さと)” の例文
翌朝よくあさきると、すでにづかれたとさとったものか、はたは、のこしのままになって、おんな姿すがたはどこへかえてえなかったのでした。
はまねこ (新字新仮名) / 小川未明(著)
もう駄目だとさとつた私は、二つに割れた石板せきばん缺片かけらかゞんで拾ひながら、最惡の場合に處する爲めに、勇氣をふるひ起した。時は來た。
ひとつ善智識のおさとしをうけたら胸のもやもやが、いっぺんに解決してしまいはせぬかと、実あ、河原から後を慕って来たわけです。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いえ信念しんねんさへあればだれでもさとれます」と宜道ぎだう躊躇ちうちよもなくこたへた。「法華ほつけかたまりが夢中むちゆう太鼓たいこたゝやうつて御覽ごらんなさい。 ...
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
注意して、さとられぬように尾行して行くと、怪老人は、果して諸戸の家の方へ歩いて行く。一つ枝道えだみちを曲ると、一層道巾みちはばが狭くなった。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかし塗るのをその人たちにさとられてはいかないからお手水ちょうずに行くという都合にしてある岡のかげに隠れて油をすっかり塗って来たです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
請取すべしと申渡されければ七右衞門久七の兩人は始めて其譯をさとまことに有難き仕合せなりと涙を流して喜びけり猶又大岡殿七右衞門を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「ひどい蝋燭瘡らふそくかさだと、——自分でも言つて居ますよ。そんなのはかへつて惡く執念深いんですね。さとりすましたやうな事は言つてゐますが」
天皇てんのうははじめて、なるほど太子たいしはそういうとうとい人のまれかわりであったのかとおさとりになって、おきょう太子たいしくださいました。
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
工場の人々は、まだ生々なまなましい惨事のあとに続いて、どんなことが起ろうとしているかを、早くもさとって、戦慄せんりつの悲鳴をあげた。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
とつ! 心頭しんとう滅却めつきやくすればなんとかで、さとればさとれるのださうだけれど、あついからあつい。さとることなんぞはいまもつて大嫌だいきらひだ。……
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いかほど機会を待つても昼中ひるなかはどうしても不便である事をわづかにさとり得たのであるが、すると、今度はもう学校へはおそくなつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
口頭くちさきですっかりさとったようなことをもうすのはなんでもありませぬが、実地じっちあたってるとおもいのほかこころあかおおいのが人間にんげんつねでございます。
口中に臭気しゅうきあるをさとらず師の前に出でて稽古しけるに、春琴例のごとく三のいと鏗然こうぜんはじきてそのまま三味線を置き、顰蹙ひんしゅくして一語を発せず
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
おろかなとうさんは、好いことでもわることでもそれを自分じぶんでしてうへでなければ、その意味いみをよくさとることが出來できませんでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
たれおも怪我人けがにんはこばれたのだと勘次かんじぐにさとつてさうしてなんだか悚然ぞつとした。かれ業々げふ/\しい自分じぶん扮裝いでたちぢて躊躇ちうちよしつゝ案内あんないうた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
一つには自分がこれらの言を充分に味わう境涯きょうがいに達しない、すなわち自己のさとらず自己の弱点を察しないゆえである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
虹汀これを見て莞爾にっこりと打ち笑みつ。如何に喜三郎ぬし。早やさとり給ひしか。弥陀みだの利剣とは此の竹杖ちくじょうの心ぞ。不動の繋縛けばくとは此の親切の呼吸ぞや。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
痴人ちじんゆめく、されどゆめみづかさとるはかならずしも痴人ちじんにあらざるし。現今げんこんおいても、未來みらいおいても、七福しちふくきたきをしんずるあたはず。
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
心頭しんとうを滅却すれば火もおのずから涼し。——そんなむずかしいさとりを開くまでもなく、誰でもおのずから暑中の涼味を見いだすことを知っている。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
これによつて余はさとる所があつたが、近眼の人はどうかすると物のさとりのわるいことがある、いはば常識に欠けて居るといふやうなことがある。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ついに非望のげられないことをさとった紀昌の心に、成功したならば決して生じなかったにちがいない道義的慚愧ざんきの念が、この時忽焉こつえんとして湧起わきおこった。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「それやアそうよ。だけど、ねえ、捨石になれるさとりでも開かン事には、やっぱり、一生お椀の口かも知れないもの」
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
そしてその女は自分が咳をしてから庭の方を向いたのを勘違いして、てっきりこれは「心臓へ来た」と思ってしまったのだと吉田はさとることができた。
のんきな患者 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
用に即さずば工藝の美はあり得ない。これが工藝にひそむ不動の法則である。美と用と、その間に包まれる秘義について、深くさとる所がなければならぬ。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
気に入らなかったことはみな忘れても、いいところは一つ残らず思い出す、未練とはさとりながらも思い出す、どうしても忘れきってしまうことは出来ない。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
主人の言葉を聴くと、喜太郎は何かをさとったように鉄砲を、投げ出すと、じり/\と見知らぬ男の方に近づいた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
