はら)” の例文
旧字:
丸太まるたぼうを立てて、そのいちばん下を力いっぱいはらったのと変わらない。モンクスは自分の足を上に、ずでーんとたたきつけられた。
柔道と拳闘の転がり試合 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
「その金は、いったいどこに使うのです?」と、マイダーノフは、平べったいかみを後ろへはらいながら、鼻の穴をひろげていた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
相手が動きに移ろうとし、または移りかけた時に、当方からほどこすわざで、先方の出頭でがしらを撃つ出会面であいめん出小手でこておさ籠手こてはら籠手こて
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
運転手ににらまれ、もじもじ恥にふるえながら目的地のアルジに車代をはらってもらう、人生至るところただもう卑屈ならざるを得ない。
オモチャ箱 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
それで「万全」の注意をはらうには、何かの原則をたてて、それに従って肉体的にはもちろん、精神的にも行動して行く必要がある。
実験室の記憶 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
おじいさんは、おばあさんが、こいの代金だいきんはらってくれるとにこにこしました。そして、ふところからうつくしい千代紙ちよがみしました。
千代紙の春 (新字新仮名) / 小川未明(著)
エヘヽヽ此辺このへんでは如何いかゞさまで。書生「ヤーこれいのー幾許いくらぢや、うむそれは安いの、うてかう。銭入ぜにいれからだいはらつて立帰たちかへりました。 ...
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
大江山警部の頭には、線路をへだてて、真暗な林にかこまれ立つ笹木邸の洋館が浮びあがってくるのを、はらいのけることができなかった。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いえいえやはり佐助を呼んで下されと強情に手をはらってそのまま立ちすくんでいる所へ佐助がけ付け、顔色でそれと察した。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
夏になって絵かきさんたちが避暑ひしょにくるまでは、気むずかしくても、きちんきちんとお勘定かんじょうはらってくれるお客を、だいじにしなくてはね
『あゝつ、』といまはしさにはらつて、すはなほして其処等そこらみまはす、とそつ座敷ざしきのぞいた女中ぢよちゆうが、だまつて、スーツと障子しやうじめた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おこのがはらったのはずみが、ふとかたからすべったのであろう。たもとはなしたその途端とたんに、しん七はいやというほど、おこのにほほたれていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
それから日比谷ひびやで写真をって、主人、伯父、郷里の兄、北海道の母にとどく可く郵税ゆうぜい一切いっさいはらって置いた。日比谷から角谷は浅草あさくさに往った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
保名やすな家来けらいたちもみんなつよさむらいでしたから、けずにふせたたかって、とうとう乱暴らんぼう侍共さむらいどものこらずはらってしまいました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ためて置いていつでもはらってやるよ。その代り十斤に足りなかったら足りない分がお前の損さ。その分かしにして置くよ。
大体だいたい肉体にくたいあっての衣食住いしょくじゅうで、肉体にくたいてた幽界ゆうかい住人じゅうにんは、できるだけはやくそうした地上ちじょうかんがえを頭脳あたまなかからはらいのける工夫くふうをせなければならぬ。
赤シャツは一人ものだが、教頭だけに下宿はとくのむかしに引きはらって立派な玄関げんかんを構えている。家賃は九円五拾銭じっせんだそうだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
打ち見たところ、五人扶持ぶちぐらいな御小人おこびとの住居でもあろうか。勝手つづきの庭も手狭てぜまで、気のよさそうな木綿着の御新造ごしんぞはらものを出してきた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やや左手の眼の前に落ちかかる日輪はただれたような日中のごみを風にはらわれ、ただ肉桃色にくももいろぼんのように空虚に丸い。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
名人の内に宿る射道の神が主人公のねむっている間に体内をけ出し、妖魔ようまはらうべく徹宵てっしょう守護しゅごに当っているのだという。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
それはこんなさびしい田舎暮いなかぐらしのような高価な犠牲ぎせいはらうだけのあたいは十分にあると言っていいほどな、人知れぬ悦楽えつらくのように思われてくるのだった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
取り残された鶴見は、景彦に大きなつばさがあって、そのひと羽ばたきではら退けられるような強い衝撃を受けたのである。
流石さすが明治めいぢおん作者さくしや様方さまがたつうつうだけありて俗物ぞくぶつ済度さいどはやくも無二むに本願ほんぐわんとなし俗物ぞくぶつ調子てうし合点がてんして幇間たいこたゝきておひげちりはらふの工風くふう大悟たいご
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
「ああ、きたないところへ行った。急いでからだを洗ってけがれをはらおう」とおっしゃって、日向ひゅうがの国の阿波岐原あわきはらというところへお出かけになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
いま持合もちあはしてゐませんけど、それくらいでよろしいのならいつでもおはらひしますから、どうぞ石屋いしやへ、御面倒ごめんだうでもおはなししてくださいませんか。おねがいたします。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
そのつぎの休憩きゅうけい時間に堀口生は正三君とすれちがいさま、帽子をはらいおとした。喧嘩はいつもこの手でしかける。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
