おさな)” の例文
って、あたりを見𢌞みまわしたとき袖子そでこなにがなしにかなしいおもいにたれた。そのかなしみはおさなわかれをげてかなしみであった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
初秋の空は晴れわたって、午後のざしはこのおさな一団いちだんを、白くかわいた道のまん中に、異様さをみせてうしろかららしていた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
それは丁度ちょうどおさなときからわかわかれになっていたははが、不図ふとどこかでめぐりった場合ばあい似通にかよったところがあるかもれませぬ。
以て芭蕉が客観的叙述をかたしとしたる事見るべし。木導の句悪句にはあらねどこの一句を第一とする芭蕉の見識は極めて低く極めておさなし。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
声をかけると、井戸端でかしぎの米を磨いでいた彼の女房らしい女と、その女の周囲に寄りたかッていたおさない子供達が、一斉に彼を迎えました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのうちに、うえのほうの子供こどもたちは、六ねん修業しゅぎょうえて、学校がっこうからてゆきました。そして、また、おさな子供こどもたちが、あたらしくはいってきました。
学校の桜の木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
小さくたたんで、おさない方の手にその(ことづけ)を渡すと、ふッくりしたおとがいで、合点々々がてんがてんをすると見えたが、いきなり二階家の方へこうとした。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ソログーブはおさなときからはは奉公先ほうこうさきやしきで、音楽おんがく演劇えんげきなどにしたしむ機会きかいち、読書どくしょたいするふか趣味しゅみやしなわれた。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
おせんがした菊之丞きくのじょうは、江戸中えどじゅう人気にんき背負せおってった、役者やくしゃ菊之丞きくのじょうではなくて、かつてのおさななじみ、王子おうじきちちゃんそのひとだったのだから。——
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
シートン氏はおさないころから動物が大好だいすきで、動物に関する物語と絵をかくことを一生懸命しょうけんめい勉強しました。
人事ひとごと我事わがこと分別ふんべつをいふはまだはやし、おさなごゝろまへはなのみはしるく、もちまへのけじ氣性ぎせう勝手かつてまわりてくものやうなかたちをこしらへぬ、氣違きちが街道かいだうぼけみち
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そしてかれがえらい音楽家おんがくかになったのは、ゆたかな天分てんぶんくるしい努力どりょくとによるのですが、またおさなときにゴットフリートからけた教訓きょうくんは、ふかくこころにきざみこまれていて
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
釣瓶つるべうつしに冷たい水で顔をしめしながら、女は、幾年にもなくふと甘いおさなごころに返った。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
をかしな事には、少し離れて寫すと、顏が長くなつたり、ひらたくなつたり、目も鼻もゆがんで見えるのであつたが、お定はおさな心に、これは鏡が餘り大き過ぎるからだと考へてゐたものだ。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
わたしの、活発に鋭敏えいびんはたらおさな想像そうぞう好奇心こうきしんは、この一つのことにばかりはたらいた。
一首の意は、死んで行くこの子は、未だおさない童子で、冥土めいどの道はよく分かっていない。冥土の番人よ、よい贈物をするから、どうぞこの子を背負って通してやって呉れよ、というのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
ひたすらに おさなく 澄む
貧しき信徒 (新字新仮名) / 八木重吉(著)
早口にならべたてるのを、にこにこ笑いながらお母さんは聞いていたが、やがて、おさない子どもでもたしなめるようにいった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
いつぞや叡山えいざんの無動寺から峰越えして大津へかかる途中の峠茶屋で五年越しの誤解を解き、お互いがおさな友達の昔に返って
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
独身ひとりみりましたが、それにはふか理由わけがあるのです……。じつは……今更いまさら物語ものがたるのもつらいのですが、わたくしにはおさなときから許嫁いいなつけひとがありました。
それをるうちに、おかあさんのなかに、あつなみだがわいてきました。そのおさなげな文字もじで、すぐに、だれが、いたかということがわかったからです。
幼き日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しばしおせんは、俯向うつむいたままじていた。そのそこを、稲妻いなづまのように、おさなおもぱしった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
たゞ南谿なんけいしるしたる姉妹きやうだい木像もくざうのみ、そとはま砂漠さばくなかにも緑水オアシスのあたり花菖蒲はなあやめいろのしたゝるをおぼゆることともえ山吹やまぶきそれにもまされり。おさなころよりいま亦然またしかり。
甲冑堂 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
人形にんぎょうせる着物きもの襦袢じゅばんだとって大騒おおさわぎしたころ袖子そでこは、いくつそのためにちいさな着物きものつくり、いくつちいさな頭巾ずきんなぞをつくって、それをおさなたのしみとしてきたかれない。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
パリの町の中に深くはいればはいるほど、見るものごとにわたしのおさな夢想むそうとだんだんへだたるようになった。こおりついたみぞからは、なんともいえないくさいいきれが立っていた。
