今年ことし)” の例文
とうさん、しゃくやくも、あかしましたよ。また今年ことしも、きれいなはなくでしょうね。ああ、げんぶきもしましたよ。
さまざまな生い立ち (新字新仮名) / 小川未明(著)
霧島躑躅きりしまつつじ じやう——常談じやうだん云つちやいけない。わたしなどはあまりせはしいものだから、今年ことしだけはつい何時いつにもない薄紫うすむらさきに咲いてしまつた。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「木之さん、今年ことしも出かけるかな」。木之助が家の前の坂道をのぼって、広い県道に出たとき、村人の一人がそういってれちがった。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
暴風雨ばうふううとしから、ばつたりなくつた。それが、今年ことし、しかもあの大地震おほぢしんまへ暮方くれがたに、そらなみのやうにれてわたりついた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「いや、なさいました。正月の元日になさいました。僕に日記をお見せになって、今年ことしから本気になって勉強するとおっしゃいました」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それは今年ことしの夏になろうとする頃で、私と妻は、この村にはじめて来た画家の深沢さんを案内しながら、近所の林のなかを歩き廻った挙句あげく
朴の咲く頃 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
今年ことしも来月一月ひとつきだもの。」と女は片手に髪を押え、片手に陶器の丸火鉢まるひばちを引寄せる。その上にはアルミの薬鑵やかんがかけてある。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
法皇は知らせを受けて、寝殿のはしがくしのに上皇を待っていた。高倉上皇、今年ことし二十歳、夜明けの月の光をやわらかに浴びて立っていた。
今年ことしみたいに、紅白こうはくはながたんといたとしい。一面いちめんめるやうないろだ。どこへつても垣根かきねうへしゆ御血潮おんちしほ煌々ぴかぴかしてゐる。
その塚田弥之助というのは、今年ことし二十二の若い人で、正月いっぱいに江戸を引き払って甲府勤番ということになりました。
半七捕物帳:51 大森の鶏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
月見つきみにといってあなたをさそして、こんな山奥やまおくれてたのは、今年ことしはあなたがもう七十になって、いつ島流しまながしにされるかからないので
姨捨山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
仕事屋しごとやのおきやう今年ことしはるより此裏このうらへとしてものなれど物事ものごと氣才きさいきて長屋中ながやぢゆうへの交際つきあひもよく、大屋おほやなれば傘屋かさやものへは殊更ことさら愛想あいさう
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「いや、半蔵には御嶽おんたけ参籠さんろうまでしてもらったがね、おれの寿命が今年ことしの七十歳で尽きるということは、ある人相見から言われたことがあるよ。」
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
今年ことしは例年より気候がずつとゆるんでゐる。殊更今日けふあたゝかい。三四郎はあさのうち湯に行つた。閑人ひまじんすくない世のなかだから、午前はすこぶいてゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
今年ことし十二さい少年せうねんにはめづらしきまで大人似おとなびて、氣象きしよう凛々りゝしい、擧動きよどう沈着ちんちやくな、まるで、小櫻木大佐せうさくらぎたいさこゝるやうな、雄壯をゝしき少年せうねんとはなつた。
去年までは車にしたが、今年ことしは今少しらくなものをと考えて、到頭以前睥睨へいげいして居た自動車をとることにした。実は自身乗って見たかったのである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
されば暖国だんこくの人のごとく初雪を吟詠ぎんえい遊興いうきようのたのしみはゆめにもしらず、今年ことしも又此雪中ゆきのなかる事かと雪をかなしむ辺郷へんきやう寒国かんこくうまれたる不幸といふべし。
マタン紙上で今年ことしの流行服の予想を各女優から聞いておほやけにして居る。日本の「キモノ」から影響せられて細くなつたジユツプかただ当分広くなるまい。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
夫人はジャンヌさん、娘はイヴォンヌさんといって、今年ことし十七歳になる。朝露あさつゆをうけた白薔薇といった感じで、剛子つよこはたいへんこのお嬢さんが好きだ。
キャラコさん:01 社交室 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
今年ことしの正月には男踏歌おとことうかがあった。御所からすぐに朱雀すざく院へ行ってその次に六条院へ舞い手はまわって来た。道のりが遠くてそれは夜の明け方になった。
源氏物語:23 初音 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そこで、彼女の、今年ことし四つになる女の子と、頭の白い母親とが食卓を前にして彼女の帰りを待っているのだった。
接吻を盗む女の話 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
私は今年ことしはこのままで黄色く枯れてしまいますけれども、来年あなたの来る時分にはまたわかくなってきれいになってあなたとお友だちになりましょう。
燕と王子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「うム、今年ことしゃあ、行こう。だが、もすこし、持病の喘息がくならねえことには、おれの体がうごけねえ」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は今年ことし三十九になる。人世じんせい五十が通相場とおりそうばなら、まだ今日明日きょうあす穴へ入ろうとも思わぬが、しかし未来は長いようでも短いものだ。過去って了えば実に呆気あッけない。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
今年ことしもとう/\かれなかつたと、おたがひおもひながらも、それがさしてものなげきでなく、二人ふたりこゝろにはまた來年らいねんこそはといふ希望のぞみ思浮おもひうかんでゐるのであつた。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
みぎ次第しだいにて大陰暦たいゝんれき春夏秋冬しゆんかしうとうせつかゝはらず、一年の日數ひかずさだむるものなれば去年きよねん何月何日なんぐわつなんにちと、今年ことし其日そのひとはたゞとなへのみ同樣どうやうなれども四季しきせつかなら相違さうゐせり。
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
えゝ、忙しいのは結構なんですけれど、今年ことしはお爺さんも弱つちやつて、おらあ、もう働くのはいやだ、東京の息子の所へ行つて暮したいと云ふんで困りますよ。
水不足 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
作蔵 今年ことしも十六日からの盆踊りで、あの人ぐらいいい声のはいなかった。宮の次郎でも、平湯ひらゆの又さんだとて、岩瀬いわせの角三郎だって、較べ者にはならなかったね。
中山七里 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
おや、旦那だんなくおでなさいましたね、金吹町かねふきちやうさんまアらつしやいましたね、今年ことし元日ぐわんじつから縁起えんぎい事ね。乙「とき昼飯ひるめし支度したくをしてちよいと一ぱいおくれ。 ...