人々は大笑いに笑い、自分も笑ったが、自分の慙入はじいった感情は、洒々落々しゃしゃらくらくたる人々の間の事とて、やがて水と流され風とはらわれて何のあととどめなくなった。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
数旬をやまいいえ退院たいいんせんとする時、その諸費をはらわんとせしに院吏いんりいう、君の諸入費しょにゅうひ悉皆しっかい福沢氏よりはらわたされたれば、もはやその事に及ばずとなり。
で、そのいえすべて什具じゅうぐとは、棄売すてうりはらわれて、イワン、デミトリチとその母親ははおやとはついぶつとなった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
けれどもお客は、いつまでもそんなことを言い合ってはいられないほど、おじがついていたので、お金をはらうと、とっとと、その宿を出て行ってしまいました。
神様の布団 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
畢竟つまり売捌うりさばきの方法が疎略そりやくであつたために、勘定かんじやう合つてぜにらずで、毎号まいがう屹々きつ/\印刷費いんさつひはらつて行つたのが、段々だん/\不如意ふによいつて、二号にがうおくれ三がうおくれとおはれる有様ありさま
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
中学の卒業試験はもう間近にせまっていたが、かれの関心はそのほうの勉強よりも、少しでも多くの時間を彼等といっしょにすごすことにはらわれていたのである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
それでこのさるは、さまざまに工夫くふうをこらして、大蛇おろちを山からはらおうとしましたが、どうしてもかないませんでした。そして甚兵衛じんべえに、大蛇退治おろちたいじたのんだのでした。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「林さん、どうしたんだろう。このごろははらいがたまって困るがなア」と小川屋の主婦は娘に言った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
たといこれを拒絶きょぜつするも真実しんじつ国と国との開戦かいせんいたらざるは請合うけあいなりとてしきりに拒絶論きょぜつろんとなえたれども、幕府の当局者は彼の権幕けんまく恐怖きょうふしてただち償金しょうきんはらわたしたり。
これほどまでも草木くさきは人間の心事しんじに役立つものであるのに、なぜ世人せじんはこの至宝しほうにあまり関心をはらわないであろうか。私はこれを俗に言う『食わずぎらい』にしたい。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
僕は 星ピチといひます 地球の犬であります 仕事は 泥棒どろぼうあやしいものをはらふことです
わたしはどの点より見ても、しごく有福ゆうふくになったのです。お給金きゅうきんはらいもどして、一本だちの人間にんげんにしていただこうとおもえば、いつでもそのくらいのことはできるのですよ。
今まで心の一ぐうにうごめいていた処理しょりのつかぬ感情を根こそぎにはらいのけて、自分でも不思議なほど、どっしりとした落ちつきが、一日ごとに私の生活の上にあらわれていた。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
外出先で一泊して、あくる日帰ろうとすると、いつの間にか馬も供人も居なくなっている。おどろあやしんで家に帰って見ると、その家は焼きはらわれて、三人の女はかげも形もない。
女強盗 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
所が壹岐守は本牧を廻らずに横浜の方へ這入はいって、自分の独断で即刻そっこくに償金をはらうて仕舞しまった。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
今に、この痩せた紳士が自分の帽子にいる虫に気がついて、はらい落しはしないかと、僕はなぜともなく蝗のためにそれが心配だったが、帽子の持主は一向気がつかないらしかった。
蝗の大旅行 (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
光一は千三を横にはらった。千三は松の根につまずいて倒れた。筒袖つつそであわせにしめた三尺帯がほどけてふところの写生帳が鉛筆と共に大地に落ちた。このときお宮の背後から手塚が現われた。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
「そんなに心配しんぱいしなくったっていいわよ。こっちでかってにくさらしたんだから、またいくらでもとってあげるわよ。お金さえはらやぁ、おまえさんの商売にそんはないじゃあないの。」
水菓子屋の要吉 (新字新仮名) / 木内高音(著)
殿村は女竹のステッキで、朝露にしめった雑草を無意味にはらいながら答えた。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
われわれとて、軒並食って歩いたわけではないが、通りがかりに横目よこめで見て、上・中・下どんな寿司を売る店か分るのである。もちろん、こうなるまでには、大分だいぶ寿司代をはらっている。
握り寿司の名人 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
ゆうして皆曰く、たとひるるとも其小屋に到達とうたつし、酒樽しあらば之を傾け尽し、戸倉村にかへりて其代価をはらはんのみと、議たちまち一决して沼岸をわたふかももぼつ泥濘でいねいすねうづ
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
手拭でハタハタとまげの上のうすほこりはらいながら、眼を細めて、母は海を見た。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「行くとも! さア行こう」たけりたった相手は、ぼくのかたつかみます。振りきったぼくは、ええ面倒めんどうとばかり十銭はらってやりました。「ざまア見ろ」とか棄台詞すてぜりふを残して車は行きました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
と、彼は無言のままその紅の一点を目がけて、押し寄せる敵軍の中へただ一騎驀進ばくしんした。ほこの雨が彼の頭上を飛び廻った。彼はたてを差し出し、片手のつるぎを振り廻して飛び来る鋒をはらった。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)