しかしおさない二人の子をかかえた未亡人の彼女もまた、やはり後藤先生と同じく、よろこんで岬へゆかねばならなかったのだ。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
そのよごれたるうち、ふとおさないころ、おまえのはだれにて、まるくて、かわいらしいのだろうと、よくいったことが、記憶きおくにうかんだのです。
かざぐるま (新字新仮名) / 小川未明(著)
「じつは当寺の裏山、扇山せんざんの奥に、わたしのおさななじみがおります。久しぶりで、その友だちに会いたいとおもいまして、はるばるたずねてまいったのです」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたくしおさな時分じぶんには祖父ぢぢ祖母ばばもまだ存命ぞんめいで、それはそれはにもれたいほどわたくし寵愛ちょうあいしてくれました。
そして諸国を行脚なすった内のおもしろいはなしをといって打解うちとけておさならしくねだった。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
としからいえば五つのちがいはあったものの、おなじ王子おうじうまれたおさななじみの菊之丞きくのじょうとは、けしやっこ時分じぶんから、ひともうらやむ仲好なかよしにて、ままごとあそびの夫婦めおとにも、きちちゃんはあたいの旦那だんな
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
こんなおさな子供こども袖子そでこいえれられててみると、袖子そでことうさんがいる、二人ふたりあるにいさんたちもいる、しかし金之助きんのすけさんはそういう人達ひとたちまでも「ちゃあちゃん」とってぶわけではなかった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
もう、なが入院にゅういんしているので、少年しょうねんはやせて、としよりもおさなえるので、かのじょには、いじらしかったのでした。
だまされた娘とちょうの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「そうですか。それを聞いて、何やらこの筑前までが、ほっと安心いたした。中村にいた頃からのおさな友達ですからな。いつも思い出すごとに、幸せを祈っていたものです」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
して諸国しよこく行脚あんぎやなすつたうちのおもしろいはなしをといつて打解うちとけておさならしくねだつた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おまえさんは、おさないけれど、なかなかしっかりしていなさる。それなら、まちへいっても人間にんげんらえられるようなことはあるまいから、てきなさるがいい。
春がくる前 (新字新仮名) / 小川未明(著)
つづいて、一ざん僧侶そうりょたちは、おさな侍童わらわのものまで、楼門の上にひしひしとつめのぼった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いてもうでつたのに……と肩越かたごし見上みあげたとき天井てんじやうかげかみくろうへから覗込のぞきこむやうにえたので、歴然あり/\と、自分じぶん彫刻師てうこくしつたおさなとき運命うんめいが、かたちあらはれた……あめ朧夜おぼろよ
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
母親ははおやは、まだおさなおとうとりをしながら、内職ないしょくいそがしいからです。そして、北国ほっこくは、いまふゆ最中さいちゅうでした。
おきくと弟 (新字新仮名) / 小川未明(著)
おさな友達の要助は、中野宿の川魚茶屋で、酒の支度をして、彼を待っていた。
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
子供こどもは、まだ、おさなかったので、みちまよって、らぬに、どこか遠方えんぽうほうへいってしまったとみえます。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
「では……そなたは、お父君のおいたつきがなおるようにと、その小さい手で、御仏みほとけかたちを作っていたのですか。……そうかや?」頭髪つむりをなでると十八公麿は、母の睫毛まつげを見あげて、おさなごころにも
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると、としこそおさないが、りこうそうなうぐいすは、のいうことをあたまかたむけていていましたが
春がくる前 (新字新仮名) / 小川未明(著)
と、おさなげな優しい書体でかいてあった。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きんさんは、おさな時分じぶんから、親方おやかたそだてられて、両親りょうしんりませんでした。らんのはなかおみなみ支那しなまちを、あるきまわって、日本にっぽんわたってきたのは、十二、三のころでした。
春風の吹く町 (新字新仮名) / 小川未明(著)
某幼稚園ぼうようちえんでは、こんど陸軍病院りくぐんびょういん傷痍軍人しょういぐんじんたちをおみまいにいくことになりましたので、このあいだからおさな生徒せいとらは、うたのけいこや、バイオリンの練習れんしゅう余念よねんがなかったのです。
少女と老兵士 (新字新仮名) / 小川未明(著)
くるから、は、おさないうぐいすのことがにかかってなりませんでした。
春がくる前 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いくつか病棟びょうとうがあったが、このおさな子供こどもたちのかったのは、いちばん後方こうほうにあった、しろ病舎びょうしゃでした。そうじのゆきとどいた、おおきなへやのなかには、幾列いくれつとなくベッドがただしくならんでいました。
少女と老兵士 (新字新仮名) / 小川未明(著)
かれは、けて戸口とぐちると、あおざめた星晴ほしばれのしたそらは、わすれていた、なつかしいおさな物語ものがたりをしてくれますので、しばらくその昔語むかしがたりにききとれて、じっとをみはっていると、とおくで
花の咲く前 (新字新仮名) / 小川未明(著)
二人ふたりともひじょうにうれしそうで、あねのほうが、いしけりのまねをすると、おとうともそのまねをするし、あねがって、なわびのまねをすると、おさなおとうとも、それとおなじかっこうをしたのであります。
汽車は走る (新字新仮名) / 小川未明(著)