退屈たいくつ)” の例文
旅団参謀は血肥ちぶとりの顔に、多少の失望を浮べたまま、通訳に質問の意を伝えた。通訳は退屈たいくつあらわさないため、わざと声に力を入れた。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
戎橋えびすばしの「おぐらや」で売っている山椒昆布と同じ位のうまさになると柳吉は言い、退屈たいくつしのぎに昨日きのうからそれに掛り出していたのだ。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
わたしは、退屈たいくつでしようがなかったのです。このとき、とおくでチャルメラのおとこえました。わたしは、びたつように勇気ゆうきづけられました。
子供の時分の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
退屈たいくつでたまらながっているらしい一人の男が、ベートーヴェンの交響曲シンフォニーを、早く終えたいと思ってるかのように急速度で指揮していた。
宿やどじつとしてゐるのは、なほ退屈たいくつであつた。宗助そうすけ匆々そう/\また宿やど浴衣ゆかたてゝ、しぼりの三尺さんじやくとも欄干らんかんけて、興津おきつつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ちやんと勧善懲悪くわんぜんちようあく道理だうりがおわかりになるからかずに見てらつしやるのだ、其道理そのだうりわからなければ退屈たいくつして仕舞しまわけぢやアないか
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
づこんなりふれた問答もんだふから、だん/\談話はなしはながさいて東京博覽會とうきようはくらんくわいうはさ眞鶴近海まなづるきんかい魚漁談ぎよれふだんとう退屈たいくつまぬかれ、やつとうらたつした。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
そのうちに爺さんは、花を売ったお金はどしどしたまってくるし、ごちそうや酒にはあきてくるし、何だか退屈たいくつでつまらなくなってきました。
天狗の鼻 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
きょうも測定当直とうちょく古山ふるやま氏ほか二人と、巡視じゅんしがすんで休憩中きゅうけいちゅう大池おおいけさんと江川えがわさんの五人が、退屈たいくつしきった顔で、時間のたつのを待っていた。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
第三 さけちや菓子かしるゐ食時しよくじせつ少々せう/\もちゐて飮食いんしよく消化せうくわたすくるはがいなしといへども、その時限じげんほか退屈たいくつときもちゆとうがいあること
養生心得草 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
けれども、先生せんせいのように親切しんせつをしへてくださるひとはなく、やすみの時間じかんにお友達ともだち面白おもしろあそぶことが出來できないから、ときには退屈たいくつすることもありませう。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
どれどれ、ちょっとうらの山へ行ってまきをってますから、おぼうさま、しばらく退屈たいくつでもお留守番るすばんをおたのもうします。
安達が原 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ただそういう風にして彼女の退屈たいくつまぎれてくれればはたの者が助かる云わば「学校ごッこ」のような遊戯ゆうぎをあてがい佐助にお相手を命じたのである。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
何処どこか近くの家で百萬遍ひやくまんべん念仏ねんぶつとなへ始める声が、ふと物哀ものあはれに耳についた。蘿月らげつたつた一人で所在しよざいがない。退屈たいくつでもある。薄淋うすさびしい心持こゝろもちもする。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
しらけて、しばらく言葉ことば途絶とだえたうちに所在しよざいがないので、うたうたひの太夫たいふ退屈たいくつをしたとえてかほまへ行燈あんどう吸込すひこむやうな大欠伸おほあくびをしたから。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さるさん、これは祖母おばあさんがおせんべつにれてよこしたのです。途中とちう退屈たいくつしたときにおあがりとつて、祖母おばあさんがれてよこした金米糖こんぺいたうです。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ところ仕合しあはせにもミハイル、アウエリヤヌヰチのはうが、此度こんど宿やど引込ひつこんでゐるのが、とうとう退屈たいくつになつてて、中食後ちゆうじきごには散歩さんぽにと出掛でかけてつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
たちは長い間、汽車にられて退屈たいくつしていた、母は、私がバナナをんでいる傍で経文をしながら、なみだしていた。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
つまり一口にいえば、今の日本の若い娘たちが、最も退屈たいくつを感じて『まンないの』というような場所であった。
ふたりはとうとう退屈たいくつになってしまった。パンクってこんなに少ないものかしらとふたりは思った。パンクどころか、ただの自転車さえ通らないのである。
空気ポンプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
昔しからすくないようです、日本製の風景画などに、よく三十号位いもあるのがありますが、それは大変面白くないもので退屈たいくつな下等な感じのするものであります。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
諸君の楽しい季節のために、この書が諸君の退屈たいくつな雨の日や、さびしい夜の友になりうればと思い、自分も好きなまま、つい、こんなに長く書いてしまったものである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これでは国語調査会こくごてうさくわいが小説家や新聞記者を度外視どぐわししするのも無理はないと思ふ。萬朝報よろづてうはうに限らず当分たうぶん此類このるゐのがに触れたら退屈たいくつよけにひろひ上げて御覧ごらんきようさう。(十五日)
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
矢野は家を出るときはすこぶる威勢いせいよく出たけれど、汽車ちゅう退屈たいくつしてよけいな事を考えたり、汽笛の声が妙に悲しく聞こえたり、いやにはかない人の話を聞いたり
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
