今夜こんや)” の例文
「ここから、きたへ、きたへとんでゆけば、その地方ちほうられるようながする。ゆくなら今夜こんやにでも、すぐにとうではないか。」
がん (新字新仮名) / 小川未明(著)
妹無事とあるのは偽はりで、今夜こんや轢死のあつた時刻に妹も死んで仕舞つた。さうして其妹は即ち三四郎が池のはたで逢つた女である。……
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
箆棒べらぼう、そんなことされつかえ、をどりなんざああと幾日いくかだつてあらあ、今夜こんやらつからかねえつたつてえゝから、他人ひとはれつとはあ
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
武生たけふ富藏とみざう受合うはあひました、なんにしろおとまんなすつて、今夜こんや樣子やうす御覽ごらうじまし。ゆきむかまぬかが勝負しようぶでござります。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
んと奇妙きめうではありませんか、これてん紹介ひきあはせとでもふものでせう、じつわたくし妻子さいしも、今夜こんや弦月丸げんげつまる日本につぽん皈國かへりますので。
折角せっかく御親切ごしんせつでおますが、いったんおかえししょうと、ってさんじましたこのおび、また拝借はいしゃくさせていただくとしましても、今夜こんやはおかえもうします
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
あゝ、おれいままでにこひをしたか? やい、まなこよ、せなんだと誓言せいごんせい! 今夜こんやといふ今夜こんやまでは、まこと美人びじんをばなんだわい。
「でも今夜こんや、グリンミンゲ城は灰色はいいろネズミの手におちてしまうでしょう。」と、コウノトリはため息をつきながら言いました。
もうこの上和尚おしょうさんにたのんでみたところで、とてもむだだから、今夜こんやみんなでそろって和尚おしょうさんのところへ行くことはよそう。
猫の草紙 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
かく一応はわしが意見しますよ、若いうちは迷ふだけにかへつて始末しまつのいゝものさ。今夜こんやにでも明日あしたにでも長吉ちやうきちに遊びに来るやうにつて置きなさい。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
今、浜べに立って見わたすに、海上かいじょうに大きい旗のような雲があって、それに赤く夕日ゆうひの光が差している。この様子では、多分今夜こんやの月は明月めいげつだろう。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
長い間っていなければならないことが多かった。⦅もう今夜こんやは歌わないんだな……⦆とクリストフが思ってるころ、やっと小父は歌いすのだった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
さて、ご主君しゅくんは、そのほうのびわの名声めいせいをおききになり、今夜こんやはぜひ、そのほうの、とくいのだんうらの一きょくをきいて、むかしをしのぼうとされている。
壇ノ浦の鬼火 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
この夫人ふじんうつくしいが、LIがゐたら、これも一きわつであらうことを想像そうぞうしたりしたが、しかし今夜こんやLIのゐないことはかへつて自由じゆうであつた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
合點がてんがいつたら何事なにごとむねおさめて、らぬかほ今夜こんやかへつて、いままでどほりつゝつしんでおくつてれ、おまへくちさんとてもおやさつしるおとゝさつしる
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そのばんあつさをはら凉雨れううた、昨夜ゆうべねこのために十ぶんられなかつたあはせに今夜こんや熟睡じゆくすゐしようとおもつた。
ねこ (旧字旧仮名) / 北村兼子(著)
たまねこ)が屹度きつと今夜こんやわたしさがしてよ!みンな夕飯ゆうはん時分じぶん牛乳皿ぎうにうざらしてやるのをおぼえてゝくれゝばいが。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
其方そち面前めんぜんで、このことめるのは、今夜こんやはじめだ。其方そちとはなにかにつけて、ふなう。』
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
實事まことと思ひ然らば我等と同職どうしよくなればくはしく尋る程ならばたとへ廣き御城下じやうかでも知ぬ事は有まじ今夜こんや此方このはうとまり明日未明みめいより餠屋仲間なかまを一々尋ね見るべし我も仲間帳面なかまちやうめん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あの新治にひばり近邊きんぺん筑波つくばをとほりぎて、今夜こんや幾晩いくばんたとおもふ、といはれたのです。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
今夜こんやはじつにこみいった感情かんじょうが、せまい女のむねににえくり返ったけれど、ともかくもじっと堪忍かんにんして、狂母きょうぼの死をげにきてくれた人たちに、それほどに礼儀れいぎを失わなかった。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
あなたにおわかれしてからの電車でんしやなかで、私は今夜こんやはじめて乘越のりこしといふ失敗しつぱいをしました。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
なつはじめたびぼくなによりもこれすきで、今日こんにちまで數々しば/\この季節きせつ旅行りよかうした、しかしあゝ何等なんら幸福かうふくぞ、むねたのしい、れしい空想くうさういだきながら、今夜こんやむすめはれるとおもひながら
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
けれどひいさまは、その上にいきなりからだをのせることはえんりょして、ひとつのベッドの下にはいこんで、ゆかのかたい板の間にごろりとなって、今夜こんやはあかすつもりでした。
