにするあひだ
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
渠等かれらやしろの抜裏の、くらがり坂とて、穴のような中を抜けてふとここへあらわれたが、坂下に大川一つ、橋を向うへ越すと、山を屏風びょうぶめぐらした、翠帳紅閨すいちょうこうけいちまたがある。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……よくとしよりがつてかせた。——ひるがへつておもふに、おのづからはゞかるやうに、ひとからとほざけて、渠等かれら保護ほごする、こゝろあつた古人こじん苦肉くにくはかりごとであらうもれない。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
渠等かれらが天命の職分たるや、花の如く、雪の如く、たゞ、美、これをもつて吾人男性に対すべきのみ。
醜婦を呵す (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いましもなんぢこゝろみつる、苦痛くつうもつすゐしてなり。渠等かれらとてもひとこゝろなにわかちのあるべきぞ。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
俗に魔の火ととなえて、この山にむ天狗が、遊山を驚かすために、ともすると影のない炎を揚げて、渠等かれらの慌て騒ぐのを可笑おかしがる……その寺の棟に寄った時はまことの火である。
この方は笠を上にした茶褐色で、霜こしの黄なるに対して、女郎花おみなえしの根にこぼれた、いばらの枯葉のようなのを、——ここに二人たった渠等かれら女たちに、フト思いくらべながら指すと
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この音だ——と云ったその紳士のことばを聞いた、松崎は、やっぱり渠等かれらも囃子の音に誘われて、男女なんにょのどちらが言出したか、それは知らぬが、連立って、先刻さっきの電車の終点から
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
媒妁人なかうどづいふめでたしと、舅姑きうこまたいふめでたしと、親類等皆いふめでたしと、知己ちき朋友ほういう皆いふめでたしと、渠等かれら欣々然きん/\ぜんとして新夫婦の婚姻を祝す、婚礼果してめでたきか。
愛と婚姻 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
板囲いたがこいをして、横に長い、屋根の低い、湿った暗い中で、働いて居るので、三人の石屋もひとしく南屋みなみやに雇われて居るのだけれども、渠等かれらは与吉のようなのではない、大工と一所いっしょ
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
板圍いたがこひをして、よこながい、屋根やねひくい、しめつたくらなかで、はたらいてるので、三にん石屋いしやひとしく南屋みなみややとはれてるのだけれども、渠等かれら與吉よきちのやうなのではない、大工だいく一所いつしよ
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あとで、近所きんじよでも、たれ一人ひとりばらしいむれ風説うはさをするもののなかつたのをおもふと、渠等かれらは、あらゆるひとから、不可思議ふかしぎ角度かくどれて、たくみいつつたのであらうもれぬ。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
されども渠等かれらいまだ風もすさまず、波もれざる当座とうざに慰められて、坐臥行住ざがぎょうじゅう思い思いに、雲をるもあり、水を眺むるもあり、とおくを望むもありて、その心には各々無限のうれいいだきつつ
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
六条むすじ、皆赤い蛇に悩まさるる、熱の譫言うわごとを叫んだという、その、渠等かれらに懲罰をたまわった姫神を、川裳明神と聞いて、怪しからんことには——前刻さっきも申した事ですが、私もかわおそだと思って
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
廉平は頂の靄を透かして、足許を差覗いて、渠等かれら三人の西洋婦人、おもうにあつらえの出来を見に来たな。苫をふいて伏せたのは、この人々の註文で、浜に新造の短艇ボオトででもあるのであろう。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
貴夫人、令嬢、奥様、姫様ひいさまとなるを得むや。ああ、淑女のめんの醜なるは、芸妓、娼妓、矢場女、白首しろくびにだもかざるなり。如何いかんとなれば渠等かれらは紅粉を職務として、婦人の分を守ればなり。
醜婦を呵す (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
渠等かれらなかまの、ほとんど首領とも言うべき、熊沢という、おって大実業家となると聞いた、絵に描いた化地蔵ばけじぞうのような大漢おおおとこが、そんじょその辺のを落籍ひかしたとは表向おもてむき、得心させて、連出して
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さしあたり、ことわりもしないで、他の労業を無にするという遠慮だが、その申訳と、渠等かれらを納得させる手段は、酒と餅で、そんなに煩わしい事はない。手で招いても渋面のしわは伸びよう。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自から直ちに遠山の背後うしろに来て、その受持の患者を守護する。両人は扉を挟んで、腰をかけた、渠等かれら好事こうずなる江戸ツ児は、かくて甘んじて、この惨憺さんたんたる、天女びょうの門衛となったのである。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やまには木樵唄きこりうたみづには船唄ふなうた驛路うまやぢには馬子まごうた渠等かれらはこれをもつこゝろなぐさめ、らうやすめ、おのわすれて屈託くつたくなくそのげふふくするので、あたか時計とけいうごごとにセコンドがるやうなものであらう。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
渠等かれらが額を集め、鼻を合せ、呼吸いきをはずませて、あたかも魔界から最後のたたかいを宣告されたように呶々どどしている、忌むべき宵啼の本体が、十間とは間を措かず忽然こつぜんとしてあらわれたのであったから。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)