たとい有ったにしても、何とでも作意を用いて、失敗のあとを無くすことが出来る。時刻が相応に移る。いかに物好な殿にせよ長くご覧になっておらるる間には退屈たいくつする。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
皆々さま御退屈たいくつながら御聞下されと申しければいづれも夫は一段の事然るべしと聞き居たり傳吉はせき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「わたしのいない間、退屈たいくつだったろうな、お前?」と父は、へんにもぐもぐした声で言った。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
けれども、もうだいぶ時間じかんっているのにたまごはいっこうからやぶれる気配けはいもありませんし、たずねてくれる仲間なかまもあまりないので、この家鴨あひるは、そろそろ退屈たいくつしかけてました。
若様がたは休暇にはいってから退屈たいくつで仕方がない。いろいろと計画を立てていたが、皆安斉先生の反対で実行できないことになるのらしい。この日、昼食のおりもその苦情が出た。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
何しろ退屈たいくつ仕方しかたが無い。そこで少し體を起して廣くもない庭を見𢌞して見る。庭の植込うゑこみ雜然ざつぜんとしてこれと目にく程の物も無い。それでゐて青葉がしげりにしげツてゐるせいか庭が薄暗い。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
今日は退屈たいくつだったよ。朝からどこへも行きゃしない。お前たちの学校の上を
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
かれはぼくをみると磊落らいらくに笑い、退屈たいくつなまま色々な打明話をしてくれました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
わかつてるよ」おつぎは庖丁はうちやうとゞめてよこむい返辭へんじした。おしなまた蒲團ふとんへくるまつた。さうしてまだ下手へた庖丁はうちやうおといた。おしなふところ與吉よきち退屈たいくつしてせがみした。おつぎはそれいて
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
だまつてゐるね。』と末男すゑを退屈たいくつさうにつた。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
……同時にわらべ達は一様に退屈たいくつし始める。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
「八五郎親分、お退屈たいくつぢやない?」
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
登城をしない日は、退屈たいくつな一日だ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
これは退屈たいくつだなあ
あおくさもない、単調たんちょう砂漠さばくなかあるいてゆくときでも、二人ふたりはなしはよくって、べつに退屈たいくつかんずるということがなかったのです。
トム吉と宝石 (新字新仮名) / 小川未明(著)
わたくしはこのときはじめて、ひやうのない疲勞ひらう倦怠けんたいとを、さうしてまた不可解ふかかいな、下等かとうな、退屈たいくつ人生じんせいわづかわすれること出來できたのである。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
齋藤巡査さいとうじゆんさ眞鶴まなづる下車げしやしたので自分じぶん談敵だんてきうしなつたけれど、はら入口いりくちなる門川もんかはまでは、退屈たいくつするほど隔離かくりでもないのでこまらなかつた。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
宗助そうすけおほきな姿見すがたみうつ白壁しらかべいろなゝめにて、ばんるのをつてゐたが、あまり退屈たいくつになつたので、洋卓テーブルうへかさねてあつた雜誌ざつしけた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
うそおもふなら、退屈たいくつせずに四日よつか五日いつかわし小屋こや対向さしむかひにすはつてござれ、ごし/\こつ/\と打敲ぶつたゝいて、同一おなじふねを、ぬしまへこさへてせるだ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ところ仕合しあわせにもミハイル、アウエリヤヌイチのほうが、こんどは宿やど引込ひっこんでいるのが、とうとう退屈たいくつになってて、中食後ちゅうじきごには散歩さんぽにと出掛でかけてった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
別に退屈たいくついたしちやアませぬが、なんですい。甚「いえ、おたくにおいでなせえますかツてんで…エヘ…御在宅ございたくかてえのと間違まちがひたんで。書生「さうか、ま此方こつちへおあがり。 ...
八百屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
この三人の学者は、毎時間に、五分間を観測と記録についやすと、故障の突発しないかぎり、あとの五十五分間というものを過ごすのに、はなはだ退屈たいくつを感ずるのだった。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
晩になると、のっそりはい出してきて、神殿の前に供えてあるものを飲み食いしました。退屈たいくつすると、森の中や、少し遠く川の土手どてなんかを、ぶらぶら歩き廻りました。
ひでり狐 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
いくらつてもつても、なか/\東京とうきやうへはかないものですから、しまひにはとうさんも馬車ばしや退屈たいくつしまして、他所よそ小母をばさんにかれながらそのひざうへねむつてしまつたこともりました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
その時の音楽おんがくがどんなに立派りっぱなものであっても、彼は欠伸あくびをしだし、退屈たいくつでぼんやりしてる様子ようすだった。やがて辛抱しんぼう出来なくなり、こっそりしてしまうのだった。彼はいつもいっていた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
それからいかにも退屈たいくつそうに、わざと大きなあくびをして、両手を頭のうしろに組んで、行ったり来たりやっていた。ところが象が威勢いせいよく、前肢まえあし二つつきだして、小屋にあがって来ようとする。
オツベルと象 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)