七福神詣 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
まだ、としかはらない舊年ふるとしあひだに、あゝはるがやつてたことだ。してると、この一年いちねんふたつにわかれて、きのふまでを去年きよねんといはうか。今日けふからのちを、今年ことしといはうか。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
根葉ねはからちけば、昨年こぞ今年ことしなてや、首里しゆりをさめならぬ、那覇なはをさめならぬ、御百姓おひやくしやうのまじりかつじにおよで、御願おねげてる御願おねげたかべてるたかべ、肝揃きもそろてゝ、肝揃きもそろげは
ユタの歴史的研究 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
これらは大方おほかたしか今年ことし六ツになるをんなのわたしたちの玲子れいこ——千ぐさは、まだやつとだい一のお誕生たんじやうがきたばかりで、なんにわかりません——に、よひくち寐床ねどこのなかなどで
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
わたし今年ことし三十八である。父親が海をこえてこの遠い九州の野に来た年齢としは殆ど同じである。わたしは二十年ぜん、死ぬ四日前に此処こゝに来た父親の心を考へずにはられなかつた。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
旦那だんな山林開墾やまおこしちやうめえのよ、場所ばしよによつちや陸稻をかぼつくれるし、らこんでも三四反歩たんぶりづつはつくつてんだが、今年ことしはえゝ鹽梅あんべえりだから大丈夫だえぢよぶだたあおもつてんのよ
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
是非なくおろし參らせ、清盛の女が腹に生れし春宮とうぐう今年ことし僅に三歳なるに御位を讓らせ給ふ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
はなしかの柳家なにがしらとお成道なりみちなる祇園ぎおん演芸場へ出演せしが席への途次みちすがら今年ことしの干支なる羊或は雪達磨の形せる狸に破れ傘あしらひたるなど、いとおほいなる雪人形をみいでたり。
滝野川貧寒 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
彼女かのぢよ長男ちやうなんつとむゆめのやうに成人せいじんした。小學時代せうがくじだいから學業がくげふ品行ひんかうとも優等いうとう成績せいせきで、今年ことし中學ちうがくへると、すぐに地方ちはう專問學校せんもんがくかう入學試驗にふがくしけんけるためにつたのである。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
これが私の兄で巳之助みのすけという大工で、今年ことし七十八歳、信心者しんじんもので毎日神仏へのおまいりを
昨日、洋服をきてきたので、だいぶハイカラさんだとは思っていたが、自転車にのってくるとは思わなんだ。困ったな。なんで今年ことしにかぎって、こんな上等じょうとうみさきへよこしたんだろう。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
それでは今年ことしはじめてだのむかしからも一年いちねんはかりごと元旦ぐわんたんにありといふから、おまへさんも
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
然るに今年ことし抽斎が往って見ると、名は発会式と称しながら、趣は全く前日にことなっていて、京水時代の静粛はあとだにとどめなかった。芸者が来てしゃくをしている。森枳園が声色を使っている。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それ其筈そのはづ実家さと生計向くらしむきゆたかに、家柄いへがら相当さうたうたかく、今年ことし五十幾許いくつかのちゝ去年きよねんまで農商務省のうしやうむしやう官吏くわんりつとめ、嫡子ちやくし海軍かいぐん大尉たいゐで、いま朝日艦あさひかん乗組のりくんでり、光子みつこたつ一人ひとり其妹そのいまうととして
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
今年ことし——大正七年に彼女は四十四歳になるが、この上の平和と幸福とは重なろうとも、彼女の身辺に冷たい風のせまろうはずはない。私が彼女は幸福だといっても、あやまった事ではなかろうと思う。
竹本綾之助 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「僕は今年ことし一年中のことを葬ってしまいたいんだ。噂をも何もかも葬ってしまいたいんだ。皆で忘年会をやって大に飲もう。なるべく早い方がいいね。最後の思い出に、蓬莱亭の二階でやろう。」
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
または前の年からやくそくをして、今年ことし葺きかえる家々を廻っていた。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
もう今年ことしは、七つになっているはず……同じ駕籠にあたしが抱いてどこかへ連れ出したら、どんなに喜ぶことだろう。このおなじ江戸に住みながら、往き来はおろか、たよりひとつしなかった罪を
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
俊男は今年ことし三十になる。ぼう私立大學しりつだいがく倫理りんり擔任たんにんしてゐるが、講義の眞面目まじめで親切であるわりに生徒のうけくない。自躰じたい心におもりがくツついてゐるか、ことばにしろ態度にしろ、いやに沈むでハキ/\せぬ。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
年の内に春は来にけり一年ひととせ去年こぞとや言はむ今年ことしとや言はむ
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
おもはれて今年ことしえうなき舞ごろもはこ黄金こがねくぎうたせけり
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
淋しげに今年ことしの春も咲くものか一樹ひときれしそのそばの桜
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)