つぶやいた。彼の周囲のものも、僅少きんしょう家禄かろく放還金をみんな老爺さんの硫黄熱のために失われてしまっているのだということを、あたしたちも段々にさとった。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そは土器表面し付け模樣もようの中に撚りを掛けたるひもあと有るを以て推察すゐさつせらる。撚りの有無とつる強弱きよじやくとの關係は僅少の經驗けいけんに由つてもさとるを得べき事なり。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
云うこと勿れ、巴毗弇はびあん、天魔の愚弄する所となり、みだり胡乱うろんの言をなすと。天主と云う名におどされて、正法しょうぼうあきらかなるをさとらざるなんじ提宇子でうすこそ、愚痴のただ中よ。
るしへる (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
われはたゞちにさとりかつ信ぜり、こは神にも神の敵にも厭はるゝ卑しきものの宗族うからなりしを 六一—六三
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
で、かれももう思慮かんがえることの無益むえきなのをさとり、すっかり失望しつぼうと、恐怖きょうふとのふちしずんでしまったのである。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
復一の気勢を見て、動かすべからざることをさとった鼎造は、もう頭を次に働かせて、彼のこの執着をまた商売に利用する手段もないことはあるまいと思い返した。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
これをとなえただけでも無明の煩悩まよいをとり除いて、さとりを開くことができるのです。「即身そくしん法如ほうにょを証す」
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
世田ヶ谷のボロ市をさとらねばならぬ、世に無用のものは無い、そうして悲観は単に高慢であることを。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
彼らもまた我々以上に財を貯え、あるいは「生活の保証」を求めている。彼らは恐らく「貧なるべし」という言葉に「捕われてはいけない」とさとっているのであろう。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
此頃よりせふ容体ようだい尋常たゞならず、日を経るに従ひ胸悪くしきりに嘔吐おうどを催しければ、さてはと心にさとる所あり、出京後しゆつきやうご重井おもゐ打明うちあけて、郷里なる両親にはからんとせしに彼は許さず
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
それ以外に何の意味を持つものでないとさとった氏は、一枚の履歴書と学校の辞令と、戸籍謄本こせきとうほんとそれから空の蟇口がまぐちとをポケットに入れて、とにかく前へ前へと足を出した。
地図にない街 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
家臣の一部分が早く大事の去るをさとり、敵にむかってかつて抵抗を試みず、ひたすら和を講じてみずから家をきたるは、日本の経済において一時の利益を成したりといえども
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
大地震だいぢしん遭遇そうぐうして最初さいしよ一分間いつぷんかん無事ぶししのたとし、また餘震よしん地割ぢわれはおそれるにらないものとのさとりがついたならば、其後そのご災害防止さいがいぼうしについて全力ぜんりよくつくすことが出來できよう。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
濁醪どぶろく引掛ひつかける者が大福だいふく頬張ほゝばる者をわら売色ばいしよくうつゝかす者が女房にようばうにデレる鼻垂はなたらしあざける、之れ皆ひとはなあなひろきをしつしりあなせまきをさとらざる烏滸をこ白者しれものといふべし。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
そこでひとさとつて改革かいかくはかれば此度こんどくらしをなほして自分じぶん支出ししゆつ何割なんわりげんじて、さうして其剩餘そのじようよもつ從來じうらい借金しやくきん整理せいりをしてくよりほかにはみちはないのである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
そうして僕は、あの娘に対して、やっぱり、ノオと言わなければならぬ立場なのだとさとったのです。ノオと言うのは、つらいですよ。僕は、しかし、最後の手紙に、ノオと言った。
未帰還の友に (新字新仮名) / 太宰治(著)
竜之助は再び耳を傾くるまでもなくそれとさとって、そうして奇妙な心持がしました。
ものざといお政は早くも昨夜のことは自分の胸ひとつにおさめてしまえばなにごともなくすむこととさとって、朝起きるそうそう色をやわらげて、両親りょうしんにあいさつし昨夜の無調法ぶちょうほうをわび
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
洒落氣しやれげなしではられぬはづ勉強家べんきようかにしたは其自狂そのやけからかとおつしやるに、中々なか/\もちまして彼男あれ貴孃あなた自狂やけなどおこすやうなおとこ御座ござりましよか、無常むじやうさとつたので御座ござりますとふに
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
二時間ばかりって、うっとりと眼をあけた女中は、眠っていた間何をされたかさすがにさとったらしかったが、寺田を責める風もなく、私ゆめを見てたのかしらと言いながらち上ると
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
家の人はそれをさとって、米を少し持って来てやりました。猿は風呂敷を広げてそれをもらい取ると、何度もうれしそうにお辞儀じぎをしました。それから、また別な家の方へやって行きました。
キンショキショキ (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
インドにおいては、地理ちり歴史れきし關係くわんけいから、北部ほくぶ南部なんぶとでは根本こんぽんから言語げんごがちがふので、インドじん同士どうし英語えいごもつ會話くわいわこゝろみてゐるのをてインドが到底たうてい獨立どくりつざるゆゑんをさとつた。
国語尊重 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
さてやはりこれでもう満足という処には達しないで、何か物足らぬものがある、この上はどうしたらいいか、唯心の上の快楽を求めるより外に道がないとさとって、心に遊ぶというのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)