「ああ、今夜こんやもまた、あのやぶへ、くさりものをすてにいかなければならないのか。」
水菓子屋の要吉 (新字新仮名) / 木内高音(著)
口惜くやしかつたら不足ふそくひたまへ。それともこの文章ぶんしやうぼく今夜こんやまくらもとへいてくから、これでわるかつたら、どういたがいいか、ひとつそれをぼくをしへてくれたまへ。
「三つの宝」序に代へて (旧字旧仮名) / 佐藤春夫(著)
が、今夜こんやは、おまえはつかれているだろうから、ゆっくりやすんだらよかろう。
今夜こんやあなたのおとうさんが、ぼく罵倒ばたうしてしたのも、おやとして無理むりなことではありません。まつたぼくといふをとこは、あなたをなにひとつ幸福かうふくにしてあげることなんかできない人間にんげんなんですから……
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
梅紅羅ばいこうら軟簾なんれんの中に、今夜こんやも独り眠つてゐる、淫婦潘金蓮はんきんれんあやしい夢。
動物園 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
万一、今夜こんやお帰りにならなかつたら、あたし覚悟があるからね。
五月晴れ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
今夜こんや、わたしのほうせきを取りに来るというのです」
ふしぎな人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
解熱げねつかうあるその光、今夜こんやここへもさして來て
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
されば今夜こんや六月の良夜あたらよなりとはいへ
今夜こんやも雪が降つてゐる。……
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「そう、そう、今朝けさひろって、がしてやったとんぼは、今夜こんやも、さむいが、どうしたでしょう……。」と、おじょうさんはおもいました。
寒い日のこと (新字新仮名) / 小川未明(著)
けれど賓人まれびとよ、わたくしはよくぞんじてります、今夜こんや弦月丸げんげつまるとかで御出發ごしゆつぱつになつては、奧樣おくさまも、日出雄樣ひでをさまも、けつして御無事ごぶじではみませんよ。
今夜こんや御誘おさそまをしますから、これから夕方ゆふがたまでしつかり御坐おすわりなさいまし」と眞面目まじめすゝめたとき、宗助そうすけまた一種いつしゆ責任せきにんかんじた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
今夜こんやはまた、風と霧雨きりさめをまじえた、うすら寒い、まっくらな夜です。おまけに、あたりは刻一刻こくいっこくときみわるくなってくるではありませんか。
ヤ、へば、今夜こんや遊廓前くるわまへ毘沙門樣びしやもんさまのお裏祭禮うらまつり。あれ、おきなさりまし、どんどろ/\と、きざんだ太鼓たいこきこえます。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「けちなことァおいてくんねえ。はばかンながら、あしたあさまで持越もちこしたら、はらっちまうだろうッてくれえ、今夜こんや財布さいふうなってるんだ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「ああ、おばあさん。じつはこのはらの中で日がれたので、とまうちがなくってこまっているものです。今夜こんや一晩ひとばんどうかしてめてはいただけますまいか。」
安達が原 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
今夜こんやはひどく心持こゝろもちえゝんだよ、えゝよ本當ほんたうだよ勘次かんじさん、おめえ草臥くたびれたんべえな」さらにおしな威勢ゐせいがついていつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
いと今夜こんやかねてから話のしてある葭町よしちやうの芸者屋まで出掛でかけて相談をして来るとふ事で、道中だうちゆうをば二人一緒に話しながら歩かうと約束したのである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
チッバ 叔父上をぢうへ、あれは敵方てきがたのモンタギューでござる。今夜こんや祝典しゅくてんはづかしめん惡意あくいいだいてをったのでござる。
おもこと反對うらはらにおきになつてもんでくださるかくださらぬか其處そこほどはらねど、よしわらものになつてもわたし貴君あなたわらふていたゞたく今夜こんやのこらずひまする
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
今夜こんやはどうも思ひがけない手紙を書いてしまひました。どうぞ御主人樣ごしゆじんさまによろしくおつたください。そして、またお近いうちに是非ぜひお遊びにいらしつて下さいまし。ではさよなら!
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
玄竹げんちく今夜こんやつて其方そち相談さうだんしたいことがある。怜悧りこう其方そち智慧ちゑりたいのぢや。…まあ一さんかたむけよ。さかづきらせよう。』とつて、但馬守たじまのかみつてゐたさかづきした。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
今夜こんやきよんだ温泉をんせんはひられるとおもひながら、この好時節かうじせつ旅行りよかうせんとは。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
社交家しやこうかのM、H夫人ふじんが、私達わたしたちのためになに飲料のみものでも斡旋あつせんしやうとして、ボオイにはかつてみたけれど、今夜こんやさわぎなので、これといふものもなかつた。たゞ曹達水そうだすいがあるばかりであつた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
もう、どこへもいってはならぬぞ。わしは、今夜こんや法事ほうじで、るすをするが、おまえが使つかいのものに、つれていかれないように、今夜は、おまえのからだを、よくまもっておかねばならぬわい。
壇ノ浦の鬼火 (新字新仮名) / 下村千秋(著)